美味しいって思わないなんてことあるのか? と、哲学に足を突っ込んだトニオの質問に疑念を抱きつつもリヴィンの様子を見る。てっきりいつもの調子で「何を言っているんだい?」と言うと思っていたのに、リヴィンは目をぱちぱちとさせてからすんなりと回答をした。
「ないよ」
「……はァ? いや、それはねーって」
「ううん? ないものはないのだけれど……」
何をおかしなことを言っているのだろうという目で仗助を見てきているが、それはこっちの台詞というものである。やっぱこの人訳分かんね~となっていると、トニオはさして驚きもせずにリヴィンへ質問を続けていく。
「やはりそうでしたカ。……少々お待ちくだサイ」
トニオは席を立って再び厨房へと入り、数分後に戻ってきた。そのトニオの手には、リヴィンが作ったものと同じ料理が銀盆に乗せられている。
「こちらは並行してワタシが作っていたものデス」
食べ終わったお皿が片付けられてから、仗助とリヴィンの目の前にトニオの料理が置かれていく。リヴィンだけの料理では足りなかった上に、トニオの料理が食べられることに内心でガッツポーズをした。早速いただきますと言いながらパスタにフォークを絡ませて口に含ませると、明らかにリヴィンの時とは違う美味しさが広がっていく。舌がパスタに触れた瞬間、目を見張る味が脳まで届き多幸感が溢れて止まらない。じっくり味わいたいと思いつつも、もっと食べたいという欲まで生まれて頭がパンクしそうになるほどだった。水分が欲しくなってスープを飲む。更に美味しさで幸せが重なっていく。
「うんめェ〜ッ!」
美味しさで頭がいっぱいになっていたが、ふと視界にリヴィンが入り冷静になった。今はリヴィンの問題についてだ。よくよく観察すると、貪り食っている仗助とは対照的でただただ飲んで食べている。じっと見ているうちに、リヴィンは『食べる』という行為をしているだけだと気がついた。これ程までに美味しいトニオの料理だというのに、リヴィンは何を食べても表情が変わらない。『あの』トニオの料理だというのに!
引いている仗助をよそに、トニオは特に衝撃的な様子もなくリヴィンに言葉を投げかけた。
「いかがですカ?」
「……す、スープもパスタも私が作ったものとは違う調理方法がされているし、味も違っている」
一応きまずいことを言っている自覚はあるのか、目線を斜め下にしながら微妙に言葉を濁らせた返事をした。美味しいという答えがないのが『答え』だ。そもそも「いかがですか」という問いに返す言葉ではない。嘘でもいいから美味しいと言えばいいのだが、嘘はつきたくなかったのだろう。下手に嘘をつくよりは誠実に見えた。なんだかなぁと思いながらもリヴィンを見ていると、トニオは真剣な眼差しで口を開く。
「好みもないのでショウ?」
「……そうだね。好きなものもない」
「え? 林檎が好きって言ってなかったっスか?」
「前にも言った通り『設定』だよ。あった方がいいと花京院から言われたんだ」
リヴィンは「設定ってマジだったのかよ」と恐れ慄く仗助を見て首を傾げた。分かっていないのが逆に怖い。唖然としている仗助を置いて、トニオがリヴィンの質問に対する結論を出した。
「アナタに必要なモノは、美味しいと思う心デス」