◯月✕日
連携が巧く機能しない。魔族の基礎能力の高さは勇者との戦いでアドバンテージになるのは良いのだが、個としての強さ故に協力して戦うことが苦手なのは頭の痛い課題である。野生の犬ですら集団で狩りができるというのに、なんと情けない話だろうか。
対して勇者は稀に誕生する特殊な天才型を除けばチームワークは抜群である。脅威度の低い勇者パーティーですら、連携そのものは魔族より遥かに優れているのだ。基礎能力が低く寿命が短いからこそ、それを補うために長い歴史の中で連携を磨いてきたのだろう。
もちろん魔族とて長年試行錯誤を繰り返してきた。能力の高い魔族同士での連携が苦手なのであれば、能力に差がある魔族と組んで戦えば良いのだ。
まずはほどほどの強さの魔族が大勢で襲い掛かり勇者パーティーの体力を削り、隊長役の魔族が頃合いを見計らいとどめを刺す。事前に罠を仕掛けたり奇襲などを組み合わせるとより効果的だ。
最後には隊長役が部下たちから魔力を受け取り巨大化して戦ったりもするのだが、勇者パーティー側も精霊の力が宿る巨大なヒト型兵器を召喚して乗り込んで対抗してくるものだから侮れない。
……いや、本当は余も理解している。真っ向勝負に拘らず、手段を選ばなければもっと簡単に領土を広げることが可能であると。それこそ父も、祖父も、歴代の皇帝たちも気付いていた筈だ。
だがそれはできない。世界征服とは土地を奪うだけでは意味が無く、侵略した地を統治して初めて成功と言えるのだ。相手が魔族であろうと人間であろうとそこで暮らす民衆のことを蔑ろにしたのではいずれ反旗を翻し逆襲してくることだろう。
もっとも、現段階では魔族と人間の共存に成功している土地など世界中を探してもナナシ領ぐらいしか成功例はないのだが。文官たちの報告によれば、ヤツは種族による価値観の違いに敏感であり、寿命の違いによる考え方や物事の進め方にも理解が深いらしい。
なるほど、領主がそれぞれの種族に平等に接しているのだから共存も可能だというのは余も納得しよう。でもそれで人間たちの戦い方を取り入れて魔族でもチームワークを重視した戦い方が出来るようにしましたはなんか違くないか?
勇者たちが精霊の力を宿す特殊な鎧『ホーリークロス』を身に纏い変身するのを参考に、魔族たちも魔獣の力を取り込んだ特殊な鎧『ビーストメイル』を身に纏い変身できるようにした、までなら余も全然わかる。不足分を便利な道具で補う、なにもおかしいところは無い。
だがそこから何をどうすれば魔族に協力して戦うという概念を叩き込むことができるのだ? むしろ逆だろ普通。力がある魔族ほど己の強さを誇示したくなるのが常識ではないのか? 余とて皇帝という立場と責任によって自制しているだけであり、大魔王としては最前線で暴れたいと常々滾っているというのに。
マジで意味わからん。ナナシの頭の中はいったいどうなっているというのだ……。少なくとも普通の魔族とは思考回路が別物なのは確実だろう。いつぞや呟いていたという『ニチアサ』や『ヒーローセンタイ』という言葉が鍵を握っているのかもしれないが、そのような単語はどの文献にも記されておらんとのことだ。だが何故かこう、心に少年の日を思い出させる躍動感のようなモノが……どういうことだ……?
◯月✕日
自称智将の魔将レイニーラピスが戦士たちの戦闘力向上について画期的な提案があると言って乗り込んできた。
とてつもなく嫌な予感しかしなかったが、実際に耳を傾けてみると案の定ブン殴りたくなるようなことをぬかしおった。恐らく、いや間違いなくナナシが開発したビーストメイルに対抗心を燃やしているのだろうが、低級魔族に直接魔獣の力を植え付ける改造手術とか許可するワケないだろ冗談抜きでブチ殺すぞ。我慢した余は偉いと思う。
どうにか冷静に説得を試みたが、アレはたぶん余の言いたいことを半分も理解できておらんだろう。たかが低級魔族のことまで気に掛けるとはなんと慈悲深いお方、そのような大魔王様のためであれば彼らも喜んで命を差し出すことでしょうじゃねーんだよクソボケが。これも全力で阻止しなければ、また身に覚えの無い悪事で余の名誉が汚される。頼む、勇者たちよ。1日でも早くこの阿呆を討伐してくれ!