嘘を信じさせる瞳……
アイのその瞳は黒い星を写し爛々と輝いており、これがアイをアイドルたらしめていたものだろう。
しかし、その瞳の正体は結局の所……勢いだけであるのだ。
何せ根拠など何一つないのだから、証拠を出せと言われればそれでおしまいなのだ。
「……あの時の私はどうかしていたの」
悲しそうにそう呟くアイの姿は本当に後悔しているように見える。
「だけど……今は違う! もう私は決して逃げないから……お願いヒカル君……信じて」
まるで恋愛ドラマのヒロインの様な振る舞いをするアイは俺の胸元に抱き着くと、後ろに手を回して絶対に離さないと確固たる意志を持って手に力を込めている。
「ヒカル君……んっ……んー?」
アイは顔を上げて不意打ち気味にキスをしようとしたので、人差し指をアイの唇に置いて止める。
「……ヒカル君?」
唇の感触が可笑しいことに気が付いたアイはすぐさま目を開けて確認していたが……ちゃっと言っておかないとな!
「アイさんダメですよ」
「ど……どうして!?」
アイはそう言ってうろたえるけれど……いや、そりゃそうでしょ!
「先ほども言った通り、ゴローさんに申し訳ないので……」
「ゴローさんなら大丈夫分かってくれるよ!」
それはゴローさんがアイのファンだから、アイがゴローさんに言えば本心はどうあれイエスマンになるのは当然だろう。
「わかりました。それでは……」
「じゃあ問題は無いようだし……さっきの続きを」
そう言うとアイは再度キスをしようと顔を近づけたので、やっぱり止める。
「ヒカル君? 今了承したよね? 何が不満なのかな?」
「ええ……言った言わないは怖いので、ゴローさんに書面で了承の判子と血判を押したものを作る様に言ってくださいね」
「ええー!? そこまでするの!?」
アイは驚愕の表情を浮かべているが……仮にも肉体関係もあり同棲している相手なので、そこはちゃんとしておかないと……俺がゴローさんに刺される可能性が出て来る。
「アイさんは結婚はしてないかもしれませんが……現在そう言った相手が居るのに別の男と関係を持とうと言ってる訳なんですよ? なのでこれは私なりの落としどころですね」
いや、これが赤の他人ならばちょっとした火遊びで済むけれど……かれこれ10年以上同棲しており、かつ肉体関係もある男女の仲に連れ込まれる訳ならば俺だって保険は掛けて置かないと後が怖いのだ。
ほんと不倫保険ってだれか作ってくれないかな?
「むむむ……はぁ~わかったよ。ゴローさんには一筆と貰って判子と血判をして貰えばヒカル君とセックス出来るで良いんだよね?」
「……ええ」
いや、正常な思考をしている彼氏は彼女の浮気を普通は許さない筈だけど……どうしよゴローさんがNTRされた事が切っ掛けで自殺なんかしちゃったら、俺責任取れないぞ
……というかアイを抱く事をゆらにどう説明すれば良いのやら
「とりあえず……ご飯でも食べに行きましょうか」
「……うん、今後の事も込みでゆっくりじっくり話そうね♡」
はぁーなんだかとんでも無い事になってしまったが……果たして大丈夫だろうか?
「ちなみにアイさんは何が食べたいですか?」
「えー? じゃあヒカル君♡」
「私は食べ物じゃありません!」
「ちょっとした冗談だよ~。私は何でも良いよ」
「じゃあ……ちょっと私の行きつけに案内しますね」
「ヒカル君が良く行くところ?」
「そうです」
俺がそう言うとアイは感極まったのかとても嬉しそうにしていたが……着いた後の表情が今から楽しみで仕方が無いな。
昔住んでいたボロアパートに向けて俺は車を走らせた。
移動中アイは最初楽しそうにしていたが……時間が経つにつれてどんどん懐疑的な表情を浮かべており、最終的には俺の事をじっと見つめて来た。
そして、ようやく車を止めたと思えば、有料の駐車場に止めた訳で……
「あのヒカル君お店は何処?」
「ええ……少し歩いたところにありますよ」
「思いっきり住宅地で何にもないけど、ここから駅の方に向かうの?」
まーいまから向かう場所もお店って言うか、屋台だしな。
「いえいえ、公園に向かいます」
「こ……公園!? ヒカル君一体何をする気なの? 私は……全然そう言うのだめじゃ無いけれど、流石にそう言った事はちゃんとしたホテルとかが良いんだけど……」
アイはそう言うと顔を一瞬で赤く染めて体をくねくねさせ始めたが……
流石に9月とは言えまだ、気温は高く裸でも問題は無いけれど……だからと言ってアオカンする訳無いだろが!
「いえいえ、公園におでんの屋台があるんですよ」
「へっ!? おでんの屋台が公園に……?」
「そうですよ」
「ふ……ふーん。おでん如きで私の舌を唸らせる事が出来るかなぁ~」
アイは自身満々にそう言い始めたが……まぁー俺も色々食って来たが、結局の所60円の大根が一番美味いんだよ。
アイを連れてとある公園に行くと……公園の真ん中に昔ながらのおでんの屋台があり、離れはいるものの、ここまで美味しそうな匂いが漂っていた。
「な……なんか物凄く美味しそうな匂いがするね」
「ええ……これが屋台の醍醐味ですね。大将良いですか?」
俺がそう声を掛けると屋台の大将は顔を上げて人懐っこい表情を浮かべていた。
「ん……おお、カミキじゃないか? ……相変わらずちっさいな。ちゃんと飯食ってるのか?」
「ええ、昔と比べて今は大分稼げるようになったので、ちゃんと食べてますよ」
「おお、それは良いことだ。じゃあ今日は結構落として貰おうかな」
「勿論です。じゃあ私は何時ものください」
「あいよ」
自然と屋台の席に座った俺を驚きながら見ているアイに隣の座る様に施すとアイはススって近寄り席に腰かけた。
「アイさんはどうしますか?」
「じゃ……じゃあ私もヒカル君のと同じもので」
「あいよ」
大将は慣れた手つきで2つの紙皿にたっぷりと汁が染み込んだ大根と卵とがんもどきを乗せてくれた。
「はい、お待たせ……熱いから気を付けろよ」
出来立てと言う事もあり、大量の湯気が出ている。
「頂きます」
「頂きます」
俺とアイはそう言って手を合わせて食べ始めた。
……とは言え大根は熱いので、箸で一口サイズにして冷めるまで待たないとなって思っていた時だった。
「あっふぅぅいー」
何を血迷ったのかアイは大根を豪快にほう張り涙目ではふはふしながら食べていた。
「大将お冷お願いします」
「ちょ……ちょっとまってろ」
慌てて大将がお冷を出すとアイはすぐさまコップを掴みグビグビ飲み始めた。
これがバラエティー番組だったら大うけ間違いないレベルだけど……プライベートなんだからそんなに慌てて食べなくても良いのに……
「うぅ……口の中ヒリヒリするぅぅ~」
涙目のアイは中々可愛らしく……少しばかり興奮してしまった。