散歩でもしながら今後はどうするか考える。
アイとはちゃんと別れているので、ニノと付き合うのは別に問題無いだろうけど……何と言うかアイの考えが良く分からない。
妊娠したから子供を産みたいと思うのは別段おかしな話じゃないけど、別れを自分から切り出したのに……そこで関係が切れたと考えて無いのがアイの怖い所だ。
今回のライブだけど……ニノを応援しに行くのは全然構わないけど……B小町のライブなので当然アイもいる訳だが……アイはやたらと視野が広いし、ニノから渡されるであろうチケットは特等席になる事は間違いない。
つまり……アイに見つかるのは間違いないのだ。
やましい事は何もしていないのになんで俺がこんな目に合わないといけないのだろうか?
出来れば雨宮医師も宮崎から東京に転勤してくれれば良いのだが……個人の事情で病院関係の転勤は果たして可能なのか? 仮に可能だったとしても正攻法ではすぐに出来るとは思えないので、その場合根回しが必要だと思うけど……雨宮医師が優れていたとしても、少ししか話て無いから断定は出来ないけど、性格的にそう言った裏工作は苦手な気がする。
なので、もしB小町の復帰一発目のライブに雨宮医師が居た場合……それを可能に出来るのは現状アイだけだ。
心の底からアイと雨宮医師がくっ付いてくれる事を祈るけど……うーん、かなり難しいだろうな。
特に何もすることが無く、そろそろ帰ろうとした時だった。
「……あ、カミキ君だよな?」
何故宮崎に居るはずの雨宮医師がここに!?
「そうですけど……なんでここに雨宮医師が? もしかして、東京に転勤になったんですか?」
内心物凄くびっくりしたけど……まさか……本当に転勤なんてしたんじゃないだろうな? もし、それをしたのがアイなら……アイは想像以上に権力を持っている事になる。
「いやいや、そんな簡単に転勤なんて出来る訳無いじゃないか! 有給を使ってB小町の復帰ライブを見る為に来たんだよ!」
「……そ、そうですか」
そうだよな……転勤なんてそんな簡単に出来るもんじゃ無いし、有給の方が現実的だよな!
「……ちなみにどれくらいこっちに居られるんですか?」
「ああ、一ヶ月半ぐらい東京に居るぞ」
……それって有給全部使うってだし、もしや……
「……お仕事辞められたんですか?」
「……良く気が付いたね。宮崎の病院は辞める事にしたけど、こっちで医療関係の仕事は続けて行くつもりだ」
「そうですか、となると……アイさんと……いえ、踏み込み過ぎですね。とりあえず頑張ってくださいね」
「待って! その違うからね。俺はただ純粋に……そう! 1ファンとして彼女を支えて行こうと思ってるだけでやましい事なんて何も無いからね!」
そこは出来れば男として支える位言っても良いんじゃないかな?
「いえいえ、人の恋路を邪魔する程私は無粋ではありませんから、頑張ってくださいね雨宮医師」
「いや、だから誤解だってばカミキ君!」
誤解も6階もありゃしないでしょうが!
女の為にわざわざ仕事先を変えるなんて、中々出来る事じゃ無いんだから誇っても良い事なんよ。
とりあえず……叫んでいる雨宮医師は放置して俺はニノが待っている自宅に帰る事にした。
「ただいま~」
「お帰りなさい……ご飯にする? お風呂にする? そ、それとも私にすりゅ」
飯は食ったばかりだし、汗は掻いて無いけど散歩とは言え外に出て訳だからお風呂にするか……しかも、まだ1日は長いのだから慌てる事は何もない
「……先にお風呂にしますね。ニノさんはその後です」
「うん♡」
その日は久しぶりに退廃的な生活を送る事が出来た。
そして、一週間が経過した。
一応B小町の復帰ライブの為にその日は予定を開けていたからこの後仕事は無いからゆっくり出来る訳だが……
やはり思った通りニノから貰ったチケットは特等席で、ステージからはよく見えるのだろう。
アイドルのライブ以前に普通のライブを知らないけれど……席に座ったまま見ていて良いものなんだろうか?
とりあえず、飲食は駄目だよな~
ライブ会場に着く前に何か食べてくればよかったと思わずにいられなかった。
ライブが始まる頃にはファンの方たちは手にサイリウムを持っているけど……俺はそんなもの用意して無い!
ニノと目が合ったら手でも振ってやれば良いや
そんな感じで気楽にライブを考えて居ると……照明落ちて、ステージに光が集まり……B小町が現れた。
「今日は私達B小町の復帰ライブに集まってくれてありがとう! じゃあ早速『サインはB』から行っくよ~」
センターのアイがそう言った瞬間まるでライブ会場全体が揺れる程の歓声が溢れた。
「「「「「「「あなたのアイドル サインはB! chu!」」」」」」」
B小町が『サインはB』を歌い出した瞬間ファン人たちはサイリウムを振ってアピールし始める。
そんな中微かにだが、知っているような人の声が聞こえており、その声は周りの声に負けないぐらい頑張ってはいるものの近くじゃないと全く気が付かないレベルの物だった。
その声の主が気になって周りを見渡すと……俺の席から三席程離れた場所で両手に赤のサイリウムを握りしめて全力で応援している雨宮医師がそこに居た。
今は白衣を着て居ないから周りの人は分からないだろうけど……この人医者です。
そして雨宮医師に気が付いたのかアイのパフォーマンスが良くなり始めた。
その瞬間だった。
アイとニノ以外のメンバーの空気に温度差が出始めてる。
しかし、アイのファン達はそんな事に気づかないし、気づけない
何故なら彼らはアイのファンで合ってB小町のファンでは無いのだから……
そんな事を考えながらライブを見ているとニノと俺の目が合ったような気がしたので、軽く手を振ってあげると……それが功をなしたのか表情が良くなり始めた。
そうなると今度はメンバー間でも何かしら感づくものなので、俺の方を一瞬ではあるものの何かしらのタイミングで見ていた。
『B小町! B小町!』
そして当然……アイも俺の存在に気が付く訳なのだが……ほんの一瞬だったが……こめかみに血管が浮き出ていたのを俺は見逃さなかった。
赤いサイリウムを振って無いどころか持ってない事がお気に召さなかったようだが……別れた男に推されるって実際どうなのだろうか?
その後も黙って『サインはB』を聞いていたけど俺の感想は唯一つ……『サインはB』ってアイドルソングじゃ無くてコミカルソングだよな?