喫茶店『キャッツアイ』での食事を終えて、お土産も購入した事だし俺達は撮影現場に向かう為、改めて上原パイセンの車に乗り込んだ。
「もうお腹いっぱいだよ~」
アイはそう言うと少しばかり苦しいのかぽっこり出てしまったお腹を擦っていた。
正直言えば、卵サンドが一斤分出て来た訳なので……女性のアイには少しばかりきつかったようだ。
「あの量がたまんねぇんだよなぁ~」
どうやら上原パイセンは小倉サンがお気に入りみたいだった。
「それにしてもヒカル君は大丈夫なの? 私の分も手伝ってくれたけどナポリタンと照り焼きサンド食べてたし……」
アイはそう言うと自然な動作で俺のお腹を撫でて来たけれど……俺が触ると逆に悦ぶ恐れがあるからやり返せないな。
「……って全然膨らんでないし!」
「消化能力が高いのかもしれませんね」
「……う~ん、あっそうだ。私だけ触るのも何だし、ヒカル君も私のお腹触っても良いよ?」
「遠慮しておきます」
「なんで!? 減るもんじゃないし、遠慮しなくても良いんだよ!」
アイはそう言うと俺の手をすぐさま掴んで来たけれど……
「元気良いのは結構だが……食ったばかりだから気を付けた方が良いぞ?」
「私はリバースなんか絶対しないけど……大人しくしてまーす」
上原パイセンはニヤニヤしながらそう言うとアイは大人しくなった。
「上原パイセンちなみに何時頃に着きますか?」
「そうだな……ナビだと、30分位だな」
30分……まぁ食後の休憩と考えれば問題無いだろう。
俺はテイクアウトのコーヒーを飲みながら車の窓から見える景色をぼ~っと見る事にした。
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撮影現場に着くと既に監督は勿論スタッフや演者も来ていた。
「「「おはようございます」」」
俺・上原パイセン・アイと3人揃って挨拶をすると、奥に居た監督が気づいたようで、熊の様にデカいからだを揺らして、喜色満面の笑顔でこっちに来た。
「ヒカルちゃ~ん! 僕はこの日をず~っと待ってたんだよ! ようやく……ようやく……ヒカルちゃんが主役のドラマが取れるなんて僕は感激だよ!」
この監督とは長い付き合いという事もあり、お互い色々と無理を言ったり言われたりと早い話が持ちつ持たれつつの関係なのだ。
「監督今回はよろしくお願いします。後これ良かったら皆さんで食べてくださいね」
「ほんとヒカルちゃんはこう言う嬉しい事をスッてやってくれるねぇ~昔なんかはありふれた光景だけど、今じゃあどこの事務所もそう言った気遣いは無いし……時代なのかなぁ~」
改めて監督に頭を下げつつ、先ほど喫茶店『キャッツアイ』で購入した卵サンドとコーヒーを渡すと監督は嬉しそうに受け取ってくれたが……この差し入れの文化も今じゃあ、あんまりやられていないようで、監督はぼやいているけれど……俺からすれば何故やらないのか不思議で理解が出来ない。
そりゃ月に何万も使うのであれば考えてしまうが……金額だけで言えば1000円いかない程度の物だし、味は実際に食べたから保証出来るのと何より量があるので喜ばれるのだ。
潔癖な人程、こういった賄賂に難色を示して陰口を叩くが……芸能界に限らずチャンスはそもそも待つものでは無く作るものだ。
実際お偉いさんは高級な物を食べたがる傾向はあるが……こういった現場にいるスタッフは下っ端だし、給料も低いのでこういった差し入れは感謝される事は有れど……恨まれる事は全く無いのだ。
「カミキはこう言った事マメだよなぁ~」
「……でも上原さん実力があればこんな事しなくても問題無いと思うけど?」
上原パイセンは感心したようにそう言ってくれたが、アイはそう言った人の機微に関しては未だに無頓着だった。
まーだからこそアイドルグループの『B小町』は最後までビズネス上の関係であり、仲良しでは無かった訳だ。
「……アイさんの言う通りです。こういった差し入れは別に無理にやる必要は無いですし、やらなかったとして何かデメリットがある訳じゃあありません。「じゃあ……」ただし、こういった小さな積み重ねをしてきたからこそ私は役者の仕事が途絶えた事が無いんです。アイさんが『アイドル』をやって時は良かったかもしれませんが『アイドル』を卒業した後は芸能界で生きるにはこう言った事がドラマや映画に出演する為には必要かもしれませんね」
俺がそう伝えるとアイも何か思うところがあるのか考え始めた。
しかし、そのバランスがなかなか難しいのだ。
女性がそれをやり過ぎると相手が勘違いをして、見当違いの結果になる場合がある。
俺は男だから……女性が相手ならば寧ろ抱きに行くし、上原パイセンはバイだから選り好みしないし、俺の代わりに行ってもらう事も多々あった。
まぁー何にが言いたいかと言えば、アイドルはゲイの友達を作れば良いんだよ!
枕を強要するような奴らは全員掘られまえば良いのだ!
「では準備も有る事だし、上原パイセン楽屋に行きますよ」
「ヒカル君私の楽屋で準備しない? 私は気にならないよ」
「すみません。今日はパイセンの体に用があるので……」
「一体どういう関係なのヒカル君!?」
「はっはっはモテる男は辛いぜ!」
驚きの余り叫んでしまったアイを尻目に俺は上原パイセンを引っ張って楽屋に連れていった。
さて、このドラマ……『特殊捜査員:神裂光のオカルト事件録』の主人公神裂光は捜査一課に所属していていたが、ある日殺人事件の担当をする事になるが、その事件を皮切りに奇怪な出来事に巻き込まれるようになるって話だ。
しかし……主人公である神裂光の性格は警察官としてお世辞にも良いとは言えないもので、事件を早期解決する為に犯人を騙して証言を吐かせるなんて日常茶飯事で証拠の捏造なんかもやってしまう倫理観が欠如している部分があるし、一番の問題が女好きなので、だからこそ捜査一課内では毛嫌いされているのだが……女好きは正直困ったものだ。
ドラマ内でも色々な女性を口説いてるシーンが台本を見た感じ多くあり、アイが演じる新人警察官神条咲も例外では無く、またキスシーンも多くなっているのだが……キスシーンに託けて舌を入れるなんて事は昔は良くあったものだし、何とはなしにアイならやりかねないと思う変な信頼がある。
「それにしても俺がまさか暴力団対策課の刑事役とはなぁー」
「上原パイセンはヤクザや不良とかの役が多かったですもんね」
「今度は捕まえる側をやるんだからおもしれーよな!」
漫画やドラマにゲームなんかはそう言った設定は多いけれど、実際に元不良や元暴走族なんかが警察官になる事なんて果たして出来るのだろうか?
「実際にそう言った経験ってあったりしますか?」
俺は興味本位で上原パイセンに聞いた。
「おいおい、カミキ……俺の事を一体なんだと思っているんだ? こちとらか弱い一般市民様だぜ? お上に睨まれる事なんてやって無いぞ」
「で……ですよね」
そうだよな。流石に上原パイセンもそんなことしないよな。
「そう言った事は人知れずスマートにやるんだよ」
前言撤回やっぱり上原パイセンは上原パイセンだった。