IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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 筆が乗ってきました。投稿いたします。
少し短いですが


それでは、どうそ。


四十二話『天災、来たる』

 臨海学校二日目。今日は昨日と違い、朝から晩まで丸一日ISのデータ取りに追われる。特に専用機持ちたちは――例外も居るが――大量のデータ採取が待っているので大変である。

 

 「――集まったな、凰、オルコット、織斑、ボーデヴィッヒ、星野。そして篠ノ之。話がある」

 

 各自、渡されたデータをコンソールでISに入れ、データ採取のために使用している中、織斑先生に呼ばれる。そして何故か打鉄(うちがね)を移動させていた箒まで呼んでいた。

 

 「今回、集まってもらったのはお前達に十分注意してほしいことがひとつある」

 

 珍しく、歯切れの悪そうな顔を見せる織斑先生。

 

 「――今回の臨海学校に篠ノ之束が来る可能性がある」

 

 それを聞き、全員に激震が疾る。

 

 「……束ってISをつくったあの束博士ですか?」

 

 「そうだ」

 

 鈴が織斑先生に聞き、それを肯定する。セシリア達はまさかの人物に動揺を隠せないでいた。

 

 「可能性があるってなんでまたそんなに抽象的なんですか?」

 

 俺はISにインストールし終えてから織斑先生に尋ねる。

 

 「先日にあいつから電話があった。『そっちに行くかも』と高らかに言われて切られたがな」

 

 「あいつには正直言って身内しか話が通じん。だからあいつも馬鹿なことはしないと思うがお前達、話かけても期待するなよ」

 

 織斑先生は生徒達にそう言って、予めの予防策のようなものをしいておく。

 束は昔から身内にしか会話が成立せず、それではいかんだろうと千冬が矯正させようと手を焼いたがあまり効果がなかった。だが束はこういった奴だから気にするな、と言っておけば双方の軋轢のようなものが多少は緩和されるというのをしったのはだいぶ後になってからだった。

 

 「――へぇ、束さんが来るのか。久し振りだなぁ」

 

 一夏はその話を聞いて、もう長いこと会っていない篠ノ之箒の姉、篠ノ之束と昔遊んだことを思い出す。

 

 「なんだ一夏、束博士と知り合いなのか?」

 

 「あぁ、子供の頃、箒と一緒に遊んだくらいだな。実を言うとその時から会ってないんだ」

 

 「それなら感動の再会じゃないか。 良かったな」

 

 「? おう。

  ――そういえば、箒もなんじゃないのか? ほら、前は雪子さん(おばさん)のところに住んでいたんだから長らく会ってないだろ?」

 

 「知らん。私は出来れば会いたくもない」

 

 一夏が箒に聞くが箒は切り捨てるように言う。

 

 「――まぁなんにせよ今は自分のやるべきことに集中し――――」

 

 織斑先生がそこまで言いかけた時、その場にいた専用機持ち全員のISの警告音(アラーム)がけたたましく鳴り響く。

 

 「何だ⁉︎」

 

 「沖からこちらに向かって高速で迫る物体を感知しましたわ!」

 

 「私もだ――目標の機影確認。あれは……戦闘機……か?」

 

 ラウラが迅速にISを展開し、レールカノンをパッシブからアクティブの状態にし、望遠モードで飛来する物体を確認する。

 

 星野もラウラに続いてISを展開し武器を換装して備える。他のみんなは織斑先生からの指示を待っていた。

 

 「俺も未確認の機影を確認――待て、下から何か出てきたぞ!」

 

 戦闘機のようなものの下のハッチが開き、そこから何かの――恐らく人型の塊のようなものが顔を覗かせていた。少なくともミサイルなどといったものではないようだ。

 

 その時、俺とラウンドのISに非登録チャンネルが繋がり、大音量で人の声が聞こえてきた。

 

 「――――ちいいいいぃいちゃゃゃゃあああああぁあんっ‼︎ 今行くねぇえええええぇえええっ‼︎」

 

 耳付近でスタングレネードを爆破させたかのような音量にキーンッ、と耳鳴りを起こし、鼓膜が破れたのではと思うほどだった。

 一夏や鈴たちもうるさそうに耳を手で覆っているあたり、やはりかなりの大音量だったらしい。

 

 「――ボーデヴィッヒ、星野待て! あれは『束』だ、撃つな!」

 

 千冬は先程の大音量で発せられた言葉と声で大体誰かを悟り、二人に待ったをかけた。

 まさかあれが束だとは誰も思っておらず、そこにいた全員が驚愕し、千冬の方を向く。

 

 だが、陸でそんなことが行われているとはつゆしらず、戦闘機は繋がっていた人型の塊のケーブルを断ち切り、投下した。といっても十分な速度に乗っているそれは砲弾に近かった。

 それを切り離した後、戦闘機はすぐに進路を変え、まるで元いた場所に帰るかのようにUターンしていった。

 

 水面を切り裂き、そのままこちらに直進する人型の塊。だが距離が百メートルを切った時、動きがあった。不動の垂直から風をもろに受ける体制になった。その時初めてそれの全体像がわかった。

 頭部からつま先まで全てが鉛色をした塊、違うのは紅く光る無機質な双眸だけだった。

 そして、五十メートルを切った時、それは水面を跳ねた。いや、水面を蹴って飛んだ、というのが正しいだろう、それは十数メートルも上昇し、法則に従って近くの浅瀬に落下してきた。

 

 ズシンと、重い塊が落下する音、波が音を立てて飛沫と変わり、何故か轟く雷鳴の音の中心にそれは片膝をついていた。そしてゆっくりと頭部をあげ――こちらを見た。

 

 「っ⁉︎」

 

 その異様な格好に不気味さを感じ、思わず後ずさる。

 

 それは立ち上がるとある人物――織斑千冬を見て一息に飛び上がる。

 

 「会いたかったよー! ちぃぃちゃぁぁぁん‼︎ ――――ぐふうっ!」

 

 「――ふんっ!」

 

 織斑先生に抱きつこうとした束博士(仮)はしかし、抱きつく前に織斑先生の振りかぶった拳でぶっ飛ばされた。

 金属の塊であることをものともせずに殴り、頭部の丁度頬の部分を素手で陥没させたのだった。

 

 「束、来るならもっと普通に来い。危うく撃ち落とすところだったぞ」

 

 「私的に一刻も早くちーちゃんに会いたかったっていう気持ちの表れだよ!」

 

 だが、束は殴られたことも含めどこ吹く風でその金属の外皮を剥離(パージ)していく。

 髪の毛、腕、胴体、脚の順に外れていき、最後に頭部を外れ、初めて束博士がどんな人物かわかった。

 

 背はそれほど高くなく、何のためか胸元が大きく開いた水色の改造メイド服を着てきて、その改造部分を主張するかのように胸部が大きかった。

 髪の毛は自分の腰まであり、伸ばしているというよりは無造作に伸ばしているといったほうが良いだろう。

 顔立ちはどこか幼さを残しているものの箒と似通ったものを感じた。だが、タレ目に刻まれた隈がそれを台無しにしていた。

 

 「ハロハロー! ちーちゃん! いっくん! ほうきちゃん! 愛しの束だよ!」

 

 両手を広げ、天に向かってそう告げる束、それにどう反応して良いか分からずただただ眺めているものが大半だった。

 

 「――お久しぶりです、束さん」

 

 「うんうん! いっくんも久し振りだねぇ! こんなに大きくなって、このこの!」

 

 一夏は束に話しかけると、束はすごい速さで一夏に接近し成長を実感するかのように触りまくっていた。

 

 「――そうだいっくん、白式見せてー! 束さんは興味津々だよ!」

 

 「あ、はい」

 

 束は一夏の待機状態の白式にケーブルを繋ぎ、空中投影ディスプレイを出現させ、何やらいじって不思議な羅列のようなものを出した。

 

 「ふむふむ、ちょっと不思議なフラグメントマップをしているねぇ」

 

 しばらく羅列を見ていた束が呟く。どうやらあれが分かるようだった。だが、千冬も含めてその羅列に首をかしげていた。

 

 「――あ、そうだ。君のも見せてよ」

 

 「……どうぞ」

 

 不意にこちらに振られたことに反応が遅れる。織斑先生に聞かされていたように身内とのテンションの差がすごいがまさか普通に話しかけられるとは思わなかった。千冬も目を見開いて驚いていた。

 

 「はいはい〜…………こっちも不思議だね。今までこんな羅列は見たことないや」

 

 束がそういうが、それが何を示しているのか俺たちには到底わからない。

 

 「そういえば、どうして俺や星野はISに乗れるのかって分かりますか、束さん」

 

 一夏の問いに束は珍しく言葉に詰まるように唸り、そして告げる。

 

 「正直なところ、束さんにもさっぱりだよ。フラグメントマップの羅列は比較するまでもなく女性のとは違うし、二人のも一から最後まで似通った点が全くない。まぁ、ナノ単位で解剖すれば分かるかもね――やっとく?」

 

 「するわけないでしょ……」

 

 だよねー、とまるでその言葉が分かっていたかのように何の気なしに答える。

 

 

 「…………姉さん」

 

その時、束を呼ぶものがいた。それは束の妹である篠ノ之箒だ。箒は苦虫を噛み潰したかのように渋面で姉と束を呼ぶ。

 

 

 「――分かってるよ、ほうきちゃん。欲しいんでしょ? 自分だけの専用機(チカラ)が」

 

 束は星野のISに挿したケーブルを抜いてから振り返る。

 

 「束、お前は何を言っている。篠ノ之に専用機だと? それは――」

 

 「――だいじょうぶだよちーちゃん」

 

 千冬が批難を言い切る前に束が千冬の方を向くのと同時に言葉を重ねる。

 とても迫力のある眼の奥で輝くものに千冬はそれ以上の言葉を告げることができなかった。

 昔を知る千冬だからこそ今の束が何を考えているのか、余計に分からなかった。

 

 「それじゃあ、ほうきちゃん、心して答えてよ――――ほうきちゃん、力が欲しいかい? 何のために欲しい?」

 

 そう箒に尋ねるその手にはどこから取り出したのか、十数枚の色とりどりのタロットカードのような長さのものが握られ、箒に向かって見せるようにしていた。

 

 「……欲しい。守るためだ。私の、大切なものを」

 

 「そう。ならほうきちゃん、その守るもののために何が出来る?」

 

 「――全てを差出せます」

 

 「――――そう」

 

 少しだけ悲しそうな表情を見せると手元の白、青、金色のカードを取り、放る。空中に放ったカードはすぐに粒子化を始め、地面につくことなく文字通りに霧散した。

 

 「ほうきちゃんはISを手にして何がしたい?」

 

 「私はISを使って変わりたいのです。今までの自分を変えたい」

 

 「そう」

 

またもカードを放る束。色は銀、黒、黄、緋だった。

 

 「(IS)って一体何だと思う?」

 

 その質問に箒は少しだけ迷ってから答えを告げる。

 

 「――力は力です。それを振るう者が守るか殺すか決めることができる、力です」

 

 「――そうかい」

 

 束は箒の言葉を聞いて、紅、緑、透明色のカードを放る。

 

 「約束通り、これがほうきちゃんのISだよ」

 

 束は最後に手元に残ったカード――鉛色のカードを天高く投げる。するとそれはまばゆい光を発する。

 

 「――ふざけるなっ!」

 

 突如、箒が怒鳴った。わなわなと肩を震わせ、顔を歪めながら束に怒鳴り散らす。

 

 「ふざけるなよ姉さん……何が私のISだ! なにも、なにも――」

 

 

 「――なにもないではないかっ!」

 

 そこにはどこをどう見てもなにも存在しなかった。

 

 「そうだね、それが答えだよ箒ちゃん」

 

 「っ! それでは約束が違うではないか!」

 

 冷静に肯定されたのが癇に障ったのか、箒はさらに怒気を強める。

 

 「違わないよほうきちゃん。ほうきちゃんが願ったのはこれでしょ? それに私は言ったよね? 『考えとく』って、確認しに行くってさ。私はほうきちゃんが求めているようなISを上げるだなんていってないよ」

 

 「それに仮に専用機を手にしたって性能についていけなかったり、血を吐くようなことをしてISをものにしないといけないんだよ? それが箒ちゃんにはできる――?」

 

 「この――」

 

 「――織斑先生ぇー! た、大変ですーっ!」

 

 箒が束に向かって何かを言う前にヤマダ先生の焦ったような声が織斑のへと投げかけられる。

 

 「どうしました?」

 

 「こ、これを!」

 

 そういって渡された端末に目を通すと眉間にシワを寄せる。

 

 「特務レベルA。現刻より対策を始められたし――米国本土からハワイ沖で試験飛行をしていた――――」

 

 「機密事項を口にするな、生徒に聞こえる」

 

 「す、すいません……」

 

 山田先生をたしなめ、そして辺りを確認する。

 

 「専用機持ちは?」

 

 「は、はい、全員います」

 

 山田先生に確認を取り、「ふむ」と唸ってからその場にいた全員に聞こえる声を発する。

 

 「――――注目! 現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動に移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機。許可無く室外に出た者は我々で身柄を拘束する。いいな! それと専用機持ちはこの後私の元に集合しろ!」

 

 「「「は、はいっ!」」」

 

 何が何やらわからないうちに全員が慌てて動き始める。接続していたテスト装備を外し、ISを終了させてカートに乗せ、まばらに旅館に戻っていく。

 

 「――篠ノ之、お前も旅館に戻れ」

 

 集められた専用機持ちの中に混ざっていた箒に織斑先生は旅館に戻るように言う。

 

 「…………はい」

 

 悔しそうに俯きながら声を絞り出し、ふらふらとした足取りで、旅館の方へ向かった。

 

 「さて、これから移動する、着いて来い。あらかじめ言っておく内容は最高機密だ。

情報漏洩が認められた場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる、それを肝に銘じておけ」

 

 全員がそれを聞いて気を引き締め、織斑先生の後に続いた。

 

 「――ん?」

 

 旅館内に入る直前、誰かがISのチャンネルにコールしてきた。

 

 「どうした星野」

 

 「すいません、誰かからかかってきまして。少し待ってください」

 

 俺はその場でかかってきたチャンネルを繋ぐ。プライベートチャンネルのようで、つないだ途端、辺りの音が聞こえなくなる。そこでふと、気付いた。

 

 「――ナターシャ、さん? どうしました?」

 

 かかって来たチャンネルを検索(洗)ってみれば、それはナターシャ・ファイルスのものであった。

 

「――――ザザッ、ザザザッ。ザザザッザザザッ――♪ ザザザッザザッ――♪ ザザザッザザッザザザッザザザザザザッ!」

 

 ナターシャ・ファイルスからかかって来たことに少々驚いた凛だったが、向こうから聞こえてきた雑音と、時折聞こえる唄のような音色に眉を潜める。音は最後に雑音が大きくなり、そこでプライベートチャンネルは切れてしまった。

 

 「……何だったんだ?」

 

 星野はかかってきた内容が分からずに首をかしげる。そこに織斑先生からの声がかかる。

 

 「用は済んだか? では行くぞ」

 

 俺は了解の返事をして織斑先生の後をついて行った。




急遽、箒のISを無しにしました。
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