ぜんぜろつめた   作:寒さで体調をよく崩す人

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リンとエレンがずるずるやつ


あなたとならすずしいよ

 平日最後の夜を迎え、輝かしき休日を迎える準備を整える。

 朝は依頼をこなし、昼はビデオを見て夜までゆったりして、夕飯を食べたらお兄ちゃんとゲームでもしよう。

 そうと決まれば早めに寝よう……インターノットを眺めてから。

 依頼ならFairyがいくつか取ってきてくれてるし、今日ぐらいは寝る前だしサボっても許される……よね?

 ベッドに腰掛けて新作映画の情報を漁っていると、バナー通知が視界に割り込んでくる。

 簡潔な一言の送り主はエレンだった。

 

『明日ヒマ?』

 

『ヒマだよ』

 

 素早くフリック入力して答えた。

 明日のぼんやりとした予定は今の一瞬で一掃された。

 確かにビデオを見ようとは言ったが、肝心のビデオは決まってなかったし、本当に丁度良いタイミングだ。

 

『なんか甘いの飲みたいかも』

『付き合って』

 

『もちろん』

 

 すぐに来るだろう返信が遅く感じる。

 こんな楽しみな気持ちを抱いているのは、エレンもだったらどんなに嬉しい事のだろうか。

 当然、それを本人に聞くのはあまりに恥ずかしいことだが。

 

『明日、3時ぐらいに行こ』

『テストで早いし』

『でも終わって直行は尻尾溶ける』

 

『尻尾溶けるの!? ちょっと見てみたいかも……』

 

『やだ』

『じゃ、また明日』

 

『うん、おやすみ』

 

 最後送るとほぼ同時に眠るサメのスタンプが送られてきた。

 きっと、彼女も今頃眠りにつこうとしているのかもしれない。

 スマホを充電ケーブルに差し込み、寝転がる。

 楽しみすぎて寝れないかも、なんてことはなく、すぐに微睡みの中に意識が溶けてしまった。

 

 

——————

 

 

 朝から依頼をこなして、お昼に軽食を食べて一休みしていた。

 ……のだが、乗る予定だった電車を一本逃してしまった。

 都会だから当然数分後には電車が来るが、ほんの少し罪悪感があるのは確かだ。

 

「あ……来た」

 

「ごめーん! ちょっぴり待たせちゃった……」

 

 日陰で気だるげに休んでいた彼女は制服のまま。

 学校終わって、どこかで休んでから来たのだろうか。

 サメ尻尾は控えめに左右に揺れていた。

 

「日陰だしへーき……ほら、行こ」

 

 割と暑い天気だからか、そもそも外に出ている人自体が少ない。

 リチャード・ミルクティーに並んですぐに順番が来て、もうしばらくしたら頼んだミルクティーにありつけた。

 また日陰に戻ったら、肩がぶつからないぐらいの近さで隣り合って、自分の飲み物に口を付ける。

 若干くどいぐらいの甘さが口の中に広まるが、ベリーソースで少しだけゆとりが出来た。

 彼女のほとんどホイップの容器を見ていると、なんだか胸焼けがしてくるような気がする……そんな歳じゃないというのにね。

 

「んー……ねえ、プロキシって大人だっけ?」

 

「え? うん、大人だよ」

 

「ふーん、年上なんだぁ……」

 

「そういわれると、なんだかむず痒いような……」

 

 なんだかほんの少し物珍しそうに見つめられる。

 確かにたまに間違われるし、仕方ないとはいえど、ほんの少し『今更』って感じがする。

 まぁ、そこまで出会って日が深い訳じゃないから仕方ないけれども。

 

「別に、ふと思い出しただけだから。 気にしないでいい、ほんと。 ……ほら、写真撮ろ」

 

「うん!」

 

 スマホを出して、内カメラが構えられる。

 体が当たらないぐらいの距離感で……

 

「もうちょい寄って」

 

「えっと、こう?」

 

「ん。 はいちーず……」

 

 肩がトンと当たって、心拍が少し上がる。

 それでも平常心でカメラを見つめ、シャッター音を聞き届けた。

 日常風景がずらりと並んだ青春なアルバムの先頭に、私とエレンのツーショットが追加される。

 素早い操作の後に私のスマホが震えて、エレンから今の写真が送られてきた。

 

「うん、これでよし……んね、一口だけ貰っていい?」

 

「もちろん、ほら」

 

「ん……」

 

 ストローの先を咥え、喉が動き、そして離れる。

 舌の上に残った風味を感じるように、だが表情は一つも崩れない。

 尾の先も、指先も、彼女のレスポンスはいつも分かりづらくて、でもそれが彼女らしくて……あ、口の端が上がったような……?

 

「今日は結構甘くしたんだけど、普通だった?」

 

「ふつー、でもこれ好きかも。 てかリン、もしかして疲れてんの?」

 

 まさか当てられるなんて。

 ゆっくり休んだからバレないと思っていたが、そんなことはないようで思わず驚いてしまった。

 イアス越しとはいえど、ホロウの中じゃ考える事ばかりだから仕方ないとはいえば仕方ないけれど。

 

「えっと、実は今朝受けてた依頼でちょっとだけ……」

 

「えっ、朝からやってんの? ……それで平気なの?」

 

「えっへへ……まぁ、優秀なアシスタントがいるから楽勝だよ!」

 

「あー……お兄さんだっけ。 割と聞こえてる」

 

「ちょ、ちょっと恥ずかしいような……?」

 

 ぐだぐだと話しながら飲んでいると、一杯だけだというのに沢山の時間が過ぎていってしまう。

 お互い、カップの結露がぽとりぽとりと落ちるのも気に留めない。

 来た時よりも影が傾いてきているのも、もちろん気が付いている。

 けれど、この時間を終わらせるのはあまりにも惜しい。

 

「……そういえば、朝強いの? 依頼、朝からやってたんでしょ」

 

「別にそこまで強い訳じゃないよ、たまたまだって」

 

「そっか、モーニングコールとか……あ、ごめん、忘れて」

 

「なになに〜?」

 

「なんでもないっ」 

 

 そっぽを向かれ、尻尾で背中をトンと叩かれる。

 まるで拗ねた子供みたいだ。

 

「私は別にいいんだけどなぁ、モーニングコールしても……あっ」

 

「……プロキシ」

 

「ご、ごめん……」

 

 呆れたようにジーッと睨まれ、思わず委縮してしまう。

 サメに睨まれた猫といったところか。

 だがすぐに溜息の後、撫でるように尾で背中を叩かれる。

 

「そこまでじゃないから……はぁ、このあとスイーツとか行く?」

 

「え? いいの?」

 

「疲れてんでしょ?」

 

「じゃあ……お言葉に甘えて!」

 

「あ、今月ピンチだから奢ってくれると助かるかも」

 

「うぐっ、今月の電気代的に……トッピングは少なめで……!!」

 

 次のお店に行く道すがら、ふとさっき呼び捨てで呼んでもらえたことを思い出して勝手に心の中で盛り上がってしまった。

 彼女にとって私が『数多くいる知り合い』のうち一人であるかもしれない。

 この分からない距離感が、今日も私の心に波を立てている。

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