IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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三十四話 『保健室にて。そして――』

 

 

 

ラウラside

 

 

「う……」

 

 淡い光を瞼を閉じた状態でも感じ、ラウラは目を覚ました。体を起こそうとしても上手く体を起こせず、右目の視線だけを動かす。

 

「気がついたか」

 

 その時、私に声をかける人物が一人、この場所にいた。すこし視線を探るように動かし、ここが保健室だというのがわかった。

 

「今はゆっくりとしていろ。VTシステムの影響(せい)でお前は肉体的に負荷がかかり上手く動かせんだろ、それに微弱だが精神汚染も確認されている。だから寝てろ」

 

 椅子に座っていた一人の人物――織斑千冬はこちらにやってくると、体をを起こそうとしている私をそっと押さえる。

 

「――すみません、教官」

 

「なに、気にするな」

 

 教官はふっ、と笑うと

また椅子に腰かけ腕を組んで私の方を見る。

 

「そのままでいい、こちらの話を聞け――ボーデヴィッヒ、VTシステム。というのは聞いたことがあるか?」

 

 「――はい、聞いたことだけならば。 確か名称はVT(ヴァルキリー・トレース)システム。モンド・グロッソの大会総合優勝者(ブリュンヒルデ)の動きを模倣すること、でしたか?」

 

「うむ、そうだ。それがお前の期待――シュヴァルツェア・レーゲンに組み込まれていた。分かるか?」

 

条約によって現在どの国家、組織、企業においても研究、開発、使用全てが禁止されているはずなのにだ、と教官は言葉を続けた。

 

「そのシステムはかなり巧妙に隠されていたらしい、解析班がそう言っていた。ある特定の条件下で発動するようにプログラムされていたらしい」

 

そうか、あのとき急に視界が暗転したのはこれが原因だったのか。

 

私はそのことに納得していた。

 

「…………教官、レーゲンは……私のあのISはどうなりましたか?」

 

そして私は気になったことを教官に聞く。

 

「――そう心配するな、お前のIS(シュヴァルツェア・レーゲン)は無事だ、正確にはコアの方だが。しかし、ダメージレベルやもろもろと負ったものが大きく使うには相当の手間がかかるらしい。いっそ初期化修理(フォーマット・リペアリング)か、他の同機体を使った方が速いと整備科は言っていたな」

 

「そうですか……ですが変えることはしません」

 

私の、私だけのISだ。

国から渡され、様々な時間を私と過ごしたのだ。そう易々とすてられるものではない。

 

「……意外だな」

 

教官がポツリと言葉を漏らす。見ると、教官は少しだけ目を見開い手間驚いていた。

 

「お前もそんな顔つきが出来るのだな。ドイツにいたときや、IS学園(ここ)に来た時もそんな顔は決してしていなかったのにな」

 

そういう教官だが私には今どういう顔をしているかなど分からないので困る……。

 

「き、教官、その……からかうのは……困ります……」

 

「くくくっ、ほらそういう顔だ、寝ている間にどんな心境の変化があったかは知らんがずっと口をへの字にしているよりは良いさ――あぁ、別にからかっているわけではないぞ?」

 

可笑しそうに笑う教官、その顔は、いいものが見れたと書いてあるかのように朗らかだった。

だが、悪い気はしない。むしろなんだかむずかゆい、というやつだ。

 

 

「――――さて、そろそろおいとまするとしよう。私がいたら休まるものも休まらんだろうからな」

 

そう言って教官は立ち上がり、出口に手をかけた辺りで動きを止め、何かを思い出したかのようにこちらを向いて口を開く。

 

「――ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「は、はい!」

 

急に私の名前を大声で呼ぶ教官に驚いたが反射的に返事をしかえす。

 

「――お前は何者だ?」

 

「……私は」

 

伝える言葉をまとめるのに時間がかかりながらも私は私の答えを出す。

 

「――私は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』です。かつて、教官にご指導していただいたのも私です。そして今ここにいるのも私です……私はこの名前を貰った時から『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という個であり、ひとつのピース(人)でした」

 

教官にもっと今の言い様のない気持ちを伝えたかったが、口下手な私ではこれが精一杯だった。

 

「――――そうか、自分なりの解は出せたか」

 

そう噛み締めるように言った教官は私を見る。

 

「ならば私は言うことはない。好きに生きろ、そして悩め、人生はまだまだ長いぞ小娘」

 

「――――ありがとうございます。織斑、先生……ふっ、ぐぐぐぐっ!」

 

はじめて教官を織斑先生と呼び、私は体を無理矢理起こす。

 

「おいおい、無理はするなよ?」

 

「大丈夫ですっ、だいじょうぶ!」

 

体を起こしただけで疲れる今の体に渇を入れ、ゆっくりと織斑先生を見る。

そして左眼の眼帯を外す。

ギョッとした顔をするが私はその両目で織斑先生を見る。

 

「織斑先生――いや織斑特別顧問殿、記憶を失ってから今まで……言葉では言い表せないくらい感謝しています――――ありがとう、ございました」

 

そして私は織斑特別顧問に敬礼をする。

 

「……そうか、なら特別顧問はもういらないな」

 

すべてを察したように織斑先生は穏やかに笑う。

 

「――だが、お前はIS学園(ここ)の生徒だ。教師としてお前を見守ろう。相談くらいはいくらでも乗ってやる」

 

織斑先生はそう言って今度こそ本当に帰ろうと私に背を向ける。

 

「…………織斑先生、ひとつだけ、頼みがあるのですが……」

 

「ん? なんだ?」

 

背を向いたまま私の話を聞いてくる。

 

「近々で良いので休みを貰えませんか? 少しで良いですので」

 

「何故だ?」

 

「……ドイツに。私が配属された部隊に挨拶をしに行きたいのです」

 

かつて教官が創ったIS専門部隊、黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)に。

全員が志を高く持ち、常に気高く、そしてすべての隊員が仲間を想い、行動していた、そんな部隊だった。

 

今思えば隊員の気遣いは私を思ってのことだったのかと、気付く。私はそれを意地でも受け取ろうとはしなかったな。だからあの頃は仲は特別悪いというわけでもないが良いというわけでもなかった、昔の私は我ながら浅はかな思考だったな。

 

「――あぁ、分かった。なら申請しておいてやるから後で教員室に来い」

 

こちらをチラリと見た織斑先生はそう言い残し去っていった。

 

 

「――ふふっ」

 

ゆっくりと痛む体を再び寝かせながら私は笑った。

――何故だろうな。こんなにも気分いいのは。

 

小さな笑みを浮かべながら、瞼がしだいに落ちてくる。

ひとつの想いを胸に抱きながら私は眠りついた。

 

 

 

 

 

ラウラsideout

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

ラウラが起きる数十分前に星野凛は目を覚ました。 目が覚めるなり織斑先生に「お前も織斑(あのバカ)も無茶をしすぎだ」と怒られ、反省文の提出を言い渡された。解せぬ。

その後、お前も安静にしていろと言われたがラウラ、織斑先生のいる場所に留まっているのが気まずく、無理を言って保健室から退出した。

 

出るときに織斑先生が、

「そういえばクロエ・クロニクルから伝言だ。『私はもう行きます、星野凛さんラウラ・ボーデヴィッヒ――私の姉をよろしくお願いします』だ、そうだ」

 

と言っていた。俺は分かりましたと返事をして廊下に歩き出す。

 

「…………姉、か」

 

クロエ・クロニクルの言葉を思い出し、ポツリと呟く。

どうりで似てるはずだ、と思った。

 

そして、やるべきことをするため、自室に戻る。

 

「……お?」

 

部屋の前に数人が集まっていた。そのうちの一人がこちらに気付くと駆け寄ってきた。

 

「星野~、お前大丈夫か!」

 

「おう大丈夫だ。そっちも大丈夫そうだな」

 

「元気いっぱいだよ~」

 

「……本音はあまり関係ないような?」

 

「とにかく無事で良かったわ」

 

本音、簪、楯無順で答える一同。

 

「で、どうしたんだ俺の部屋の前に集まって?」

 

「あぁ、ちふ――織斑先生に『見舞いが多いと休まるものも休まらんだろう』って言ってたからここで待ってたんだ」

 

鈴も態度には表してないけど心配してたんだぜ? と一夏は言う。

 

「その後でうやむやになったけど、実質一年生で優勝したのは俺達だからお祝いでもしようって楯無さんが」

 

ラウラがVTシステム暴走を起こしてしまい、一年生の大会が中止になったため、一番勝ち残り、片方を倒した俺達のペアが優勝じゃなかしら? と楯無は補足するように言う。

ちなみに二年の優勝は楯無らしい、自慢するように言っていた。

 

「――なるほどな。ならちょっと待っててくれ、今すませたいことがあるから」

 

そういって俺は部屋に入る。

そして待機状態のISに端末コンソールを繋ぎ、大会中のIS稼動データと試作型の採取データを取り出して、社長に送る。

データが送られたのを確認して再び一夏たちの元へ行く。

 

「待たせたな」

 

「それじゃ行きましょ? 場所は生徒会室ね」

 

楯無が指揮を取り、今度こそ移動だと言うときに遠くから一夏に声がかけられる。

 

「織斑く~ん!」

 

「ん? あ、山田先生。どうしたんですか?」

 

一夏が山田先生に訪ねるとまるで自分のことのように嬉しそうに話始める。

 

「そうです、朗報です! この前から言っていた『大浴場』今夜から解禁されたんですよ!」

 

 

たゆん、と効果音がなりそうなほど揺らしながら一夏に告げると一夏は興奮ぎみに問いかえす。

 

「本当ですか!? てっきり来月からだと思っていましたよ!」

 

「ええ、本来ならその予定だったらしいんですが、予定よりも点検、整備が早く終わったみたいなんです!」

 

一夏も山田先生も興奮ぎみに話している。

 

 

俺や他の面子は、へーそうなんだーと言わん顔をしながら二人のやりとりを見ていた。

 

「――せっかくですから男性同士ではいってきたらどうですか? 星野君」

 

とこちらを向いて言ってくる山田先生。一夏もそれに便乗してきた。

 

「そうだな、せっかくだし一緒に入ろうぜ、星野!」

 

「――いや、俺はいいや。疲れてるし」

 

おい、皆もこっちを見るな。なんか気まずいだろ。 だいたい入れるわけないだろ、俺の体って傷だらけだから見る人が見たら深い思うだろうからな。

 

「疲れてるからこその風呂だろ!」

 

だが一夏はどうしても風呂に入らせたいのか食い下がる。

 

「そうね、どうせならはっいてきなさいな、私たちは準備しとくから」

 

と、そこで楯無会長から一夏に助け船が入る。

 

「……そうね、疲れてるときはお湯に浸かったらいいよ」

 

「いってきなよ~ほっし~」

 

ぐっ、何だこの流れは!?

 

「それじゃあ行こうぜ!」

 

「おい! まて、まだ俺が了承してないだろうが!」

 

そうして、なし崩し的に大浴場に入ることになった俺だった。

 

 

 

 

 

「――――ふぅ、やっぱ日本人は風呂だよな……」

 

一夏は風呂に浸かりながらゆったりとした口調で言う。気持ち良さそうにしている。

 

 

「まったく、別に俺はいいっての」

 

不機嫌さをあらわにしながら言う。

 

「まぁそういうなって――てか星野それで入ってくんなよ!?」

 

「ああ? 気にすんなよ」

 

 

一夏は咎めるように言ってくるが俺は気にも止めずに体を流して風呂に入る。

――全身にISスーツを着込みながら。

 

「……なんでそれ着て入ってきてんだよ」

 

「なに、気にするな。ちょっとした事情があってだ」

 

「それじゃあ浸かる意味無いだろ……」

 

そういって肩を竦める一夏。

そう言われてもな、俺はシャワーだけで十分だと思うんだがな。

 

 

 

 

俺は汗を流して早々に上がり、一夏は風呂を堪能して楯無会長達が待つ生徒会室に行く。

 

「――来たわね、じゃ始めましょう」

 

ガラリ、と扉を開けると楯無会長が扉の前に立っていた。

 

「さ、ほら座った座った」と袖を引かれて席に着かされると丁度淹れたばかりであろう湯気が立ち上る紅茶とクッキーが用意されていた。

 

「さ~どうぞーごゆっくり~」

 

「………………」

 

すると何故かメイド服を着ているのほほんさんと簪、簪にいたっては顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いていた。

 

「どうどうほっし~? にあってる~?」

 

と、のほほんさんが自分の着ているメイド服を見せつけながら言ってくる。

 

 

「ん? あぁ、すげー似合ってるぞ二人とも。な、一夏」

 

「あぁ」

 

「えへへ~、ありがと~」

 

「…………ありがと」

 

そう俺たちが言うと二人とも照れながら礼を返す。

 

「それじゃささやかながら始めましょうか、大会優勝のお祝いを」

 

楯無会長も簪ものほほんさんも席に着く。そして紅茶のはいったカップを持ち上げて乾杯する。

 

「いえ~い、おめでと~!」

 

「…………おめでとうお姉ちゃん、織斑君、星野くん」

 

「おめでとうございます楯無さん」

 

「優勝おめでとうございます、楯無会長」

 

――皆が祝福の言葉を述べ、他愛もない雑談を交えながら用意された紅茶や菓子に口をつける。

 

「――そう言えば、ペアで優勝したのはいいけど、個人だとまだやってないな」

 

「そういえばそうだったな」

 

すっかり忘れていた。そんなこと一夏と言ってたっけなー、と星野は心の中で思う。

 

「あぁ…………なら近いうちにやるか」

 

俺がそう言うと一夏はやる気に満ちた声色で返事をした。

 

「おう、やろうぜ! 負けねぇからな!」

 

「あら、今度は二人でやるつもりなのかしら? ――簪ちゃん、本音ちゃんどっちに賭ける? ちなみに私は星野君に賭けるわ」

 

「…………星野くん」

 

「ほっし~だよー!」

 

「あれ? 俺負け確定!?」

 

 

「俺らで賭け事をするな賭け事を」

 

 

しばらくの間、五人がいる空間は談笑が続いた。

 

 

 




次話で二章が終わります。
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