いつものように母と遅めの夕飯を食べる。少し『個性』について聞いてみようか。
「ねぇお母さん」
「どうしたの?」
「『個性』ってどうやって出てくるの?僕もいつか出るの?」
母は少し考え込むようにした後、話し始めた。
「それは……難しい質問ね。でも、もし出なくてもあなたはお父さんとお母さんの大事な子供よ。そうだ、今度病院へ行った時に、お医者さんに聞いてみよっか」
「うん、わかった」
翌週、私達は病院へ向かった。
理由は予防接種を受けるためであったが、母が予定を早めた事は知っている。
予防接種が終わった後に母が医者に聞いた。
「そういえば、先生。この子が『自分はどんな『個性』が出るか心配だ』って言うんですけど、どうなるか分かります?」
「えー...そうですね、僕も専門じゃないんですが。まず『個性』は大体遺伝します。遺伝ではない方を突然変異と言うくらいですから。まぁ、両親どちらかの『個性』が発現する事が多いですね。たまに混ざったり隔世遺伝したりしますが。」
「そうなんですね」
「はい。ただ、『無個性』ということもありえます。なんせ人類の2割ですからね。意外と多いですよ2割は。」
「そうですか……わかりました。ありがとうございます」
「いえ。何か気になることがあればいつでも相談してください。お母様の『個性』もありますし、1度は専門病院を受診した方が良さそうですね」
「はい、考えておきます。」
帰りの車の中で、
「あなたがどんな『個性』を持っていても、お母さんはあなたを愛し続けるわ」
「うん」
「だから、大丈夫よ」
次の日から、私は様々な『個性』を観察し続けた。
ある日、砂場で男の子達が遊んでいると、突然地面が崩れたのだ。
崩れたといっても10cm程度で、怪我人もいなかった。
彼は崩れた地面にを当てて、土を盛り上げて直した。
また別の日には、水飲み場の蛇口が固くて開けられず、少し騒ぎになった。そして呼ばれた別の子が肥大化した右手で蛇口を捻ったところ水が勢いよく出た。
また、別の子は近くにあった石を持ち上げて投げつけた。すると、当たった木は大きく抉れた。
その他にも色々な『個性』を見た。
しかし、まだ私に『個性』の兆候はない。子供達に『個性』はどうやって出たかと聞いても「なんとなく」「やったらできた」としか言われない。
母の『組み換え』の『個性』からして積み木でもしていればよいかと芸術的なものを作り上げているが、一向に成果が出ない。
『ドクター』
「ん?」
『ニューラルコネクタの接続が段々と強くなっているようです。原因はやはり不明な因子かもしれません』
「つまり?」
『あなたの身体の成長し続けている物として、『個性因子』が考えられます。おそらく、もうすぐ『個性』が発現するでしょう』
「そうか……ついに来たか」
『はい。心の準備をしておいてください。ニューラルコネクタとの接続が強くなっているということは、おそらくテラ由来のネットワークに関する個性でしょう。そうしたら...』
「あの人とは違う個性ということか」
数日後、私の身体に変化が起きた。まず、体が熱くなり始めた。次に耳鳴りがし始め、頭痛がしてきた。そして意識が遠ざかり…目が覚めた。
体を確認するが特に変化は見られない。
『おはようございます。ドクター』
「あぁ、おはよう」
『もう『個性』を使いましたか?』
「いいや、自分では使ったと意識していない。私の身体をスキャンしてみてくれ。『個性』の形成前後でどう変わるかのデータをとろう」
『わかりました。...計測完了。データを表示します』
脳内に送信されてきたデータは、個性因子以外に大きく変化した箇所はない事を示している。
『ドクター、『個性』によって変わった感覚はありませんか?数値的には『個性因子』以外は特に変わっていません』
「確かに数値上は変わっていない。だが、感覚は違う。なんだか懐かしい気分だ。これは…」
『わかりません。ニューラルコネクタの接続が良くなったことやこの都市に来てからの環境の変化によるものでしょうか』
「あぁ、そうだな。そうかもしれない。この『個性』は一体どういうものだろう……」
その後も毎日のように観察を続けたが、自身の『個性』は分からずじまいだった。
母が日中にいない日、ケルシーやアーミヤと書類確認がてら会議を行っていると、突然大きな物音がした。何事かと思い急いで部屋を出ても誰も居らず、家はしんとしていた。
『どうしたドクター』
「いや、物音がしてね。でも勘違いだったみたいだ。それで、こちらのネットワークなんだが、PRTSをせつぞ『ドクター!後ろ!』
アーミヤに言われて後ろを振り返ると、腕が刃物のように変形した人間がいた。驚きで身体が硬直しているうちに刃物が迫ってきて、もう切られてしまうと目を瞑ってしまった。
「Mon3ter!!」
『え!?ケルシー先生!?』
「これは...!?いや先ずはこちらか。Mon3terそのまま拘束しておけ」
「ぐっ!」
ケルシーの声がさっきより鮮明に聞こえる。目を開けると、目の前にケルシーが立っていた。
「え!?ケルシー!?」
「無事かドクター。それとこの現象に覚えは?」
「いや、ない。いきなり襲われて、ケルシーが出てきて...ドッキリじゃないだろうね?」
「そうか、君は散々私達に心配をさせておいてそんなことを宣うか」
『今は私が1番ドッキリを疑っています!!!どういう事ですかドクター!ケルシー先生!PRTS、直ちに2人の身体の解析をして下さい!』
『解析中...』
「まあいい、このまま野に放っては犠牲者が出る。この都市にも治安維持機関はあるんだったな?私が抑えているから、君は連絡してくれ」
「わかった。気をつけてくれよ」
「あぁ」
数分後、警察が来て犯人は連行された。事情聴取でどうやって取り押さえたかを聞かれて慌てたが、ケルシーの助言で『個性』がどうにかしてくれたことにした。
そのまた数分後に、慌てた母が駆けつけて私の事を心配していたが、土壇場で『個性』が出て助かったということにほっとしながらも嬉しがっている様だった。
ちなみにケルシーはまだ私の隣に居るが、警官や母は一瞥し「それが『個性』なのね」と納得したきり何も言ってこなかった。おかしいな、『個性』図鑑では...って、あれ?
「ケルシー?どこに行ったんだ?」
『落ち着け。元の場所に戻っただけだ。おそらくドクターの『個性』で召喚され、その効果時間が切れたというところだろう』
「大丈夫?ケルシーって...さっきのドラゴンみたいな子の名前かしら」
「...はい。そうです」
ケルシーではなくMon3terの事を言っているのか?ケルシー自体は見えていなかった?...だからあの反応だったのか。今のところ人型生命体を召喚する『個性』があったなんて本は見つかっていない。だから間違いなく騒ぎになると思っていたのだが、認識されないものとされるものの違いが分からないな。
「あなたの『個性』はきっと誰かを守ることができる力だわ」
「うん、ありがとう」
それから数日たったある日、母は私を連れて大きな病院に来た。
きっと『個性』がどういう物なのかを調べに来たのだろう。あれからアーミヤもこっちに召喚/帰還したり、PRTSでも解析しているのだが、条件がいくつか揃わないと発動しないことぐらいしか分からなかった。
「はい、じゃあリラックスしてくださいねー」
医師が私の頭に手をかざすと、うんうんと唸った。しかし、それも数秒の事であり、すぐに終わった。
「うむ……これはなんとも珍しい『個性』ですね」
「そうですか」
「はい。お子さんの『個性』は『創造』系統に近いものということまでは分かるのですが、どうにも詳細を調べることは厳しいですね...まるで全く知らない言語で書かれている学術書の様です。個性が発現したばかりのお子さんにはたまに居るんですよ、まだ自分でもよくわかってないでしょう?」
「はい」
「焦らなくても大丈夫。君には頭の中にある素敵なアイディアを人に見せられるという能力があるんだ。それだけがわかっていればいいよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、また何かありましたらご相談ください」
病院を去った後、母と話をしていた。
「あなたに限ってないとは思うけれど、『個性』が出たからってあまり危険なことをしないでね?」
「うん、分かってるよ」
病院での診断から数ヶ月、私は『個性』を掴むために実験を繰り返していた。
以下が実験により判明した事である。
・テラの人や物をこちらに召喚できる。
・召喚された人物は自分の意思でテラに帰還できる。
・召喚された物体はこちらの24時間でテラに戻る。
・私はこの『個性』でテラに帰ることはできない。
・召喚できる人物は今のところロドスのオペレーターのみ。
・召喚された人物の姿はこちらの生物には知覚できない。
・しかし召喚の際に持ち込まれた武器は誰にでも見える。
・1日に召喚できる人物は12人まで。ただし再召喚は可能。
そして今からまたひとつ実験をする。ロドスの戦闘データからオペレーターを再現し召喚できるかの実験だ。『創造』系統の個性は普通なら自身の記憶がものをいう個性らしいが、何故か召喚という形を取れるこの個性と、ニューラルコネクタで接続しているPRTSならできる可能性が高い。
「PRTS、アーミヤの戦闘データに接続。」
『接続完了。召喚用ファイルを起動。』
「よし...【アーミヤ】再現。」
その声と共に、目の前に半透明のアーミヤが形成された。とりあえずアバターだけは再現できた。
「アーミヤ、これ持てるかい?」
アーミヤは頷くと渡したバインダーを難なく持った。それから重りを持たせてみて、本人と同じ重量までしか持つことが出来ないことがわかった。
「アーツは問題ない?」
また頷くと、本人と同じ威力と見た目のアーツを出した。だが、さっきからアーミヤから音がしない。衣擦れの音一つもだ。
「アーミヤ、話すことはできる?」
『会話データを召喚用ファイルに入れていないため、話すことはできないと考えられます。』
「そうか、ごめん。ありがとうアーミヤ。」
頭を撫でると嬉しそうな顔をした。...こっちはデータに入ってたのか?
『ん"んっ...ドクター?』
「あ、ごめんアーミヤ。」
『いえ、大丈夫です。ですがロドスに戻ってきたら私にもお願いしますね?』
「ふふっ、わかった。」
本人も通信越しに見ているんだった。とにかく実験は成功と言って良い。これでわざわざ予定を合わせたり、ロドスで待機しておいてもらう必要がなくなったのはとても喜ばしい。『個性』は成長する為、これから伸ばせば私もロドスに帰れるかもしれない。
いくら母と呼ぶ存在が居ようとも、私はテラの人間なのだ。
『個性』を頻繁に使っていると怪しまれるかと思ったが、案外子供のヒーローごっこだと見逃されている。
学校に通うようになって8年。私は高校受験の事を考えるべき年齢で、クラスメイトは皆雄英高校か士傑高校のヒーロー科が第一志望らしい。
私は自身の『個性』の研究がしたいので他の道を検討していたが、担任の教師から熱い説得を受けた。
「本当に通信制の高校で良いのか?お前なら雄英の推薦も取れるぞ」
「僕は『個性』の研究がしたいんです、先生。そのための時間が惜しいんです」
「なら、なおさらヒーロー科はどうだ?普通科の学生なんかよりも『個性』を存分に使える。しかも『ヒーロー免許』さえ取ってしまえば、プロヒーローとしてデビューせずとも『個性』を大っぴらに使える」
「ヒーロー科でヒーローの心得の授業中にも個性を使っていて良いのなら考えますが。それから『ヒーロー免許』での特権は『個性使用許可証』も同じでは?」
「…おそらくお前の『個性』では『許可証』が降りない」
「それは、武器だからですか?」
「それもあるが…お前はヴィランの撃退経験があるだろう」
「ええ、その時は『個性』が…まさか『個性』の暴走を危惧しているんですか」
「いや、『個性使用許可証』があるからと『ヴィジランテ行為』に走る可能性が考慮される場合がある。隣の担任がそうだ」
「あの正義感とか微塵もなさそうなフィディアが?」
「フィディア?よくわからんが悪口はやめておけよ?まあ、そういう事もあるから『ヒーロー免許』をとる事を薦めるぞ」
「それで『ヒーロー免許』を取るならなるべく実績のあるところ…つまり雄英というわけですか」
「あぁ。どうする?さっきも言った通り、お前なら推薦もできるが…お前は望まないか。」
「はい。このままいけば推薦は轟君ですよね?あそこまで真剣にヒーローになりたがってる人間はどう頑張っても引き摺り下ろせませんよ」
「わかった、一般受験にしておく」
そういう訳で雄英高校ヒーロー科を受験する事に決めたのだ。
いやはや、『個性使用許可証』がそんな事で取れなくなるだなんて思ってもいなかった。
『ヒーロー免許』は元々サブプランにはあったが…雄英かぁ。
「PRTS」
『はい。雄英高校ヒーロー科の一般試験ですね』
「ヒーロー科なら2次試験は実技だろうな。個性無しで組手とか言われたら終わりだ」
『安心してくださいドクター。毎年ロボットの殲滅戦のようです』
「殲滅戦ね...何度も指揮したけれど、単純に気を張る時間が長いのが辛いな」
そんな暢気に将来について考えていたのが悪かったのだろうか。
RRRRRRRRRRRR!!!
「はい、城島です。」
「城島組子さんの御家族ですか!?今すぐ○○大学病院に来てください!組子さんがヒーロー活動中に敵の攻撃をまともに受けてしまって...!」
その後はあまり覚えていない。いつのまにかもらっていた資料によると、母は植物状態になったらしい。
「ハッ...私も随分絆されたものだ。いつか置いていくつもりだったのに、置いていかれかけてこんなにも動揺している。」
『ドクター、プランはどうしますか?やはりヒーローは危険な責務が伴います。今なら変更しても何ら不審ではありません。』
「PRTS、わかっているだろう。今回の事でさらに『個性使用許可証』の取得は難しくなった。最早選択肢は無い。」
『承知しました。』
それから数週間、母が居ないこと以外は何も変わらぬ毎日を過ごした。
心配したアーミヤやケルシーがわざわざこちらに来て世話をしてくれたおかげでどうにか持ち直せた。ああ、早くロドスに帰りたい。