ドラマ撮影も終えた事だし、この後はどうしよかな?
腕時計を見ると時刻は17時を指している。
買い出しに関しては今回早い時間にあゆみさんに行くようにお願いしているので、今頃は家に居るので、これから帰るであろうアイとバッタリ会う事は無い。
しかし、最近は撮影が遅くなる事もあり、そうなれば共演者同士で撮影が終わった後にご飯を食べに行くなんて事はあるあるなのだ。
まー何が言いたいかと言えば……
「アイさん今日この後ご飯でもどうですか? 演技の事で相談したい事あるんですよ~」
高身長で爽やかな好青年の彼……名前は何って言ったっけ? ま、記憶に残って居ないって事は多分挨拶されて無いかもしれないな。
「ごめんねぇ~私はこの後急ぎの用事があるから、演技の事は監督さんに相談してね」
「そ……そうなんですね。それじゃあ、連絡先交換しませんか? 暇な時でも良いのでお願いします」
スマホを取り出して、イケメン君はアイに連絡先の交換を提案し始めたが……その時アイはイケメン君にバレないように俺の事をチラリと見て来たので、どうやら助け船を出して欲しいようだ。
「おいおい、カミキ……アイちゃんナンパされてるけど助けなくて良いのか?」
上原パイセンはそう言うとニヤニヤしながら俺の事を見て来た。
アイと付き合っているのであれば、そう言った選択肢も有る訳だけど……俺とアイの関係は複雑極まりないものだし、公的彼女はゆらだからこう行った事が起きた時出しゃばる事は出来ないし、一番の問題は相手が暴力的な行為をしているのなら兎も角、ただナンパしているだけで邪魔をするのはルール違反だ。
「……一線を越えたのであればまだしも、私とアイさんは表向きには付き合っていない訳なので、彼にもチャンスは有っても良いでしょう」
「……確かにそれは一理あるな。付き合っているのならば理由にもなるが……事情はどうであれ付き合って居る訳じゃなければ、しゃしゃり出るのはおかしいし……難しい関係だな」
上原パイセンはそう言うと事の成り行きを見守っていたが……
「あー今糸電話持って無いから無理だね~」
「えっ? 糸電話ですか? スマホじゃなくて?」
「そうだよ~」
アイは笑いながらそう言うとイケメン君からすぐさま離れてこっちに来たが……どことなく怒っているように見受けられる。
助けてくれなかったことに関して思うところがあるのかもしれないが……やはり連絡先のガードは糸電話に限るな。
これだけで全てが解決出来る!
「カミキ?俺は先に帰るな」
「お疲れ様です」
「おう」
アイがこっちに来るよりも先に上原パイセンはそう言うとくつくつ笑いながら帰って行った。
「アイちゃんお疲れー」
「上原さんお疲れ様です。……ところでヒカル君? 見てたなら助けてくれても良かったんじゃない?」
ずいっと顔を寄せて、圧を感じる笑顔でアイはそう問いかけたが……無茶を言ってくれる。
ゴローさんや斎藤社長なんかはそういった事を俺に求めている節があるけれど……何でもかんでも出張る訳には行かないだろうが!
「アイさん……言っては何ですけど、高々ナンパされた位じゃ私は動きたくても動けませんよ? まーあまりにも目に余る用なら別ですけどね」
「……じゃあどこまでだったら助けてくれる?」
「それこそ嫌がるアイさんを無理やり引っ張り始めたら一発アウトですね」
「……ちなみにヒカル君的にはさっきのどうなの?」
「……見ていて良い気はしませんけど、別段声を荒げていた訳じゃ無いですし話の取っ掛かりとして、連絡先の交換を提案していただけですからね」
俺がそう言うと先ほどまでの圧を感じさせる笑顔から変わり、どことなく嬉しそうな表情にアイはなっていた。
多分俺が嫉妬に近い感情を見せたからだと思うが……これは果たして嫉妬で良いのだろうか?
「……ふむふむ、見ていて良い気はしなかったんだぁ~偶にはナンパもされて見るものだね♡」
口元をニヨニヨさせながら俺の事を見て来るアイに内心イラっとしてしまったが、どう考えても女たらしの俺が言って良い事じゃないから耐えるしかないな……
「……私は先に帰りますね」
「あっ! 待ってよ私もヒカル君の車に乗せてよ! どうせ帰る方向は同じ何だしさぁ~」
「来るときはどうしたんですか?」
「佐藤さんに送ってもらったけど?」
「それなら帰りは斎藤社長に送って貰えば良いじゃないですか?」
「そーなんだけど、今苺プロも忙しくなって来てね。これは内緒だけど、ルビーを中心に新しいアイドルグループを作ったんだよ」
アイはそう言うと嬉しそうに言っているが、俺からすればようやくルビーがアイドル活動をすることになったのかと思ってしまった。
「……そうなんですね」
「あれ? 興味無いの?」
「元々アイドルに興味が無いので……」
「……そう言えばそうだったね」
アイドルなんて掃いて捨てる程居る訳なので、グループ名はおろか……その人物の名前ですらわからんし、言っては何だけど今時の子は平気でラインを超えて来るところがあり、下手に繋がりが出来ると飛び火が来そうな怖さもある。
「『B小町』の二の舞にならないと良いですね」
「それは言わないで欲しいなぁ~」
ルビーの性格もそうだけど……事務所のお気に入りって部分がどう作用するかで、グループ内の空気ががらりと変わるし、心に余裕が無いと人は荒むものだ。
そう言った時は大人びた子では無く、メンバーに一人だけでも大人が居ればこういった問題は大抵解決するだろうが、そもそもの苺プロが募集を掛けた年齢がいくつかは分からないが恐らくルビーを中心にしている以上は中学生ぐらいがターゲットだろうから、13、14歳位だろうし……その位の年の子が一番手を焼くから、これから苺プロは大変忙しいだろうな。
ま、俺が考えても仕方ないし……こういった事はなる様にしかならないものだ。
「今日はちょっと知り合いのお店に行くんですけど……」
「じゃあ私も一緒に行く! ヒカル君の知り合いなら私も挨拶しておかないとね!」
何故アイが俺の知り合いに挨拶する必要があるのか疑問だが……行く先がアヤセのお店でゆらの姉なので、ややこしい事になるのは間違いない
「……出来れば遠慮して欲しいですけど」
俺がそう言うと先ほどまで明るかったアイは暗い表情に変わり
「……さっきルビーがアイドルになって忙しくなったって言ったよね? ゴローさんは仕事の都合で夜勤や当直も多くて、今家に帰っても私一人なんだよ。それにアクアも居ないし……」
「……とは言え、家に帰って来た時にアイさんが居なかったらルビーも寂しがるんじゃないんですか?」
「それはそうだけど……家族ってもっと賑やかで温かいものじゃないの?」
アイの過去についてはあゆみさんに聞いてるからそう言った暖かい家庭にアイが憧れているのは分かるが……それはあくまでアイがその場にいるからゴローさんとルビーは楽しそうだけど、その輪の中に果たしてアクアは居たのだろうか?
まー居なかったからアクアは家出をした訳だし、今も戻って居ない訳なのだが……うーん、アクアの家出騒動は俺も一枚嚙んでいた訳だし、仕方が無いか……
「……分かりました。それでは行きましょうか」
「そう来なくちゃ!」
先ほどまでの暗い表情は何処へやら、いつの間にかアイは笑顔に変わって居た。
これが嘘か本当は分からないが……恐らく寂しいと思った事は本当だろう。
何事も無ければ良いんだけど……
アイをベンツに乗せて新宿方面に向けて車を走らせる。
まー多少お金も落とせばアヤセも怒る事は無いだろうけど……出来れば修羅場は勘弁して欲しいものだ。