IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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ちょっと遅くなりました。

それでは、どうぞ。


四十四話『接敵』

 

 

 

 

 

 

 

 外に出された形になる俺たちは砂浜の方へと連れてこられていた。もちろんみんなも後から旅館から出て遠巻きに俺たちを眺めている。

 

 

 「――超高感度ハイパーセンサーは搭載してるし、いっくんの場合は……」

 

 

 数分前からブツブツと何かを呟きながら一夏の待機状態のIS――腕環にケーブルを挿し、空中投影ディスプレイをいくつも使ってカタカタと何かを打ち込んでいた。

 

 「――ここで! 詰み(チェックメイト)だぁぁっ!」

 

 ターンッ! 軽快な音とともに投影された画面には『You Win』の文字の文字と背後にはチェスが映し出されていた。

 

 この人、チェスしてた……。

 

 「あの……束さん、もう終わったんですか?」

 

 俺が愕然としていると一夏が博士に聞いていた。未だ勝利の余韻に浸っていた博士は顔だけを一夏に向けて答える。

 

 「終わってるよ〜。次は銀髪娘じゃあー!」

 

 いつの間にかケーブルが取られており、束はラウラの方へ走って行った。

 

 「よ、よろしく、お願いします……博士」

 

 若干緊張しながらも束博士に任すラウラ。というか俺は最後なのな、まぁいいけど。

 

 「ふぅ、何か実感ないな、いきなり実戦って言われても。それに人が乗ってるISで、しかも試合みたいにエネルギーをゼロにすれば勝ちってわけじゃない、下手すれば死ぬなんて……」

 

 一夏が話しかけてきて、今の思いを吐露してきた。そりゃそうだ、いきなり実戦に放り込まれたら誰だってそうなるさ。

 

 「まぁ、最初は誰だってそんな気持ちになるさ、だからあんまり考えすぎんなよ? 悩みを抱えてたり、気持ちがダウナーだと死ぬ確率が高くなったりするからな――何、心配すんな、実戦では先輩な俺がチェリー(戦場童貞)な一夏を守ってやるからよ。何も心配なんかしないで行けよ?」

 

 最悪、弾除け代わりにはなるからよ、と冗談でいうと苦笑いで止めてくれと言われた。

 

 

 「――終わったー! 最後モノクロな髪男子!」

 

 えらい変な呼ばれ方をしたな。俺は早速ラウラと代わる。

 ちなみにここまで約五、六分しかかかってない。

 

 「よろしくお願いします博士」

 

 「はいはーい!」

 

 気にしないけど会った時とだいぶテンションが違うんだけど博士、ちょっと怖いんですけど。

 

 早速、ケーブルを首元のチョーカーに似た形状のISに繋げ、一夏たちと同じようにしていく。

 

 「…………」

 

 世界的に有名で、織斑先生に聞くところ他者とのコミュニケーションが壊滅的らしいが、そんなことはなくちょっと変程度、むしろこのくらいなら普通かもしれないな、と凛は思う。

 

 「――君はISに何を求める?」

 

 作業の手を止めず、顔もこちらに向けないで博士は突然俺に質問をしてきた。先程までのテンションはなりを潜めて真剣な声色で聞いてくる。

 

 「――俺は」

 

 不思議と口が動いていた。これから言う言葉も、分かっていた。

 

 「――俺は、ISが嫌いです」

 

 凛は自分の内側を吐露するかのように、ISの生みの親に向かって暴言とも取れる発言をとったが束はただ黙って凛の話を聞いていた。

 

 「俺が今以上にISに求めるものはありません。ISに()が乗れてる時点でスゲェ事だって分かってるし、何よりただの人一人よりも強いですから」

 

 「――――なぜ、ISが嫌いなんだい?」

 

 「――――」

 

 しばらく何かに耐えるように目を固く閉じて、それから質問に応じる。

 

 「ISが兵器だからです。『兵器』としての完成形といっても良いでしょう。武器も人一人が使える限度を超えていて、死ぬ確率だって普通よりもはるかに低いですから。そしてもうひとつ……俺は、間接的とはいえ両親を…………家族を失ったからです」

 

 

 「そうかい」

 

 吐き出すように答えた凛に淡白に告げるとケーブルを抜く。どうやら話している間に終わったらしい。

 

 「私に向かってそんなことをほいほい言えるなんて君は肝がすわってるなぁ」

 

 「……これでも元少年兵ですから。度胸が無きゃすぐに死にますから」

 

 「――ま、そうだね。君は()()()()()()。ならこれからの未来が幸あるものだと良いよね」

 

 「? 言ってる意味が――」

 

 「終わったようだな」

 

 束のセリフに違和感を感じた凛は聞き返そうとしたが千冬が横から束に声をかけタイミングを失ってしまった。

 

 「――そういえば束、あの娘は連れてきていないのか」

 

 「ん? いるよほら」

 

 束が指差す方向――ラウラを全員が見る。正確にはラウラの左隣、ラウラに容姿、雰囲気が似ている少女がいつの間にか立っていた。

 

 「――お久しぶりの方はお久しぶりですね。初めましての方は初めまして」

 

 ぺこりとお辞儀をする、いつの間にかいたクロエ・クロニクル。

 

 「わ、私にそっくりだと!?」

 

 容姿が似ている事に警戒するラウラ。そんな事は知らないとばかりにクロエはラウラへと向き直る。

 

 「私はあなたの体組織をもとに創られた遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)……その中でも失敗作です」

 

 クロエの口から出た言葉にラウラは目を見開く。

 遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)――簡単に言えば試験管ベビー。クローン技術を応用し、人よりも身体能力的に強い人間を人為的に創り出す技術の事である。

 

 「私が生まれ落ち、そこで失敗作の烙印を押され、今まさに処分されようとしていたところで束様が助けてくださったのです」

 

 全員が固まる中、クロエはラウラに近寄っていき、抱きしめた。その力は決して強いわけではないが何かを確かめるようにラウラの身体に抱きついていた。

 

 「私には家族と呼べるものが存在していません。いるとするならば、私を助けてくださった束様か、あなただけです」

 

 「……そうか」

 

 自然とラウラは身体を動かし、クロエを抱きしめる形となっていた。

 

 「――ですから、貴女を家族(姉さん)と呼んでも良いですか?」

 

 ラウラの顔をしっかりとその瞳に捉えて見つめるクロエ。

 

 「…………好きにしろ」

 

  それに耐えきれなくなったラウラは顔を少しだけ朱に染めてそっぽを向く。

 

 「ありがとう――姉さん」

 

 抱きしめていた身体を離してラウラに感謝を告げる。ラウラはクロエが涙を流しているのを見て、オロオロと動揺し視線で助けを求める。

 

 「――ラウラなりでいいさ、妹を慰めてみろって。きっと落ち着く」

 

 凛はラウラにそう助言をする。それを受けたラウラは迷った末にクロエを再び抱きしめ、ぽんぽんと、まるで幼子をあやす時のように優しく背中を叩く。

 それはクロエが泣き止む数分間にわたって続いた。

 星野も束も他のみんなも作戦開始時間が迫るのを忘れて微笑ましいといった様子で見ていた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 「――ISエネルギー百%、大容量エネルギー補充器(バックパッカー)装備。換装装備(パッケージ)特筆すべき異常なし(オールグリーン)。問題なしだ、こっちは。一夏の方はどうだ?」

 

 作戦開始時間になり俺と一夏はISを起動させ、確認を行う。

 

 「あぁ、問題ないぜ」

 

 一夏も問題ないらしい。しかしそこで束から声がかかる。

 

 「君のISは何で手足が量子変換しないんだい?」

 

 興味深い、といった様子で聞いてくるが俺も分からないんだけどな。博士がわからないんなら多分誰も分からないと思うんだがな。

 

 「今は後にしろ束、作戦開始時間を過ぎている」

 

 答える前に博士を押しのけて織斑先生が一夏と俺を急かす。

 

 「そういえば、俺ってどうやってついて行くんだ? 星野の速度には付いていけなくないか?」

 

 今更だがもっともなことを言う一夏。

 

 「それについては心配ねぇ」

 

 そう言って俺は会社から届き、束が少し手を加えた換装装備(パッケージ)を実体化させる。

 

 「これは……」

 

 「まぁ、簡単に言えば二人乗り用のやつだな」

 

 背中に装備された換装装備(パッケージ)――『シェルガンナー』を一瞥してから説明する。

 外見はメカメカしい半円状の物体であるが、他のISを換装装備(パッケージ)に同機させることによって二機のISによる反動制御、自動索敵、および攻撃手段攻撃力の倍化を目的としたらしい。

 使えるのかどうかは本当に未知数だな。

 

 「――では、準備はいいな? 本作戦、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の停止、ならびに搭乗者の確保だ。他の四名は織斑、星野の両名の交戦と共に出撃する――行ってこい」

 

  「――了解!」

 

  「――はい!」

 

  合図と共に二機のISが飛び立つ。続いて空中で白式が弐式の背に乗り、同機する。そして弐式の換装装備(パッケージ)、『レイブン』を起動させ、一気に加速させる。

 

 その姿が見えなくなる前に束とクロエを除く全員が背を向け旅館の最奥に設置した仮設作戦室に向かう。

 

 「――どうなりますかね」

 

 「全ては天命。ISもまた然り、だよくーちゃん。ただあの二人(イレギュラー)なら大丈夫だと思うけどねー」

 

 二人の消えていった空を見て、束とクロエはどちらも一言だけ呟いた。それだけ言ってふたりも旅館に入っていった。

 

 

 

 

 「――――ぐっ……はやいなっ……!」

 

 「気張れよ一夏ァ! 速度上げんぞぉっ!」

 

 体験したことのない速度に少々圧されていた。同機しているとはいえ体感することは変わらないのだ。さらに超高速で動いているならなおさらだ。

 星野はさらに速度を上げる。リミッター解除率はすでに八十五%――千五百三十km/hという音速を超えた速度で飛行していた。

 『レイブン』に備わっていた搭乗者保護機能が無ければ星野は、束が入れてくれた保護機能が無ければ一夏はとっくにひき肉である。

 星野はさらに速度を上げ九十%――千六百二十km/hの速度で飛行していた。

 

 「一夏! 言い忘れてたんだが、開幕ぶっぱで零落白夜は使うなよ!」

 

 プライベート・チャンネルを繋ぎ、一夏に忠告もかねて会話する。

 

 「何でだ?」

 

 「時間がねぇから簡単に言うぞ? あっちは暴走状態でもしかしたらMs.ナターシャが乗ってるかもしれないんだ、一夏の零落白夜はシールドエネルギーを貫通して搭乗者にもダメージを与えちまう……もしMs.ナターシャが乗ってたらヤバイだろ? そして多分避けられるからだ」

 

 「何でそんなこと言えるんだ」

 

 「さっきから衛生リンクシステムに接続して福音(ゴスペル)を見つけたんだがな、あいつ俺たちに気付いてる」

 

 俺の言った言葉に一夏は息を飲む。こんな規格外のスピードで、しかもまだ認識できる距離でないというのに相手はこちらを感知しているというのだから当たり前である。星野は一夏にもディスプレイを共有させ、見せてやる。

 そこには海上のど真ん中で動きを止めた|福音をゴスペル》がこちらを見ていた。

 

 

 「だから、零落白夜は今はまだ使うなよ。使いどころは一夏に任せる」

 

 「おう、分かったぜ」

 

 「よし――目標、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の接敵まで十秒! 準備しろ一夏ぁっ!!」

 

 「おう!」

 

 自身を鼓舞させるように大きな声で応える一夏。いつでもいけるように身構え、零落白夜を発動させず、『雪平・弐型』を構える。

 

 福音とのファーストコンタクト。星野は三秒前に『シェルガンナー』を剥離(パージ)、そして一夏との同機も切る。

 

 効力を失った『シェルガンナー』は星野と一夏を離れ、やがて粒子化していく。

 一夏は星野が出した速度に乗り、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でさらに加速し、雪平を福音に全力で振るう。星野は一夏が離れたことを確認し、一夏と同じ速度で福音に迫り、手にしたブレードで斬りかかる。

 

 「――はあっ!!」

 

 これ以上ない最速の剣。一夏はISコアのある胸部を狙い、剣をその軌道上に置いた。当たる、とそう思った。

 

 

 ――――しかしゴスペルはその音速の攻撃を何とでもないと避けてしまった。

 擦りはした、しかし紙一重で避けられてしまった。

 

 「――――♪――♪――――――――♪」

 

 一夏と星野は確かに聞いた。福音が電子音で歌を歌うかのように奏でたのを。そして星野はそれがナターシャとプライベート・チャンネルで繋がった時に流れていたものだと分かった。

 

 「――くっそ! 避けられた!」

 

 予想はしていたが一夏は叫ばずにはいられなかった。

 

 「当たんなかったもんはしょうがねぇさ、こっからどうすっかを考えようぜ一夏」

 

 星野は消費したエネルギーを大容量エネルギー補充器(バックパッカー)から供給しながら、どうやって福音を止めるかを考える。

 

 「――――♪。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』

 

 歌を口ずさんだと思えば、電子音特有の耳障りな音の羅列となり、福音のヘッドギアに何かの信号のようなものが左右から流れていく。

 

 どうやら本格的に動き始めたらしい福音は一度、羽ばたくような動作を見せて大きく飛翔する。

 

 一夏は雪平を、星野はレイジングビーとカニバリアを持ち、身構える。

 

 

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