あの騒動から約1ヶ月がたった。
それだけ経てば魔神とやらの話題も無くなり、いつもどうりの生活が戻っていった。
あれから変わった事と言えば、友人が出来たことだろうか。
フレア=ラヴァツキ。
赤茶色の髪に糸目、そして胡散臭い雰囲気を纏うやつ。
俺はメリィの世話をしながら、そいつと話すのが日課になっていた。
「飯持ってきたぞ、メリィ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
話は変わるが、メリィの飯は俺達奴隷の飯に比べると結構豪華だ。
こいつが器だからなのか、結構丁寧な扱いだ。
それでも奴隷比べたら、だが。
「美味しいか?」
「うん」
「お兄ちゃんも、いる?」
俺の視線に気づいたのか、メリィがそんな提案をしてきた。
「俺はいいや」
「お前には調整があるだろ?」
調整
メリィは7日に1度、調整を理由に部屋から出される時がある。
俺には何をしているのかさっぱり分からないけれど、調整のあとのこいつは毎回凄く疲れて会話も出来ないほどだった。
たまに調整室の近くを通る時がある。
メリィが調整の時、そこから聞こえてくるのは呻き声と微かな悲鳴ばかりで。
辛い思いをしている事は確かだ。
「メリィ、辛くないのか?」
「何が?」
「お前が置かれてる状況だよ。言っちまうとな、お前へ生贄だ。神とやらのな」
「実験じみたことを永遠とされ、その度に辛い思いをしてるんじゃないのか」
「……お前は死ぬんだ。多分な」
「分かってるんだろ?」
「分かってるよ」
「でもだからって何も出来ない」
「今この状況を変えれる程の凄い力を持ってるわけじゃない、だから」
「どうせ死ぬのなら、最後はせめてお兄ちゃんとお話して死にたいな」
「俺?」
「それにお前死にたいって…」
「お兄ちゃんは、優しいんだよ」
俺が優しい?んなわけあるか。
こいつの世話を大人しくしてるのだって、押し付けられたからだ。
「優しくなかったら、今私と話しなんてしてないでしょう?」
「私の境遇を心配したりしないでしょう?」
「時折、私を憐れんだりしないでしょう?」
……
「一緒にお話していてね、安心するの」
「どんな話でも、お兄ちゃんとの話なら楽しく感じるの」
「でもそれは、お前が死ぬ理由には…!」
「私が死んでも、止められなかったあなたのせいじゃない」
────────っ…
「私はちゃんと、死を受け入れる」
「優しいお兄ちゃんが壊れない為に、だから」
「満足して死ねるよって、あなたに言うよ」
…なんだ、それ。
つまりあれか?この子は死に対する恐怖はあるがそれを受け入れようとしてるのか?
俺の、俺なんかのために?
何も出来ない、この子1人救えないクズ1人のために、命まで諦めて?
「…ご飯、食べよ?お兄ちゃんにもあげる」
「…いいのかよ」
優しいな、本当に。
…なんで、こんな子が死ななきゃいけないんだ?
全く理解ができない。
「あーん!」
「…あむ」
…俺に魔術が使えたら、何か変わったのだろうか。
─────────────────────────
「お兄ちゃん」
「?」
「美味しかった?」
「あぁ、美味しかったぞ?お前が食べさせてくれたからかもな」
「ふーん…お兄ちゃんのお母さんの料理よりも?」
「え?」
…なんでいきなり母さんの料理?
うーん…母さんの料理…。
…あれ?
母さんの料理って、どんな味だっけ。
そもそも母さんってどんな人だったっけ?
父さんは…どうだったっけ…。
───────────────────────────
「最後の調整?」
俺は突然、話があると言われあのパーナとやらに呼び出されていた。
と言っても、そんなに長く難しい話でもなかった。
内容としてはまずメリィの調整が最終段階に入ること。
そしてそれにはあの調整室にずっと居ないといけなくなるので世話はこっちでする事。
内容としてはこれだけだった。
「つまり、俺は元の奴隷に戻れと?」
「そういうこった、話はそれだけだ」
「…分かりました」
「意外だな、なんか一つぐらいは文句が出るかと」
「魔術も使えない自分が?冗談でしょう」
「それに…自分は所詮、奴隷ですから」
そう、自分に言い聞かせるように俺は言った。
元々押し付けられただけの立場だ、こうなる事はわかってたろ。
…メリィの言うとうりだ、結局、何も出来ない。
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「で、そのままその子にも会わず逃げるように帰ってきたと」
「うるさいな」
今日の事をフレアに話すとそんな事を言われた、逃げたってなんだ逃げたって。
「はぁ、だから言っただろう?あんまり入れ込むなってさ」
「分かってる…わかってるよ」
なんでもないように振る舞うだけで、心の中に何かが刺さるように痛む。
まるでそれは、俺の心があいつを…あいつと居たいとでも言うかのようだ。
「…ホントにいいのかい?」
「いいんだよ。それに俺に何が出来る」
そうだ、俺に何が出来る?
魔術も使えない俺が、何かあいつに出来るわけが無い、あいつの状況を変えれる筈がない。
どこかで殺されるのがオチだ。
力がないって言うのはそういう事。
何かを犠牲にしないと生きていけないんだ。
それが他人であっても、自分であっても。
「ほんとにいいのかい?」
…いい加減、ムカついてきたな。
「…そりゃあ一緒に居れるなら居たいさ」
「あいつ、優しいんだ。自分が不幸のどん底にいる原因の組織の一員である俺にさえな。飯を運ぶ時はいつもありがとうって言うし、俺がミスしてあのクソ野郎に殴られて痣ができた時には泣いて心配してたよ。俺がちょっと飯見ただけですぐ分けようとするし。」
「自分が死ぬっつーのに、最後まで俺の心配するし」
「俺と話をして死ぬならそれでいいとか言うし!」
「それに初めてだった、人にありがとうって言われたのは。その瞬間俺になんか、言いようのない暖かいもんが溢れ出たんだ」
「初めてだった、”魔術も使えない俺”が、人に優しくされたのは!」
「…上手く思い出せないんだ」
「つーか多分もう忘れちまってんだ、あの子に会う以前の俺を」
「母さんの顔も、性格も、父さんの顔も、言葉も、何もかも!俺が何を思って何をしてたのかも全部!」
「俺ん中でそいつらはメリィ=レイソンよりも低い位置になってんだよもう!覚える価値もない奴らなんだ!父さんも母さんもメリィに会う以前の『無能』のレッテルを貼られてた俺も!」
「そんぐらい…憎悪も恐怖も悔しさも全て忘れてしまうぐらいには…あいつの存在が俺の中で大きくなってるんだ」
ここまで言って、俺は後悔した。
熱くなりすぎたと。
しかし結局こいつの言う通りだ、俺はあの子を失いたくはない。
でも、どうすればいいかも分からない。
何も出来ないんだ、結局。
「だから諦めると?」
「自分にはどうせ無理だと、挑戦もしないで?」
「その子との『最後のお話』も諦めて?」
「確かに気持ちは分かる。この世界で固有魔術を持たないものは弱者と認定され、結果強者に淘汰されるのが定めだ。汎用魔術なんて言う『誰でも使える』魔術だのもあるけどそれもセンスありきだ。持たないものには結局ないのと同じさ」
「だからってまだしてもないのに諦めるのかい?いや違うな」
「諦めれるのかい?クリス=エーテルラック」
「そんな訳ないだろう!?持たざる者として生まれ、その結果理不尽にこのどん底に落ちて、そこで君は光を見た!」
「1度光を知ってしまったら、もう戻れない。それを失ったら自分が壊れてしまうから」
そうだ、だからここで諦めるんだ。
あいつにとっての────になれる事を…
「あいつにとってのお兄ちゃんになれる事を期待せずに済むんだ!心の拠り所になれるって、思ってしまうから…!」
「壊れたら、あいつの決意を無下にしちまうから…!」
「それで諦めても、結局君は壊れるよ」
「!?」
「あの子を諦めることで壊れない様にしても、結局君は壊れるって言ってるんだ」
「それ程までに、その子の存在は大きいだろう?」
なんだよ、それ。
なら一体…どうしたらいいんだ?
こんな、魔術も使えない俺に…何が出来ると?
「大まかな作戦はある」
作…戦…?
「反撃だよクリス。このクソッタレな世界に、クリス=エーテルラックを刻むんだ」
こんなにフレアを熱くする予定はなかったはずなんですけど…あれ?
ライブ感で書いてるからこうなるんだよなぁ…。
もうちょっとキャラクターの深掘りとかをするべきだったなぁ、と今は思います。