ぜんぜろつめた 作:寒さで体調をよく崩す人
雅とリンが雨宿りするだけ。
ぽつり、ぽつり。
雨粒が頬に当たり、空を見上げた。
ルミナスクエアに立ち並ぶビルの狭間の、細長く引き伸ばされた空は青く、雲一つ浮かんでいない。
手を伸ばせば、人差し指に落ち、跳ねて跡を残す。
狐の嫁入りだ。
「美味ではないな」
舌先で舐め取った手甲に落ちた雨水は、幼い時に好奇心から得た味よりも苦く感じた。
理由は多々あるかもしれないが、だがどうも狐の嫁入りを見るとセンチメンタルな気持ちになってしまう。
星見家は歴史長き家であり、当然常に子孫へ血と技をを遺し続けてきた。
どうも遠い世界のように聞こえるが、それでもいずれ私もその使命を果たすべき時が来るのだろう。 なにせ、私が星見雅であるためだ。
だが、私が白無垢に包まれ、綿帽子で耳を隠し、自らが雪景色のようになって
目を閉じて小さく息づくと、人の気配がしてそちらへ目を向けた。 見知ったビデオ屋の兄妹、その妹の方だった。
「――ちょ、ちょっ!? 雅さん、風邪引いちゃうよ!!」
「そうだな。 ……少し考え事をしていたんだ」
カツン、カツンと決して低くはないヒールで彼女の方へゆっくりと向かう。
傘の代わりにフードを被っていて、どこかその姿に新鮮味を感じた。 まるで巣穴に逃げ込み、外の様子を伺うネズミのよう。
フードの中に活発さがしまい込まれているのか、何処かしゅんとした印象だ。
「……お前は雨宿りをしていなかったのか」
「しようとしたんだけど、途中で雅さんを見掛けたからつい。 すぐそこに雑貨屋があるから退避しよ?」
「ああ、そうしよう」
駆け足で雨宿りをしたがほとんど人がいなかった。 近くに駅があるからそちらに逃げたのか。 私の事が露見すればリンに迷惑を掛けかねないので良かったと言える。
後ろ髪が重く、軽く絞るとぼたぼたと滴り、外套の表面を掌外沿で軽く撫でても水が落ちる。 気づいていないだけで、思っていたよりも私は雨に振られていたのだろうか。 どちらにせよ、尾があれば店内が水浸しになっていただろう。
ふと隣へ視線を向ける。
フードをしてもなお少し雨を被ったのか、紺青の髪先から雫が滴る。 それが輪郭を辿り、やがて顎先に辿り着くとハンカチで拭われた。
どうも私は、彼女の一挙手一投足に視界が引き寄せられて仕方ないようだ。
「雅さんも雨に濡れたでしょ? はい、使ってもいいから」
「むっ、すまない。 世話をかける」
手を軽く拭き、濡れた顔を整え、濡れた面を内側に向けて返す。
こうも横に並んで雨が上がるのを待っていると、縁側で庭先を眺める時のようなノスタルジックな感覚に陥る。
尤も、それをするのは大抵の場合友達とではなく、親友や家族とではあるが。
「そういえば、こうして狐の嫁入りを見るのって久々なんだよね!」
「私もだ、最後に見たのはいつだったかあまり思い出せない。 ……お前と見られてよかった」
「うん、私も!」
「ならば、今日雨に振られたのも悪くはなかったな」
ぽつりぽつりではなく、ざあざあと降り注ぐ。
あと数分もすればこの群雨も消え去り、転々とした水たまりだけが残るだろう。
それは寂しさもあれば、ここが現在から未来へ進めている証左だと思える。
「にしても嫁入りかぁ。 星見家って由緒正しい家だし、いずれかは雅さんもどこかへ嫁入りするの?」
「それは……」
先程の取り留めのない考えが、彼女からの質問に変わった。
誰かに守られる人間になれるのなら、そうしたらきっとこの刃を研ぐのを止め、剣を置くことも容易い。
だが私はまだ虚狩りとしての使命も、エーテリアスを斬り続ける必要も残っている。 まだこの新エリー都が剣を必要とし続けているのだ。
ふわりと風が吹き、体を冷やしていった気がした。
「……まだ考えていない」
「それもそうだよね、変なこと聞いてごめん」
雨脚が弱まった。
いずれ雨が上がれど、きっといずれまた雨は降る。 災厄は去れど、再び顔を覗かせる。 そして、嵐は突然現れる。
その大小はいつも人の事を鑑みず、善悪を問わず、強さも年齢も考慮しない。 あらゆる人々はただ気まぐれに振られた
「リン」
「なに、どうしたの? って、これは……」
右手で狐を作る。
親指を軽く動かしていると、意図を察したのか彼女も左手で狐を作った。
お互い暇を持て余していたため、これぐらいでも楽しく思う。
リンの事務的な綺麗な指は、まるで白樺の細枝のよう。 ならばその頬を表すとすれば陶磁器、あるいは餅か。
微笑む彼女の不意を突き、指先で指先に触れた。
「へ?」
狐と狐がキスをした瞬間、驚いたリンの手が開かれる。
その隙を狙い、キュッと手を真っ向から掴み、繋ぎ、そして細やかな雨音だけになる。
目を丸くしてこちらを見るのみで一言も発さず、頬を真っ赤に染めていた。
そのまま、一歩踏み出し、すぐに振り返る。
「……お前か柳なら籍を入れても良さそうだ」
「え? えーっと、あ、ありがとう?」
首を傾げて困ったような表情を浮かべた。
もしも本当に嫁入りをする必要がでたとて、彼女であれば仕事をする上での心配事もなくなる。 政治的な理由で結婚することを政略結婚というらしいが、この場合はなんというのだろうか。 判明したら半紙に書いて送るべきか。
「この後予定はあるか? 私は無い。 今から役所に行っても」
「そ、それは流石に怒られちゃうって!?」
「もし父のことを杞憂に思っているのなら問題ない。 お前の義父になるやつについては熟知している、私がすぐに黙らせよう」
「えぇ……えーっと、冗談だよね?」
その一言に二拍程考える。
どんな言葉を返そうが、きっと何もかも本気にして捉えてはくれないだろう。
確かに私はこれがどんな気持ちや欲望か、その整理すらついていない。 その嘲笑も込めて、シニカルな息が漏れる。
「冗談、か」
「待って、本気で言ってたの?」
「ああ、全て片付いたら続きを話す」
指をパッと離しても、彼女のぬくもりは残っている。
いずれこの日を忘れる日が来ても、この体温だけは忘れることはない。 否、忘れてはいけないものだ。 これが人の温かさであり、そして私の最期を看取るのも人であるべきだからだ。
――この世のエーテリアスもホロウも、悪は須らく斬り捨てるべき。
雨上がりの空は静かだった。
2024/01/05追記
pixivの方なのですが、男性に人気65位を頂いちゃいました……恐らくキャラ人気的バフが多いんだろうなと思ったので、今後とも見合うように精進しますので、僭越ながら今後も生暖かい目で見守っていただけると幸いです
もしも万が一原稿から解放された時に気が狂っていたらやる
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アンビーと映画鑑賞
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未所持だけど青衣さん
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