IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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早くに投稿することができました。短いですが……

それでは、どうぞ。


四十一話『旅館にて』

 

 

 

 

 

 「――――待って、それだけは待ってください。つか怖いっす織斑先生」

 

 俺こと、星野凛は今、連れ去られた簡易的な更衣室のような場所に織斑先生と二人でいた。

 実際、織斑先生はかなりの美人であろう。十人中十人が肯定すること間違いなしであろう。

 だが、それでも眼光鋭くし、刀のような雰囲気を纏った美人に壁ドンされてもなにも嬉しくない。

 それに悲しきかな、背はこちらの方が小さいのでなお、威圧感があるので怖さが出ている。

 

 「何、遠慮するな。さあ、さっさと脱げ」

 

 「いや無理っす。百歩譲って泳ぐ訓練するのはわかりますけど着替えを手伝ってもらうのはほら、アレじゃないですか」

 

 連れ去られた俺は織斑先生に着替えを手伝われそうになってギリギリ止めた。流石に恥ずかしいのもあり、こちらにも事情があったりするのでお断りしたら壁ドンされて今の状態になった。何を言っているかわからんと思うが俺だって分からない。

 

 「……はぁ、分かったならば手早く着替えてこい」

 

 やれやれといった風で出て行く先生。なんか釈然としねぇ……。

 

 「――お待たせしました」

 

 五分後、水着に着替えた俺は織斑先生のもとに行く。

 

 「あぁ、やっときた――」

 

 そこまで行ってこちらを振り返った織斑先生は固まった。着替えている間に来たであろう山田先生は織斑先生の行動にハテナマークを浮かべていた。

 何だろうか、俺の格好がそんなに変だろうか? ちゃんとトランクスタイプの水着を着ているし、Tシャツだって着ているというのに。

 

 そう思っているといつの間にか織斑先生は俺の肩を痛いくらいに掴んでいた。ちょっ、痛いです織斑先生、あと服が破けそうです。

 

 「お前はアレか、ボケているのか? そんなにもお灸を据えられたいか」

 

 「い、いや、俺は至って真面目ですよ‼︎」

 

 か、肩口が! シャツの肩口から不穏な音が!

 

 「――――兄さん! 織斑きょ――先生! ここにいましたか!」

 

 シャツが限界を迎える前にラウラの声が聞こえてきた。一目散に向かってくると織斑先生に向かって声をかける。

 

 「織斑きょ――先生! 私にも泳ぎ方を教えてください!」

 

 先ほどとはうって変わってポカンとした表情を見せる織斑先生。そしてこちらを振り向いてラウラを指差していた。それを見てだいたい察した。

 

 「ラウラも俺と同じで泳げないんですよ。ほんとに」

 

 織斑はふむ、と顎に手を当てて考える素振りを見せてからラウラに向けて言葉を発する。

 

 「ならばボーデヴィッヒも泳げるようにしてやろう。山田先生、あなたも手伝ってください」

 

 「え、わ、私ですか⁉︎」

 

 私も、といった割には「むん!」 と気合をいれた声を出す山田先生。

 

 「そういえば、兄さん、その格好では泳ぎには適さないのでは?」

 

 ラウラが疑問に思ったことを聞いてくる。確かにこの格好は泳ぐのには少しばかり適さないだろう。

 

 「何故か頑なに脱ごうとしなくてな。泳ぐのに服を着ていては危険だというのに……ボーデヴィッヒからも何か言ってやってくれ」

 

 「いや、わたしは……」

 

 ラウラはそれを聞いたとたんに急に尻すぼみになる。こちらをチラチラと見ながら、どうしたらいいか、と悩んでいるようだった。

 俺は小さくため息を吐いてもう一つの事情を話すことにした。ここでラウラに気を使わせるのも俺もあまりいい気はしない。

 

 「実はですね、PMCをやっていた時の傷がかなりありましてね、生々しくてあまり見せなくないんですよ。知り合いならなおさら気まずくなるんで」

 

 織斑先生はそれを聞いて山田先生を生徒たちの見張りを任せた。ちょっとしょんぼりしていたのが申し訳なかった。そして俺たちはみんなからだいぶ離れた場所に移動し、そこに着くと織斑先生は俺に声をかける。

 

 「お前の事情は分かった。だからそのことについては最大限協力しよう。何、傷など、現役時代や教官時代に腐るほど見てきたし作りもした。私は気にもとめんと約束しよう」

 

 そう言い切った織斑先生はさっさとしろとばかりに見てきた。ラウラも俺と先生にどこか安堵したような表情で見ていた。

 

 ここまできてしまったのならしょうがない。俺は素直に上着を脱ぎ、銃創や切創にまみれた上半身を晒す。

 

 「やっとか、ならさっさと始めるぞ。時間もあまりない」

 

 言った通り織斑先生は気にもとめず、早速泳ぎ方を教えてくれた。実際これを見せるのは初めてだったりする。だからこれを見られるのが少し怖かった。ラウラにだって見られるのはちょっと抵抗があるくらいだ。

 

 ――でもふたりはそんなことを気にもとめず、まるでこの傷なんで無いかのように接してくれたのが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 ――――それから自由時間いっぱい、泳ぎ方を教わった。ラウラは早くに水に慣れ、泳ぎ方をマスターようでスイスイと水の中を自由に泳ぎ回っていた。

 教える側が一人増え、丁寧に教えられる中、溺れ、救助の繰り返しだった。ラウラには途中から遊んできて良いぞと、言い、織斑先生の後押しもあって渋々ながらもみんなの方に行かせた。俺の特訓に時間を使うよりも遊ばせてやりたいしな。

 水面に体をプカプカと浮かせながらボーッと浜の方を見ていると楽しげに遊んでいるラウラがいた。良かったと思った時、体が沈み、息を全て吐き出してしまい、数秒後には意識が暗転した。

 

 

 

――結論。俺は泳げない。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 「――おぉ、このわさび、本山葵か!」

 

 それから旅館に戻り、女性陣は露天に入ったりなどしながら午後七時――夕食になった。

 

 出されたメニューは小鍋と刺身の盛り合わせなど、いかにも和風といったもので、香ってくる鍋の匂いがまたなんともいえず旨そうであった。

 

 一夏が刺身を食べる際に付け合わせの山葵とやらにテンションを上げていた。

 

 「――ふむ、ローフィッシュ(生魚)か、久々に食べるな」

 

 「――前食べたとには泥臭くて食べれたものじゃありませんでした」

 

 「俺もだ。あまりローフィッシュには良い思い出が無いなぁ……」

 

 「そこ、せっかく刺身食べてるんだから食欲無くすこと言わないでよ」

 

 「とてもワイルドですわね……」

 

 俺とラウラが魚について話していると鈴がツッコミをいれ、セシリアが引いていた。

 

 恐々としながら刺身を食べてみると意外と美味く、パクパクと食べた。途中本山葵なるものを分量もわからず大量に刺身付けて食べたため、鼻に突き刺さるように抜けていく風味に悶絶し、ラウラは山葵をそのまま食べて悶絶しているのを周りはその二人の珍事を耐えるように見ていた。

 

 「――ん? セシリアも鈴もどうした?」

 

 ふと二人の箸があまり進んでいないことに一夏は気付き、声をかけた。

 

 「アタシ、山葵ってどうも苦手なのよ」

 

 「わたくしもこの風味が少し……」

 

 「なら、山葵をもらって良いか? 代わりに刺身をやるよ」

 

 二人の了承を得て山葵を貰い受けると刺身を一切れ取って鈴の口元に持っていく。

 一瞬意味のわからなかった鈴は遅れて顔を茹でダコのように真っ赤にして一夏に声をかける。

 

 「い、いっ、い、一夏っ、ア、アンタっ!」

 

 「? どうした? いらないのか?」

 

 ほら、と差し出す一夏。鈴は真っ赤になりながらもゆっくりと口を刺身に近付け――パクリ。食べる。

 すごい速さで咀嚼し、お茶をがぶ飲みし、未だ真っ赤な顔で一夏を睨みつける。

 

 「――こっ、この馬夏! なんてことしてくれんのよ! もういっかい!」

 

 「――いってえっ⁉︎ 何が⁉︎ 何がもう一回なんだ⁉︎」

 

 照れ隠しで一夏を叩いた鈴。だが本音がだだ漏れだった。

 

 「鈴さん、独り占めはずるいですわよ! 今度はわたくしの番なんですから」

 

 「――――ああっ! セシリアと鈴が織斑君に食べらせれられてる!」

 

 「なにーっ! 羨ましい! 私も!」

 

一夏は全員に刺身を食べさせ(俗に言うあーん)、何故か俺までやる羽目になって夕食の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 姉妹水入らず、といった感じで過ごし、昔話をしたりして盛り上がったりと、楽しい時間を過ごしていた。

 

 「――そう。シャルロット、あなたは本当に頑張ってきたのね」

 

 話詰めで喉が渇いたので何か飲みながらアリシアはデュノアを労うように呟く。

 そう言ってデュノアの頭を撫でる。撫でられているデュノアはむず痒そうに、でもどこか嬉しそうに目を細めていた。

 

 

 

 ――――でもね、シャルロット。それでは駄目なのよ。

 

 ――――それではあなたの望みは叶わないのよ。

 

 どこか悲しそうにシャルロットを見つめるアリシアだった。

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