「僕……名前を変えようと思うんだ」
「え!? ど……どうして? アクアマリンって良い名前だよ? 宝石にだってあるくらいだし、アクアの瞳の色も相まって合ってるから変える必要なんて無いよ!」
アクアが名前を変えると言った瞬間……アイが物凄い勢いでアクアの肩を掴み説得を始めるけど……名前を変えるのであれば早い方が良いのだ。
何故なら下手に大人になってから改名したいと言った場合……裁判官にも寄るけれど、その名前で不都合があるとは認めない可能性があるのだ。
嫌な思いをしつつも使っているという事は別段何ら問題無いという判断をされるからだとか……
俺個人の考えだけど、名前ぐらい正式な手続きを踏んでいるのであれば変更ぐらいさせてあげれば良いのにと思うが……年配の人にはそう言った人の心というものが分からないのかもしれない。
そんな事をおでんを作りながら内心考えて居た時だった。
「合ってるかどうかじゃなくて、自分のこの先の未来を考えると愛久愛海なんてふざけた名前で過ごしたくないんだ。芸能界にだって何時までしがみついて居られるか分からないし、それに就職する時にアクアマリンなんて名前の人が居たら間違い無く書類審査で落とされちゃうよ? そうなった時にアイは責任取れるの?」
「も……勿論私がちゃんとアクアの面倒みるから大丈夫だよ!」
「……無理だよ。僕よりアイの方がどんなにお金を稼いでいたとしても、アイは僕より先に死んじゃうし、そうなればアイが頑張って稼いだお金に対して遺産相続をする権利はあるけれど相続税で持ってかれちゃえば、稼ぎが無い僕はいずれ餓えて死ぬことになるんだよ? アイは僕にそんな死に方をして欲しいの?」
嫌に現実的な事をアクアは言っているけれど……アクアって転生者じゃ無いよな?
それとも最近の中学生はこんなに頭が良いものなのだろうか?
確かに子供の時から芸能界で働いて稼いでいるので、同じ年代の子よりもお金の価値を知っているのは間違い無いし、そもそも中学生になってから一人暮らしをしている訳なので同年代よりかは色々と考える必要があるのは確かで、考え方もリアル思考になるのは当たり前だけど……親は子より先に死ぬのが当たり前である以上は論破は無理だし、アイに勝ち目は無いだろう。
「だ……大丈夫だよ。私が何千何百億も稼いで、アクアの為に残してあげるからさ」
アイはそう言うと安心させる笑顔をアクアに向けたけど……アイがどんなに頑張っても芸能界だけでそんなに何千何百億も稼げる訳無いんだよなぁ~。
しかし、アイがアパレル系の会社を立ち上げるのならば話は別だ。
今なお、絶大な知名度は有る訳だし……それをお金に変える手法さえ整えれば可能性は十分にある。
しかし、それには信頼出来る人物の協力が必要不可欠だし……それこそ家族と一緒に居られる時間は無くなるだろう。
そうなれば本末転倒だし……この案は意味が無いな。
「ちなみに今のアイの年収は?」
「2000万位かなぁ~?」
「……30前だし、これから爆発的に増える事は無いと思うから、3000万超えれば良い方なんじゃないかな?」
「ぬぐぐ」
悔しそうにしているアイに言ってあげたいけど……家庭持ちとは言え、2000万もあれば普通に暮らす分には問題ないのだし、そもそも億越えの資産を築き上げてもアイが死ねば半分近く国に持って行かれる訳だし、やっぱり現実的じゃないのだ。
「そ……そうだ! 私がすっごい家を買ってあげるし、そこに住めば問題無いよね!」
「それだと維持費で生活出来ないし、掃除が大変だから僕はそんな家なんて望んで無いんだよね。一人で生活するなら1Kで十分だし……」
人は一人暮らしをする事で成長するものだけど……アクアの成長スピードは俺の想像以上に早いものだった。
そう考えるとアイやゴローさんにべったりなルビーに一人暮らしは出来るのだろうか?
……多分無理な気がする。
お金が有っても電気・ガス・水道などの支払いを忘れてしまいパニックなった後に泣きながら電話をする未来が見えてしまった。
「アクア……ちょっと聞きたいことがあるんですけど良いですか?」
「何?」
「家計簿って付けてたりします?」
「うん、勿論付けてるよ。僕もそこそこ稼げて居るけど……やっぱり無駄なお金は使いたく無いからね」
「アクアすごいねー。私はそんなのめんどくさいからやって無いよー」
「……アイさんは少しばかり気にしましょうね」
「そういうヒカル君は家計簿付けてるの?」
「アイ……言っておくけど、ヒカルさんそう言うのマメだから細かく種類分けして記入しているよ」
「そうだね。電気・ガス・水道代は勿論食費に関してもレシートは一ヶ月分取っといてるし……あとスーパーの特売とか気にしてるんだよ」
「最近は色々と物価も上がってますから、多少はそう言った努力をして支出を抑えたいですし、それに生活圏内にスーパーが何件もあるので運動がてらに歩いて行くには丁度良いんですよ」
お米とか卵とか上がった料金が下がる事は殆ど無いし、それに俺とカナンはいっぱい食べるのでそう言った地道な努力は必要なのだ。
まーガソリン代も年々高くなっているので、車ではあんまり行かないけれど……ニノやカナンも手伝ってくれるし、これも一種のデートみたいなものだ。
「……うーん、でもあんまりケチケチするのは良くないと思うけど?」
某芸人みたいにダクト飯や牛丼を分解しろとまでは言わないけれど……
「……当たり前の事ですけれど、お金は使えば無くなります。だからこそ普段の生活もちょっとした工夫をする事で、無駄な金額を減らすんです」
爪楊枝で大根を指して、味が染み込むように工夫しつつ、ガスの使用時間の短縮も図る。
たかだか数秒程度ではあるし、大した節約では無いものの……積み重ねてやる事が重要だと思う。
「分かったような……分からないような……」
一体何が分からないのだろうか?
アイだって苦労して来た筈なのに……と考えていたが、よくよく思い返して見れば養育費で毎月結構な金額を入れていた所為も有って、一人で暮らしていた時に比べてお金に関して言えば問題は無かったかも……そう考えると俺がアイ達にやって来た事はちょっとばかし悪い事をしていたかもしれないな。
「そう言えばアイって普段料理作ってるの?」
「私? 手の込んだものは時間が無いから作れないけど……大体朝は食パンに目玉焼き乗っけてたり、サラダとウィンナー位は用意してるよ」
「……夜はどうしてるの?」
「夜はパスタとかやきそばとか……あとは月見うどんとかかなぁ~」
麺類ばっかりだった。
「後はゴローさんも作ってくれるんだけど……ほら、私白米苦手だからさ。昔お母さんにグラスの破片入りの食べさせられてからキツイんだよねぇ~」
「あぁ……」
こんなところでいきなりぶっこむな!って言いたいけれど……何処に地雷があるのか分からないのが星野家の怖い所で……
「あ……あゆみさんそんな事していたんですか?」
「あ……あの時は……その……」
アクアが信じられない物を見るような顔であゆみさんを見ていたのが印象的だった。