カミキヒカルアナザールート   作:だめねこ

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第144話

「ヒカル君には私の方から連絡しておくね♪」

 

 ママは物凄く嬉しそうにしてポケットからスマホを取り出し電話を掛け始めた。

 その仕草はまるで、恋する乙女のような表情で未だかつて一度も見た事も無い物だった。

 推しの幸せを考えるならファンである私は当然祝福するべきだけど……

 

「……なんでカミキに対してママはあんな表情するんだろう?」

「何か言ったか?」

 

 私から漏れた声が聞こえたのかアクアは不思議そうな顔で訪ねて来た。

 

「……何も言ってない」

「ふーん」

 

 ぶっきらぼうに答えてしまったけれど、アクアは特に気にする素振りを見せずママの電話している姿を見ていた。

 身長が高く美形に育ったアクアだけど……カミキを連想させる容姿の所為か、どうしても強く当たってしまう。

 

 私はカミキが嫌いだ。

 

 ママの純潔を奪い妊娠させた事もそうだけど、一番許せないのが……ママが当時一体どんな思いでカミキに別れを告げたのか理解していないのに念書を書かせて、自分に非が無い様に根回ししている事だ。

 

 子供が子供を産む以上今まで通りの生活なんて出来る筈が無いのにだ。

 ママはアイドルだったし、子育てだって私は転生者で聞き分けの良い子だったから問題無かったけれど、アクアは正真正銘の普通の子だった。

 だから、ママや巻き込まれた先生はあの時は物凄く大変そうにしていたのは今でも覚えている。

 

 アクアも私と同じ転生者だったらママに迷惑をかける事無く、カミキの手を借りずに私達だけで生活出来たはずだし、カミキとの縁も切れて私も毎日先生とママとの幸せな毎日を送れたはずだ。

 

 だけど……違った。

 アクアの面倒を見つつも、ママや先生以上にお金を稼ぎあまつさえ頭も良いなんて……そんな人間いる筈がない!

 

 そんな事を簡単にやってのけたカミキにママが傾倒するのは当然だし、先生だってカミキがママと一緒になる事を望んでいる節があるのだ。

 先生の事だから、もしカミキとママが一緒に暮らす様になれば自分自身は身を引く事は容易に想像できる事だ。

 

 そんな事……私は許容することなんて出来る筈が無い。

 

 生まれてから今までずっと一緒に生活していた先生が居なくなるなんて、私にはとても耐えられない。

 

 だから私はカミキを嫌う。

 絶対に心を許してなるものか!

 

「お待たせ! じゃあ早速おでん屋さんに行こう♪」

「ああ」

「……うん」

 

 楽しそうにしているママとアクアに追従する形で私も返事をした。

 

 アイドルを卒業したばかりとは言え芸能界でも上澄みのママにおでんなんて似合わない!

 夜景が綺麗なオシャレなレストランとか……そう言ったお店を知らないのだろうか?

 

「ひっかる君とおっでん~♪」

 

 ……楽しそうに歌っているママを見れたから少しばかり大目に見てあげよう。

 

 

 事務所を出ると既に辺りは暗くなっており、ママを先頭に私達はおでん屋があると言う公園に向かって歩いて行った。

 

 20分……いや、30分位歩いたのかな?

 アイドルになるに当たって運動をしているので、この程度で根を上げる事はしないけど……

 ママもアクアも全然疲れた様子が見えない。

 ママは先月までアイドルだったし、真面目なアクアは子供の頃からやってるランニングを今も欠かさずやっているのだろうから二人とも体力はあるのだろうけど……

 

 す、少し疲れて来ちゃった。

 

 まさか私とアクアにこんなに差があるなんて……

 その事実に愕然とした時だった。

 

「あっ二人とも着いたよ!」

 

 ママが指さしたところは公園であり、その公園の中にはおでんの屋台があったが……そこには先客が一人いるようだ。

 

 後ろ姿だけど……長い金髪に身長はママと同じ位かな?

 見た目は華奢な感じだし……間違いなく……

 

「ヒカル君♡」

 

 さっきまで私とアクアの近くに居たママは何時の間にかカミキの近くに移動していた。

 

「アイさんお疲れ様です」

 

 呼ばれて振り向いたカミキは人を安心させる微笑を浮かべていた。

 駄目だルビー! これに流されてはいけない! カミキが一体私達に何をしてくれたか考えるんだ!

 

 ママや先生が仕事で帰りが遅い時はご飯を作って貰ったり、アイドルに成る為にママを動かしてくれたり……生活費の援助をして貰っていたからか、私のお小遣いはアップしたし、うぅ~ぐぅの根も出ないよ……!

 

 そんな事を考えて居たらいつの間にかママはカミキの隣に既に座っており、その反対側にはアクアが座っていたので、私も慌ててママの隣に座った。

 

「あっ大将さん大根と卵とはんぺんくださいね」

「あいよ。今度はやけどしないようにね」

「大丈夫ヒカル君に食べさせて貰うから♡」

「そ……そうか?」

 

 大将と呼ばれた人は頭を傾げているが、ママから注文された大根・卵・はんぺんを紙皿に移してすぐに出した。

 

「あ~僕はどうしようかな?」

「それなら大将。この子の分は適当に見繕ってあげてください」

「おう、少年それで良いか?」

「う~ん、じゃあそれでお願いします」

「あいよ」

 

 今度はアクアの分を用意し始めていたので私も今の内に何を食べるか選んでおこう。

 

 美味しそうな匂いが私の鼻腔をくすぐり、見ているだけで分かる。

 このおでんは絶対に美味しい奴だ!

 ……だけど世の中には美味しい物なんて他にもいっぱいあるし、ママだって色々食べてる筈だから、その辺りどう感じているのか気になる。

 

「ヒカル君大根食べたい」

「……分かりました」

 

 ママがそう言うとカミキはママの紙皿を自分の元に寄せて、大根を器用に箸で切り分けてママの口に運ぶと言う……まるで熱々のカップルみたいな事をやり始めた。

 

「番組のお偉いさんなんかと一緒に色々食べて来たけれど……この大根の方が美味しい!」

 

 ママは大根を咀嚼して、飲み干すと物凄く嬉しそうに……顔文字にすると(≧▽≦)こんな表情をしていたが……それは少しばかりオーバーなんじゃなんじゃないかな?

 

「うん……大根に味が染み込んでて物凄く美味しいです」

 

 アクアも目を見開いてそう感想を漏らしていた事から本当に美味しいのだろう。

 

「二人とも嬉しい事言ってくれるじゃないの!」

 

 大将はそう言うと若干照れているのか鼻の下指で擦り始めた。

 

「あ……あの、私も大根お願いします」

「あいよ。他食べたいのが合ったら遠慮せずに言ってくれよな?」

「は、はい」

 

 チラリと大根の値段を見ると80円と記載されていたが、果たしてそんな大根が本当に美味しいのだろうか?

 

 私の前に置かれた紙皿に湯気が立ち上る大根が置かれたので、箸を取り……そのままぶっ刺して口に運ぼうとした時だった。

 

「だ……ダメだよルビー! ちゃんと切り分けないとやけどしちゃう!」

 

 慌てたママに腕を掴まれて大根が口に入る事は無かったけど……そんなに熱いのだろうか?

 

「なぁカミキ……この子ってもしかして天然か?」

「……ノーコメントで」

「……そっか」

 

 私は天然じゃ無いもん!

 

 ムッとした私は大根を切り分けもせずにそのまま口に運び……

 

「熱っ! 水……水くだひゃい」

「お……おう」

「もぅ~ルビー言ったじゃん。熱いよって……」

 

 私はこの時初めてママから呆れた声を聞く事になった。

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