アイとあゆみさんには改めてテーブルに座って貰い俺はこれまでの経緯をアイにかみ砕いて説明をしようとしたところで……
「あっ! 私良い企画思いつたからドンキーに行って来るね!」
カナンはそう告げると足早に自分の部屋に戻り、上下ジャージにショルダーバッグを斜めにかけて出かけてしまった。
……どうせやきそばに納豆は合うかどうかの検証動画だろって思わなくもないし、先ほど食べてしまった激辛やきそばを買い行くのだろうが、しかしそれは個人の主観だから、なんとも言えないけど……上手く行けば企業から案件が来る可能性はあるし、カナンの影響力は無視出来ないだろう。
しかし、アイドルなのにジャージ姿なのはどうなのだろうかと思わなくもないが……フルマラソンの世界記録をついでにとってしまったカナンには現在スポーツ企業から色々な贈り物が届いており、あのジャージやショルダーバッグもその贈り物の一つであり、ブランド物だったりするみたいだ。
……契約自体はしていないみたいだけど、カナンが着用する事で宣伝にもなるならしく企業も潤っているとかいないとか……
まぁーそれはさておき……一緒に住んでいると以上は無関係とは言えないので、本来はカナンの行動は止めるべきだと思うが……確かにあゆみさんとアイの関係はカナンには関係無いし、あのライブで区切りは付いたようだし、今更どうこうなる事はないのだろう。
「……え~っと……私は……そうだ!飲み物用意するね。皆さん何飲みますか?」
「じゃあ私はお茶で」
「私もお茶飲みたい」
「私はコーヒーで」
「あゆみさんとアイがお茶でヒカルさんがコーヒーですね」
逃げたカナンに文句を言いつつも、ニノはキッチンに向かい出した。
貧乏くじの結果とは言え……なんやかんやで面倒見は良いニノだった。
まぁーニノもあんまり話に参加したく無いだろうから今の内に言っておくか……
「えーあゆみさんがここにいる理由としては、国立競技場でのライブの際にやんちゃなファンに絡まれてしまった経緯があり、身の安全を守る為にあゆみさんを保護してました」
俺がそう言うとアイはじ~っと俺の事を見ていたかと思えばだんだんと距離を詰め始めて来た。
「……う~ん、嘘っぽいのに嘘には見えない。本当に本当なの?」
「本当です」
インディアン……ウソツカナイ、シンジテクダサイ
思わずカタコトになってしまったが、ニュアンスは変えてるだけで内容はもっとえげつないけどな。
何せ相手は半グレ達だったみたいだし? アイドルのライブを見に来たにしてはどう考えても必要になる事はない凶器を持ち込んでいた訳で、そんな裏があったなんて知ってしまったら、今後アイドルのライブはやれなくなるだろうし、苺プロも事件は起きなかったが、何らかの形で責任を被る羽目になったかも知れないのだ。
俺も上原パイセンに聞いたけど……計画は有ったかも知れないが、その計画が穴だらけで何故それでイケると思ったのか上原パイセンも首を傾げていたが……まぁーライブなんて祭りみたいなものだし、その場のノリと勢いだけだろう。
「お母さんがヒカル君の家にいる理由は分かった」
「アイさん?」
アイはそう言うと一瞬顔を伏せたので俺は恐る恐る声を掛けると……何故か俺の両肩を掴み始めた。
理由は分かったよね? なんで俺両肩掴まれてるのかな?
「じゃあ、なんで私にその事言ってくれないのかな? 言う機会なんて幾らでもあったよね?」
アイは目を潤ませて俺にそう言って来たが……まぁ……確かに言う機会は幾らでもあった訳だが、それでも俺は伝えて良いものか判断しかねた。
もっともらしい事を言えば、アイの事を考えればおいそれと伝えるべきじゃないって考えはあったが、それは俺が判断するべき問題じゃなく……あくまでアイの意志に基づくべきだったので、俺の落ち度だな。
「……そうですね。確かにアイさんに伝える機会は幾らでもありましたね。それは申し訳ないです」
「あっ……ご、ごめんね。別に責めてる訳じゃ無いないんだけど……ヒカル君も私の事を考えてくれてたんだね」
アイはなんとも言えない表情してそう呟いた。
「……それで私の家に居る理由は分かって貰えたようですし、どうしますか? 席を外して欲しいのであれば外しますけど?」
俺が何気なくそう尋ねると……
「ううん、ヒカル君も一緒に聞いて欲しい。私だけだと怖いからさ……」
「……分かりました」
内心ゴローさんが居るでしょ?って思ったけど、流石に無粋だったので、返事をするだけに留めた。
アイはあゆみさんに向き直るもの、幼少の時のトラウマもある所為か……その姿は完璧で究極のアイドルの姿でもアクアやルビーの母親としての顔でも無く……何処にでもいる臆病でか弱い少女の様に俺には見えてしまった。
その為、ファンであるゴローさんやましてルビーには己の弱い姿を見せたくないとアイは考えて居るのだろうか?
ゴローさんならそんなアイも受け入れてくれると思うが……ルビーはどうなんだろう?
やっぱり、アイドルとしてキラキラ輝いていないと認めたく無いのだろうか?
アイとあゆみさんの話をどこか上の空で聞き流しながら俺はそんな事を考えて居た。
ふと、気が付くとテーブルにはお茶とコーヒーが既に置かれていたがニノの姿は無く、視線だけで周りを見ると、丁度エコバックを持って出かける瞬間のニノがおり、目が合うと……
「お昼と夕食の買い出しに行って来まーす」
返事をするまでも無く、ニノは飛び出して行ってしまった。
出来れば俺もフェードアウトしたかった。
今更アイとあゆみさんが殴り合いの喧嘩をする事は無いだろうし、当時の事に関してあゆみさんはアイに謝罪をしているし、アイも内心はどう思っているのかは分からないが許しているようなのだ。
まー決してあゆみさんがアイにやった事は許される事では無いが……無いけれど……人はそんなに強い生き物では無いのだ。
アイを産んだ時のあゆみさんの年齢がおおよそ20代前半であれば、まだ遊びたい盛りであった訳なのに、その時に父親が蒸発して居なくなった以上あゆみさんはかなりのプレッシャーを感じていた筈だ。
アイを自分一人で育てなくてはいけないと……しかし、子供を育てるなんてのは両親が揃って居ても大変なのにシンママで有ったならば、その負担は尋常では無い事は容易に想像できる事だし、それに輪を掛けてアイは発達障害の傾向があり、相手の名前を覚えるのが苦手な部分がある。
後は当時あゆみさんが再婚予定の付き合っていた男性が小学生のアイに色目を使っていたらしいけど、それはあゆみさんの被害妄想の可能性もある。
再婚を前提に付き合っているのであれば、再婚相手の娘とも仲良くしたいと思うのは別段おかしい事では無いのだ。
しかし、世の中にはOUTな奴等も居る訳だし、割とガチな奴もいるから一概に否定はできないけれど……
それは置いといて
あゆみさんがアイを発達障害と知らずに健常者として育てていた訳ならば
……積もり積もって爆発したのが虐待の下りなんじゃないかと俺は思っている。
まー我が子が発達障害と診断されていたならば大なり小なり親はショックを受けるものだし、昔は今と違って発達障害って言葉は有名では無かったからな。
「お母さん……なんで迎えに来てくれなかったの? 私ずっと待ってたんだよ」
「それは……一緒に暮らしたら私はきっとアイにまた暴力を振るうと思って……ごめんなさい」
「そっか……」
一つ一つやった事を涙ながらに謝罪しているあゆみさんとそれを聞いてるアイだけど……
男に対しての行動力はまごう事無き親子なんだよなぁ~。
アイが攻撃的かと言えば違うと断言出来るけど……執着の度合いが凄まじい部分があるし、それが異常で有る事を認識していないのだ。
まー女たらしの俺が言える事では無いのは確かだけど……流石にこの場でそんな事を言えるはずも無いので、俺は二人の様子を見ながら黙ってコーヒーを飲んでいた。