◯月✕日
そろそろ魔王会議が開催される時期である。
議題は今回も人材管理についてだ。実力主義という名目で力のある魔族たちの横暴を長年放置していたツケはとんでもない負債となっており、余を含めたほぼ全ての魔王たちが頭の痛い問題であると認識している。
この問題を解決するための最大の障害は、大幹部クラスの最上級魔族を簡単に粛清出来ないことにある。処刑するだけならば一分も必要無い、魔王の名を受け継ぐにはそれ相応の戦闘力と魔族としての格を求められるため普通に殴って肉体ごと核を破壊するぐらいのことは出来る。
過去にはそれを実行した魔王もいた。結果は散々だった。もちろん無能な領主が粛清されたことを喜ぶ者は大勢いた。真面目に仕事をしていた貴族や領民たちにとって魔王の判断は賞賛に値するものだったが、その粛清に反発する魔族も少なくなかったのだ。
強者が弱者を支配するのは当然の権利であるという意識を持つ魔族にしてみれば、粛清された大幹部の行動にはなにひとつ落ち度がないのだ。そんな連中からは普通に領主として生活していただけなのに魔王の気紛れで処刑されたようにしか見えないのだろう。
馬鹿どもは魔王の核を奪うための力を求めて弱い魔族たちを殺して力を奪おうとした。もちろん魔王とまともな大幹部たちはそれらもまとめて処刑した。だが邪魔者を排除できてこれにてめでたしめでたし、とはならなかった。国力が低下したところを人間の国や他の魔王に攻め込まれたからだ。
なんかもう日記を書いているだけで胃腸がキリキリする。暴力と恐怖による統治でも機能しているのであればそれもまた国力であり、迂闊に排除すれば内乱の危険性が高まる上に外敵からの侵略も防ぐことが出来なくなってしまうのだ。近代では勇者に斬られた魔王より胃潰瘍で倒れた魔王のほうが圧倒的に多いという話は多分冗談ではなく真実な気がする。
なんなら最近の会議には野心家で有名だった魔王たちまでぼちぼち参加するようになってるし。かつては秩序による統治を目指す余たちのことを笑っていたが、領地を拡大するにつれて魔界領域が抱える問題点に気付いてしまったようだ。馬鹿め、ようこそこちら側へ。盛大に歓迎しよう。まずは消化器官に優しい食生活を取り入れるところから始めようか。伝説の霊薬エリクサーの正体はホットミルクかもしれないと本気で考えるようになってからが本番だ。
もちろん今回の会議もナナシ領沿岸部にある貿易都市で行う。というか他に選択肢が無い。招待したされたが会議に参加しない他所の魔王ども相手の外交トラブルに発展する可能性を考えれば最も格上である余が主催しなければならんし、御意見番として中立国の人間の王を招待するには共存に成功しているナナシ領以外では危険過ぎる。
事実、余に対する忠誠心から決定に異を唱えないものの他の魔将たちは裏でコソコソと動いているようだ。当事者であるナナシは部下の良い経験値だと笑っていたが。大事になれば粛清の大義名分にもなるだろうが、まさかそのためにナナシに領民を見捨てろなどと命じることは出来ん。
というか本当に大事になったら会議に参加している魔王たちが日頃の鬱憤を晴らすために喜び勇んで殴り込みしそうだな……。一応、余の部下だし後始末が何万倍も面倒になりそうだから自重して欲しいのだが。
いや、まてよ? いざとなればそれもアリかもしれん。かなり難しいが領民の無事さえ確保できるならそれはそれで有効だ。例えば、魔王たち全員で一般通過魔族のフリをしてわざと襲撃させるとか。ちょっと会議の時に話してみよう。
◯月✕日
会議前の親睦会に備えて早めに到着した。酒を酌み交わすなら会議が終わってからでもよさそうだが、貴重な時間を愚痴と慰め合いで浪費するぐらいなら先に食って飲んで騒いで予め吐き出してしまったほうが効率的だと言われたのでは従うしかあるまい。
提案された当初は余も含めて懐疑的な者が大半であったが、いざ実行してみるとこれがなかなか悪くない。前日それぞれが好き勝手に言いたい放題ブチ撒けたのだから会議の時はしっかり気持ちを切り替えようという意識が強くなる。
愚痴の内容は魔族も人間も大差無く、種族が違えど国家という枠組みでヒトが活動すれば同じような問題を抱えることになるらしい。王たる者、常に視野を広く未来を見据えて物事を決定せねばならんが……必要な犠牲と割り切ったはずの命は、本当に切り捨てるしかなかったのかと。メッチャわかる。アレ本当に吐きそうになるわ。
まぁ、アルコールが入るということで明るい話題も次々と飛び出しもするのだが。案外、普段の外交よりもずっと有益な交渉の場になっているのかもしれん。
親たちが賑やかに馬鹿な話で盛り上がっているときに、子供同士でこっそり抜け出して逢引した結果、ちゃっかり婚姻が成立するとか。吉報に飢えた中年には実に良い潤いであった……。赤子の首がまだ不安定ということで、お披露目は次の魔王会議になると父親から祖父へ昇格した魔王ふたりが先程満面の笑みで報告してきた。
挙句の果てには世界征服はもう余に託すから自分たちは配下でもいいよとか言い始める始末。現状でさえ色んな意味でキャパシティの限界なのに世界の王とか断固拒否したいから全部終わってから属国にしてくれなどという愉快な冗談まで魔王たちの口から語られるとは、やはり親睦会には抜群のリラクゼーション効果があるようだ。はっはっは。誰が逃がすかこの野郎、簡単に魔王を辞められると思うなどこまでも対等な同盟国としてとことん付き合ってもらうからな?