IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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お待たせしました。
試合よりも、その前の出来事を消化するのに使った字数の方が多い気がする……

それでは、どうぞ。


三十二話 『学年別トーナメントⅣ』

 

 

 

 

――――――――――――

 

物語は少しさかのぼる。

 

 

 

「んんー、ここだぁー!」

 

灼熱の太陽が照りつける砂漠――かつては町があったのだろうか、瓦礫が点在している――に篠ノ之束は立っていた。

 

メイド服を改造したのか大胆に胸の谷間が見えており、砂漠には似つかわしくない格好をしており、しかし汗ひとつかいていなかった。

 

ピコピコと頭に着けた携帯電話のような形をしているうさ耳を模した片方がせわしなく動いていた。

 

「よっこいしょー」

 

すると束はそこにあった瓦礫に座り込む。

その瓦礫はまだ建物としての形が辛うじて残っていたが殆どか砂に埋まっていた。

 

「すると、あっちが『施設』かなー? あーあん時に跡形もなく消すんじゃなかったなー」

 

ガリガリと頭を掻いてまるで後悔しているかのように呟く束。

そんな時、束は近くに誰たたずむ気配を感じた。

 

「やぁ、くーちゃん。ちょっと遅かったね」

 

「束様が速すぎるのですよ」

 

麦わら帽子に白いワンピース。銀色の髪の毛は腰辺りまで伸ばしており、薄暗いサングラスのようなものをかけていた。こちらも砂漠と言う場所では似つかわしくない格好をしていた。名をクロエ・クロニクル。束はくーちゃんと呼んでいる。

 

 

「そうかなー、私は普通に来ただけなんだけどねー」

 

「今更束様のことに驚きはしませんよ」

 

「おーおー、いうようになったねくーちゃん」

 

はにかみながら太陽を見上げる束、くーちゃんと呼ばれた少女も同じく太陽を見る。

色白の肌が光の下に照らされて輝く。はた目から見れば肌がいたんでしまいそうで見ていられない光景であるが何のためらいもなく見続けていた。

 

「あ、そうだくーちゃん、ちょっとお願いがあるんだー」

 

「? なんでしょうか?」

 

名前を呼ばれ視線を束に移す。すると束はこちらに歩み寄ってきて何かを渡してきた。

 

「これは?」

 

「これはねー私が改良した医療特化型ナノマシン『Nano・resurrect(ナノ・リザレクト)』っていうものだよ」

そういって五本あるうちの一本を取り出して見せる束。

 

注射針等はなく圧力注射タイプのようで、スイッチだけが存在しており、中の赤い液体が見えていた。

 

「医療……特化型?」

 

「そう、これを投与すれば内臓が一個吹き飛んでも再生できる。夢の薬さ」

 

ただ、と束は付け足す。

 

「これを投与する条件はいくつかあるよ。ひとつは相手が健康体ではないこと。健康体に打っても過回復が起こって死んじゃうからね~、打つなら免疫能力が低下している時とか弱っている時にしてね。もうひとつはナノマシンを入れていないこと――まぁ別に入っててもいいんだけどそれなら体内保持率は10%くらいに下がってないと何が起こるかわからないからね?」

 

「あ、あとこれを使う前にこれを傷口に貼るといーよ。これを使えばいつ打てばいいか分かるようになるから」

 

 

「――はい、分かりました」

 

注射器を受け取ったクロエは力強くうなずいた。

 

「うんうん、じゃあ私の代わりに一足先にIS学園に行ってきてよ。そこには『あの子達』もいるからさ」

 

「分かりました。では行って参ります――」

 

束に挨拶をしてからクロエはまるで溶けるように姿を消した。

 

「いってらっしゃい、くーちゃん」

 

クロエがいなくなった後、束はポツリと呟いてしばらく一方を眺めていた。

 

 

「さぁーて、こっちも用件を済ませよーっと。しばらくちーちゃんに会いには行けないかな、それと箒ちゃんも」

 

 

 

 

 

 

 

「――――転送完了。と」

 

先ほどとさほど変わらない場所で『何か』を転送し終えた後、ピコピコと右のうさ耳が動くとともにあるメロディーが流れ始めた。

束はそれに驚きながら電話にでる。

 

「はいは~い! おはようからおやすみまで箒ちゃんを愛してる束さんだよ~! どうしたの箒ちゃんからかけてくるなんて束さん嬉しい!!」

 

その電話は束の妹である篠ノ之箒であった。

 

「姉さん、聞きたいことがあります」

 

「私にIS(力)をください」

 

「――――」

 

「私は一夏と一緒にいたいんです、一夏の隣に立っていたいんです。いつまでも弱いままでは嫌だ――力を、ください」

 

束はしばらくなにかを考えるように目を瞑り、口を閉じていたが、やがて開きひとつの質問を箒に投げ掛ける。

 

「その力(IS)ってなんだと思う箒ちゃん?」

 

その質問の意味がわからないとばかりに電話ごしから疑問符を浮かべたのが分かった。

 

「――それが分かるのは本当の意味でISを使える人だけだと思うんだ」

 

「まぁ、願わくは箒ちゃんがそこまでいってくれることを願うばかりだよ」

 

最後の言葉はささやくようにいったため聞こえていないだろう。束は切り替えるように二の句を告げる。

 

「よし! 可愛い可愛い箒ちゃんのためだ、うん、いいよ――『考えとく』。ただ渡すときは色々と確認もあるから私も行くね!」

 

 

そういって電話を切る束。

 

「――――いつかは言ってくると思ってたよ 」

 

「でもごめんね箒ちゃん、多分今の箒ちゃんには渡せないよ――それにISを作るのは次が最後だから箒ちゃんのお願いは果たせないんだ。もう最後のISは決めてあるから」

 

束は申し訳なさそうな顔で天を仰ぐ。

 

「まだ……私のこと恨んでるんだね、箒ちゃん…………」

 

束の呟きは吹いた風とともに消えていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「――というか、最後のアレ、何だったんだよ。あののほほんさんにやった攻撃は」

 

試合が終わった後、俺と一夏は歩きながら話し合っていた。

 

「何がというか教えねぇよ? 一応機密だからな」

 

「マジか、でも気になるなぁ……」

 

一夏は少し残念といった顔をする。

のほほんさんに飛ばした『アレ』のことを言ってるんだろうが、教えない。

隠し玉のようなものであるし、何よりアレも立派なデータ採集だからおいそれと言えないのである。

 

「お、いたいた」

 

目的の人物に出会い、声をかける。

 

「……星野、君?」

 

目的の人物である更識簪と布仏本音は俺を見てちょっと驚いていた。

 

「どしたのほっし~におりむ~」

 

「いやなに、すぐに帰っちゃったから伝えられなくてな」

 

「?」

 

きょとんとした二人に俺は告げる。

 

「結果的にはこっちが勝ったが勝負では俺が負けた。だから痛み分けってことにしようぜ」

 

「……つまり、どういうこと?」

 

いまいち要領を得ないのか簪が疑問符を浮かべて聞いてくる。

 

「つまり、簪のお願い事とやらを聞くが俺のお願い事も聞いてくれってこと」

 

 

「…………いや、でもそんな。私は試合に負けたんだし」

 

「俺との勝負では勝ったんだから良いって、な?」

 

しばらく渋っていた簪だったが、根負けしたかのように頷く。

 

「…………うん、分かった。ありがと」

 

「いや、いいって――じゃあ早速お願い事を聞いてもらおうかな? 一夏と話をしてやってくれ、一夏は簪さんにいいたいことがあるそうだ」

 

「ちょっ、星野!?」

 

「………………それでいいの?」

 

一夏はまさかの提案にあわくり、簪は予想以下のお願い事に拍子抜けしたかのように呟く。

 

「あぁ、俺としては一夏(友達)が抱えてるしこりを取り除いてやりたいからな」

 

そういうと簪は俺のことを見て、ちょっと笑ってから口を開く。

 

「分かった。星野君が良いなら良いよ」

 

了承してくれたようで頷きながら答えてくれた。

 

「それは良かった――あ、なんなら簪さんもお願い事使っとく? 急かす必要はないけど」

 

俺がそういうと簪は難しい顔をしてからポツリと呟く。

 

「…………まだ決めてない」

 

「? 決めてない?」

 

聞き返した俺にこくりとうなずく簪。

 

「まぁ、別に今決めろってわけじゃないしな、思い付いたらでいいよ」

 

「……うん」

 

「あれ~、ほっし~わたしは~?」

 

「のほほんさんは戦ってないじゃないか」

 

「なんで~!?」

 

ぽかぽかと殴ってくるのほほんさん。

慎重があまり変わらないので顔やら胸やらを殴られるが痛くない。

 

「いや、うっ、だからうっ、戦ってうっ――分かった分かった。後でな、あとで聞いてやるからうっ!」

 

だが正直鬱陶しかったので適当にごまかそうとしたら鳩尾にぼすっ、と拳が当たる。

 

――ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ。

 

とそんなことをしていた時、携帯が鳴る。

 

「っと、電話だ。後は任せたぞいちかー、ちゃんとしこりはなくせよー」

 

一夏に言ってからちょっと離れた場所にいき、呼び出しボタンを押す。

 

「もしもし、今仕事中じゃないのか社長」

 

「あー、その事なんだがな……盗まれた」

 

社長の口から出た言葉に目を剥く。

 

「盗まれたって、襲撃か、それじゃあ、死傷者は!ジョンやエリス達は無事なのか!?」

 

社長が出向いた任務が失敗したことも驚きだったが死傷者がいるかどうかが何より心配だった。

 

「いや、幸いなことに死者はいない、重軽傷が何人かいるが命に別状はない」

 

「そうか……良かった」

 

「ただな……」

 

俺が安堵していると社長からすこしためらったような声が聞こえた。

 

「襲撃してきたのは二機の国籍不明機ISだったんだが……そのうちの一機は――」

 

「――――昔のお前と同じ感じがした」

 

その言葉を聞いて全身の血が沸騰したかのような、抜かれていくかのような感覚が支配する。

 

「な、は、はっ……」

 

紡ぎ出そうとした言葉は言葉にならず、息が漏れたような音が喉から出てくる。心なしか、ぐにゃりと視界が歪んで見える。

 

「落ち着け、深呼吸しろ」

 

社長にそう言われゆっくりと深呼吸をする凛。

しばらくして落ち着いたようで、再び電話に話始める。

 

「……すまん社長、落ち着いたから続けてくれ」

 

「うむ、現在その二機については調査中だ。後で襲撃時の映像を送る。何か知っていたら教えてくれ」

 

「……あぁ、分かった」

 

そう言って切れた携帯電話をしばらく耳に当てていた凛。

 

やがて力なく下ろすと顔を上に向いて天井ではないどこか遠くを見据えて掠れた声で呟く。

 

「…………まさか、そんなわけない」

 

 

 

 

――――――――――――

 

「話は終わったみたいだなおふたりさん」

 

電話を終えて一夏、簪本音のいる場所に戻るとどうやらすでに話は終わったようだった。

 

「おう、終わったぜ」

 

「うん、終わった」

 

「なかなおり~?」

 

「何故疑問系?」

 

「気にしないのー」

 

どうやら仲直りと言うのは本当みたいでその単語にどこかむず痒そうな表情をするふたり。

 

「さて、まだ次の試合まで時間があるからどっか行くか?」

 

「おう、そうだな」

 

「……私と本音はちょっと休憩したいから。次の試合、頑張ってね」

 

「あぁ、分かった」

 

ここで簪と本音と別れ、気になっていた箒の状態を見に行こうとしていたのだが……

 

「ちょっと良いかしら? 星野君に用があるのだけど」

 

前方に生徒会長、更識楯無がとおせんぼするように立っていた。

口元を隠すように広げられた扇子には達筆で『真っ向勝負』の文字。

それに何か予感を感じて逃げようとする。

 

「俺は楯無会長に用は無いんで……」

 

「まあまあ、そんなこと言わずにお姉さんにちょっと着いてきなさいな」

 

方向転換して走り去ろうとしたが、いつの間にか服を掴まれて引きずられるようにどこかに連れていこうとする。

 

「ちょっ、離せ! てか力強っ!?」

 

振りほどこうともがくががっしりと掴まれていて逃げられなかった。

 

「あ、織斑君ちょっと星野君借りてくわね~」

 

「は、はい。星野ー先行ってるぜー」

 

そのままズルズルと引きずられながら一夏と別れ、連れてこられたのは、

 

「生徒会長が拉致監禁なんて聞いたことねぇよ」

 

生徒会室に連れてこられ、椅子に縛られていた。

 

「失礼ね、合意の上よ」

 

「合意の上って言葉を辞書で引いてこい。絶対違うから」

 

「まぁ何であなたを呼んだかというとね」

 

「無視か!」

 

「真面目な話よ、話の腰を折らない!」

 

「何故俺が怒られねばならないのか、理不尽すぎる……」

 

バッと開いた扇子には『真剣』の文字。

 

楯無の顔もまた真剣みを帯びたものとなっていた。

それを見て、俺も真面目に聞くしかなるまい。

俺が真面目に聞くことにしたのを見て楯無会長は扇子を閉じ、口を開いた。

 

「――あなた『更識家』に来ない?」

 

ビシッと扇子で指すように向けて言う楯無。俺は一息吸ってから言い放つ。

 

「――お断りします。あとほどいてください、あとちょっとで次の試合が始まるんで」

 

「あなた『更識家』にこな――」

 

「なぜもう一度言い返す?」

 

「んもー、そこは「何故?」とか聞くもんでしょうよ! つまらないわね」

 

いや、そんなこと言われても……確かにパイプを持つのは良いけど、何か絶対企んでるし、割りとマジで時間がないから早くしてほしいんだけどな。

 

「じゃあ何故急にそんなことを? 言われる節が思い当たらないんですが?」

 

楯無は「決まってるじゃない」と言い、扇子を開く。

 

「――あなたには結構な恩があるのよ、それも私にとってはとても大きな恩が」

 

 

「その恩を少しでも返したいって思うのは当然のことじゃないかしら?」

 

「……別に見返りを求めてやったわけじゃないんで」

 

これは本当だ。見返りを求めて行った行為ではない。ただちょっと体が勝手に動いただけだ。

 

「なら、なおさらよ。あなたはそれだけのことをしてくれたの」

 

そう言って俺に近付いてきて、指を鳴らした。

すると縛っていた縄は切れ、自由になった。

「だから返させてくれても良いじゃない」

 

先ほどとは打って変わって真剣な表情で俺の肩に手をおいてそう言う楯無。

そう言われてしまえば俺も返す言葉がない。

恩を返したい者とそれを受け取ろうとしない者、完全なイタチごっこである。

 

「はぁ…………楯無家に訪問するのは断ります。ですが、『お礼』なら貸しひとつってことにしといてください」

 

「えぇ。それじゃ、言質はとったから忘れないようにね」

 

そう言って楯無は去っていった。

 

俺は去っていった方向を見てポツリと呟く。

 

「言質とったって……」

 

それじゃあ「あぁ~忘れてました」って出来ないじゃねぇか。

怖い。怖すぎるぞ更識楯無。

 

 

 

 

 

その後、部屋を出た直後の一夏に合流し箒について話を聞いてみると、どうやら気持ち的にも落ち込んではおらず、普通だったらしい。

 

杞憂に終わったことを良しと思いながら俺らは会場に急ぐ。ここは見に行って調べたらいいのだが時間がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――さぁ! ここまで来たらもう言わなくても分かるわねー! 今まで連戦連勝の2ペアの闘いだー! まずはその速さと連係を武器にしてきた織斑一夏・星野凛ペア! 連係はいわずもがな、圧倒的弾幕量と正確無比な攻撃で次々に対戦相手を葬ってきたシャルロット・デュノア ・ ラウラ・ボーデヴィッヒペアだぁー!』

 

ISを装着して会場内に向かう。そこにいたのはシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒという意外なペアだった。

 

「一夏、お前どっちと戦(や)りたい?」

 

「うーん……そういわれると悩むな」

 

なら、と俺は一夏に呟く。

 

「――俺にちょっと考えがあるんだが、乗らないか?」

 

 

 

『――――それでは、試合開始ッ!』

 

それと同時に俺ら四人は動いた。

 

まず、俺は横に回避するように飛ぶ。一夏はそのまま敵に突っ込むように飛んでいった。

 

相手――シャルロット・デュノアは両手に武器を喚装させて凛の方へ一直線に向かってきていた。

ラウラ・ボーデヴィッヒは一夏を迎え撃つように鎮座していた。

 

「――一夏!」

 

「――――おう!」

 

その応答が合図だったように事が動き出す。

 

一夏は急に方向転換し、デュノアに向かって切り付ける。

 

「ッ!?」

 

予想していなかった攻撃に目を剥くが、不意打ちを何とか回避したデュノア。

 

「――ぐぅ!?」

 

「――――やあ、ボーデヴィッヒさん、俺とやろうか」

 

一夏とのタイミングを見計らい、リミッターを外して速度を上げると一気にボーデヴィッヒとの距離を詰める――両手には『ローマン&トルーパー』を持ち、『カルツェ・試作機型』はすでに起動している――だがしかし、その攻撃は防がれてしまった。

 

「――貴様!」

 

六機のワイヤーブレードが射出され、俺へと迫る。 飛び退いてかわすと続けざまにプラズマ手刀を両手に装備して切りかかって来る。

俺は『ローマン&トルーパー』の銃剣で捌ききる。

 

「本来の目的は織斑一夏だったが、貴様とも一度こうして交えてみたかったのだ!」

 

「そりゃ、良かったなボーデヴィッヒさんよぉッ!」

 

弾丸を撃ち込み、その隙に切りかかってはいるが、まるで分かっているかのように避けられる。

 

一度距離を取ろうとした時にそれは起こった。

 

「ふん、逃がすか!」

 

「ッ!?」

 

突如、体が自分のものではないかのように動かなくなる。

ボーデヴィッヒが片手の掌をこちらに向けているのを見て、合点がいく。

 

――――AIC(慣性停止結界)!

 

名称をアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。

もともとISについているPICを発展させたものと聞く。

実弾や物理攻撃、効果は薄いらしいがエネルギー攻撃すらも止めるという一対一の戦いでは反則級のワザ。

凄まじい集中力を要するらしいが、ひとたび食らえば俺のように動かなくなる。

 

「――ちっ! 『カルツェ』ッ!」

 

ダメ元で『カルツェ・試作機型』を動かそうとするが、

 

「無駄だ」

 

やはり動かない。そんな時、ガシャンと大きな音が鳴る。

 

ボーデヴィッヒの機体――『黒い雨【シュヴァルツェア・レーゲン】』の右肩に装着されているレールカノンの砲身がこちらに向いた音と知っても凛にはなすすべもなかった。

 

「そら、吹っ飛んでいろ」

 

「――――がっ!!」

 

鈍く轟く銃声がアリーナに響く。

俺はAICをかけられたままモロにレールカノンを食らい、壁に激突する。

 

「ふん、前と同じ結果になったな。違うとすれば私が倒れていないことだけか」

 

 

勢い良く壁に激突した凛を見ながら呟くラウラ。

 

「――てめぇっっっ!!」

 

そこに怒りを露にした一夏が突っ込んでくる。

 

一夏の雪片が当たるか当たらないかというところで急にその動きは停止させられた。

 

 

「!? なんだこれ、動けねぇ!」

 

「まさか片方がやられた後に自らやってくるとは思わなかったぞ。まぁ手間が省けた」

 

何とか動こうとする一夏に、さきほどと同じようにレールカノンが向けられる。

今まさに撃とうとしたラウラに弾丸の雨が浴びせられる。

 

「――ぐっ!?、なんだ!?」

 

ラウラはAICを解除し飛び退いて、大方あの程度ではくたばっていないであろう対戦相手だと思い、確認する。そしてその相手に面食らう。

 

「――一夏に必要以上に傷付けるなって、試合前に僕言わなかったかな?」

 

眼前にいたのは銃口をこちらに向けていたシャルロット・デュノア。ラウラのペアでもあるはずの選手である。

 

「……小娘ごときがその程度の小言で邪魔をしたか!!」

 

「言ったはずだよラウラ、一夏を傷付ける奴は君でも倒すって」

 

「ぬかせ!!」

 

ラウラがデュノアにレールカノンを向け、撃とうとした時、別方向からの射撃警告に素早くそれに合わせて弾丸を止める。

それはデュノアも一緒だったようで、避けている。

 

撃ってきた方向は先ほど凛が吹っ飛んでいった方向――

 

「ゲホッ……一発で半分以上もエネルギー削るなんて威力高すぎんだろ」

 

――そこにはスナイパーライフル『サテライトレイ』を構えている凛がいた。

 

「お返しだぜ、ボーデヴィッヒ」

 

構えたライフルをラウラに向けて照準を合わし、撃つ。

ダンッ、ダンッ、ダンッ!! と断続して続く銃声。

だがラウラはAICを使い、全て受け止める。

 

「何度やっても同じことだ」

 

ラウラは退屈だといわんばかりに凛を見て呟く。だが凛が口にした言葉にわずかに顔をしかめる。

 

「Check! 『カルツェ』ッ!!」

 

『――カルツェ・試作機型、射出停止。次のシークエンスを実行します』

 

Check、なぜその単語を言ったのか分からなかったが、ラウラはカルツェと言う単語を聞いて、次に起こる事を予想する。

 

「(――確かこの空気中に待っている粒子が爆発するんだったな。ならば)」

 

ラウラやデュノア、一夏も少なからずカルツェの爆発範囲に入っていたが凛は構わずに実行した。

 

次の瞬間、舞っていた粒子が爆発を起こす。

一番近かったラウラはもちろん、二人も爆風に飲まれていた。

 

「――惜しいなもう少し早ければ食らっていたものを」

 

爆発に巻き込まれたはずのラウラだったがAICを使い、迫り来る衝撃を無効化していた。

 

「(この程度で終わりか? しかしさきほど言った言葉が気になるが……)」

 

辺りはまだ土煙が立ち上がっている。その中でラウラは警戒しながらも考察していた。

 

「(――Check、確認……いや違うな。だとすれば何だ?)」

 

短い時間の中でラウラはひとつの確信に近いものを導き出す。

 

「(ペアでの戦闘だ。これまででもいくつか――ならばCheckという単語は!!)」

 

そう思ったのと何かがラウラに向けて、土煙に突っ込んできた。

 

「うおおおっーー!」

 

零落白夜を使用した状態で一夏がラウラに雪片を振り下ろす。

 

「(くっ――――!!)」

 

試合が始まる直前、凛が一夏に言ったのは戦う相手ともうひとつ。

 

 

『――一夏、Checkって単語言ったら零落白夜を使って突っ込めってのは覚えてるよな? それボーデヴィッヒにやるから頼むぜ。あとこれは追加だ、『Escape』って言ったら瞬時加速(イグニッション・ブースト)でも何でもいいから使って俺の方に来い、流れ弾は食らいたくないだろ?』

 

 

 

 

ラウラは一瞬遅れて反応したせいで回避が間に合わず、右腕を斬られた。

 

「ぐっ、この――」

 

別段、AICが使えなくなったわけではないが、織斑一夏に斬られたという事実がラウラの思考を支配する。

すぐにワイヤーブレードを全て射出し、一夏を捕えようとする。一夏もそれを避けながら次の攻撃を打たんと機会を伺っていた時だった。

 

 

「――『Escape』!」

 

「――――!」

 

突如聞こえたそんな単語。それに一夏はラウラから逃げるように方向を転換した。

 

「な――」

 

突然、戦っていた相手が逃げ出したように見えたラウラは呆然とし、怒りで顔を歪める。

 

「逃げるだと……敵前逃亡だと! ――ふざけるなよ貴様ぁッ!!」」

 

激昂したラウラはレールカノンをこちらに背を向けている一夏に合わせ、撃とうとした――時だった。

一夏とすれ違う形でこちらにやってきた短い円柱状の物体。それはラウラの近くまでいくとまばゆいほどの光を放ったように見え、ラウラの視界を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

「――『Escape』!」

 

一夏に突っ込ませると、すぐに俺はその単語を叫ぶ。

 

そして『レイブン・試作機型』の片翼に格納されていた円柱状の物体が射出された。

その物体はかなりの速度で一夏と入れ替わるようにラウラの元へと飛んでいく。

 

「――僕のこと、忘れてない君?」

 

オープン・チャンネルから聞こえてくる中性的だがどこかつっけんどうな声。

アサルトカノン『ガルム』、パイルバンカー『グレイ・スケール』。それを手に持ち、こちら向かってくる。

 

「――いいや、忘れてねぇよ。だからしっかりと食らっとけ!」

 

一夏が俺にぶつかり、後ろに吹っ飛ぶ。

おいおい、こっちに来いとは言ったけどぶつかれなんて言ってねぇぞ。

 

だが好都合。次の瞬間には俺と一夏を除くもの全てが攻撃対象だ。

 

そして凛の放った円柱状の物体がその真価を見せつける。

 

先ほど放ったのは『カルツェ・試作機型』に格納され、凛の『ラファール・リヴァイブ・弐式』唯一のエネルギー兵器――名前を『ホワイトアウト』。

射出された『ホワイトアウト』は白い光を辺りにばらまくように弾ける。

使用者のいる射角以外を『ホワイトアウト』に内包してあったエネルギー弾が蹂躙する。

名前の通り、一瞬視界を覆い尽くす白の塊、それはラウラだけでなく凛のそばまでせまっていたデュノアでさえも飲み込んだ。

 

 

 

「危ねぇ……これ」

 

俺は目の前に映る惨状を見て呟く。

俺のギリギリにエネルギー弾が着弾した後が残っていた、あと少しでもずれていたら確実に当たっていた。

 

「これ、前に使ったやつじゃねぇか」

 

一夏が呟く。一夏もこの光景に驚いているようだった。

 

俺と一夏は立ち上がり、辺りを見る。その時、上がった土煙の中からロックオン警告が鳴り、弾丸が飛んでくる。

 

「う――!」

 

視界が悪いということもあり、避けきれずにかすってしまう。それだけでも威力は十分あり、残りのエネルギー残量は三割程になってしまった。

 

「――やってくれたな、星野凛ッ……!」

 

ラウラが叫ぶ。土煙の中から現れたその姿は、さきほどの『ホワイトアウト』を至近距離からもろに食らったのが聞いたようでふらふらとしていた。

その時、また別の場所から攻撃が迫る。

 

今度はかわすことが出来たが、飛び込んできたものに面食らう。

 

重機関銃『デザート・フォックス』とパイルバンカー『グレー・スケール』を手にし、真顔でこちらに向かってきていた。

 

「――一夏! ラウラを!」

 

『ローマン&トルーパー』を展開させ、迎え撃つようにデュノアと対峙する。一夏もラウラを撃破するべく向かっていく。

 

「どうしたデュノア! 表情が怖ぇぞ!」

 

攻撃を避け、撃ち、斬るを繰り返す。

デュノアも同じような攻撃手段で武器をとっかえひっかえしながら攻撃してくる。

 

表情は真顔のまま、こちらを確実に潰す気で来ているようだ、おぉ、怖い怖い。

 

だが――

 

「――――うぐっ!?」

 

俺はリミッターを全解除し、デュノアにタックルする。

そのまま壁へと激突する。

 

「――がはっ!?」

 

「ぐっ……!」

 

激突した威力を殺せず、あますところなく食らうデュノア。やった俺自身も食らってしまう――残り二割。

 

「う、ぐっ……このぉっ…………!」

 

残り一割を切ったデュノアは執念というべきか、『グレー・スケール』を凛に押し当てる。

対する凛は手には何も持っておらず、掌をデュノアの機体に当てているだけだった。

 

「(――勝った!)」

 

デュノアが内心でそうほくそ笑むのと、自身を襲った衝撃はほぼ同時だった。

 

「ぐあ、あっ……な、んで!?」

 

エネルギーが切れ試合続行不可能になったデュノアだったが自分に起きたことに理解が及ばなかった。

 

「危なかったな、最後はこっちが早くて助かった」

 

デュノアに勝った凛は煙が上がっている掌を見る。

その腕はいつもの腕ではなくシリンダーのようなものがついており、丁度掌に開いていた穴から煙出ているように見えた。

 

これは俺が社長に頼んで造ってもらった腕のひとつ。

ISの腕は武器を持ったりするだけだと思われがちだが、少なからずギミックを仕込んでいる者はいるらしい。

それにあやかった装備――右腕を四連装徹甲弾『カポル』。

 

「(初めて使ったが、反動がでかすぎる……)」

 

凛は手にきた反動といまだに残る痺れに顔をしかめる。

 

あと一発二発使えば手の感覚がなくなりそうだ、使い勝手が悪いな。

 

後で社長に言うかと、内心で区切りを付け、試合に集中する。

 

ラウラと一夏の方を見る、どうやら一夏が圧しているようだった。

ラウラは何かに耐えるように、両目を瞑ったり、身を硬直させたり、時には何かを振り払うように、プラズマ手刀やワイヤーブレードを振るっていた。

 

 

「(……様子がおかしいなボーデヴィッヒ)」

 

俺は何か嫌な予感を感じ取った。

 

「一夏、嫌な予感かする、もど――」

 

「――――やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

ラウラを斬るべく迫っていた一夏を呼び戻そうとするが、突如ラウラが絶叫する。

 

「――――うわぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!!!」

 

ラウラが身につけていた眼帯が弾け飛び、その眼が露になる。

その目は赤目とは違い金色の光を帯びていた。

 

それが見えたのは一瞬で次にはISが鉛色の泥のように溶けて体を覆い尽くしてしまった。

ぐにゃぐにゃと絶えず気持ちの悪い動きをするISだったものに会場にいた者は声も出せずに絶句する。

 

「――ボーデヴィッヒッ!!」

 

反射的に体が動き、ラウラを助けるべくISだったものに迫る。しかし――

 

「――ぐぁ!?」

 

その塊から鋭く延びてきた槍のような物にぶつかり阻まれる。しかもその攻撃で二割半まで削られてしまった。

 

「星野! 大丈夫か!」

 

一夏に支えられて立ち上がる。

 

そして、鉛色の塊も形を帯びる。

 

こちらを攻撃してきた場所からまるで這い出てくるように形成されていく。

 

「――雪片弐型……?」

 

そのものが持っていた物に疑問符を浮かべる。

それに『あれ』はまるで――

 

 

「ち、千冬姉……」

 

織斑一夏の姉、織斑千冬にそっくりなものが存在していた。

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