体育祭が終わり、生活も落ち着いたので私も母の見舞いに行く事にしたのだが、なんだかジロジロ見られている気がする。
もしかしなくても昨日の雄英体育祭の影響だろうな。
『国中で放送されていたので、観戦していた人が多いのでしょう。バスの中なので話しかけては来ないようですが。』
それにしても何か嫌な視線が混じっている気がしてならない。と言うかよくわかるな。今は雄英の制服ですらないぞ。
居心地の悪さを感じながら病院につき、母の病室に行く。
母は相変わらず眠っている。
病室は異常なほど綺麗で、誰かがお見舞いに来た様子もない。
とりあえず花束を花瓶に入れて置いておく。
「さて現状報告だけど、雄英のヒーロー科に入学できました。どうにか上手くやっていけています。」
病室の扉が開くと、白衣を着た男が入ってきた。
「お、来てたのか。」
「学校も一段落ついたので。」
「敬語、気持ち悪いからやめろって言ってるだろ。」
「母の主治医ですから。」
「尚更だ。植物状態にしてしまった。」
「それは君が悪い訳じゃないだろ。...わかったよ。」
大脳の損傷は攻撃を受けた際のものだ。どうしようもない。他の部分は完全に回復しているから、彼の手腕は疑いようもない。
「そういや、体育祭お疲れ様。表彰台は逃してたが、こっちじゃあ文句なしの全会一致で採用。ラボの名前で指名出しといたから。」
「ありがとう。」
「職場体験は1週間だったな。『個性』の解析に全時間使うと文句言われっから、2日くらいでサクッと敵を捕まえて学校を黙らすことになった。」
「無茶を言う。」
「だから今回は実験と狩りをかねている。お前のためになる獲物だ、期待しとけ。」
「狩りって、またサンプル回収?」
「わかってんじゃねぇか。俺ら『ラボ』は捕まえて引き渡すだけのヒーローじゃねぇ、合格困難な『ヒーロー免許』を取ってでも『個性』の研究者になった奴らだ。たまにお前みてぇなマウスが飛び込んで来ることもあるが、大体は自分達や故に敵の一部を回収して解析する。知ってっか?自分らで捕まえた敵の物なら、どれだけ使ってもお上から文句を言われないんだぜ。」
「それは解析の為に許可された量の血とか『個性』の生成物だろ。基本善性の君らが、敵と言えど必要以上に痛めつける訳がない。飛び込んで来たマウスにはとんでもない速さで齧り付くけどね。」
ラボの人達は何故かマッドサイエンティストぶるが、全く悪人ではない。初めて会ったときに警戒して損をしたレベルだ。
「…わかってんじゃねぇか。」
「そろそろ帰るよ。母さんのお見舞いには、また夏休みくらいに来るから。」
「おう、学校頑張れよ。」
帰りのバスでは特に視線を感じなかった。
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雄英体育祭はやはりまだ記憶に新しいようで、さっきからとても見られている上に遠巻きにヒソヒソ話されてる。
「あの人、雄英体育祭の!」
「あの氷砕いてたの凄かったよね!」
「話しかけてみようよ!」
「えー!ちょっとやめなって!」
「ウソだよぉ!なんか怖そうだし!」
『小声ですがしっかり全部聞こえてきますね。これで3組目です。近寄り難い雰囲気作りは成功のようですよ、ドクター。』
そろそろ肩が凝ってきた。早く着いてくれ。
「おはよー!今日道でめっちゃ声かけられた!」
A組の皆もすっかり有名人になっているようで、各々注目されたらしい。先生が来てもまだウキウキしている様子だった。
「例年はもっとバラけるんだが、今年は2人に偏ったな。」
指名は轟君と爆豪君が圧倒的だったが、私にも数十件ほど来ていた。
「指名の有無を問わず1週間の職場体験に行ってもらう。そこでコードネーム、ヒーロー名を決めてもらう。だが、適当なものは「つけたら痛い目見るわよ!」
そうしてミッドナイト先生監修のもとコードネームの考案が始まった。
私のコードネームと言ったらこれしかない。ずっと共に歩んできた名前だ。
「では次!」
「『Doctor』個人的にとても思い入れのある名前だからです。」
「シンプル!こういう名前は被りやすいけど...大丈夫ね!」
もっとセンスがあれば良かったのだろうが、あとはもう『オリジニウム』くらいしか候補が出ない。オペレーターのみんなはどうやってコードネームを考えていたのだろうか。でも所属企業名とか本名で登録してた人も多かったっけ。
「指名来てる奴はリスト配るぞ。」
『ラボ』こと『鎖型研究所』もちゃんと載っていて、すぐに希望を書いて提出した。
彼の言っていた獲物とは何なのだろう。帰還の手掛かりになってくれると良いのだが。
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「何度来ても見つけにくいなここは。」
『見た目は完全にただの廃墟ですね。コンクリートがむき出しなので、周りの瓦礫群に馴染んでいます。』
「えっと呼び鈴はこの下に、あれ。」
『右隣の瓦礫の下ですドクター。』
「あった。」
『ゴヨウケンハ?』
「城島です。職場体験と定期検査に来ました。」
『...正面のエレベーターを起動した。降りてきたまえ。』
これは鎖型所長だろう。彼は古風で尊大な口調を好む。初めて会ったときは威厳ある学者の風体と相まって、クルビアの学者達のように感じた。
『正面のエレベーターは老朽化が激しいからと使用禁止だったはずですが、直したのでしょうか。』
「或いは元から壊れてなんていなかったんじゃないか?職員用の入口ということだろう。あ、しまった。何階で降りればいいか聴き忘れた。」
しかしエレベーターに階層のボタンは付いていなかった。乗っていれば良いのだろうか。エレベーターは構わず降下していき、体感で12m程で止まった。
「ようこそ。ラボ一同歓迎するよ『Doctor』、新しき同志。」
「光栄です。」
「早速仕事に取り掛かりたいところだが、まずは簡易検査だ。体育祭の『個性』発動中の気絶で何か影響があるか調べる。」
「きっと問題ありませんよ。PRTSのスキャンでは異常も見当たりませんでしたし。」
「知らん。採血の準備はもうできている。」
「そんなぁ、こっちの注射針って痛いから嫌なのに。」
問答無用で採られた。
「そんなに痛かった?」
「新免さん。」
「前から協力的な君が唯一抵抗するからみんな面白がってるよ。」
「痛いのもそうなんですけど、若干コストの回復が遅くなるんですよ。」
会議室で検査結果を待つ間に話しかけてきた新免さんはラボの古参で、私にラボを紹介してくれた人でもある。
6年前、整備されなくなって久しい公園で、私はひたすら『個性』の出力を上げるための訓練をしていた。キャパオーバーの症状である酷い頭痛に耐えきれなくてベンチに転がっていたところにヒーロー活動中の新免さんが声をかけてきた。それからも何度か様子を見に来た新免さんに特殊な『個性』持ちであり、将来はその研究をしたいと打ち明けるとラボを紹介されたという経緯だ。
その後『個性』が特殊なのではないと発覚して問い詰められて、私の境遇やら目的やらを全部吐かされることになったのだが。
資料を持った所長と研究員の寺治さんが入室してきた。
「結果出ました。血中成分も『個性因子』の同調率も問題ありません。」
「実験を説明する。内容としてはDoctorの『個性』を使った、敵組織の完全遠隔捕縛だ。今回の敵組織は地図上のここをアジトにしている。そして道路を挟んで西側の区画のこのビルからなら全体の見下ろしが可能だ。Doctorにはビルから『個性』を発動させて総勢37名の敵を捕らえてもらう。」
「私はまだ仮免許も持たない身ですが?」
「お前の仕業である証拠がない。」
「はぁ、それぞれの『個性』は。」
「全ては割れていないが、機動力の高い『個性』は居ないと見て良い。詳細はこの資料を参照したまえ。」
渡された資料には判明している個性とアジト周辺の詳細な地図が記されていた。
個性は強化型が多い。脱出経路は正面と裏口のみだが途中で路地が増える。
「屋内でできるだけ行動不能にして、外に逃げた敵はバインド,スタン,睡眠にして捕縛でいいですかね。」
「やり方については一任する。今は寺治も居るから、多少の怪我も構わない。」
「なら凍結も使います。作戦は以上です。」
「では早急に向かおう。」
「やはり今からですか...。」
「早い方がいい。行くぞ。」
鎖型所長は足早に行ってしまった。
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「内部は?」
「全員分の熱源が確認できてます。今がチャンスかと。」
「すぐに始めます。【エラト】【ノーシス】逃亡者を狙って。」
「これが『再現』...やはり素晴らしいですね。」
「膨大な情報量と演算速度を必要とするだけの"技術"、正しく具現化や創造などの『個性』系統の極みと言える。サポートアイテム化しようにも、神経接続技術がネックで我々にはどうにもならんのが惜しい。」
PRTSがこちらのネットワークに接続するにもUSBをロドスで作成して『個性』で持ってくるという荒業を使ったくらいだ。ニューラルコネクトという概念が無いわけではないらしいが、人権関係でなかなか進まないと聞いたことがある。
「【イーサン】【マンティコア】潜入して敵を無力化。できたらこの手錠をかけてくれ。」
「単純な固定砲台にならないというのも強い。熱源反応もありませんし、つくづく隠密向きです。」
「いくら外付けパーツがあるとしても、普通なら脳への負担がもっとかかる。脳構造も含めて『個性』なのだろう。」
『脳構造はテラと何ら変わりありません。』
「へー。」
「ん?どうした。」
「あ、いえ。上手く入り込めたようなので、捕縛します。」
危ない、人が居る時にPRTSに口頭で返事してしまった。
ふたりが動きだし、外から見てもわかる程に騒がしくなるアジト。予想ではそろそろ...
「出てきた。【ロープ】吊り上げて手錠を。」
エラトが眠らせたりノーシスが凍らせた敵をロープが回収して手錠をかける。
「これでよし。」
『アジト内も制圧が完了しました。』
「終わったか。」
「はい、制圧完了です。」
「下に警察を呼んである。引き渡しに行くぞ。」
「【エラト】【ノーシス】撤退。ロープは敵を下ろしてくれ。イーサンとマンティコアも敵を外に出してほしい。」
下に降りると沢山の警察と野次馬が来ていた。カメラに映らないように、自然に所長達の陰に隠れる。オペレーター達も移動が終わり次第すぐに撤退させた。
「さて、実験は無事成功。引き渡しも完了した。よって...」
「帰りですか?」
「待て待て新人、組織犯罪と言ったら麻薬などの物品が関わるのさ。だから制圧後は...」
「宝探しの時間だ!」
「うおー!」
ああ、なんか人が増えてると思った。ところで証拠品集めなどは警察の領分ではないのだろうか?
「Doctorは休んでいたまえ。麻薬などの見分け方もまだ教えていないからな。」
「了解しました。」
ということで突っ立っているが、さっきから先輩達の反応が良くない。麻薬自体は見つかっているようだが、他に目当てのものでもあるのだろうか。
「あ!所長ー!これじゃないですかー!?」
「どれ...違うな、これではない。」
「もっと探せー!」
何かが見つからないらしい。
「何を探しているんですか?」
「ここんところ出回ってる怪しい薬。詳しい効果はラボで説明されると思うぞ。国から調査依頼が来てるからここで手に入れたいんだけど...」
「おい、新薬あったってよ!」
「お、じゃあラボに帰還だな。」
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
ラボに帰った私の前に、今回押収された薬品が並べられる。
「結局それは何なのですか?」
「右がただの『麻薬』、真ん中が『個性強化薬』で左は『個性消失薬』だよ。もちろん全部違法。」
「『個性強化薬』...」
「変な気を起こしたりすんなよ。強化の代償に理性を失って『個性』が暴走するって話だ。お前に暴走されたら俺らじゃ止めらんない。」
薬を飲んだ時点で理性を失うのなら、理性0の私ができあがるだけなので大丈夫なのでは?
所長が成分表などの資料を渡してきた。
「解析結果はこれだ。麻薬と強化薬はいつもの粗悪品の成分だがこっちの消失薬は...」
「『個性因子』ですか。現物を見る限り、再現体のような情報の塊や『個性生成物』という訳でもなさそうですね。」
「お前が見てもそうなら、本当にただの『個性因子』が入っているだけか。」
「遺伝子からは何人かの『個性』が混ざっているのではなく1人の『個性』なのが分かった。」
「誰かが『消失』を持っている、と。」
「どっかのヒーロー事務所は数組織にアタリつけてるらしいから撲滅も近い。だからそんなに警戒しなくても大丈夫だって!」
「『個性』を失うことは帰還の手掛かりが全く無くなると同義なので。」
「あー...」
もしかしたらPRTSにさえ接続できなくなるかもしれない。考えたくない話だ。
その後の職場体験は、オペレーター達の殺傷能力だったり治せる傷の限度だったりを調べることに費やされた。
「学校活動で壊死損傷は絶対に使うな。」
「それは誰よりもわかってます。でも『1番ヤバい奴を出せ』と言ったのは所長ですからね。」
「普通大剣を持った奴なんかが出てくると思うだろう。誰が変な形の楽器持った奴が出てくると予想できるんだ。」
「黒くなって崩れ落ちるラットはちょっとしたトラウマになったよ...。」
「何はともあれ、1週間お世話になりました。」
「ああ、ヒーロー免許取得に向けて精進したまえ。」
「じゃあまたインターンの時期にな!」
エタったと思った?残念!エタりかけでした!
保須事件に絡めても良かったのですが、初撃を止めた後にドクターが普通に前衛出そうとしたのでボツになりました。
次回は職場体験終了後の学校から期末試験終了までを予定しています。
遅くなりますがよろしくお願いします。
追記.あれ?ヒロアカキャラでとるやんけ。ということで矛盾した後書きの文を削除しました。2話分を1話に統合したのが敗因でした。