だいまおうさまのにっき。   作:はめるん用

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大魔王様とスーツ。

 ◯月×日

 

 魔将ナナシが管理する領地に注文していたネクタイとピンが届いた。

 

 3種類の色味の違う黒のネクタイと、銀の本体に小さな真紅の竜輝石のシンプルなネクタイピンだ。

 妻のルビーのように美しい瞳をモチーフにしたネクタイピンを余の漆黒の髪をイメージしたネクタイに飾る。照れ隠しに脇腹に叩き込まれた拳が想定外に深くまで効いて2日ほど麦粥しか食えなくなったが、妻の嬉しそうな表情を見ることができたのだから安いものだ。

 

 それにしてもこの『スーツ』という服は良いものだ。ゴテゴテした装飾が鬱陶しい王族用の召し物と違い軽くて通気性も程よく、それでいてある種の気品と規律を兼ね備えているので見た目の印象も悪くない。

 すでにナナシ領では下級魔族から上級魔族まで男たちは皆スーツを愛用しているらしい。上下関係の判別に苦労しそうだと思っていたが、使用する素材のグレードと装飾品を見ればそれなりに識別できるのだそうだ。

 

 なんでも時計やネクタイピン、メガネにベルトにカフリンクスといった小物を使った『拘り』と『遊び心』がなければ上級魔族とて軽く見られることがあるという。

 帝都の上級魔族とは大違いだ。アイツらとにかく豪華で派手な服装をしてアピールすることしか考えていないのだからな。中級魔族以下の者たちにはすでにスーツ文化が浸透しているというのに。

 

 しかも聞くところによるとナナシ領地では上級魔族でさえ馬車も使わずに妻や恋人と一緒に職人の工房を巡ってお気に入りの装飾品を探す『マチブラ』なる娯楽もあるらしい。なんだその羨ましい遊びは。余も妻のために装飾品を選んだり選ばれたりしたい。

 挙句の果てには上級魔族同士でお気に入りの職人が手掛けた装飾品を見せ合って交換したりもするらしい。帝都では絶対にありえん光景だぞソレ。なんなら罵り合いからの殴り合い、さらには魔法の撃ち合いにまで発展しかねん。中級以下の貴族たちは和気藹々とデザインについて盛り上がっているというのに。余もお忍びでそこに混ざったらダメだろうか? ダメだろうな。

 

 

 しかし、こうなってくると妻のぶんも色々と注文したくなる。今日も普段の王族のために仕立てられたドレスではなく、シンプルなデザインの物にカーディガンというこれまたナナシ領発祥の上掛けを羽織っていたのだが、ひとりの夫として愛する妻にプレゼントを用意したくて仕方ない。

 

 それこそ件のマチブラで一緒に選ぶのもまた一興というもの。しかし帝都では絶対に不可能だ。下手に余が店舗に足を踏み入れば大変なことに……否、とにかく面倒なことになる。何故なら余は大魔王であり皇帝だからだ。

 店側としてはクシャミひとつで処刑されるのではと恐怖で接客どころではないだろうし、仮に平穏無事に買い物が終わっても余が物品を購入した店というだけで羨望と嫉妬がとんでもないことになるだろう。これがただの自意識過剰による自惚れだったらどれほど良かったか。

 

 

 

 

 ◯月✕日

 

 役に立たないほうの魔将のひとり、ジェイドナイトが城までやってきて我が娘のひとりを口説いていた。

 

 それはいい。そうした小細工も立身出世のためには必要なことであり、本気で娘が気に入って婚姻を望むのであれば余も前向きに考えてやるぐらいの寛容さは持っている。たぶん。

 だが、娘のお気に入りのカーディガンを貶したことに関してはバカじゃねぇの? としか言いようがない。お前それ娘が自分で選んだヤツだからな? それを得意気になってダサいだの貧乏臭いだのそんな者を王族に着せるような者は自害したほうがいいだの……それぞれの立場を考えて最後まで愛想笑いを崩さなかった娘を褒めてやりたい。

 

 そんなことをお構い無しに、以前娘に押し付けてきた装飾が過剰で着用者のことをなにひとつ考慮していない悪趣味なドレスについて自信満々に語るのだから救いがない。

 勿体なくて袖を通せていないと娘は微笑んでいたが、余はアレがとっくに焼却処分されていることを知っている。そんな遠慮など必要ない、今度はまとめて数十着ほど自らデザインしてプレゼントすると言っていたが、今度は攻撃魔法の練習に使う人形にでも使われるかもしれない。ざまぁ。

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