「――では、現状を説明する」
旅館の一番奥――大座敷の間に織斑先生、山田先生を含む数名の教員、専用機持ちである星野凛、織斑一夏、セシリア・オルコット、凰・鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪の六名がいた。
もともと専用機持ちだったシャルロット・デュノアは専用機を学園側が取り上げられているのもあり、この場にはよばれなかった。
織斑先生は部屋の照明を落とし、設置した大型のディスプレイに映像を投影する。
「数時間程前、米国本土からハワイに向けて試験飛行中だったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS
淡々と告げられた説明に全員が静かに息を飲む。軍用ISの暴走、そして集められた専用機持ち。セシリアや鈴達は薄々ながらも自分達の役割を理解する。
「――待ってください、
二の句を告げようとしていた織斑先生に待ったをかけた人物がいた。
その人物である星野凛に全員の注目が集まる。彼は珍しく動揺を露わにしていた。
「そうだが、何故だ」
肯定し理由を聞く織斑先生。星野は肯定された事実に手のひらで目元を覆うように包み込む。
「その機体、
「え」と数名の教員や鈴達が驚いた顔をする。
「……詳しく話せ」
俺はレゾナンスでナターシャさんがゴスペルの操縦者だと知ったこと、さきほどプライベートチャンネルでナターシャ・ファイルスから通信が来たことを告げた。
「なるほどな、その情報は学園上層部からも伝えられていない。その話が本当ならナターシャ・ファイルスという人物が機体搭乗後起きた事故というわけか」
まさかの最悪な事態に教員達は狼狽える。
「何とかそのISを止めて助け出すことは出来ませんの?」
動揺しながらもセシリアが質問を投げかける。
「――いや、無理だろうな。
セシリアから投げかけられた質問に答えた後、千冬は今まで傍観していた束を呼んだ。
「なに、ちーちゃん」
「お前の方で暴走したISを止めることはできないか?」
「――無理だね」
その問いに即答する束。
「あのIS、コアネットワークが全外部干渉を遮断しちゃってるんだよね。そうなると流石の私も干渉出来ないし、ISを使って働きかけても弾かれるだけ」
むりー、と淡々と告げる束。千冬は「そうか」と告げてから続けて言葉を発する。
「今の現状はあまり芳しくない。暴走後、衛星による追跡の結果、福音はここの上空を通過することが分かった。時間にしておよそ一時間後。そして学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。
教員は学園の訓練機を用いて空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう。
それでは作戦会議を始める。意見のある者は挙手するように」
なかば予想していたとはいえ、緊張と動揺を浮かべる専用機持ちたち。その中で一人の人物が手を挙げる。
「……はい」
「更識か、何だ」
「……
「よかろう。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報漏洩が認められた場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」
「解りました」
――開示されたデータを元に皆が相談を始める。一夏や簪は話に付いていくのが精一杯という様子であった。
「――ちょっと良いか? 皆に言っておきたいことがある」
星野に再度注目が集まる。全員の視線が向けられたのを感じてから話し始める。
「今更だが俺はこのゴスペルの装備テスターだったんだ。この前の大会で使ってたほとんどの
告げられた内容に驚きを露わにする専用機持ち一同。
「さらに酷いのはゴスペルの方がスペック的に一回りも上だ。大会で採取したデータを元にさらに能力を上げてるみたいだ――特に速度」
そう言って開示されたゴスペル情報欄の速度を指差す。そこには最大速度二千四百キロと書かれていた。
簪や鈴は体感した速度を思い出し、眉をしかめる。それでもまだ体験したのは半分にも満たないのだ。それでも十分に速かったと言えるというのに。
「軍用というのがまた厄介だな」
ラウラが毒付くように呟く。軍用ISのでとは通常のISとは少し異なり、ISが攻撃された時操縦者を守るシールド、シールドエネルギーが極端に少なく、その分の使えるエネルギーが加算されているのだ。さらにシールドが薄くなった代わりにIS自体の装甲は厚くなっており、性能は様々だが7.62㎜の弾丸すら通さない場合が多い。
「それにこの機体、攻撃と機動の両方に特化した機体みたいですわね。それだけでもとても厄介ですわ」
「コイツ、広域殲滅特殊射撃型――全方位への拡散射撃ができるのね。一点に収束しての射撃も拡散射撃もできるとなると近付いての近接攻撃は無理があるわね」
「データ上とはいえこの威力は脅威だな。さらにこのデータでは格闘性能が未知数だ。これでは迂闊に近付くことさえままならんな――偵察は出来ないのですか? 教官」
「目標は現在も超高速でこちらに向かっている。偵察する程の時間は無いな。アプローチも一回が限界だろう」
だが、と前置きし、織斑先生は言葉を続ける。
「偵察が出来ずともある程度の推測は出来る。データでは最大速度がおよそ二千四百キロとなっているが、現在は数百㎞/hの速度でしか飛行していない。試験運用中だったからなのか搭乗者の意思があるのかないのか定かではないがそんな超々高速機動下での移動は出来ん。ISに搭載されている保護機能でさえもカバーできんほどだ。
それで最大速度を出そうものなら中身がひき肉になる、それは戦闘機動でも同じことがいえるだろう」
告げられた仮説は全員を幾分か安堵させる内容だった。
「そうなると機動力は星野の
織斑先生は何かを考えるそぶりを見せる。
「高機動での戦闘もあり得るわね。となるとついていける機体が限られるわね」
「……白式も星野君の
簪が決定的なことを言い、視線が二人に集まる。
「……え? お、俺もか!?」
まさか自分に話が向けられるとは思っていなく戸惑いを見せる一夏。
「現状、目標の機動力についていける可能性が最も高いのが星野さん、次いで一夏さん。一回でのアプローチで仕留めるなら一夏さんの一撃必殺級の火力が理想的ですから、白式ならそれが実現出来るということですわ」
セシリアが一夏に丁寧に理由を説明する。この面子で最も速度のある者と最も攻撃力のある者が作戦の要として選ばれたのだった。
「アタシは待機か隙を見て支援するわ。多分追いつけないと思うし、火力も機動力も違いすぎるわ」
「私もだな」
「わたくしもですわね」
「……私も」
鈴、ラウラ、セシリア、簪は後方支援に回ることにした。下手について行っても足手まといとなると分かっていたからである。
「――話は纏まったな。では、十分後に作戦を開始する。各自準備を怠るな」
織斑先生が纏め、切り上げて各自の準備をさせようとした時、横から声がかかる。
「はいはーい! ちょっといいちーちゃん!」
傍観していた束がうるさいくらいに声を上げて千冬を呼ぶ。
「何だ、束」
「ちょっと思い出したんだけど、テスターになって〜」
「却下だ」
バッサリと切り捨てる千冬にあわてて説明をする束。
「ちがうちがうよーちーちゃん。ちーちゃんをテスターにしたいんじゃなくて他の人に――厳密にはここにいる
その束の言葉に千冬は自分の耳がおかしくなってしまったのではないかと思ってしまう。
あの束が、と思う前に言っておかなければならないことがあった。
「待て、今は一刻を争うんだ。お前のてをやっている暇はない」
「大丈夫だよ! 『今の状態にピッタリのものがいくつかあるから』!」
「……束」
千冬は束を睨むように眼を細める。その声色は問いただすかのように冷たかった。
「――違うよちーちゃん。私はあの時からもう二度とやらないと誓ったでしょ?」
強い意志を感じる言葉に千冬はそれ以上は不要だと思い、口を
「――さぁ! 早速いこうか! 十分後だよね、ならいっくんと男子いち! そして銀髪の子! 付いてきてー!!」
ごー! と子供のように張り切って部屋から出ていく。
それに気付いて三人は慌ててついて行った。
束のキャラが掴めない……