「ね……ねえお母さん。何も出て行かなくても良いじゃん!」
「何時までもヒカルさんに迷惑掛けられないでしょう? アイも大人なんだからその辺り配慮しなさい」
「ヒカル君はどう思うの! お母さんが居ても迷惑じゃないよね!?」
涙目であゆみさんの腰に抱き着き離れるのを嫌がるアイの姿はまるで幼子のように見えたが……迷惑では無いよ?……うん……迷惑では無いけれど……引き留める理由がもう無いんだよなぁ~
「……勿論迷惑ではありませんけど、引き留める理由が無くなったと言いますか……あとあゆみさん少ないですけれど……これ生活の足しにしてください」
俺は懐から札束をぎっしり入れた茶封筒をあゆみさんに渡した。
「ヒカルさん良いの?」
「勿論です。何か困りごとがありましたら遠慮せずに相談してくださいね」
「そう? じゃあアイの事をよろしくね」
あゆみさんがそう言うとアイが俺の事を凝視し始めたが……恐らくこれが狙いなのだろう。
……今更ではあるが元彼が愛人枠に復帰しているのもおかしいけど、それを認めているゴローさんは一体どういう考えをしているのだろうか?
稼ぎはあるとはいえ、客観的に見たら複数の女性と関係を持っているヤリチン男に自分の女の面倒を見させるって正直どうなのかと思うのだ……しかし、大変デリケートな話題だし下手に突っつくとゴローさんがどういう行動に出るかさっぱり分からないので、とりあえず事実だけを伝えるか……
「私はアイさんとは一度別れた人間なので基本的にはゴローさんにお願いしてます」
「うわーん。ゴローさんヒカル君が意地悪するぅ~」
アイはそう言うとようやくあゆみさんから離れて今度はゴローさんの胸に飛び込み、それを優しく抱きしめるゴローさん。
ゴローさんの身長が高いのと、アイの身長が低いからか親子とは……言わないが年の離れた兄妹に見える。
「ほら、ヒカル君とは一度別れてる訳だし……さ」
ゴローさんは優しくアイにそう告げるも、アイが欲しい言葉では無くアイから不満が漏れた。
「ゴローさんはどっちの味方なの!」
「勿論アイの味方だ! 俺はアイの為ならなんだってして見せる!」
ゴローさんは熱い啖呵を切ったけれど……それならアイもアイドル辞めた訳だし、二人とも結婚すれば良いんじゃないかな? アイだって30手前だし、正直結婚したところで文句を言われる筋合いは無いのだ。
「……ちなみにアイさんとゴローさんは結婚しないんですか?」
「そもそも結婚する意味って何かな? 今だってこうして一緒に生活している訳だし、必要ないと思うんだよねぇ~」
アイはあっけらかんとそう答えたが、ゴローさんの方はと言うと……
「出来れば俺はアイと結婚したいと考えて居るんだが、そうなった場合アイのファンがどう行動するのか分からないし……」
アイドルを辞めたアラサーの女に未だに愛されたいと不特定多数の人が思っているのは現実問題どうなんだろう?
俺から言わせればアイドルなんて水商売となんら変わらない。
何故ならやっている事は恋愛商法で相手を騙し夢を見させて金銭を得る。
唯一の違いは水商売は大人を対象にしているから、相手も遊びとして受け入れる事が出来るが……アイドルは老若男女問わず愛を謳う。
そして、一番の問題は金銭のやり取りが無いのだ。
水商売は大金を払って指名すれば会えるが……そもそもの話お金が無ければ会う事は出来ない。
アイドルもその辺りは基本同じだと思う。
お金を払って好きなアイドルのライブチケット購入する。
しかし、水商売と違いアイドルにはメディア露出がある。
実際に対面することは出来ないが見る事は出来るし、今ではカナンみたいに動画サイトに上げて、無料でコメントのやり取りも出来るのだ。
カナンにはリアル兄貴よろしく朝風や雷門と言った厳ついのが付いてるし、最悪走って逃げ切る事は出来るが……全員が全員そういう訳では無い。
それをアイに当てはめると……
ボディーガードは居ないし、ダンスレッスンをしていたから運動は出来ると思うが……カナンみたいな化物染みた体力は無いだろう。
つまり、何が言いたいかと言えば……
「ゴローさん?上原パイセンが通っている道場に行って体を鍛えてみるのはどうでしょうか?」
「一体どういうことかなヒカル君!?」
いや、苺プロのセキュリティーがどんなものかは知らないけど……最終的にはゴローさんが体を張ってアイを守れば良いんじゃないかな?
「アイさん見たくないですか? ゴローさんの腹筋8パック」
「そ……それは興味あるけど……ヒカル君だって筋肉質な身体じゃないよね?」
いや、俺には上原パイセン付いてるし?