ようやく今日はキャンプの日だ!
この日の為に宿題も全部終わらせた訳だし、斎藤社長にも2泊3日で旅行に行くことを伝えたので問題無い。
そしてB小町の全国ツアーは丁度キャンプに行く日からスタートとなり、アイはチラチラと僕の事を見ていたけれど、僕からは特に何も話す事はなかったのでスルーした。
「ニノさん全国ツアーがんばってくださいね」
「がーん」
「アクア君……お土産期待しててね♪」
「はい」
ニノさんはそう言うと嬉しそうに車に乗り込んで行った。
「え~ニノだけ応援するの?」
「ねね。アクア君私達は?」
「勿論皆さんも頑張ってくださいね」
「「「「「よーしがんばるぞ~」」」」」
他のメンバーにも声をかけると皆良い笑顔になった。
アイドルとして年齢的にはちょっと厳しいものがあるだろうけど……これが最後のライブなので悔いを残さぬように頑張って欲しいけど……あんまりB小町に肩入れするとカナンさんが可哀そうになって来る。
ソロアイドルとグループのアイドルではやっぱりグループの方が断然有利なのだ。
ダンスに関して言えば、人数が多いグループだとそれだけで一体感が出るし視覚的にも見栄えが良いのだ。
大してソロだと一体感よりもその人特有の世界に引き込めれるかどうかが問題だ。
ドーム公演をソロで何度もやってるカナンさんだけど、ダンスは体力勝負だから負けはしないだろうけど……歌は個人の声量で7人に対抗すると考えれな圧倒的に不利な状況にしか思えないけど……何故かカナンさんが負けるとは思えなかった。
そんな事を考えて居たら、一台の大きな黒い車が近づいて来たと思ったら、その車は僕の近くに停まった。
運転席から降りて来たのは父さんだった。
「あれ? 父さんこんな車持ってたの? なんか物凄く高そうだけど?」
車にそんな詳しい訳じゃ無いけれど……父さんが運転していた車は恐らく高級車だと思う。
「ええ、メルセデスベンツVクラスで1400万近くしましたね」
「ええ~!?」
1400万!?
「じゃあ、今車2台あるんだよね?」
「ええ……普段乗っているのもベンツですけどね。ま、車の事は気にしないでアクアも乗ってくださいね。荷物は後ろに入れますよ」
「う、うんありがとう」
父さんに荷物を渡すと後ろのトランクを開けて入れてくれたけど……収納スペースがかなり広かった。
「じゃあアクアは後ろに乗ってくださいね」
「え!? 僕助手席でも良いよ」
「いえ、助手席は上原パイセンにお願いしてますので大丈夫です」
ん?今父さん上原さんの事パイセンって呼んだ?
「ん?カミキ俺なら後ろに行くぞ?」
徐に助手席の窓が開くとそこには隣人の上原さんが居た。
「あの……つかぬ事を伺いますがよろしでしょうか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
僕は意を決して上原さんに尋ねた。
「父さん……いえ、カミキさんとは元々お知り合いだったんですか?」
「おう」
いや、おうって……
「父さんどういうこと?」
僕は父さんに疑いの目を向けると父さんは僕の肩に手を置きながら答えた。
「いや~アクアがどのタイミングで気が付くかちょっと楽しんでしまいました」
「いやいや、普通に気が付く訳無いよ!」
僕がそう言うと上原さんはニヤっと笑いながら答えた。
「いや~役者として最高の誉め言葉だぜ」
ああ、そう言えば上原さんも役者だって言ってたし……隣人役としてみたら僕の発言は確かに最高の誉め言葉だ。
「ちなみに差し入れとかしてくれたのは父さんの子だからですか?」
「勿論そう言った気持ちもあるが……知り合いの子が頑張ってたら応援したくなるのが人情だぜ」
上原さんの言葉はまっすぐで僕は嬉しく思えた。
「まぁー私としてもパイセンが隣人なのは本当にありがたいですからね。アクアが芸能人である以上住んでいる部屋の隣人がどんな人か分からないのはかなり怖い物ですからね」
それを言われると返す言葉は何もなく僕は頷くことしか出来なかった。
「さぁアクア出発しますから乗ってくださいね」
「……うん」
父さんに言われて車に乗ると……上原さんが居る以上奥さんの姫川愛梨さんと大輝さんも既に居るし、有馬は父さんと一緒に暮らしてるからここもセットなのは当然なのだが……
「そう言えばもう一人いましたよね。黒川あかねでしたっけ?」
「ええ、黒川さんこれから迎えに行くところです。パイセン黒川さんの住所分かりますか?」
「ああ、任せろ!」
上原さんはそう言うと慣れた手つきでナビを操作し始めた。
「それでは出発しますのでシートベルト付けてくださいね」
父さんはそう言って車を発進させた。
黒川あかねの家はしらないけれど……都内住んでいるし、そんなに距離がある訳で無かったけれど……黒川あかねの家に到着するのにかかった時間はおよそ50分近くかかった。
実際の運転時間はおよそ20分程度なのに……父さんが運転している所為で警察の方に何回か止められたのが原因だ。
僕や上原さん達は既に感覚がマヒしている部分が否めないが……見た目中学生の父さんは警察の方からすると未成年としか思われないようだし、服装だって白いTシャツの上に黒いパーカーで下はデニムとラフな格好も相まって年相応には見えなかった。
まー車に乗っているからズボンは見えないんだけど……
「うーん何でこんなに年確されるんでしょう? 安全運転なのに……」
父さんは首を傾げていたが……
「カミキのファンなんじゃねーの?」
絶対に違うから上原さん!
「そうですかねぇ~それなら全然良いんですけど……」
警察がそれやったら職権乱用なんだけど……
「とりあえず、黒川乗っけたら運転は俺が代わりにするぜ」
「そうですね。こう何回も止められると困っちゃいますし……パイセンお願いします」
「おう!」
そんな訳でようやく黒川家に着いたが……
意外と良い家に住んでいるようで裕福な家の子のようだ。
父さんが運転席から降りて早速インターホンを鳴らすとすぐさま母親と黒川あかねが出て来た。
「遅くなってしまいすみません。お迎えに上がりました」
父さんがそう言うと黒川の母親は微笑ましい顔で父さんを見ると……
「あらあら、あかねのボーイフレンドかしら? お名前を伺っても?」
いきなりボーイフレンド認定されてしまったけどその人28歳なんだ。
「ちょっとお母さん! こちらは劇団ララライの先輩でカミキヒカルさんです」
「……ご紹介にあがりましたカミキヒカルです。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をする父さんを見て黒川母は更に勘違いし始める。
「あらあら、今時の子にしては礼儀正しいじゃない。それではカミキさんあかねの事よろしくお願いしますね。」
「ええお任せください」
「ウチの娘にも春が来たわけね!」
「もう辞めてよお母さん!」
車外での会話はこっちにも筒抜けで同じ劇団に所属しているからこそ、ここまで取り乱している黒川あかねを見た事無いのかみんな面白がっていたが……僕の場合は学校の先輩だし、そもそも人となりを知らないので面白がれなかった。
「有馬……黒川あかねってどんな人なの?」
「ぷくく……まぁ真面目で演技バカなんだけど、頭は良いわね」
「ダメよかなちゃん。そんなこと言っちゃ」
笑っている有馬を窘める姫川さんだけど……表情は実に楽しそうだった。
「そうだぞ。……しかし、黒川にこんな人間味あるとは思わなかったし、こういった面をもっと出せば売れそうだよな」
大輝さんも同意を示しているし……流石最優秀賞を受賞しただけに演技に関しては真面目なのだ。
「ふーん、ちなみにどんな演技をする人なの?」
「黒川はメソッド演技……つまり役を調べ尽くしてそのものに成りきる演技よ。カミキも同じタイプね」
「唯ねぇ~メソッド演技はやり過ぎるとメンタルに不調が出るからちょっと見ていて不安になるのよね。ヒカルは例外だけど……」
「まー兄さんはメンタル強いから問題無いけど……分かりやすく言えば、ロボットにデータをインストールしてそのデータ通りに行動するようなものだけど……黒川は真面目だから常に100%の力を出して演じる。それ自体は良い事なんだけど……」
「ぶっちゃけて言えばメリハリが無いし、解釈が一致しないと実力が出せない部分がある」
上原さんが最後に一言でぶった切った。
「……メリハリは確かに重要ですし、役作りはやり過ぎると感情が引っ張られるますもんね」
「そうそう、それにメソッド演技は経験したことが無い事は出来ないし色々と欠点もあるわよ」
うーん色々と考えさせられるものだ。
僕も演技をする時はある程度キャラの心情を理解しようとするけれど……全部は不可能だし、アカギだって演じたわ良いけど……恐らく1%だって理解出来たかも分からない。
そんな事を考えて居たら車のドアが開いた。
「やっほ~あかねちゃん」
「よっす」
「あ、愛梨先輩に大輝さんおはようございます」
「長かったわね~」
「かなちゃんおはよ~」
件の人物黒川あかねが車の中に入って来た。
「あっ初めまして星野アクアです」
僕がそう言った時だった。
「君は……星野愛久愛海だよね? 私は黒川あかねよろしくね」
屈託の無い笑顔で黒川あかねはそう言ったが、僕はちょっとよろしくしたくないかも……
とりあえず……高校に入る前には本名を必ず改名してやると心に誓った。