その後もアイとあゆみさんはお互いの溝を埋めるように話合いを続けていった。
ホームドラマだったら、愛情のすれ違った母娘が最後に和解して抱き締め合ってハッピーエンドで終わるベタな展開になるだろうが、しかしそれはあくまで創作の話で合って現実では……
「……あのねアイ? 私が今更言える事じゃ無いけれど……ヒカルさんとは別れた訳なんでしょ? 流石に……そう言うのは良くないわ」
「何で? ゴローさんも娘のルビーも納得してくれたよ? それに好きな人達と一緒に生活するのは賑やかで良いじゃん!」
「……そう言うことじゃないのよ」
あゆみさんは娘のアイの言動に頭を抱えてしまったが……幼少期を施設で育ってしまった弊害故にアイの価値観はだいぶズレているようだ。
美味い物に美味い物を重ねれば美味いよねっていう……何と言うか、ウォーズマン理論がアイの根底にあるような気がしてならない。
「……はぁ~」
「た……ため息つかないでよ!」
いや、親としてはあゆみさんの反応は正しいと俺は思うぞ。
「……相手がヒカルさんだから私も頭ごなしに否定出来ないけど、アイがやってる事は怒られても文句は言えないわよ?」
「うっ!」
「大丈夫ですか?」
あゆみさんの重い一撃にたまらずダメージを受けてしまうアイを思わず後ろから抱きしめて、支えてあげるが……これはゴローさんの役目の筈なのに何で俺がやっているのだろうか?
よしよしとアイの頭を撫でながら、今行っている事を客観的に見て見れば、アイは女たらしに引っかかってしまいパートナーであるゴローさんをないがしろにしていると言っても過言ではないのだが……ややこしい事にアイの感覚的には好きな人は一人だけで無くても良いと思っている部分が見受けられるのだ。
そんなアイのファンであるゴローさんが推しにお願いされたならどうなるか?
内心はどうあれ……答えは一択だけなのでゴローさんは頷くしか選択肢は無いだろう。
俺からしてみればなんじゃそりゃ!?っと言いたい気分だが……そもそも俺にはやってしまった責任があるので、文句を言える筋合いは全く無いのだ。
アイを突っぱねる事だって選択肢としては有ったけれど……それはそれとして、アクアを悲しませる事になりかねないが、時たま自分の見境の無さに嫌気がさしてしまう。
「……ヒカル君? 私の考えっておかしいかな?」
アイはそう言うと目を潤ませて尋ねて来たけど……そもそも女たらしの俺にそんなまともな事を聞くのが間違っていると思う。
「……そうですね」
「はうぁ!」
ハーレムは男の夢ではあるものの、現実問題何股もしている浮気ヤローである事実は否定できないものだし……そもそもまともな人なら女性を囲う事はしないのだ。
内心そんな事を想いながらとりあえず、アイの頭を撫でていたが……ふと疑問に思った事を聞いてみた。
「……ところでアイさん何か用事があったんじゃないですか?」
俺がアイに尋ねたら気持ちよさそうに撫でられていたアイがグリンと体ごと回転させた。
「そうだった! お母さんが居たからびっくりしちゃったけど、ルビーとドムちゃんがユニット組んだんだけどね。困った事に歌が下手だったんだけどどうすれば良いかな? ルビーも頑張っているんだけどさ……カラオケで歌ったところ大体60点台でちょっと良くないんだよね。何か上手くなるコツって無いかな?」
何時からメムはモビルスーツになったのだろうか? ってツッコミを入れようと思ったが、アイにガンダムが分かるとは思わなかったのでグッと堪えた。
しかし、歌が上手くなるコツ……ねぇ。
どちらかと言えばアイの方が得意分野だと思うけど……感覚派のアイには教える事は難しいのだろう。
歌は……難しいなぁ~。
結局の所……そのグループのイメージに一致しているかどうかが一番重要だと俺は思う。
分かりやすい例えは仮面ライダーブラックのOPを歌う倉田〇つをだ。
アレを聞いて上手い下手を論じている奴はにわかで……答えはて〇をなんだ!
まーライダーチップスVerも好きだけど……
よーするにこれがルビーとメムなんだと認めさせることが出来れば上手い下手は関係ないのだが……それがロックならまだしも、アイドルソングでやるのはかなり難しい気がする。
「……一度聞いて見ないと判断出来ないですね」
「じゃあ、今度苺プロに来てくれるかな?」
「時間があれば……」
「来・て・く・れ・る・か・な?」
「……わかりました」
アイから物凄い圧を感じてしまい俺は思わず返事をしてしまった。
「じゃあ、私は戻るけど……お母さんまた今度お話しようね」
「ええ……体には気を付けるのよ」
「うん♪」
アイはそれだけ言うと気分良さそうに部屋を出て行った。
「ところでヒカルさん……トムって外国人の方で男性よね? それで男女のアイドルユニットって大丈夫なのかしら?」
ドムは間違いだとあゆみさんは気が付いたようだけど正解はトムじゃなくてメムって女の子なんだが……
「アイさんが言ったドムは勿論間違いですが、トムも違います。正解はメムって女の子ですよ」
「あ……あら、そうなの?ちなみにやっぱり外国人なのかしら?」
見た感じは普通に日本人だったけど……そう言えば本名は知らないから、否定しずらいな。
「……恐らく日本人のハズです」
「何か訳があるのかしら?」
訳は無いけど……メムの事は知らないから答えようが無いのだ。
俺は曖昧な表情を浮かべてしまった。
しかし、アイにあゆみさんの事がバレた以上今後は今まで以上に我が家に浸食してきそうな気がする。
別段それが嫌って訳じゃ無いが……アイ自身は一体どう考えて居るのだろうか?
高々1時間程度で幼少期に受けた過去のトラウマが解消される事は決してないが……話合いをしている最中のアイは無理をしている様子は見えなかったし、肉体にも拒絶反応はなかった様に見える。
ただ……動揺だけはしていたから落ち着かせる意味合いで頭は撫でたけれど……その効果はどれ程あったのかは俺には分からない。
冷めたコーヒーを飲みながら内心呟いてしまった。
「……それにしてもアイはなんで私の悪い所を受け継いじゃうのかしら? ヒカルさんが悪い訳じゃ無いけれど……もっと誠実な人なんてごまんと居る筈なのに……」
あゆみさんはそう言うと頭を抱えてしまったが……年代にもよりけりなんだよね。
10代の女性ならば不良みたいな悪い男に憧れる傾向があるし、20代ならば夢を追っているバンドマンやホストみたいな外面の良い悪い男に騙される傾向があり、30過ぎてようやく現実を見るみたいな部分がある。
つまり何が言いたいかと言えば……女性は30過ぎてから落ち着きだすのだ。
年中発情期で欲望に忠実な愛梨パイセンっていう例外もあるにはあるが……大輝君が居る時だけはまともだからまぁ良いだろう。
チラリと時計を見るともう間もなくお昼になる時間だったのでキッチンに向かい冷蔵庫を見て見ると……ホットケーキの粉と卵と牛乳が合った。
ニノ達の分を考えると心元無いので、メッセージを送るとすぐさま既読された。
『分かったよ~(^^ゞ』
可愛らしい顔文字を添えて帰って来た事から逃げただけだったんじゃないかと疑ってしまうが……それに関しては後でゆっくりじっくり体に聞けば良いだろう。
「少しお腹も空きましたし、ホットケーキでも食べませんか?」
「食べるわ!」
あゆみさんは一も二も無くすぐさま返事をした。
どうやらあゆみさんも糖分が足りなくなっていたようだ。
まー朝からアイが突撃して来れば誰だって驚いてしまうだろう。
フライパンを温めながら俺はホットケーキを作るのだった。
次回ルビー回かな?