「あっ! 良い匂いがするね~。私も丁度お腹空いたから朝ごはん食べても良いかな?」
アイはリビングに入るなりすぐさまニノにそう言うが……
「アイの分のご飯なんて用意してる訳無いでしょ!」
前もって言ってるのであれば用意位するだろうけど、こういった突然の来襲に対応出来る訳が無いので、ニノの言い分は正に正論だったが……
「ニノ……そんなに怒らなくても良いじゃん。もう私達姉妹みたいなものだし、ヤった順番で言えば私は長女だよ?」
アイは勝ち誇った顔をしてニノを見ているけれど……その基準で言うのであれば、愛梨パイセンが長女になるぞ。
まー愛梨パイセンが長女ならば誰も文句は言えないだろうけど……アイが長女ってかなり嫌なパターンだと思う。
自由奔放な長女のアイに振り回されてしまう、しっかり者の次女のニノ……
これで姉妹仲が良好ならまだ問題はないだろうけど……こういった場合大抵はアイだけ褒められて、ニノは貧乏くじを引かされることになるんじゃないかって思えてしまう。
「……わかった。そんなに食べたいならカナンのカップやきそばをあげるわ」
「何で私のなの!?」
「ヒカル君ニノが意地悪するんだけど!」
ニノはカナンとアイの言葉を一切無視して、すぐさま台所の棚に入っていたカナンのカップやきそばを取り出し蓋を開けて、ポットのお湯を注ぎ始めた。
確か……それって動画撮影用に買ったものでかなり辛いやつじゃなかったっけ?
そう思いチラッと見て見ると……青い鬼? が涙を流している絵が見えたので、その事から察するに甘党の俺には決して食べる事は出来ない代物だと言うのがはっきりと分かった。
「よりにもよって私のとっておきがぁ~……ニノの人で無し!」
カナンはそう言うと恨み事を吐いてニノを見ているが……
「カナン……今度私が新しいの買ってあげますから……ね?」
「うっぅぅ……酷い……こんなのって無いよ! 都内のドンキーを探し歩いてようやく……ようやく見つけたのにぃ~」
カナンはそう言うとポロポロと泣き出してしまったが……いや、まさか……そんなに売れている物なのか?
時代は今激辛を求めているとでも言うのだろうか?
つい最近『今日は甘口で』を見て来た俺にはなんとも世知辛い世の中になってしまったと思わざるを得ないものだった。
自分がこれから何を食べる事になるのかアイは全く気が付いておらず、何故か部屋の中をキョロキョロ見回していたが、すぐさま首を傾げていた。
何かアイの興味を引くような物……もとい者なら現在浴室に居るから大丈夫だと思うし、勝手に部屋の中を歩き周る事は流石のアイもしなかった。
これからアイの身に起きる事を考えればニノの溜飲は下がるだろうけど……カナンにとってはどうでも良い事であるのは確かな事だった。
とりあえず俺は3分後のアイに内心合掌をする事にした。
3分後……激辛やきそばを無警戒に一口食べたアイは途端に涙をボロボロ流し声にならない悲鳴をあげた
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「これどうぞ」
アイに水……では無く、飲むヨーグルトを渡すと慌てて飲み始めて……
「あ”~か”ら”か”っだよ~」
「まだ残ってますけど?」
「やだ! 絶対に私食べ無いからね!」
たった一口食べただけでトラウマを植え付けられたアイは涙目で俺に抱き着こうとしたけど……口にやきそばのソースが付いているので、そのまま抱き着かれると俺の服に付着する恐れがあるので、テッシュで拭いてあげたが……
「ん~ヒカル君私の口大丈夫かな?赤く腫れてたりしない?」
「あくまで食べ物ですし、問題は無いと思いますけど……」
今度はトイレの住人になるんじゃないかな?
そんな心配を俺はアイにするのだった。
「ところでこれどうする?」
「うん?私のだし、私が食べるよ」
ニノが困ったような顔をしているけれど、カナンはさも当然のようにアイの前に置かれたやきそばを取り、普通に食べ始めた。
「うん……思った以上に結構辛いけど……美味しいね!」
先ほどのアイの反応とは違い、元々辛いのには耐性があるのかカナンは汗を掻きながらもパクパク食べていた。
「アイの反応が過剰だったのかな?」
「顔面真っ青になっている訳だし、それは違うんじゃない?」
ニノはそう訝しんでアイを見ているけれど……アイがどんなに嘘吐きであっても肉体反応までは誤魔化す事は出来ないし、そもそもアイ自身が一口食べて悶絶した激辛やきそばを現在美味しそうに食べてるカナンを見て驚愕している訳だし、嘘は吐けないだろう。
「やきそばに納豆入れて食べると美味しいって聞くけど……ほんとかな?」
「あっ私も聞いた事あるよ! 実際に水戸ではそう言った食べ方してるみたいだよね」
「うん……動画のネタになりそうだ」
まー実際に食べて美味しいって言う人を知っているし、物凄いおすすめされた事もあるけど……そもそも納豆自体が好きじゃ無いから俺はノーサンキューなんですわ。
「御馳走様……学校行って来るね」
時計を見ると時刻は7:55を指していた。
「車に気を付けてくださいね」
「うん!……ところでカミキ? 行ってきますのちゅーはダメ?」
かなは可愛らしくそう尋ねて来たので、ニノとカナンを見ると……
「ほっぺなら良いかな?」
「おでこも良いんじゃない?」
どうやら場所が口じゃ無ければ……問題無いみたいだ。
「じゃあ、おでこにですね」
「私は口でも良いけど?……まぁ今回はおでこで我慢してあげるわ」
かなは強気ではあるものの、顔を真っ赤にしておでこを出して来た。
ま……おでこなら良いって言うし? ちょっと位良いだろう
「それでは……失礼します」
かなのおでこにそっと口づけ……だけでなく一舐めしてあげた。
「ひゃわ♡」
かなは驚きの余り可愛らしい悲鳴をあげたが……
「これ以上はまだダメですからね?」
「う……うん」
かなはフラフラっとしながら学校に行ってしまったが……大丈夫だろうか?
「ひ……ヒカル君? 私もチューして欲しいなぁ……そうしたら多分辛さから解放されると思うんだ」
アイは油汗を掻きながらそう行けれど……先ほど口の周りをテッシュで拭いたとは言え、辛さの成分がアイの口に付着している以上お断りしたい
「アイさん……口にまだソースが付いてますよ」
「ほんと?」
アイに告げると舌なめずりをしてしまい……あっ!
「辛い!」
慌ててアイはヨーグルトを手に取り飲み始めた。
これ俺が悪い訳じゃ無いよな?
「ちょっと洗面所借りるね」
アイはそう言うとすぐさま立ち上がり、洗面所に向かった。
大抵の家は洗面所の隣に浴室があると訳で、その浴室にはあゆみさんが息を潜めているのだ。
まー何が言いたいかと言えば……
「おかあさん!?」
「あ……アイ!?」
浴室のドアを開けてしまい固まっているアイとその母親であるあゆみさんが対面してしまったようだ。
「ヒカル君……一体どういう事? なんで私のお母さんがヒカル君の家に居るのかな?」
洗面所からすぐ様飛び出してアイは感情を感じさせない表情で俺にそう問いかけたけど……どう説明するべきだろうか?
『B小町』の卒業ライブにあゆみさんが陰ながら応援しに来たところ……ちょっと危ないグループにその場で捕まってしまったけど、何とか無事に保護されて今に至りますって素直に言えば信じてくれるかな?
まー実際に陰ながら応援なのかは分からないけれど……
言ってみるべきかな?
俺はアイの目を見て堂々と告げる事にした。