☆☆☆
「「アナタのアイドル~サインはB」」
対バン形式は初めてだけど……私が今できる最高の愛をファンに届ける。
何故ならこれが最後のライブだから……
その為他のメンバーも普段以上の実力を出しており、特にニノはやけに目を惹くようになった。
ニノは何時からこれほどの実力を持つようになったのだろう?
今まで殆どボーカルは私だったけれど……ここ数年ではニノの方がボーカルを任される事が多くなったし……センターを取り合う程までにニノは脅威になっていたが高峯達は相変わらずバックダンサーみたいな扱い……
チラッとニノを見るとキラキラと輝いて見えた。
私と違いニノは愛を知っているし……ヒカル君から愛されてる。
ヒカル君に私は何度もホテルに行こうって誘ったけれど、決して首を縦に振るう事はしなかったけれど……ニノやカナンに関しては二つ返事でホテルに行ってる事を私は知っているし、恋愛リアリティーショーのドラマに共演したときはゆらちゃんに横からヒカル君盗られちゃうし……色々とアレだけど……それもアイドルを卒業したら関係ない!
今はまだアイドルだからファンの皆にアイドルとしての愛を伝える!
「「ようやく会えたね 嬉しいね 待ち遠しくて 足をバタバタしながら 今日楽しみで寝れなかったよ」」
まるで歌詞をリンクするように私の脳内に旅行中のアクアの笑顔が浮かぶ。
写真を見た時最初はもの凄く悲しかった。
どうして、私じゃアクアを笑顔に出来ないのか……ずっと悩んでいたし、その答えは今も出た訳じゃ無いけれど……今は『アイドルとしての幸せ』を噛みしめている。
これだけのファンの前で歌う事は今後無いだろうし、悔いの無い様に頑張る。
そしてアイドルを卒業してから『母親としての幸せ』を改めて掴む事にする。
そう、アイドルを卒業した後なら……また家族で一緒に生活しても問題ないし……そもそもヒカル君は愛梨さんとも関係持っているんだから私にももっと構うべきだと思う!
別れた事がそんなに重要なのか私には分からないけれど……
愛梨さんなんて騙し打ちで妊娠した訳だし、私だってその辺りは同じ条件なんだから同等に扱っても良いのに……同等に扱ってるのはアクアと大輝君だけなんだよね。
……ルビーがヒカル君の事を一体どう考えてるのか気になる。
父親だから愛してるとは思うけど……ヒカル君がルビーと話してる所をあんまり見た事がない。
そんな事を考えて居ると関係者席でゴローさんとルビーが私の事を応援してくれているのが目に入った。
赤いサイリウムを振って嬉しそうに応援してくれる二人の姿を見ると自然と体に力が漲るし、声に力が入る。これがもしかして……愛なのかも……ううん……きっとそうだ!
ああ……私……ようやく愛が分かった!
ライブが終わったら……私は愛を伝える。
「「「「「「「アナタのアイドル~サインはB」」」」」」」
そうこうしていると一曲目が終わった。
……終わってしまった。
私はまだ……愛を伝えたい……そして皆に……愛されたい!
「みんなぁ~『サインはB』聞いてくれてありがとー♡次は『STAR☆T☆RAIN』行っくよ~」
曲が流れる。
「「「(We! Are! STAR☆T☆RAIN)」」」
「「「(Check! Now! Come on! Come on! Come on! Come on!)」」」
「「「(We! Are! STAR☆T☆RAIN)」」」
「「難しいこと考えるよりも もっとスウィートな愛を感じてたいの!」」
「「良いも悪いも見た目じゃね?(見た目じゃね?)」」
「「大人しそうなほど騙されるの!」」
ニノと一緒に歌う事になるなんて夢にも思わなかったけど……これはこれで楽しいし、ビジネスパートナーとしては有りだろう。
……でもヒカル君は渡さない!
「「Be All Right 今は運に身を任せ Ah……(いつもそうさ 一瞬が勝負)
Be All Right 君はどっちが良い?大切なことはそう見えないの」」
ヒカル君は私のだ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
謎の幼女の助言なのか忠告なのか宣告なのか分からないが……今の所トラブルなどは無くライブの日を迎えてしまった。
只今楽屋にてアイドル衣装を着ており、鏡の前でどこかおかしい所が無いか確認しているが……
「骨格は別として、多少メイクしたものの……顔はこんなに似る物だろうか?」
見れば見る程アイにそっくりな自分の顔が写っていた。
「カミキ~準備出来た?」
ガチャっとドアが開く音が聞こえたので、振り返るとアイドル衣装を身に纏ったカナンが入って来たが……俺を見ると目を白黒させて驚いていた。
「……アイ? いや、えっと……カミキだよね? 駄目だ脳がバグるかも……」
「私はまだ演技して無いんですけど……」
「本当にカミキだよね? アイじゃ無いんだよね? 見た目がそっくり過ぎるから分からないよ!」
……だよね。演技で本人に成る事は多々あったけれど、見た目だけでここまで似るとは思って居なかったし、俺もびっくりしている。
「……じゃあ、もう時間だし『B小町』との対バン行くわよ!」
「うん、わかったよ♪」
アイみたいにキラって感じにウィンクをすると……
「……本当にカミキ? 実はアイってオチは無いわよね?」
物凄く疑われてしまったが……一緒に生活しているカナンでさえこの反応ならば会場に居る人たちも騙しきれるだろう。
俺とカナンは楽屋を出てステージに向かった。
国立競技場のキャパはライブでは約8万8千人……
今この場に居る人達が果たして何人いるのか俺には分からないし、対バン形式なので『B小町』のファンだって大勢居るだろうし、そもそも純粋なカナンのファンがどれだけいるのか分からない。
そんな不透明で、ましてや『B小町解散ライブ』の最終日となれば、絶対的にこっちの方がアウェーになるだろう
「カミキどうしたの? もしかしてビビってる? 私がエスコートしてあげようか?」
カナンは俺に手を差し伸べて勝気な笑みを浮かべてこっちを見ている。
「……面白い事言いますね。これでも私は見られてナンボの舞台役者ですよ? これしきの事なんて訳無いですよ」
「流石カミキ頼りになるわね! じゃあ『B小町』も今最後の曲が始まるようだし、これが終わったら私達の番ね!」
「もっちろん~じゃあ楽しもうかカナン」
「……いきなりスイッチが入るとびっくりするわね」
そして俺とカナンは舞台裏にて『B小町』の最後の歌を聞いていたが……
「無敵の笑顔で荒らすメディア 知りたいその秘密ミステリアス 抜けてるとこさえ彼女のエリア 完璧で嘘つきな君は 天才的なアイドル様」」
アイが歌ったその歌はこの世界で初めて聞く『アイドル』だった。
「今日何食べた? 好きな本は? 遊びに行くならどこに行くの? 何も食べてない それは内緒 何を聞かれても のらりくらり」
あの日競馬場に行った時にアイが口ずさんでいたどこかで聞いた事があるフレーズ……
俺は知らなかったが……もしや、あの時点である程度骨組みは完成していたのかもしれない。
「……まるでアイの為にあるような曲ね」
カナンはぽつりと零したが……これはそんな生易しい物ではない。
1番目の歌詞はまだ良いが……2番目の歌詞は裏側の嫉妬や憎しみと言った狂気染みた部分があるが、嫌に引き込まれるものだ。
どうやらアイはアイドル人生を賭けた勝負に出たようだ。