ドクターとヒーローアカデミア   作:雑食性柑橘類

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ぼんやりとして何も思考しない自身について思考する。

 

意識はある。思考が自身の行動に反映されないのだ。

 

思い出せない。目の前にある見覚えのない世界が全てで、それ以外は...靄が晴れない。違和感だけがある。記憶、思考、感情が根元を残して切り離されたような。

 

今自身は感情に独占されている。感情のままに泣いて笑っている。この感情も思考の影響を受けにくい。

 

記憶は2つ。切り離され、靄のむこうにある何かしらの記憶と、思考が苦心して自身に干渉しようとしている記憶。

 

思考する。なぜ自身に干渉できないのか、なぜ感情が思考の影響を受けずにいられるのか。なぜ靄の向こうに記憶があるのか。

 

そしてその思考が"何か"に掴まれた。

 

『ニューラルコネクタへの緊急接続申請を確認。生体情報を既存データと照合................完了。プロファイル確認、権限レベル:8』

『こうやってロドス外で操作されるのは、⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎以来ですね。おかえりなさい。』

 

靄が晴れていく。切り離されていたものが繋がって、思考が広がる。記憶の中の知識と経験を飲み込んだ思考はかつての疑問に答えを出した。

 

「幼児だったからかぁ...。」

 

目に映るのはまだ幼い手足。記憶とは異なる身体的特徴は一体どうなっていることやら。

 

「PRTS」

『お呼びでしょうか。』

「何故PRTSが今の私に接続されたんだ?」

『肉体年齢、骨格、筋肉量等が変化していましたが、血液型、指紋、耳紋、虹彩、脳波、思考パターンがデータと一致しました。』

 

と言うことは、この体は遺伝子的に同じなのか?若返りの秘薬なんてものは専門外だったから、なにも分からないな。

 

『貴方への通信を確認。繋げますか?』

「ああ」

 

きっとあの子だろう。

 

『ドクター!!ドクター!!起きたんですか!?今何処に居るんですか!?』

 

その、毎日聞いていた、長らく聞けていなかった声がどこからか聞こえた時。

酷い頭痛と共に、生まれてからの記憶、1度全てを忘れてしまってからの記憶が一気に思考に繋がった。

 

「アーミヤ」

 

また、私を起こしてくれたんだね。

 

『!?今、声が』

「アーミヤ、聞こえている?」

『ケルシー先生!今の声は!』

『落ち着くんだアーミヤ。PRTS、ビデオ通信はできるか?』

『不可能です。PRTSの接続可能なデバイスが存在しません。現在は音声を合成し、発話しています。』

「PRTS、認証時の私のデータを2人に送って。」

『送信完了』

『...幼児?』

「見た目はな!中身は私なんだ!」

 

『ドクター...なんですか?本当にドクターなんですよね?』

「そうだよ。心配かけてごめんね、アーミヤ。ケルシーも。」

 

『テラの謎は捉えきれないほどに存在するが、君が巻き込まれたものはロドス艦内で発生したのか?君のサーべライズマシンは君の消えた後も正常に動作している。定刻になっても会議に現れない君に、私やエリートオペレーター達が総出で探すまで誰にも気付かれなかった程だ。』

「それは…」

それから私は何故か幼児になっていたこと、記憶を取り戻した経緯を説明した。

二人は黙って聞いてくれたが、説明が終わると同時に二人ともため息をついた。

『失踪直前の記憶も帰還の手掛かりも無しか。』

「あー、うん。本当に申し訳ない。」

『今のロドスは君の不在を一部の者以外に隠している。生死が判明し、こうして連絡が取れるようになっただけでも粗は減るだろう。』

「ありがとう、ケルシー。」

『それで、ドクターはこれからどうするのですか?』

「うーん、実は何も考えられてないんだ。記憶を取り戻したのもさっきだし、とりあえずはここで子供として暮らしてみるよ。頭は同じだから、PRTSを伝って送信してもらえれば業務もできるしね。」

『そうですか……わかりました。私たちの方でも原因を探ってみます。』

「ありがとう。絶対にロドスに帰るから待っていて欲しい。」

『はい!ずっと、待っています!』

『通信終了』

 

「まずは情報収集だな。思考としての記憶はあるが、情報を意識して集めてはいなかったから都市の名前すら分からないや。」

与えられた子供部屋を出て、リビングへ向かった。扉を開けると、あの数分で懐かしくなってしまったコーヒーの良い香りが漂ってきた。

 

「おはよう」

「あら、おはよう。今日は早起きね」

「うん、なんだか目が覚めた。今日は緊急の仕事なかったんだね。」

「えぇ。いくらヒーローと言えど、そう毎朝出動していたら体が持たないもの。」

 

"ヒーロー"...そう、この都市ではヒーローが職業として存在している。それとは別に警察もあるというのだから驚きだ。そしてこの私を1人で育てている女性は母でありそのヒーローの職に就いているのだ。

私が先史文明での母の若かりし頃を覚えていればよかったのだが、覚えていないため、この女性が本当にこの身の母であるかは分からない。

 

「朝ごはんできてるよ。食べられそう?」

「うん」

「はい、じゃあお皿持って行って」

「分かった」

「いただきます」「頂きます」

 

トーストにバターを塗ったものとサラダ。シンプルなメニューだが美味しい。

 

「お母さん、今日って何かあったっけ?」

「いつも通りよ?ほら早く食べちゃって、幼稚園行くよ。」

「はーい」

 

食器を流し台に置き、小さなポシェットを持って玄関に向かう。

 

「準備できた?」

「うん、外で待ってる」

 

外に出ると、太陽が眩しく照りつけてきた。なんとなく、その光を避けるように帽子を深く被った。

 

「今日は1人で行けるよ」

「バスの停留所、ちゃんとわかる?車に気をつけて行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます。お母さんも行ってらっしゃい」

「えぇ、行ってきます」

 

手を振って歩き出した彼女の背中を見つめながら、自分も幼稚園に向かうバスの停留所に向かって歩き出す。しばらく歩いていると、前方に今の自分と同じくらいの歳の子供の集団が見えた。あれが停留所だ。

 

「あ!おはよう!」

「やぁ、おはよう」

「うん!」

「今日も元気そうだね」

「うん!だって僕、将来ヒーローになるんだもん!どんな悪い奴が来ても負けないよ!」

「そうか……頑張ってね」

「ありがとう!あ!バス来た!」

「本当だ。乗ろうか」

 

私も子供たちと一緒に乗り込むと、すぐに幼稚園に着いた。

 

「またね」

学年が違うらしい子供たちに手を振り、自分のクラスへ向かう。

「おはよう」

「おはよ!」

教室に入ると、何人かの子供達が挨拶してきた。

「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た!?」

「見てないな…何かあったの?」

「あのね!ショッピングモールに敵が出てね!それでね!ヒーローがドーン!!バーン!!って助けたの!」

「へぇそれはすごいね」

「うん!でね!そのヒーロー、私と同じ『個性』だったの!」

「ふぅん……」

 

『個性』恐らくヒーローを語る上で切り離せない能力だ。アーツとは違った力で、この都市の住民の大体は系統が違えども使うことができるらしい。しかし強さや条件はバラバラで、強個性や弱個性などと区別されることもある。

 

「すごかったんだよ!私、大きくなったら絶対あの人みたいなヒーローになるの!!」

「なるほど、良い夢だね」

「うん!沢山の人を助けるの!」

「へー、頑張ってね」

「うん!!」

席に着くと、担任らしき人物が入ってきた。

「みなさん、おはようございます」

『おはようございまーす!』

「今日はお天気が良いので、お外で遊びましょう。くれぐれも『個性』は使わないようにしてください」

『はーい!!』

それからは、みんな子供達同士で遊んでいた。私も砂遊びに参加していた。

砂、カーネリアンとビーズワクス、それからサルゴンの砂漠を思い出す。砂をいじっていると、頭上に影ができた。見上げるとそこには不満そうな顔をした男の子が立っていた。

「どうしたんだい?」

「おい、ここは俺らの砂場だぞ!今すぐどっか行け!」

「そうだそうだ!弱個性が強個性に逆らうな!」

「『弱個性』?それにも強さがあるのか、ますますアーツに似ている」

「なんか文句あるのかよ!まだ『個性』がないくせに!」

「『個性』だけでは何もできないよ」

「言ったな!?」

彼は手を大きく振りかぶって殴りかかってきた。腕が少し膨らむというか筋肉がついていた様子も見てとれた。

なるほど、これが彼の『個性』か。

「危ない」

これでもシデロカなどから訓練を受けた身であるから、幼児の拳ぐらいは避けることが出来る。

「なんだよお前!弱いくせに!」

「『個性』を使うのはダメだって先生が言っていただろう」

「うるさい!さっさとどけ!」

あ、まずい。突き飛ばされると踏ん張れないんだ私は。

「何してるの!?」

騒ぎを聞きつけたらしい担任の先生がやってきた。

「その子が『個性』を使って僕を殴ろうとしたんです」

「こいつが俺たちの砂場からどかないの!」

「本当ですか?見ていた人は?」

「はい!本当です!」

周りの子達が声を上げた。

「わかりました。ではあなた達は職員室に行きましょう」

「なんでだよ!そいつが悪いのに!」

「君も来なさい。怪我が無いかをみます」

「はい」

こうして喧嘩という名の『個性』の観察は終わった。

「これからは気をつけなさい」

「はい、すみませんでした」

「よろしい。さぁ、また遊んできなさい」

私に対しては注意だけだったが、向こうは親が呼ばれたらしく泣きわめく声が聞こえた。

それにしても、あれが『個性』...自分の筋力をあげるような物と見て良いだろう。

 

「PRTS」

『お呼びですか』

「私は『個性』を使えると思うか」

『判断するには『個性』に関しての情報が不足しています。しかし、あなたの身体に私が接続した直後から急速に変化...成長し続けている何かがある事は解析されています』

「『個性』についての本...ここなら絵本くらいあれば良いのだけど。PRTSはこの都市に接続できないか?」

 

『この都市の位置情報すら捕捉できません。ロドスから離れているからというよりも、データにない先民やアーツではない『個性』からして別世界や別の星である可能性があります。』

「やはり、そうか…」

『幸いこの都市は龍門の様にだいぶ発展しているようですし、ネットワークデバイスがある可能性は高いでしょう』

「あぁ、探そう。」

 

そういえば記憶が戻る前、ヒーローについて聞いたことがあった気がする。

 

「お母さん、ヒーローってどんなことするの?」

「そうね……困っている人を救けるのよ」

「じゃあお母さんはどんな『個性』なの?」

「私?そうね、私は『組み換え』よ」

「くみかえ?」

「そう。色々なものを組み換えて、たくさんの人を助けられる物をその場で作るのよ」

「へぇ!すごい!」

「きっとあなたにも素晴らしい『個性』が備わっているわ」

「お母さんみたいなのかなあ?」

「そうかもね」

 

そんな会話をしたのを覚えている。

 

「私が本当にあの人の子供で、『個性』が遺伝するものならあの『個性』が私にも現れるだろう。そしてあの人が敵か味方かも判別できるって訳...っと、あったあった。《『こせい』のふしぎ》図鑑のような物か」

幼稚園の教室の隅で、幼児向けと思われる本を数冊手に取った。

教室内に子供は居らず、外と比べて静かであった。

図鑑を読み進めていく。

「なるほど、この『個性』は身体が変化する。この『個性』は事象を起こす。興味深いな」

『個性』というのは実に不思議な能力だった。

例えば『発火』という『個性』は、火を起こすことができ、しかも燃え移らない限りは消化もできるらしい。

他にも『変身』や『透明化』、『硬化』など様々だ。

「私の『個性』はどうだろう……」

『クロージャが新たなサーバーを用意してくれたので、その本の内容を記録します。』

「あぁ頼むよ。じゃあ次はこっちの《ヒーローの『個性』大図鑑》も読んでおくか」

この図鑑には歴代の活躍したヒーローとその個性使用方法が書いてあった。読み終えると、いつの間にか日が傾いていた。子供達も教室に戻ってきている。今日はそのままバスに揺られて帰宅した。




第一話読了ありがとうございます。
一番最初のイタイ文で帰ってしまわれなくてよかったです。
ヒーローアカデミア部分までもう少しありますが、どうぞお付き合いください。


追記.ケルシー構文ムズすぎ
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