お風呂から上がり、リビングに向かうと夕ご飯はまだ準備中だった。
「あっヒカルさん……すみません。もう少しかかりそうなのでリビングで待っててくださいね」
俺に気が付いたニノはそう言うとニコッと笑いながらそう答えた。
キッチンを覗き込むとかなが丁度エビフライを作っている最中で、油が大量に入ってると思われる鍋に蓋を盾にして、恐る恐る入れ始めたが……
「ひゃぁーー」
油が撥ねた事に驚いたのかかなは可愛らしい悲鳴をあげてしまった。
まぁ……始めて揚げ物を作った時は誰だってそうなるものだ。
「かなちゃん大丈夫だからそのまま全部入れようね?」
「こ……こんな油が撥ねてる中に全部入れたら爆発しちゃうんじゃない? 大丈夫なの!?」
「大丈夫だから……ね?」
「う……うう……わかった……やってみるわ」
「うん、その調子だよかなちゃん!」
ニノ監修の元かなは料理の勉強をしており、揚げ物はまだ経験不足だが……簡単な物であればちゃんと作れるようになってきているのだ。
かながこの家を出る事があるかどうかは別として……料理を覚えようと努力する姿勢は良いものだ。
若干1名は食べる専門ではあるものの……今の世の中自炊が出来なかったところでお金が有れば食べる事に困る事は無いので、問題は無いだろう。
俺はカナンの事を意図的に考えないようにしつつ、あゆみさんの部屋に向かう。
部屋に入る前にノックをすると……中からあゆみさんの声がしたのでドアを開けると……丁度ストレッチをしていた。
「ヒカルさんどうかしましたか?」
先ほどの恰好と違いスパッツにタンクトップとかなり薄着な恰好をしており、50代とは思えない魅力的な身体をしていた。
アイの母親と言う事もあり、素材自体は最高級なのだが……この”推しの子”の世界は美魔女がやたらと多い気がする。
愛梨パイセンや苺プロのミヤコさんもそうだし、アヤセやYURIKAだってもうじきアラフォーなのにその美貌は衰えるどころかますます油が乗り始めている状態なのだ。
別段俺は年上好きではあるものの、熟女好きって訳では無いが……例外は四条社長位だと思っていたが、今ではあゆみさんも有りだなと思ってしまう。
初めて会った時がめっきり老け込んでいたし、俺もそう言う対象に見てはいなかったし、そもそもがあんまり健康的では無かったからなんだけど……
今ではジョギングにストレッチも行っているからか、新陳代謝が高くなっておりあゆみさんは健康的で魅力的に見えてしまう。
多分アイの事で罪悪感を感じているのと地雷や悪女がタイプな俺にとってはドストライクなのだろう。
「ええ、ストレッチ中すみません。お風呂空いたので入ってくださいね」
「あら……それではお言葉に甘えますね」
俺はそれだけ告げるとすばやくリビングに戻った。
……如何にドストライクで有ろうと、流石にあゆみさんに手を出した事がアイにバレたらどうなるか分かった物じゃないし、あの恰好のあゆみさんは目に毒だからな
心の中でそう言い訳をしつつ、リビングに戻りキッチンで料理を作っているニノとかなを見つつ俺は大人しく待っている事にした。
それからしばらくしてようやくかなとニノが夕食を作り終えた。
料理の出来栄えが良かったのかかなも満足しているようで、誉めて欲しそうにチラチラ俺の事を見ていたので、かなに近寄り頭を撫でてあげようと思い近くに寄った。
「……かな頑張りましたね。とても美味しそうですよ」
「……ニノも手伝ってくれたし? まぁ……私が作ったんだから……絶対に美味しいわよ。後もっと撫でても良いわよ?」
かなはそう言うけれど、やっぱり褒められて嬉しかったようで俺に嬉しそうに撫でられていた。
「じゃあ、カミキはこっちに座って!」
「分かりました」
終始撫でられていたかなだったが、俺を床に座らせると俺の膝に座り始めた。
「かなちゃんヒカルさんに甘えられて良かったね」
「こ……これは私が頑張って作った事の正当な報酬だもん!」
「あっ……じゃあ私も報酬貰いますね♡」
まるで小悪魔めいた事を言い始めたニノは俺の横に座り、ぴとっとくっ付いて来た。
何だろう? ……良妻賢母みたいな……ひと昔前の奥ゆかしい女性の様な……これはこれは俺にとっても嬉しいものだ。
そんな事も考えつつ、テーブルに所狭しと並べられた料理を見ると、どれも大変美味しそうだったが……特にかなが頑張って作ってくれたエビフライがやたらと存在感があり……俺は思わず声を掛けてしまった。
「このエビフライやたらと大きく無いですか?」
スーパーなんかは俺も良く行くわけだけど、このサイズは見た事が無いので恐らく市場にでも行ったんじゃないかと考える。
「これ車海老なんだけど、今日豊洲市場で食レポロケをやった時に市場のおじさんから貰ったんですよ」
ニノは嬉しそうにそう答えてくれたが……質もそうだけど、量も結構あるぞ。
一応うちには腹ペコガールのカナンが居るから美味しく頂く事は可能だけど……一般的な家庭ならば、処理は追い付かなくなりそうだな。
そんな事を考えて居た時だった。
「おっはよ~」
「カナン今起きたの?」
「うん……昨日ホラーゲームの実況が長引いた所為で、寝たのが遅かったからね」
ふぁ~っとカナンは大きなあくびをしたかと思えば俺の隣にスススっと移動して来た。
……何と言うかこういうところはちゃっかりしているだよなぁ~
まー可愛いから俺は寧ろ役得だけど……
「お風呂頂きました」
長い髪を靡かせて、あゆみさんも出て来た。
女性のお風呂は時間が掛かるものだが、丁度良いタイミングであゆみさんもお風呂から上がり、食べる専門のカナンも居る事で我が家のフルメンバーが揃った。
「じゃあ皆居る訳ですし、頂きましょうか?」
「「「「頂きます」」」」
今回俺が作った訳じゃ無いけれど……こういった音頭を取るのはどうやら俺の役目になりつつあるようだが、これはこれで悪くはないな。
しかし……
「あの……かな? ちょっと降りてくれませんかね? ちょっと食べ難いので……」
身長が俺と同じ位だから、唯座ってる分には問題無いけれど夕食の時は食べ辛いのだ。
「……わ、私がアーンしてあげるわよ?」
かなは耳まで真っ赤に染めて恥ずかしそうに言うけれど……自分のペースでご飯食べたいなぁ~って思うのはダメなんだろうか?
「それなら私がアーンしてあげるわよヒカル!」
「何言ってるのカナン? それこそ私の役目だよ」
「うるさいわね二人とも! 今日は私がカミキにあーんをしてあげるんだからね」
女三人寄ればやかましいとはよく言ったもので、両隣にニノとカナンがおり、膝の上にかなが居る以上俺に逃げ場など無いし、……そもそも逃げる気も無い
「……順番に食べますから慌てないで下さいね」
……とは言ったものの、先ほど食べたおでんの分があるので少しばかり厳しいが、男は度胸! 毒を食らわば皿までよ!
俺は覚悟を決めて、三人から差し出された特大サイズのエビフライを食べ始めた。
「……アイも楽しく生活出来てるかしら」
あゆみさんがぽつりと漏らした言葉は三人の声に紛れてしまい俺には聞こえなかった。
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その後、遅い夕食を無事に終えて俺は自分の部屋に戻る。
自分でも今日はかなりの量を食べたと思うけど……終わって見れば案外無事だった。
こんだけの量を食べてる割に太って居ないのは恐らく、仕事などで消費されるカロリーが大分多いのと夜の運動も熟しているからだろうか?
不思議に思う事は有るけれど、特に困っている訳では無いので良しとしよう。
少しばかり遅い時間帯なので、アクアにはラインにて星野あゆみは現在私の家に居る事を送ったし、後は何処で落ち合うか決めておけばいいだろう。
スマホから通知音がしたので、どうやらアクアから返信が来たようだから見て見ると……
『な……なんでそんな事になってるの!』
文面から察するに大分驚いているみたいだけど……俺がアクアの立場なら間違いなく驚くし、全く同じ内容のメールを送るだろう。
しかし、バカ正直にアクアに伝えるのは気が引ける。
”国立競技場でのライブの日にアイさんの事を狙った輩に巻き込まれてあゆみさんも来てしまったけれど、その時警備のバイトをしていた上原パイセンに助けられて、今は我が家で保護しております”
実はアイがファンから命を狙われていたなんて知ったら、違う方向にショックを受けるのは間違い無いだろう。
アクアからすればゴローさんもルビーも同じファンだから、ファンじゃない自分が一緒にいたら何をされるか分かった物じゃないし、そんな危ない人と一緒に生活なんてしたくはないと思ってしまうだろう。
それを踏まえてアクアになんて返信するか、少しばかり考えて……
「えー……”街で絡まれている所を助けて今に至ります”……我ながらツッコミどころ満載だけど、これがギリギリかな?」
アクアに嘘は吐きたくない……しかし、正直に何でも言えば良いものじゃない。
『……そうなんだ。……うん、分かった! あゆみさんには何時頃会えるかな?』
アクアも大分困惑しているようだけど……納得はしてくれたみたいだから良しとしよう!
「”そうですね……私も今はドラマの撮影でちょっと忙しいので、撮影が終わり次第でも良いですか? あと、アイさんには知らせて無いので内緒でお願いします”っと」
『僕も今バラエティー番組に出るようになったからすぐには難しいけど会える日を楽しみにしてるね』
アクア……良い子に育ったなぁ~
あのアッパッパーなアイの血を引いているとは思えないが……それはそれとして、今のあゆみさんに実際に会った時のアクアの反応が物凄い気になる。
俺でさえ若干心が揺れる部分がある訳なので、思春期のアクアが会ってしまった場合果たしてどうなる事やら……
年上好きなのは俺の血に起因するものかもだけど……流石におばあちゃんに対してそうは思わないよな?
一抹の不安を感じつつ、俺はベットに横になり寝始めた。