人間を謳歌せよ if/没小話   作:雲間

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こっちの筆ばかり進む。


人間謳歌中③

 

 昨日のお礼がしたい。

 

 そうリヴィンからお昼休みに言われて、鞄を持って屋上でお昼ご飯を一緒に食べることとなった。俺も俺もと億泰もついてきている。本来屋上は鍵がかかっていて入れないのだが、他の生徒には聞かれたくない話が出そうだったので、仗助が扉を破壊して開けてから直して入った。

 億泰はこの行動にすんげぇ〜と感動をし、リヴィンは一度扉と仗助に視線を往復させていたのだが、特に何も言ってこなかった。

 

 三人で屋上のフェンスに背を向け、段差に座ってお昼ご飯を食べていく。リヴィンと億泰は弁当の大きさこそ違うものの、同じ内容の中身を突っついている。おかずの種類が多いので作った人は大変そうだ。億泰はとにかくがっついて食べているが、リヴィンは正しい箸の持ち方でひとつひとつ丁寧に食べている。かといって食べる速度が遅いわけでもなかった。仗助は朝買っておいた焼きそばパンに齧りつく。持ってきていた弁当は早弁をしてもうない。

 

「私と花京院との関係?」

 

 そもそも花京院からお礼のお菓子をもらっていたし、お礼はいいから関係性はなんなのかと尋ねたら、リヴィンは箸を止めて動きも止めて口を開いた。

 

「仲間で、大切な人だよ」

「仗助、この人の大切な人は大好きな人って意味だからよォ」

「億泰も大切な人だ。愛している。こうして一緒に過ごせているのは、何事にも変え難いものだと思っているよ」

「俺もだぜ〜!」

 

 形兆に対しても大切な人と言っていたのを考えると、友愛や家族愛的な意味合いなのは理解した。億泰はリヴィンの物言いがいつものことだからなのか、気軽に返答しているようだ。ストレートな言い方にドギマギしつつも話の筋を戻していく。

 

「えーっと、仲間ってなんの?」

「仲間は仲間だけれど?」

「あー、仲間になった経緯を聞きたくって」

「大切を取り戻す過程で、今の養父に呼ばれて仲間になったんだよ」

 

 リヴィンは説明はこれで問題ないといった満足げな表情をしている。思わず億泰に顔を向けると首を横に振られ、こう言われた。

 

「俺もそこは詳しく知らねーからよ。兄貴は知ってるかもしれねえけど……。典明さんに直接聞いた方が早いぜ」

「いや、やめとく……」

 

 過去を詮索しすぎるのは花京院の意にも反するし、リヴィン本人が話せる範囲がそれなのだと解釈して、それ以上の追及はやめておいた。まだ一日しかリヴィンと接していないが、おそらく承太郎や徐倫に対しても『大切な人』と言うのが分かる。

 リヴィンが何か探し物をしていて、それを助けた『父親』と縁ができて養子にでもなったのだろうと、仗助は思うことにした。

 

「そーいや、リヴィンさんのスタンドってなんなんですか?」

「私のスタンドは『クロス・ロード』と言うんだ。私自身の一部を知っている別の物体に変化させることができる」

 

 リヴィンが弁当と箸を別の場所に置き、髪の毛を一本抜いて自身の手のひらに円を描くように置いたかと思うと、瞬く間もなく髪の毛は『水』へと変化していった。

 

「おお〜……。それって本当に『なんでも』変化可能なんスか?」

「一度変化させた物を再度変更することはできないけれど、物体として存在するものならば大体できるよ」

 

 一度変化させた物を再変化できないのであれば、昨日仗助がスタンドで治せなかったのにも納得がいく。リヴィンとは完全に別のモノになっているということだ。

 リヴィンは手の水をわざわざポケットからハンカチを取り出して拭き取ったのち、もう一本髪の毛を抜いて手のひらに置いて金色に輝くモノへと変化させた。

 

「……金属?」

「原子番号79、元素記号Auの金だよ」

 

 つまり、本物の金。やろうと思えばいくらでも増やせるし、売ってお金を稼ぎ放題になるのでは……? という考えがよぎったが、リヴィンは容赦なく細い金をペキペキ折った。そうして鞄から小さいビニール袋を取り出したかと思うとその中に金を入れ、弁当を食べ終えていた億泰に「お願い」と手渡す。

 

「おう!」

 

 元気よく返事をした億泰は、青と白を基調とした人型のスタンドを繰り出し、ビニール袋を宙に浮かせてからスタンドの右手を袋目掛けて振りかぶらせた。 ガオン! という音がしたと思ったら、ビニール袋は跡形もなく消え去っている。

 

「俺のスタンドは『ザ・ハンド』つってよォ〜。こう右手で振りかぶったところを削り取れんだ。削ったのは完全になくなるから注意してくれよな!」

 

 やべースタンドじゃあねえかと仗助は思ったが、こんなしょうもないことにスタンドを使っている辺り悪用はしなさそうだとも思った。

 

「アッ、でもよおリヴィンね、……ごほん。リヴィンさんよォ、典明さんから簡単にスタンド使うなって昨日怒られてなかったか?」

「こっ、これは、説明の為だから大丈夫だよ億泰」

 

 思いっきりリヴィンの目が泳いでいる。昨日相当に説教を食らったのだと必然的に理解した。リヴィンは誤魔化しに弁当と箸を再度手に取り、食事を再開させている。なお億泰はそれならいいかと簡単に騙されていた。仗助としても説明してもらったしわざわざチクるつもりはない。

 

 こうしてお昼休みが終わり、教室へと戻っていく。

 朝からもしていたのだが、授業中や休憩時間のリヴィンを観察して思ったことは、少しどころじゃない大いにズレた人だということだ。外国人ということで勝手に納得されている部分はあるが、言動が色々おかしい。昨日は質問されてばかりだったのと、初日だからと先生側が遠慮していたから分からなかったことだった。

 

 例えば数学。先生に当てられて黒板に答えを迷いなく書いたと思ったら、その下に謎の数式を書き始めたのである。

 

「あの〜、ジョースターさん? そこはまだ習っていない範囲だから書かなくていいのよ?」

「えっ」

 

 リヴィンは先生を見つめて固まったのち、ゆっくりと頷いてから余分な部分を消していった。知識のひけらかしではなく、本気で書かなければならないと思っていたようだ。

 

 次に世界史。エジプトの成り立ちについての小テストがあり、隣の人と交換をして採点をする形式だった。リヴィンと交換をした女子がプリントを見た瞬間に「わっ」と声を出してみんなの目線を集める。その女子は「先生」と声を出して、リヴィンの小テストを先生に差し出した。先生はそのプリントを確認し、引き攣った顔でリヴィンに声をかけていく。

 

「ジョースターさん。確かにこれは正式名称……? ではあるけれど、ここではそこまで求めてないからね? 教科書に書かれている日本語……いや、カタカナで名称を書いて下さいね?」

「……ううん? 分かりました」

 

 後々女子が休憩時間でしていた会話から知った事実は、エジプトの言葉──アラビア語で回答がなされていたのだという。あの記号のような文字がプリントの解答欄で踊っていたのだというのならば、困惑するのも当然だ。

 

 と、ここまではリヴィンの知識がすごいことを理解させられた内容だった。しかしながら、次の現国はそうもいかなかったのだ。

 

 羅生門。日本の文豪である芥川龍之介の書いた小説で、今回最後まで読み進めたところだった。先生が解説をしながら、生徒に質問をしていく過程でリヴィンが当てられる。

 

「ではジョースターさん。下人の欠けていた勇気が出た理由は一体なんでしょうか」

「……勇気?」

 

 なんだかよく分からないところが引っかかっているようで、リヴィンは首を傾げている。数秒沈黙したところで、躊躇いがちにリヴィンは口を開いた。

 

「ロジック的には老婆の行動を見て『己もしても良い』と導き出される構図になっていますが、それでは説明がつかないと思っているので分かりません」

「え、えーっと、その回答で問題ないんですよ……?」

 

 馬鹿正直だというべきなのだろうか。内容の理解はしているはずなのに、分からないと回答するリヴィンの方がよく分からない。引き続き首を捻るリヴィンに、先生は苦笑しながら授業を進めていった。

 

 

「なんつーか、どんまいっスね」

 

 授業が終わり、ホームルームが終わり。流石に可哀想に思えた仗助は鞄を持ってから、慰めにリヴィンの側へとすぐに寄っていった。

 

「何がだい?」

「いや、今日すげー恥ずかしいことになってたじゃあないですか」

「恥ずかしい……?」

 

 言われていることに心当たりがなく、今回の出来事を恥ずかしいとすら思っていなかったようだ。天然なのか、それとも雰囲気が読めていなかっただけなのか。

 

「失敗をすることは恥ではないよ。今日学んだことで、私はもう同じ過ちを犯さない。……でも想像力を働かせる問題は多分、無理だ。こういうのは苦手すぎる」

「そこが一番どうにかなると思うんスけど……。ま、アンタがそれでいいならいいや」

 

 余計な心配だったようだ。問題ないならと、頭を少し掻いてから仗助は軽く手をあげ「じゃあ」と教室を出ていく。

 

 仗助は、まだリヴィンとの距離感を測りかねていた。

 

 

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