IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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生・存・報・告!
今日も生きています、失踪なんてしませんよ。

約三ヶ月、大変待たせてしまい申し訳ありませんでしたm(__)m

色々と忙しかったり、なかなか自分の思い描いたものが書けずに書き直していたりしたらこんなに経ってしまいました……はい、言い訳ですねすみません。


そしてなんだかんだで忘れていましたが、いつの間にか一周年経っていました。


それでは、どうぞ。


三十三話 『学年別トーナメントⅤ』

 

 

 

千冬side

 

「…………!?」

 

織斑千冬はアリーナ内でラウラ・ボーデヴィッヒが突如黒い塊に飲み込まれ、形を変えて私になったのを見て驚いていた。

 

だがそれも一瞬のことですぐにやらなければいけない行動をとる。

 

「――アリーナの観客および来賓の避難を! 山田先生、アリーナに今動ける教員をすぐに召集を!」

 

「――は、はい!」

 

「――教師を救援に送る必要ありませんよ」

 

その時、私の左側から声がした。山田先生は右側にいるのでちがう、だがこの声は聞き覚えがあった。

 

「……クロエ・クロニクルか、どういう意味だ? 貴様まさかあの場に残っている生徒を見殺しにしろとでも? あれは――」

 

歩き回られては困るので捕まえてきたクロエ・クロニクルに問いただす。

 

「――VT(ヴァルキリー・トレース)システム。存在は数年前からしており、束様から教えられ、今現在では全てにおいて使用が禁止されいる、束様で言うところの不細工な代物です」

 

クロエの解答を聞いて私は少し驚いた、薄々束が関係しているとは思っていたがまさかVTシステムのことを知っているとは思わなかった。

 

「だったらなおさらだ、VTシステムのことを知っているならばその戦闘力と使用してしまった者の肉体、精神的ダメージを知らないわけでもあるまい」

 

「えぇ、これも乗り越えなければいけない試練のひとつだと思いますから――これを」

 

そう言って私に携帯電話を渡してきたクロエ。おおかたの予想をつけ、その携帯をとる。

 

「――――やあやあちーちゃん、ひさしぶりだねぇ!」

 

「……束、貴様のしわざか。何故止める」

 

私は予想していた通りの人物にイラつきながら声をかける。

 

「――VTシステムを発動している『ラウラ・ボーデヴィッヒ』は私たち【部外者】じゃ、救うことができないんだよ。たぶん今のラウラちゃんはね」

 

 

「……どういうことだ?」

 

あの束が人の名前を言うことに驚愕したが、束の意味の分からない答えに問い返す。

 

「VTシステム(あの不細工な代物)は名前の通り、モンド・グロッソでの優勝者を模倣すること――そうすることでただのISで絶大な力を得ようとしたのがアレ。でも、使用すると精神を著しく削り壊し、肉体的にも多大なダメージを与えるから私はそんな代物を廃止したし壊しもしたし、消しもしたってのに……………………それに付け加えて左目もラウラちゃんには負担になっているようだしね」

 

長い間を置きながら話す束の言葉の中で私は気になることを聞き返す。

 

「待て、左目だと、眼帯のほうか? 負担になっているとはどういうことだ?」

 

私と会った時にはすでに着けていたので、てっきり目が見えない物だと思って触れないでいたが束の言い様を聞くにはどうやら違うらしい。

 

「左目はちゃんと見えるよ。『見えすぎる』くらいにね~。ラウラちゃんの左目にはヴォーダン・オージェ(オーディンの瞳)っていう疑似ハイパーセンサーを埋め込んでいるんだ。人体には影響がでない、無害とかドイツ政府の上層部(腐ってる場所)はそう謳ってるけど、もともとISにだって制限をかけて使用しているんだ。それが人体で使用されれば、いくら疑似で人間の脳内スペックでも処理しきれなくなってしまう。――でもそれがラウラちゃん自身に完全に適合してしまって『逆に全力を出せなくなってしまったんだよ』、それが原因、ちーちゃんも知ってるでしょ?たしかその時あたりにラウラちゃんに会ってるし。まぁ簡単に言うと、相手の動きが遅く、手にとるように見えて、弾丸も眼で追えるようになり、どんなに離れたものでも目の前にあるように見ることができる――だけど使えば数秒で脳が焼かれているかのような痛みを伴う。ラウラちゃんは使わない状態(眼帯をしていても)脳に影響がでないくらいには発動されているんだ、常時解放状態みたいな?」

 

一息に説明してくれた束のおかげで大体分かった。たしかに私はその頃にボーデヴィッヒと出会った。そして束の言葉を聞いて合点がいった。

――『ラウラちゃんは使わない状態(眼帯をしていても)脳に影響がでないくらいには発動されているんだ、常時解放状態みたいな?』。

 

要するに脳が情報を処理し、見せる映像に身体がついてこないということではないのか?

 

ボーデヴィッヒを鍛えているときにいつもぼ~っとしているかのような数拍の間を置いて動きだしていたので不思議に思っていた。それにあの時の違和感はこれかとも思った。

 

「――理由は分かった。だが、それこそ早急に助けた方がいいのではないのか」

 

私は束に問いかける。

 

 

「それはあの二人に任すよ。禍根を残したままってのも気持ち悪いだろうしね」

 

「だが――」

 

教師として見過ごせない。と言おうとした時、束から言葉が発せられた。

 

「――でもそれだとちーちゃんは納得しないよね、頑固なんだから~……――なら分かってるよね?」

 

束のひとつ下がったトーンが鼓膜に響く。

その言葉を理解した私は少なからず驚く。

 

「いいのか?」

 

「いま二人といっくんを失うわけにはいかないからね。でもどうしてもって時だけだよ?」

 

その言葉に私はクスリと笑みを浮かべて答える。

 

「ふっ、分かっているさ。最後の最後までお前とした約束を違えるつもりはない」

 

そう束にいった後、すぐに今できることをする。

 

「山田先生、アリーナにまわす教員たちも生徒や来賓たちの退避にまわしてください。それとオルコット、凰(ファン)、それに更識の妹をすぐに召集を」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

急に名前を呼ばれてビクッと小動物を思わせる驚き方をして作業に移る山田先生……眼鏡がずれているが見えるのだろうか。

三人を呼んだのは単純に退避させる人々の援護のため、そしてもしもの保険としての時間稼ぎ、というやつだ。

 

「それでいいよ、ちーちゃん」

 

というが束はまだ何か言葉を告げようとしていた。

 

「――今は時間がないからごめんねだけど次にあったら必ず言うね」

 

と、それだけいって電話が切れた。

 

……なんだというのだ、まったく。

 

意味が分からなかったが束の言った言葉をどうしても一蹴できず、とりあえず片隅において思考を切り替える。

 

「今は私もあなたも見守ることしかできません、それはとても歯がゆいことですね。今、実感しました」

 

その時、クロエがポツリと私に聞こえるくらいの声量で呟く。

 

「あぁ、そうだなクロエ、私も、そう思っていた」

 

 

ぎゅっ、と拳を握り締める。

 

慌ただしく人が動くなか、二人だけは根を生やしたように動かなかった。

 

一人はどんなことが起こっても万全に動けるように薄暗いサングラスを外し、ゆっくりと双眸を開く。

 

一人は決意を固めたように静かに目の奥に闘志をたぎらせていた。

 

少しして、呼ばれた三人が到着したのですぐに配役し、行かせようとしたがふと、あることを思い出し一人だけ残した。

 

「待て、凰(ファン)は残れ。他は言われた通りに行動しろ」

 

名前を呼ばれた鈴は「え? アタシ?」といった表情をしていた。

「凰、貴様にすこしやってもらいたいことがある。なに、簡単なことだ――」

 

 

戦々恐々している凰に優先してやってもらいたいことを告げる。

 

 

 

 

千冬sideout

 

 

 

 

 

「ふっざっけんなぁぁぁぁぁっ!!」

 

一夏が怒声を上げてシュヴァルツェア・レーゲンもとい、織斑千冬の形をしたものに斬りかかる。

 

「一夏ッおまっ!」

 

慌てて止めようとしたがすでに遅く、飛びかかっていた。

 

だがあちらも流石は織斑先生の模倣というだけあってすぐに反応した。

 

斬りかかってきた一夏の攻撃を避けるのではなく手にしているブレード、雪片弐型――形は一夏のとすこし違う――で受け流す。そして返す刀で一夏に上段から刃が迫る。

 

「っ!?」

 

刃が当たる寸前、横からの誰かの突進で掴まれて進路から外れ、逃れられた。

そのまま一夏を掴んだまま壁にぶつかるかと思いきや、180度回転をして速度を殺し壁への激突を回避した。しかし一夏をホールドしたままでいた。

 

「星野、止めるな! 俺はアイツをぶっ飛ばさなきゃならねぇんだ! アイツは、千冬姉の!」

 

自身を助けた星野にそう言う一夏。だが凛は冷静に告げる。

 

「落ち着け、今のままじゃ向かってもぶっ飛ばせずにお前がぶっ飛ばされるだけだ」

 

「関係ねぇよ! 俺は何がなんでもアイツをぶっ飛ば――」

 

さなきゃならない。そこまでいうことは叶わなかった。

凛が一夏をホールドした状態から背負い投げの要領で地面に思いっきり叩きつけた。

 

「――ぐぁ!」

 

「落ち着いたか? なら俺の話を聞け。俺らがのんきに話ができんのはあの偽織斑先生が攻撃してこないからだ、そうじゃなきゃ俺もお前も他のやつらもやられてる。あと一夏、お前はもう少し冷静になることを覚えろ。別に怒んなってわけじゃねぇ、お前の気持ちも理解できる――けどな、どんなにムカついても我を忘れたら死ぬのは自分なんだよ。お前が死ねば悲しむ奴はたくさんいるだろ」

 

諭すような、説教をするような口調で告げるとだんだんと一夏の抵抗が無くなっていった。

 

「……じゃあどうしろっていうんだよ。俺は怒りながら冷静に戦えなんて器用なことは出来ないぞ」

 

弱々しい口調になりつつあった一夏に俺は言ってやった。

 

「決まってんだろ――――いつも通りのお前でいいんだよ、一直線に向かっていって斬ればいいんだよ。お前が、一夏が織斑千冬に教わったことを使ってな。その剣が誰のなのか、お前が証明すればいいんだよ、織斑一夏」

 

 

 

衝撃を受けたように目を丸くして驚く一夏、だがすぐに笑みを浮かべて口を開く。

 

「それもそうだな……ありがとよ――凛。ちょっとスッキリしたぜ」

 

「冷静になったな? まぁ困ったときはなんとやらだ」

 

気にすんな、と言おうとして泥の塊が再びぐにゃぐにゃと動くのを確認する。

「な、今度は何だ……?」

 

驚くなか、次第に形は形成されていき、背中側に人の姿を作り出す。

 

「――――あぁ」

 

それは星野の心を大きく揺さぶるにはこれ以上ないほどに適役だった。

 

「一夏に言った手前、これはキツいなぁ……」

 

偽千冬の背中側に出現した少女を模したそれは、手にしていた小銃のようなものをこちらに向け、撃った。

 

「!」

 

こちらに向けてきた時点で回避行動をとる俺。

一夏を掴んでいる状態なのでそのまま避ける。

 

――ダァンッ! と本当に小銃を撃っているかのような音に一瞬一夏が驚く。しかし威力の方はえげつないものだった。

さきほどまで俺らがいた場所の地面が大きく陥没していた。あれを食らったらなんて想像しなくてもわかる。

 

俺はまだ逃げてる観客などに当たらないようにあえて超低空を飛行しながら避けている時、横から何者かの攻撃が偽千冬を襲う。

 

「――!? 鈴、何やってんだ!」

 

現れたのは専用機――甲龍に乗り、一人の生徒――シャルロット・デュノア――を担いだ凰・鈴音だった。

 

「ちょっと、離してよ鈴! 僕だってまだ戦えるんだから!」

 

「うるさいわよ、アンタを抑えて持ってこいって千冬さんから言われてんだからおとなしくしてなさいよ」

 

ジタバタと暴れるデュノアを制しながら鈴が言う。

……織斑先生の差し金か、嬉しいかぎりだ。今でさえいっぱいいっぱいですっかり忘れてたからな。

 

 

「――――さてと」

 

一息ついてから両手に持っていた『ローマン&トルーパー』を拡張領域(バススロット)にしまい、掌にあるものを出し握りしめる。

 

「一夏、行ってこい。お前とアイツとのシングルマッチだ」

 

援護は俺と凰(ファン)に任せとけ、というと鈴が反論する。

 

「ちょっ、待ちなさいよ! あれに挑んでこいって正気!? 千冬さんでしょあれ、勝てるわけないわよ! それに後ろに変なのついてるし!」

 

と、鈴がいうが俺はハッキリとした声色で告げる。

 

「いや、勝てる。負けるはずがねぇ、一夏も、ボーデヴィッヒも」

 

「……何でアイツの名前が出てくんのよ」

 

訝しげに聞いてくる鈴の質問に笑いだけを返す。

 

「――――行け一夏、思いっきりな」

 

「おう!」

 

「ちょっと、待ちなさいよ! 危険だっていってんのよ!」

 

「いいんだよ、それを排除すんのが今の俺とお前の仕事だろ?」

 

一夏は泥の塊へと勢いよく飛んでいき、偽者の織斑千冬の剣と対峙する。

 

「――お前なんかにその剣が振るえるかぁぁぁぁっ!!」

 

聞いたことのない一夏の心の怒声が響き、振り下ろされた雪片を雪片弐型で迎え撃つ。

 

「うおおおおッ!!」

 

相手がいくら大会総合優勝者(ブリュンヒルデ)を模したとしても、それだけである。織斑千冬(ブリュンヒルデ)のような繊細かつ大胆な技術があるわけでもなく、殺気、根性、想いがあるわけでもない。ただの大会総合優勝者(ブリュンヒルデ)では圧倒的な差があった。

 

――だから、この泥の塊(ブリュンヒルデ)は想いを、根性を持つ一人の少年に打ち負ける。

 

切り裂かれたのは泥の塊の方で雪片を模したものがなかばから断ち切られていた。

だが再生しようと再び動き出すが、一夏の行動の方が早かった。

懐付近まで一気に接近し、肩から先を切り、もう片方も同じように切り捨てた。

 

「――――」

 

再生の間に合わないのをカバーするかのように背中の少女を模したものが小銃を一夏に向ける。

しかし撃たれる前に別方向から攻撃により阻止される。

さらにだめ押しのように頭部が吹き飛ばされる。

 

「――星野! 鈴!」

 

「やるな一夏、今のはすごかったぜ」

 

「一夏、危ッないわよ! ヒヤヒヤしたじゃないこのバカ!」

 

怒鳴る、というよりは心配するかのような口調で告げる鈴……というかお前、担いでるデュノアがグッタリしてるぞ。

 

「後腐れなくやれたか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。あいつは千冬姉じゃない、俺にも負けたんだからな」

 

「そうか、なら――」

 

どこかスッキリとした声色で言う一夏に良かったな、と返事をしつつ泥の塊に向き直る。

吹き飛ばされた箇所、斬られた箇所を再生させながら形を整えようとしていた。

 

「――今度は俺の番だな」

 

右腕もそれなら左腕も然り――空気を圧し固めて発射させる、圧縮空気砲『ニーチェ』をいつでも打ち出せるようにする。

そして『レイブン』を起動して突っ込む。

再生しきる前に懐に到達し、左腕の『ニーチェ』の掌を密着させる。

 

――ボッ!!

 

弾けるような音と共に泥の塊の鎖骨付近から上が弾け飛ぶ。そこからラウラ・ボーデヴィッヒが顔をのぞかせる。

気を失っているようで目は閉じられ、力なく項垂れていた。

 

「『ラウラ・ボーデヴィッヒ』!!」

 

俺は腹から声を出し、ボーデヴィッヒを起こそうと大声を出す。

 

「――それでも、『あの人』と同じ名前を託された者かぁッ!!」

 

あらんかぎり叫び、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』に頭突きを繰り出す。

ゴッ、と鈍い音がして頭だけがのけ反る。

 

「………………――」

 

ラウラは一瞬だけ顔を歪ませたようにも見えたが泥の塊に飲み込まれてしまい、分からなくなってしまった。

 

「くそっ」

 

再び飲み込ませまいと、腕を突っ込み、救い出そうとするが――

 

「――ぐっ!?」

 

左右から凄まじい力で締め上げられ、再生された顔面の元に持っていかされる。

泥の塊の背中の少女を模したものがこちらに手をまわして掴んできたのだった。

ガッチリとホールドされており、ISの力でジタバタともがいてみても解けなかった。そしてこちらをジッと見つめてくる二つの顔面。

 

「その顔で、こっちを見るんじゃねぇっ!!」

 

獣のように吼える凛。その時、横からの攻撃で凛を捕まえていた腕が両断され自由になる。

 

「ちょっと、勝手に突っ込まないでよ! フォロー出来ないじゃない!」

 

鈴が双天牙月を投擲し捕まえていた腕を切ったのだ。

 

「なんだ、助けてくれるのか?」

 

「当たり前でしょ、千冬さんに言われたのよ」

 

なるほど、と星野は呟く。

ゆっくりと斬られた両腕を再生させながらなおも俺を見てくる泥の塊。

 

「――あとちょっとで退避も完了するわね」

 

ふいに鈴が呟く。観客席を見ると、非常口に我先にと殺到していた生徒、来賓者たちもすでに少ししかいない。

 

視線を戻すとすでに再生を終えていた泥の塊。

 

「…………」

 

俺も無言で睨む。睨みあっていると先に泥の塊が一歩、歩み出す。

 

それに反応し、星野も一歩分移動する。

それに気づいた鈴と一夏も動こうとするが星野がそれを止める。

 

「待ってくれ一夏、凰、俺にやらせてくれ。いや俺がやらなきゃいけねぇんだ」

 

チャンネルを繋いで、振り向きもせず一点だけを見つめて星野は二人に言う。 その間にも星野は少しずつ距離をつめていた。

 

「……行ってこいよ星野。思いっきりやってこい!」

 

「止めたってどうせ行くんでしょアンタは……まったく。私はアンタと一夏を援護してこいって言われたんだから私に被害がこないようにしてよ?」

 

「ありがとうよ。そんときは俺にふっかけろ」

 

行ってこいという一夏に礼を、何となくだが事情を察したかのようにやれやれといった風な鈴に言ってまた一歩分近付く。

 

偽千冬の剣の範囲に入っても何もしてこず、また一歩分近付く。

 

その時、星野はおもむろに繋げるかわからないプライベート・チャンネルをラウラへと繋ぐ。

 

「――――――」

 

ピン、と音がしてチャンネルが繋がったことに驚く。

そこに声をかけてみる、が案の定応答はなかった。 だがかまわずに俺は続ける。

 

「ラウラ……。」

 

若干声を震わせながら目の前の泥の塊に言う。

 

「もう、大丈夫だから…………」

 

装備していた武器を全て解除し、なおも近づきながら話続ける。

 

「もう大丈夫だから任せてくれ、ラウラは……ラウラ・ボーデヴィッヒは俺が守るから――」

 

そう言った俺はもうひとつ、少女のかたちを模したものを見る。

 

「馬鹿で頼りない俺だけど必ず守るから、皆の分まで…………だから、見守っていていてください」

 

目の前にいるものに頭を下げる。

するとゆっくりと少女を模したものの片腕が動き出す。

「星野っ!」

 

後ろで名前を呼ぶ一夏だが今の凛には聞こえていなかった。

 

「――――」

 

「…………」

 

凛の頭に無機質な感触の物体がそえられる。

少女を模したものの腕が撫でるように動かされる。

それの死角で千冬を模したものの腕が振り上げられる、手には雪片をかたどった剣が握られていた。

 

「――――――」

 

「――はぁっ!」

 

凛を切り裂かんとしていた剣は第三者――織斑一夏によって妨害された。すれ違い様に振り上げられた腕を切り落とす。

 

「――――」

 

「吹き飛びなさい!」

 

さらに泥の塊に追撃――凰鈴音の龍砲で千冬を模した顔面付近を吹き飛ばす。

 

ぐらついて後方に一歩下がる泥の塊。

手で隠されていた凛が現れた時、凛は一点を見つめていた。

 

口には噛んでいて、凛の左手にはガンケース、右手には一挺の銃――銃全体がクロームシルバーで、銃身(バレル)や引き金の軽さ(トリガープル)が僅かな力で引けるほどのフェザータッチなどの改良が加えられたカスタムガバメント、ゴールドカップナショナルマッチ――が握られ、銃口は見つめていた顔面に向けられていた。

 

「――ありがとう、ラウラ・ユリウス」

 

――ダァンッ!

 

ガバメントから45口径の弾丸が飛び出し、反動が腕に襲いかかる。 弾丸は外れることなく少女を模した人物の額に命中、すると

少女を模した顔が笑ったような気がした。

 

「――――」

 

しかし次の瞬間には、ぐわっ、と残った腕を振るい襲いかかってきた。

 

「――はぁ!」

 

「おりゃぁ!」

 

一夏と鈴が腕を切り飛ばし、顔面を吹き飛ばす。

笑みを浮かべていた気がする顔はもういなく、そこには腕と顔がない不格好なものが鎮座していた。

 

「――そこか」

 

サポートしてくれる二人に感謝しつつ、銅像のようにたたずんでいるものを凝視する。

さきほどボーデヴィッヒがいた場所――鎖骨付近に向かって飛ぶ。

 

――『レイブン・試作機型、速度リミッター解除』

 

レイブンにかけていたリミッターを解除し瞬く前にたどり着き、速度を殺さずに突っ込む。

ボーデヴィッヒを包んでいた鉛色の塊を吹き飛ばし、ボーデヴィッヒを抱き止めてそのまま銅像のようにたたずんでいる塊を置き去りにする。

 

「返してもらったぞVTシステム」

 

風穴を開けられた織斑千冬を象ったものは媒体を失ったことで溶けるように形を崩していく。

 

そんな中、最後の悪あがきとばかりに溶けかけている腕で剣を振るうVTシステム。

しかし完全に振るいきる前に織斑一夏の剣によって身体ごと両断され、阻止された。

 

やがて形を失って地面にへばりつくようにしていた鉛色の塊はだんだんと小さくなっていき、その姿を消していった。

そして完全に消えたのを確認して三人はISを待機状態にした。

 

「…………」

 

「…………終わったぞ、ラウラ」

 

気を失っているラウラに声をかける。もちろん返答はない。

 

「星野ーっ!」

 

一夏と鈴がこっちに走ってくる。俺はそちらを向いて笑いかけた。

そこで俺の意識は暗闇に飲まれた。

 

糸が切れたように力なく崩れる星野に一夏達は焦ったように駆け寄る。

 

「大丈夫か、星野?」

 

一夏が声をかけ、鈴が診てみるが、なんのことはない、ただの気絶だった。ただ、ラウラと凛は涙を流していたのが不思議に思った。

「はぁ~良かったぜ……ーーん? なんだこれ?」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒと星野凛が横たわっている間に何かキラキラとしたものがふたつ落ちていた。

 

一夏はそれをてに取って見てみる。

 

「これは……」

 

それには互いの名前と番号、そして何かの言葉が書かれていた。

 

一夏はそれを見て、まるで『名札』か軍人がする認識票(ドッグタグ)みたいだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラside

 

 

――――ここは、どこだ?

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは暗闇のなかにいた。感覚的にこれは夢かそれに近しいものだと分かっていた。

 

 

「私は……いや、それよりもどうなったんだ」

 

私は戦っていたはずだ。織斑一夏と星野凛と。

 

――――思い出した。

 

私は戦っていて織斑一夏に右腕を切られ、星野凛からエネルギー弾を喰らったたあたりから何かが聞こえていたんだった。

あの時は怒りがあって何を言っていたか分からないが確かそうだったな。

それが邪魔をして上手くISを動かすことができなくなっていたな。

じょじょに頭の中を支配していく言葉に乱され、織斑一夏が私に剣を振りかぶった時だった。

頭の中に響いていた声が消え、視界が切り替わる。

第三者視点になり、誰が今まさに斬られようとしていた。

 

私は叫んだ。知らないはずなのにどうしようもなく叫ばずにはいられなかった。

 

次にはそんな光景は煙のように掻き消えて、視界に映り込んだのは織斑一夏の雪片弐型を振りかぶっていた。その時、頭の中に響いていた声がよりいっそう強くなり、左眼の眼帯が吹き飛んでからISが変形した。いや、変異といったほうがいいのだろう。

急にISが溶けたように流動し、私を包み込む。

 

そこで自分の記憶が途切れていることに気付き、そして悟る。

 

「そうか、私はダメだったのか……」

 

ISが私を包み込むようにしていた気がするが、負けたのだろう。

そして左眼の使用で私の脳は突然の情報の波に回路が焼き切れたのではないか、そう勝手に解釈する。

 

 

「――ふっ……結局、落ちこぼれは落ちこぼれだったということか」

 

そう自嘲気味に言葉を吐き出す。

 

いつも私は他者よりも不出来だった。

何度やっても失敗し、何度やっても出来なかった。 だか私は愚直にやり続けた。何度も訓練をして、何度も練習をして、教官にも何度も何度もしごかれながらも、やり続けた。

教官のおかげで私は変われたんだ。どんな辛いことでも、罵倒も私はただ一心に、諦めずに頑張れた。

 

………………?

 

何のために? 何故私は頑張れたんだ? 一体、何を求めていたんだ?

 

勝利か? 称賛か? 教官に誉められたかったからか? それともただの自己満足か?

 

その時、コーン、カランカラン。と金属のものが落ちる音が暗い空間に響く。

下を見ると、自分の足元に金属片のようなものが落ちていた。

拾い上げるとそれは 、『Nos omnes,familia』、『B-16』、『Laura・Bodewig』と刃物のような尖った切っ先で強引に彫って書かれていた、私のいつから持っていたかわからない物だった。

 

『――ラウラ』

 

その時、私しかいないはずの空間で私を呼ぶ声が聞こえた気がする。

 

『――ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

今度はハッキリと私の後ろから声が聞こえた。

 

「誰だ!?」

 

私は素早く振り向き、警戒する。

いや――しようとして、相手の姿を見て私の身体は硬直してしまっていた。

 

年齢は5、6歳くらいだろうか、幼さの残る顔立ちに綺麗な銀色のボブカット、入院患者が着ているような簡素な造りをした服を着ており、その端々はボロボロになっていた。

そしてその少女はニッコリと私に向かって笑みを浮かべて、

 

「久し振りね、ラウラ。大きく、凛々しくなったわね」

 

と透き通った声で語りかけてくる。

 

「――だ、誰だ貴様は!?」

 

声が震える。知らない人物なはずなのに体が震え、左眼がズキズキと痛みを訴え、頭痛がする。

左眼をおさえ、一歩下がる。

 

しかし、目の前の少女はその一歩分を埋めるようにこちらに歩み寄ってくる。

 

「く、来るな、誰だと言っている! 名を名乗れ!」

 

声はなおも震えていた。おかしい、どうしたというのだ私は。

何故こんなにも緊張する?

何故こんなにも心がざわつく?

 

「覚えていないの? それとも忘れているの? まあ無理もないか」

 

もう数年も前のことだしね、と少女は呟く。

 

「いい? ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

少女は私に語りかけてくる。それはまるで子供に言い聞かせる母親のように優しい声色だった。

 

「あなたはとても芯の強い子よ。腐らず、折れずに物事を頑張れることは並大抵のことではないわ」

 

そう言いながら一歩ずつ、ゆっくりと私の方に歩み寄ってくる。

 

「誰かを頼らずとも生きていくだけの力はある……でも本当は甘えん坊で泣き虫な『私たちの家族』」

 

ズキズキと左眼の痛みが増してくる。痛い、痛い。

「家族……だと? どういう意味……だ、私に、家族などいないぞ……」

 

痛みに耐えきれずに膝をついてしまう。目線を下から移すと少女は私の目の前に立っていた。

少女は右手でおさえている左眼に触れる。

 

「……ぐっ! 触れるなっ」

心なしか痛みが増したような気がして手を払いのける。

実体だったことに少々驚きつつも少女のことを両目で睨み付ける。

 

「…………なるほどね、それが原因かな」

 

少し考え込むような仕草をして、またこちらを見てくる。

 

 

「だいたい、貴様に何がわかるというのだ……」

 

何も知らない者に言われても腹が立つだけだ。

 

「分かるわよ、家族だもの」

 

ニッコリと微笑み、再び目の前に立つ少女。

 

「思い出してみなさい、あなたを失意の底から救ってくれた人――織斑千冬の言葉を」

 

そして――トン、と軽く指の先で私の額を小突いてきた。

それで何故か私の思考は過去に飛んだ。

 

 

 

 

 

――教官、教官は何故そんなにもお強いのですか? どうしたら私は教官のようになれますか?

 

――――ん? 私か? 私はまだまだ弱い。私は守りたいもの(私の弟)を守ることが出来なかった……私の力は脆い強さだ――いいかボーデヴィッヒ、自分が守りたいものを守れた時、私は自分を誇ることが出来るのだと思う。だから私のようにはなるなよ。

 

――…………私には分かりません、教官はお強いです。私にとって教官は目標です……ならば私はどうすれば良いのですか?

 

――――今すぐに解答を出せというわけではない。解(こたえ)を焦っても誤った答えが出てしまうだけだ。ゆっくりでいい、自分に合った答えを見つけてみろボーデヴィッヒ。

 

――自分に合った答え、ですか?

 

――――そうだ。案外お前のような奴はもう見つけているかもしれんな――

 

 

 

 

 

過去に教官と話した時にそんな話をした。

私に『家族』はいるのか、という教官の問いから話が広がり、教官が弟がいることを話してくれたな。

 

それで教官は多分、『弟を守る』というのか答えだったのだろうと大分経ってから分かった。

 

 

 

 

「――――ぐうっ!?」

 

左眼の痛みで我に返るかのように考察から引き戻された。

 

 

「どうだった? 何か得られたことはあった?」

 

少女はそう問いかけてくる。

じっと少女を見ながら私は口を開く。

 

「…………私には『家族』などいないはずだ」

 

この少女は私のことを『家族』だというが、私には両親はいない。というか私は遺伝子強化試験体(創られた子供)だ。親など、ましてやこんなに歳の離れた娘などいるはずがない。

 

「そういうと思ったわ、まったく……でも私が聞きたいのはそれではないわ。ラウラ・ボーデヴィッヒ、『自分に合った答え』は見つけることが出来た?」

 

少女の口から発せられた言葉に少なからず驚く。そしてしばらくの間を置いて私は言葉を紡ぐ。

 

「…………まだだ、私が求めていた答えには辿り着いていない」

 

「そう」

 

私の言葉を聞いて一言分だけ口を動かす少女。

 

「――あなたはその答えのためにどんなことをする?」

 

少女から発せられたそのセリフには次の回答ひとつで私の運命が変わってしまうような気がするほどの力が籠っていた。

 

「…………どんなこと?」

 

「そう、例えばあなたがその答えを得るために力をよこせー、とか、何もせずに自分の殻に隠る、とか私は具体的な回答が聞きたいのよ」

 

私はまだ傷む眼をおさえながら頭を働かせる。

 

そうしてどれくらいの時間が経ったか分からないが私は少女を見据えて口を開く。

 

「…………私はまだ、答えとやらを見つけていない」

 

「うん」

 

「……答えを得るために別の力を振るうのは、違う。そんなものは……いらない」

 

「うん」

 

「自分の殻に隠るのも違う。私はそんなことをする人間ではない」

 

「うん」

 

「私は、まだ答えを見つけていない――だがそれでいいと思う」

 

 

「うん」

 

「焦って答えを出してもろくなものはない――私はまだ答えを見つけていない。ならばこれから見つければいいんだ、ゆっくりと」

 

私が紡いだ答え――それが正しいのかは私には分からない。

 

「――そう。それがあなたの答えね」

 

「あぁ、そうだ」

 

眼をそらさずにこちらを見てくる少女。

すると手を私の左眼に重ねてくる。

 

「――なら、私は何も言うことはないわ。自分なりの答えを出しているならそれを突き通しなさい」

 

気のせいだろうか、さっきは触られていたら痛かったのに今は痛みが和らいでいく感じがする。

 

「…………ねぇ、ちょっと眼を閉じてもらえる? ちょっとの間でいいわ」

 

微笑を浮かべた後、目を閉じるように言ってくる少女。閉じなくてもあまり変わらないと思うがその指示に従い目を瞑る。

 

すると左眼をおさえていた手がどかされ、変わりに柔らかく温かくほのかに湿ったものがあてられた。

ビックリして右目を開いて見てみると――少女が私の左眼にキスをしていた。

 

「――なっ!!」

 

「ふふっ、おまじないよ。あなたにとってこの瞳(め)は大切な思い出でもあるでしょ? だからラウラ・ボーデヴィッヒがちゃーんと使いこなせるようになるおまじない」

 

私より五歳以上も年が違いそうな少女はイタズラが成功した子供のように楽しそうに笑う。

 

確かに私にとってこの目は今となっては大事なものとなった。少女はそれが分かっていたから私をからかうような真似をしたのだろうか。

 

いくら少女とはいえいきなりキスなどされては少々気恥ずかしいものだな。

 

と、そこではたと気付いた。

 

左眼がもう、痛みを伴っていないことに。

 

 

 

 

 

「――――さて、ラウラ・ボーデヴィッヒ、あなたはそろそろ自分がいるべき所に戻りなさい」

 

私が立ち上がったのを見計らって少女は言う。

 

「戻れもなにも帰り方が分からんのだが……」

 

「自分の意識が変えれることを強く想いながら歩き続ければいいのよ」

 

私の方が背が高いので少女は見上げながら言ってくる。

さらに一拍をおいて話を続ける。

 

「いい? ラウラ・ボーデヴィッヒ、どんなことがあってもあたなは一人じゃないわ。私達は常にあなたたちと共にあるのよ――それを忘れないで」

 

その言葉に心が暖かくなるのを感じ、ふとそこで握っていたものの存在を思い出す。

 

「あら、どうやらあっちのほうが早かったみたいね」

 

少女が何かに気づいて口を開く。

私もそれに気づいて驚きの声を上げる。

体が光の粒子になりじょじょに消えかけていた。

 

「――最後に、あなたの名前を教えてくれないだろうか?」

 

私は消える前に少女に訊ねる。すると少女はちょいちょい、と手招きをして私をしゃがませる。

 

「まぁ、言ったらラウラは思い出しちゃいそうだから最後まで言わなかったんだけどね。泣いちゃダメよ?」

 

泣くものか、と言おうとしたが少女が言葉を発する方が速かった。

 

「――私の名前は『ラウラ・ユリウス』よ」

 

その名前を聞いた瞬間、今までよりも激痛が襲い、しゃがんでいた体勢を崩してしまう。

前にいた『ラウラ・ユリウス』は私を抱き止める。

子供特有の高い体温が私を包みこむ。

 

――――何故、私は忘れていたのだろうか。

 

あんなにも大切なことを。

 

「――――あらあら、泣いちゃダメじゃないの」

 

気付けば涙が止めどなく溢れていた。

視界が霞み、頬を伝って流れていく涙。

 

 

涙でよく見えない視界の中でラウラの笑顔を幻視して私の意識はその空間から消え去っていた。

 

 

「――あら? これは……」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒが消え去った後、ラウラ・ユリウスはあるものに気付く。

それはラウラ・ユリウスが持たせた家族としてのしるしであった。

 

「――――ね? 会うことが出来たでしょう、ラウラ」

 

舞い昇っていく粒子を見ながら呟く。

 

少女の頬には一筋の涙が頬をつたっていた。

 

 

 

 

 

 

ラウラsideout

 

 

 





祝一周年、ということで何かを書こうと思います。
物語とは恐らく関係のない話かと思います。
近日中にはあげるとおもいます。
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