何か色々あった後、原作でのトニオさんの話があった翌日。
リヴィン・ジョースターという人間は、愛する人を喜ばせたいという気持ちに溢れている人間である。
☆
トニオ・トラサルディーのレストラン初訪問があってからの翌日。仗助と億泰は念の為、トニオの件をレストランから帰った時に承太郎達に報告をし、この件の話は終わったはずだった。
そう、はずだったのだ。
「えーっと……。なんスか、この弁当の量は」
「うん? 男子高校生が食べることのできる量だけれど……」
朝から今日はリヴィンが作った弁当をお昼にもらえると聞き、コンビニで買ったパンを午前中の休み時間に食べてからの昼休み。屋上で仗助と康一、そして億泰の前に広げられた弁当は、どこかの老舗で出された1人用のおせち料理かと思うほどの弁当箱──重箱だった。
三段の重箱が風呂敷を敷いた状態でそれぞれの目の前に鎮座している。仗助や康一が呆気に取られている中で、リヴィンはマイペースに重箱を開けて食べ始めていた。一方億泰は気まずそうに首を掻いてから、重箱を慎重に開けて箸を手に取っている。
普段の億泰はリヴィンが作った弁当を、うめぇうめぇと言いながら食べていた。そんな億泰が神妙な面持ちをしながら弁当を食べようとしているのを見て、仗助はますます何が起こっているのかが判断できずにいる。同じように戸惑っている康一を見てみたが、康一もさっぱり理解できておらず小さく首を横に振られた。
「食べないのかい?」
「えっ、いや、あー。い、いただきます……」
「ぼ、僕も、いただきます!」
リヴィンに促され、重箱の段を食べやすい配置に並べていく。開けて見た中身はおせちではなく、いたって普通の料理が入っていた。
下には箸で摘めるサイズの鶏めしのおにぎりといなりが、敷物になっているレタスの上に綺麗に並べられている。真ん中にはチーズの入った卵焼きや、プチトマトにほうれん草のお浸しなどが入った野菜類の詰め合わせ。加えて唐揚げに豚の照り焼きが入っている。上はデザートの箱らしく、食べやすく切られた果物に小さな大福、カップに入った色とりどりのゼリーがあった。
以前に尋ねたことがあるが、リヴィンは手作りできるものは全て手作りしているのだという。昨夜から仕込んだかもしれないが、これほどの量を作ったリヴィンに戦慄しながらも、いただきますと言ってから箸を取って卵焼きを口に含んだ。
「……ん、うめぇ」
店で作られたものだと言われても嘘だと見抜けないほどに綺麗な卵焼きは、しっかりと味付けがされているし中のチーズにも合っている。普通に美味しかった。続いて食べた鶏めしのおにぎりも、ホロホロとした鶏肉に、ほどよく握られたお米の食感と味が普通にいい。ほうれん草のおひたしを食べようと箸を伸ばしたところで、リヴィンが仗助と康一の食べている様子をじっと見つめているのに気がついた。
「あ、すんません。美味しいっス。こんな沢山、ありがとうございます」
「リヴィンさん、これとっても美味しいです! この人参のやつ……!」
だが仗助と康一が料理に対して感想を伝えても、リヴィンは瞬きだけして黙ったまま見つめ続けている。喜ぶこともなく真顔のままなものだから、何かまずいことを言ってしまったかと仗助と康一が目線を合わせていると、億泰がやけになった声で叫び始めた。
「俺ァ! リヴィンさんの料理が世界一だと思ってるんだぜ!!」
魂の叫びと言っていいほどの声だった。だがリヴィンはその叫びに対して、静かに億泰へと顔を向けるだけで終わっている。普段から愛していると言っている人物に対してする態度ではなく、リヴィンの不可思議な行動に謎が深まるばかりだった。いつものリヴィンならば、目を弧にして幸せを噛み締める笑顔を浮かべるはずなのだが。
「あの〜……。リヴィンさん、一体何があったの……?」
勇者康一が思い切って尋ねるが、リヴィンはゆっくりと瞬きをした後に「いや……」と一言残すだけで理由を言う気配がない。2人が訳の分からない状況に困惑する中、心からの叫びをスルーされた億泰が仗助の両肩を掴みに行って泣きついた。
「仗助ェ! 康一ィ! 助けてくれぇ!! どうしたらいいのか聞いても答えてくれねぇんだ!!」
「俺も分かんねえよ……」
強く肩を揺すられるが、仗助にわからないものを解決しろと言われてもどうにもできない。
「大体、そういうのは典明さんかお前の兄貴に聞いた方がはやいだろ〜?」
「聞いても教えてくれなかったんだぜ!? どっちの為にも自分で気がつくべきだってよォ〜……」
「……『どっちの為にも』ぉ?」
その言い方だと億泰にもリヴィンにも問題があるように思える。こういう時こそ康一だと思い揺さぶられている視界で康一を見たが、当人は首を傾げて考え込んでいた。
「……もしかして、昨日なにかあったの?」
「もういい加減にしろって億泰。……そういや、この時間に話そうと思ってたんだった」
億泰を振り払い、再度お弁当を食べながら昨日起こったレストランでの出来事を康一へと話した。その間に億泰はしょぼしょぼしながら元の位置に戻ってお弁当の中身をつまんでおり、リヴィンは無表情のまま口へご飯を運んでいる。そうして話を聞き終えた康一は、腑に落ちた様子で頷きを返した。
「形兆さんと典明さんが教えないって判断した以上、僕から言うのはいけないかなって思うんだけど……」
「いいから言えって。俺らずっとこの調子に付き合わされることになるんだぜ?」
でもなぁと渋っている康一に、仗助は一度食べるのをやめて康一の近くに寄っていく。俺だけに話してみろと小声で伝えると、康一は「仕方ないなぁ」と言いながら手を添えて仗助の耳元でこう囁いた。
「多分だけど、リヴィンさんは嫉妬してるんじゃあないかな……」
あの人が、嫉妬?
あまりリヴィンと結びつかない言葉に、仗助は目を丸くした。