アクア改め水輝の改名も終わり、無事に今年の最後は家でゆっくり過ごしていた。
実際番組のオファーが出てはいたが、俺はあくまで役者で合って芸人では無いから気の利いたトークなんかは出来ないので断っているのだ。
それとは逆にアイは年末の番組に出てケーキをぶつけられたり、穴に落とされたりとドッキリの餌食にされていた。
「カミキは出なくてよかったわねぇ~出ていたら今頃同じ目に合ってたわよ」
「……そうですね。かなだってオファーがありましたけど出て居ませんよね?」
「あーゆーのに出ると弄られキャラって世間に認知されるから嫌なのよ」
かなはそういうとみかんに手を伸ばして、皮を剝き始めた。
「番組内だけで弄られるなら構いませんけど……映像として一旦流れてしまいますとみんなやってしまいますもんね」
穴に落ちたアイを狙って執拗にケーキを投げ続けるゆらの姿が映っており……俺はチャンネルを変えた。
「カミキの彼女だよね? アレ大丈夫なの?」
「……番組的には美味しい物ですし問題ないかと」
事情を知っている俺かすれば胃が痛くなる問題ではあるが……知らない人からすれば、可愛らしいキャットファイトみたいなものだ。
「そう言えばあゆみさんはどうしたの?」
「あゆみさんなら今知り合いの居酒屋で働いてますよ」
「へー」
かなはあんまり興味が無かったようで剥き終わったみかんを美味しそうに食べ始めていたが……
「もしかして居酒屋ってあやせさんの所?」
「そうですよ。今度アクアも行ってみます?」
「僕未成年なんだけど?」
「居酒屋だからと言ってお酒しかない訳ではありませんし、普通に食べ物も有りますから問題無いですよ。勿論店舗にもよりますけどね」
「そうなんだぁ~じゃあ今度行ってみたいなぁ~」
「あっ!それなら私も一度位行ってみたい」
「分かりましたそれでは今度三人で行きましょうか!」
「「うん」」
かなもアクアも嬉しそうに頷いた。
「みなさん蕎麦出来ましたよ」
そう言うとニノが蕎麦持って来たが……丼からはみ出る海老の天ぷらにかき揚げなど見た目もそうだが、絶対に美味しいやつだって事は食べる前から分かる。
「すっご! 」
「天ぷらそばだぁ~!」
かなとアクアも想像を超えた物が来た所為で大分喜んでいた。
「……そう言えばカナンさん居ないけどどうしたの?」
アクアは不思議そうに尋ねたが、Youtuberにとって年末の今日なんて一番の稼ぎ時で有る以上カナンも例外では無く……
「カナンなら今から沖ノ島で無観衆ライブを始めるところですよ」
俺はスマホを操作してカナンのライブを3人に見せた。
『あぁぁぁぁ! 山よ !海よ! 私の歌を聞けぇぇぇ』
「ファッ!?」
「えぇ!?」
「ほんと……カナンは一体どこに向かっているのかな?」
それは俺にも分からないが……カナンは荒れる海をバックにギターを持ち『TRY AGAIN』歌い始めた。
マクロス7が好きな俺にはたまらないシチュエーションだったし、流れるコメント欄はカナンを褒める言葉が飛び交っており、赤スパで埋め尽くされていた。
つまる所何が言いたいかと言えば……年の最後にこんなインパクトのある事をすればカナンのファンじゃなくたって、誰もが興味を持つだろうし拡散する奴なんてごまんといるのだから、この年のYoutuber達は軒並みカナンに喰われてしまったのだ。
ルビー達も頑張っているようだけど……地力が違い過ぎる以上はこの結果はしょうがないだろう。
「私は寝ますけど3人はどうしますか?」
「う~ん、私も寝ようかなぁ~」
「……そうね。あんまり夜更かしは良くないし私は寝るわ」
「あっ!今日泊っても良いかな? 今から帰るのもアレだし……」
「勿論です。ただ……予備の布団はあゆみさんが使用しているので私と一緒のベットになりますけど良いですか?」
「良いの!」
「じゃあ私もカミキの部屋で寝る」
「私もヒカルさんの部屋で寝て良いですか?」
俺がそう言うとアクアは嬉しそうにしていたが、そこにかなとニノも便乗し始めてしまい、どうやら俺の部屋でお休みタイムの様だ。
俺が使用しているベットはかなり大きいサイズなので4人くらいは問題無いし、こういうのも良いだろう。
まーアイが聞いたら嫉妬されそうだけど……仕事じゃあしょうがないしね。
そして、俺・ニノ・かな・アクアの4人で一緒のベットで大晦日を過ごしたのだった。
なお、ライブは朝日が昇るまで行っていたが……カナンは余裕で歌いきり新たな伝説作ってしまった結果……赤スパでの収益がとんでもない金額だったようで、麗民さんや東阿君なんかは物凄い喜んでいたそうだ。
そんな事もありつつ、新年を迎えたが……
俺は1年で一番嫌いなのが正月である。
そもそも餅が嫌いだし、お節料理も嫌いだ。
なのに……俺は今お節料理を作っている。
何故……俺は自分が食べられない物を作っているのだろうか?
「父さんお餅美味しいね!」
「……ほんと良い腕してるわよね」
「正月はやっぱりお餅にお節料理だね」
アクア・かな・ニノが喜んでいるからに他ならない。
「……喜んで頂けて何よりです」
……口ではそう言いつつも、内心は複雑な感情を持て余しつつ俺は包丁を握るのだった。