ようやくマンションに着いたので車を駐車場に止めた俺は、今も助手席で今も鼻提灯を大きく膨らませていびきを掻いて寝ているアイを起こす為に声を掛ける。
「アイさん起きてください。着きましたよ?」
「こぉぉぉこぉぉぉぉ」
しかし、アイは起きる気配が無く……いびきだって、まるで波紋の呼吸でもしているような力強さすら感じられる。
流石にこれはベットの上での運動会が尾を引いてる気がするが……さてどうしたものか?
あまり強く揺すると鼻提灯が割れる恐れがあり、そうなれば車の中が汚れる可能性があるので、まずは鼻提灯を対処するところから始めよう。
確か……助手席のダッシュボードの中にポケットティッシュが入っていた筈だ。
俺は自身のシートベルトを外して身を乗り出してダッシュボードを開けると、そこにはお目当てのポケットティッシュが入っていた。
チラリとアイの方を見ると……まだ大人しく眠っているようだが、何時鼻提灯が割れるとも限らないので、迅速な対応をしなければならない。
テッシュを広げて、鼻提灯が最小に縮小したタイミングで掴む!
未だに波紋の呼吸を繰り返しているアイを見つつ俺はタイミングを計り……
「今だ!」
「……ふぇ!?」
思わず大きな声を出したことで、アイは目覚めかけてしまったが……俺の動きは急に止めることは出来ず……
テッシュの中で鼻提灯が割れる音と突然の事に驚いたアイが動き出そうとしたが……アイはシートベルトを付けていた所為で少しばかり首にダメージが入ってしまい……
「痛ったぁい!?!?!?何……!? 何が起こったの!?」
「失礼しました。アイさんの鼻提灯の対応をしようとしたら……その……」
「ちょっとまってヒカル君? 鼻提灯の対処で何で首が痛くなる?」
「……それはアイさんが驚いた拍子に突然動いた所為ですね」
「……なんか納得いかないけれど、分かったよ」
「分かって頂いて何よりです。それではマンションに着いたので降りて貰えますか?」
「……うーん、途中までは気持ち良く寝れたのに首と鼻が痛いよぉ~」
アイはそう言うと首と鼻を抑えながら車を降りてくれた。
首は兎も角……鼻から血が出ている事はなかったので問題は無いだろう。
若干気まずい思いをしながら一緒のエレベーターに乗り、一緒の階で降りた。
隣の部屋だからこう行った時は逃げる事が出来ずに居るのが不便だ。
「それではアイさんお大事に……」
「……うん、ゴローさんに見て貰うから大丈夫だよ。じゃあヒカル君またね?」
ゴローさんは確かに医者ではあるものの、専門は産婦人科医なので首と鼻に関しては対象外なんじゃないかと思ってしまうが……どうなのだろうか?
俺はアイが部屋に入ったのを見送ってから自身の部屋のドアを開けた。
「ただいま帰りました」
まだ朝早い時間の為、声量も控えめにし、ドアも音を立てないように静かに締めて部屋に入った。
それはまるで朝帰りしたのを嫁にバレないように工作している旦那みたいな感覚だ。
まー事実俺は朝帰りをした訳でしかも声量も控えめだけれど……こんな朝早くに帰って来た訳なので、皆を起こさないようにしている配慮なのだ。
結局の所言い訳にすらなって無いし、そこに正当性などありはしないが開き直るのも違う……しかしそこまで考えて、俺は何故言い訳をしようとするのか考えたが……結局の所俺は思った以上にニノやカナンにかなとの生活を気に入ってるのだろう。
自分でも嫌になるほどの自己中っぷりに内心ため息を吐きたくなる。
ふと顔を上げるとキッチンかた良い匂いが漂っていた。
さっきの声は恐らくキッチンに居る人には聞こえていた筈だが、返事が返って来なかったことに疑問を感じる。
俺は恐る恐るキッチンに向けて足を進めるとそこには……
赤い髪が邪魔にならないように後ろで結び、可愛らしいエプロンを着たかなが朝食を作っていた。
俺に気が付いたかなは……
「カミキお帰りなさい! ご飯にする?お風呂にする?……それとも
かなはそう言うと可愛らしい笑顔を向けて、ポケットからゴムと避妊薬を取り出して来た。
す……据え膳食わぬは男の恥と言うが……果たして食べて良いものだろうか?
かなの年齢を考えると体への負担がある訳だし、慌ててセックスなんてしなくても問題は無いけれど……かなからしてみればこのまま行くと俺が母親みたいに捨てるんじゃないかと不安に思えてしまうのだろう。
かなからすれば俺と繋がりが無い以上は何かしらで求めてしまうのは仕方が無いものだが、それを頭ごなしに否定するのは……一番マズイパターンだと思う。
最悪挿入は無しでそこそこで終えれば良いんじゃないか?
実戦に関してはニノとカナンに協力を仰げば問題無いだろうし?
……ちゃんと性知識があればやるのは良いことだし、決してセックスは悪い事じゃない!
そうと決まれば……
「じゃあかな……
「良いの!」
俺がそう言った瞬間かなの表情がぱぁと明るくなったが……
「何考えているのよヒカル!」
俺とかなは突如部屋から出て来たカナンにスリッパで頭を叩かれてしまった。
「いえ、勿論いきなり挿入なんてしませんよ? ちゃんとかなの事を可愛がるところから初めてですね……」
「挿入もそうだけど……一番ヤバいのがヒカルの可愛がりよ!」
カナンに再度頭をスリッパで叩かれてしまった。
そんな事は無い……なんて事は無く……いざ事が始まれば、相手を納得させるまで楽しんでしまう悪癖が俺にはある。だが女たらしはそこまでしないと飽きられて簡単に捨てられてしまうのが実情だ。
別段飽きられるのも捨てられるのも構わない。
何故なら己の価値を相手に示せなかった奴が悪いのだ。
だが今回のケースで言えば、かなにとって俺は恩人であるものの……俺に対しての感謝を返し切れていないと考えてしまう訳なので、繋がりを求めるのだろう。
繋がりが無ければ自分なんて捨てられると言う有りもしない幻想を抱いてしまうものだが……これに関してはそんな事は絶対に無い!
俺は……捨てられる事は有っても、捨てる事は決してしない。
……がそれはそれとして、何かしらでかなを安心させる必要はある。
「……ではキスからならどうでしょう?」
俺は軽い気持ちで聞いて見たが、カナンの判定は厳しかったようで……
「かなちゃんの脳みそが溶けるから駄目ね!」
「カミキとキスしたら脳みそ溶けるの!」
斜め上の回答の所為かかなは声を上げて驚いてしまったが……いや、舌は入れる気は無いぞ!
「良いかなちゃん? 中学生がセックスなんてした日には頭の中がそれで一色になっちゃうし、他の事に集中出来なくなるわよ」
「待ってよ! そんなのは大人なも子供も女で有れば関係無いんじゃない」
「関係は……無くも無いかぁ~」
かなへの返答に大人のカナンは濁らせて答えてしまったが……それが大人のやる事なのだろうか?
「……それ認めてるのと同じじゃない?」
「そうだけど……良いのかなちゃん?一度やったら抜け出せないし、止まらない……かっ〇えびせんみたいなものよ?」
「……麻薬って言わないだけ配慮してるわね」
どうも合法麻薬カミキです!用法・容量はぶっ飛んでおりますが……最後まで面倒見ます!
……自分で麻薬って認めちゃうのかよ。
まーアイの事を考えると、あながち間違い無いけれど……
「……じゃあ、どこからが良いのかニノにも聞いておくから今日は我慢するように!」
「分かりました」
「ちぇ……」
カナンの仲裁も有り……まだ俺はかなとの関係を持つことは無かったが、これが朝一の出来事であるので……今日は長い一日になりそうな気がしする。