IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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 遅れました。


四十八話『嵐』

 

 

 

 

 

 

 福音の回収が成功し、星野凛が時間稼ぎをする数十分前、臨海学校の旅館では――

 

 

 「――くそっ、どうなっている! 急にチャンネルが繋がらなくなったぞ」

 

 正確にか繋がっているが話すことも聞くことも出来なくなっていた。

 

 「……ジャマーでもかけられたかな?」

 

 「山田先生、解析を進めてください――束、どうした?」

 

 束の異常に気付いた千冬は束をみる。

 「ん〜?」と首をかしげるが雰囲気が先ほどとは段違いに違った。

 さらに手にはいつの間にかマジカルステッキのようなチープな代物が握られていた。

 

 「ちょっと何か来たみたいだからさ。見てくるよ」

 

 そっちはよろしくね〜と言って部屋を出て行く。

 

 お、おい? と少なからず動揺をあらわにする千冬。

 山田先生に解除を頼み束の後を追う。

 

 

 

 束がいたのは外だった。それも旅館を出て十歩も満たない距離に。

 

 「――来たんだねちーちゃん。まぁ、良いけど、じゃあ旅館のことは頼んだよん。はいこれ」

 

 私じゃ、壊しちゃうから。といった束は千冬に一枚のカードを手渡し、空中に漂うIS三機を見る。

 

  「――改造した打鉄、ラファール。そしてファング・クエイクか……その程度で束さんは止めることは出来ないよ」

 

 いつの間にか握られていたステッキを地面に向けて振るう。すると三機は問答無用で地面に叩きつけられた。

 

 重力を操ることのできる杖――『玉座の謁見』。このふざけた見た目から驚異の力が発せられた瞬間であった。

 

 何が起こっているという前に千冬が動いていた。渡されたカードが形を作り、一本のブレードが握られていた。普通作業だが、その刀にはうっすらとだが目に見える範囲で電流が流れている。

 

 「――ふっ」

 

 生身で跳躍し飛んできたものを斬り伏せる。

 

 「…………えぇ、教諭方は生徒たちの護衛をお願いします」

 

 他の先生と連絡を取り、生徒と教師を集めておく。

 

  「……さて、これがうわさのサイレント・ゼフィルスというやつか。生身では少々キツそうだな」

 

 『――――』

 

 相手はただ黙し、一拍の間を置いて攻撃してきた。

 

 シールド・ビットを六基を飛ばし、さらにガトリングをこちらに向かって撃ってくる。

 

 「薄い!」

 

 千冬は人間離れした速度を持って縦横無尽に疾り、レーザーとガトリングの弾丸を全て避けていた。

 

 「っ!」

 

 弾丸とレーザーの合間を縫うようにして飛び上がった千冬はシールド・ビットを足場にしてさらに上昇する。

 

 それを堕とそうとレーザーを放つが更に足場にされて近づかれる。加えて先ほど足場にしていたシールド・ビットは切り捨てられる始末。

 

 「そら、その羽貰うぞ」

 

 サイレント・ゼフィルスと同じ高さまで上がった千冬は蝶の羽を彷彿させるスラスターに刃を突き立てる。

 今更回避行動を取るがもう遅い、その羽に突き立てられたブレードはやすやすと切り裂き、次撃を行おうとしたが流石に避けられた。

 

 「ッ!」

 

 残ったシールド・ビット三基を千冬に向けて飛ばし、サイレント・ゼフィルス本体も『スターブレイカー』を使っての波状攻撃。

 当たるかと思いきや、空中で身体を捻り、ブレードで受けてかわしていく。

 

 「――やはり、鈍ったか。まぁ当たり前だが」

 

 ストンと重力を感じさせない着地を見せ、そのまま襲ってくるレーザーを斬り伏せていく。

 更に加速したかと思うと千冬の手元にはブレードが無かった。

 

 「――っ!?」

 

 遅れて気付いた。もう片方のスラスターに刺さっていることを。さらに超振動しているため刺さった場所から切りれていく。

 

 引き抜き、千冬を見据える。

 ――チャンスは今、奴の手には何も武器はない。

 

 サイレント・ゼフィルスがビームを放とうと、動いた時、グンッと下に引っ張られる感覚を覚えた。

 

 「!?」

 

 抵抗しようとしたがなす術なく地面に叩きつけられる。

 

 「こっちは終わったよ〜ちーちゃん。あとはそれだけかな?」

 

 「あぁ、私が相手をしていたのはこいつだけだ」

 

 「そう? なら、さくっと――」

 

 そこまで行って束は旅館の方を振り返り、一言だけ呟いた。

 

 「――……遅かったか」

 

 束が言ったのが早いか次には旅館の方で爆発が起こる。

 

 爆発の中、飛び去っていく全身黄金のカラーリング機体。その手には人が捕まえられている気がした。

 

 「何!?」

 

 千冬は一目散に爆発のあった場所へと向かう。束はサイレント・ゼフィルスを拘束したままそこに佇んでいた。

 

 「――さてさて〜君は一体何者だい? いくらIS搭乗者ナンバー(バンク)に接続しても君の乗っているサイレント・ゼフィルスに君であろう名前は乗っていなかったんだよ。もう一度言うよ、誰だい君は?」

 

 「…………」

 

 サイレント・ゼフィルスは黙秘を貫く。

 束はそうかい、とだけ呟いてステッキを振るった。

 

 「なら、ここで潰れてね」

 

 みし、バキッっとISが軋む音がする。このままでは本当に搭乗者が潰されてしまう。そんな時、サイレント・ゼフィルスは動いた。

 

 「――――!」

 

 サイレント・ゼフィルスを待機状態に戻し、すぐさま別のISに乗り継ぐ。

 

 サイレント・ゼフィルスを放棄し、搭乗者はISと引き換えに脱出に成功した。

 

 乗り継いだファング・クエイクで逃走する。それを追わずにただ見ていた束。

 

 「やれやれ、また調べないといけないことが増えた」

 

 睡眠は十五分コースだね〜、と束は空を見る。

 

 

 

 「誰かいるか! いたなら返事をしろ!」

 

 千冬は爆心地にたどり着くと、まず誰かいるかどうか安否の確認を行った。生徒、教員を集めた場所より少し外れていたため安心はしたがもしもがある。

 呼びかけながら瓦礫を押しのけて探していく。そこで瓦礫が押し返され、咳き込む声が聞こえた。

 

 「――ゲホッゲホッ、ごほっ……」

 

 「無事か! 怪我は――」

 

 そこで誰か気付いた。瓦礫から出て来たのはアリシア・ルイスであった。

 

 とりあえず肩を貸し、避難させながら何があったのかを聞いた。

 

 「大丈夫か、いったい何があったんだ?」

 

 「――あぁ、私たちが集められたあと、シャルロットが忘れ物をしたと部屋に戻って。それから、女性が近づいてきて、ISをまとってシャルロットを……シャルロットを連れて行った…………」

 

 そこからアリシア・ルイスは泣き出してしまった。

 

 「何故、シャルロットが連れて行かれるのよ……」

 

 

 デュノアが謎のISに連れて行かれた――それだけでも重要なことだが今は別のこともある。

 すぐに束と合流し、それから山田先生がいる旅館の最奥に向かう。

 部屋に着くとアリシアを降ろし、横にならせる。少々マズイが、この際しょうがない。

 

 「山田先生、状況は?」

 

 「は、はい。解析は終わりましたがノイズが酷くあまり芳しくありません。ですが一方的な応答は可能です」

 

 ――そんな時だった。福音と織斑たちのいる海域に向けて二機のISが確認されたのは。

 

 二機とも国籍不明、当然ながら応答せず。大至急通信をつなげ、伝えようとする。

 

 『……………………――――――だ……か……そっ………きこ……い…………か!? こ……らは…………I………とこ…………きをつ――』

 

 しかし、ノイズが酷く、満足に伝えられなかった。

 

 「――くそっ!」

 

 苛立たしげに机を叩き、ノイズの除去を急ぐ。事態は一刻を争う。

 

 ノイズが解けたのはそれから福音を確保することができた少しあとだった。

 

 

『――聞こえるか! 誰でもいい、応答しろ! 織斑! 星野! オルコット! 凰! 更識! 応答しろッ』

 

 急いで伝えなければならない。また回線が不安定になるかもしれないのだ。

 

 『こ、こちら

セシリア・オルコット。私を含め、全員が無事、および目的の回収に成功しま――』

 

 『全員無事なら急いでその場から離脱しろ! そちらに国籍不明の謎のISが二機向かっている! 急げ、時期に追いつかれる!』

 

 そこまで行ってまたも回線が切れた。

 

 

 

 

 

 

 「――まて星野、何をしてる」

 

 星野がその場に残っているのを見て、顔を顰める。

 まさか足止めか? いくらなんでも分が悪すぎるだろう。

 

 

 山田麻耶、織斑千冬は星野を除く全員が帰還する数十分を簡素な反応しか示さないディスプレイを見ていた。

 

 

 

 ――時間にして十分ほど経った頃、カタカタと手を動かしてした束が一切の動きを停止させ、彫刻のように動かなくなった。

 

 「――――ふざけるなよっ!!!!」

 

 どうした? と聞く前に束の感情が爆発する。

 机を破壊し、肩で息をする束、こんな彼女を千冬は今まで見たことがなかった。

 

 「…………どうした束」

 

 落ち着くのを待ってから束に問いかける。山田先生などはとっくに怯えてしまっていた。

 

 「アメリカめっ、何が最高峰の機密防衛だ! まるで形無しじゃないか! 少しでも大統領(おかざり)を建てようと思っていた昔の私を殺してやりたいよ!」

 

 そう言って今にも壊してしまいそうなディスプレイを見せてくる。そこには緋と黒のカラーリングをした機体と白一色の機体と星野が闘っていた。

 

 「――こいつは、何故、存在しているんだ束……こいつはお前が破壊したじゃないか…………」

 

 千冬は知っていた。白一色でカラーリングされた機体【アーカード】を。

 そして、暴走した【アーカード】を二人がかりで殺し尽くした(・・・・・・)のは二人とも思い出したくない記憶であった。

 

 「くそっ……誰かがISに残ってしまったログを元に創り上げたんだと思うよ。それに残骸は壊したと言っても残ってたんだ、あのあと海に沈めたものを回収し、研究したんだろう――コアネットワークに繋いだあの時の選択は悔やんでも悔やみくれないよ…………アレで当時完成して、ネットワークに接続していた百五機が喰われたんだからね」

 

 哀しげな、しかし憎しみがこもった表情で語る束。

 

 「山田先生、後は頼みます」

 

 「ダメだよちーちゃん。ちーちゃんはここに残るんだ」

 

 星野の元に向かおうとして束に止められる。

 

 「離せ束、今一番危険なのは星野何だぞ、お前もアレがどんなものか忘れたわけではあるまい!」

 

 それ以上邪魔するなという意味を込めて千冬は束の胸倉を掴みあげる。

 

 「――そっちは私が行く。ちーちゃんは連れ去られた子の捜索と、連れ去った奴らの身元を割り当てる方に専念して。両方の生命を助けるならそれが一番生存確率が高いんだよちーちゃん」

 

 「………………なら、頼む。束」

 

 長い沈黙のあと、千冬は束に賛同した。

 

 それからすぐに千冬は動いた。束に潰されたISから壊れかけのコアを無理矢理取り出し、そこからまた別のISに接続させ、搭乗者を割り出す。

 少々強引でISを破壊しかねないが、これ以上の短時間で、確実な方法は千冬は知らなかった。

 

 

 

 

 

 それから数分後、福音の搭乗者とコアを回収したセシリア、鈴、一夏、簪、ラウラが戻ってきた。

 

 「た、ただいま帰投しました……」

 

 旅館の惨劇を目の当たりにしたセシリア、鈴たちが目を剥いて驚く。

 

 「おっかえり〜」

 

 いつもの調子で出迎えていた束だったが、全員が何かが違うと直感していた。

 

 「――まぁ、焦らない焦らない、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 いつの間にかラウラの前にいき、通せんぼするように止めていた。

 それにラウラは激昂した。

 

 「焦るな? そんなことを言っている場合ではないのだ篠ノ之束! こんなやり取りをしている間にも兄さんが危ないんだ! 邪魔をするな!」

 

 今の余裕のないラウラは束にレールカノンを撃ちそうな勢いであった。

 そんな状態にもかかわらず束はさっきの調子で言い放つ。

 

 「何、私がここに立っているのは警告するためだ。星野凛の元に向かい、あの二機と交戦する――その行為は殺し合いだ。一瞬のミスで自分が死ぬ……それでも行くかい? セシリア・オルコット、鳳・鈴音、更識簪、織斑一夏、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 束から発せられた言葉に、雰囲気に息を呑む一夏たち。

 

 「――だから何だ、家族を見殺しにするよりはるかにマシだ」

 

 そこに一人の声が上がる。堂々とした声色はラウラ・ボーデヴィッヒのものだった。

 押し黙った四人と違い、束から目を離さないラウラ。

 それを見て、束は口を開いた。

 

 「――ならついてくるのはラウラ・ボーデヴィッヒちゃんだけだ。他のみんなはちーちゃんの所に行って来て」

 

 何か言おうとしたが視線で黙らせられる。束は一度ラウラのISを解除させるとラウラの肩を掴んでどういう原理か身体を宙に浮かせていた。そしてラウラを連れて水面を歩いた(・・・・・・)。それに見ていた全員とラウラも静かに驚いていた。

 

 「事態は一刻を争うなら、とびきりなヤツで行こうか」

 

 「――特別だよ、ラウラ・ボーデヴィッヒちゃん。これを中から見るのは君で二人目だ」

 

 このまま沖にまで歩いていくのかと思った時、束の歩みが止まった。そして一言だけ名前を呟く。

 

 「――動け、『ヨルムンガンド』」

 

 

 言ったが早いか、海が盛り上がり、山でも浮かんできたと錯覚するほどに巨大なナニカが目の前に存在していた、まるで意志を持っているかのように蛇のように長い身体をくねらせて動いていた。

 そしてそれ(・・)は二人を呑み込む、反動で波が押し寄せる。一夏達は慌てて飛び上がると、海岸はすでに波に飲み込まれていた。

 視線を戻すがそこに二人はおらず、ただ先ほどと変わらない静かな海が存在しているだけだった。

 

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