みんなとの一戦を超えて俺の日常は変わったかと思えば……そんな事は無かった。
それと言うのも皆がみんな働いて居る事もあるが、俺・かな・ニノは劇団ララライに所属しているから時間は合うけれど、カナンは兎も角ゆらは事務所が違うので朝……もしくは夜しか会わないなんてこともあるのだ。
そしてアイに関して言えば、ちゃんと自分の家の事を疎かにしない事を厳命した。
ルビーが転生者とは言え、現在は中学生なのでこの先の事を考えたらほっといていい訳が無いので、アイにはしっかりして貰いたいものだが……アイ自身が中卒でアイドルとして大成功を収めてしまった経験があるし、何よりも楽天家なのが問題なのだ。
……という訳で、親として全く頼りにならないアイを信じる事なんて俺には無理な話なので、ゴローさんを呼びだして話し合いをする事にした。
場所は最近常連になりつつある、喫茶店『キャッツアイ』……店内のBGMがGet Wildに変わった時だった。
丁度タイミングよくゴローさんが入って来て、俺を見つけると爽やかな笑顔と共にやって来た。
身長が高くぱっと見はスラッとした体形ではあるものの、上原パイセンおすすめの道場に通うようになってからは割と筋肉質になっているようで、特に腕なんかは以前あった時よりも少しばかり太くなっている様に見えた。
「お待たせヒカル君」
「いえいえ、急にお呼びして申し訳ありません」
「それで話しって何かな?」
「……ルビーの事なんですけど、まずは先に何か飲み物でも注文しましょうか?」
「あ、ああ……そうだね。」
俺がルビーの名前を出すとゴローさんはピクっと反応を示した。
これは何かあったのか?
タブレットをゴローさんに渡し、操作しているところを観察するが、先ほどとは打って変わりメニューを吟味しているようだ。
もし仮にルビーがゴローさんに手を出したとしても俺は別に何も言う気は無いし……そもそも養子のかなに手を出した俺が同じ状況であるゴローさんを一方的に責める事なんて出来る訳が無いのでその辺りは安心して欲しい。
いや、逆に考えるんだ!
ルビーとゴローさんが関係を持てば同じ境遇の仲間が出来る訳だし、星野家から逃げる事はもはや出来なくなるはずだ!
まーその後アイがどんな反応を示すかは分からんが……物理的に排除はしないと思うけれど、何でか俺の所に来そうな気がするのは気のせいだろうか?
そんな事を考えて居たら注文を終えたゴローさんはタブレットを横にずらして、口を開いた。
「お待たせ。……ところでルビーがどうかしたのかい?」
恐る恐るゴローさんが聞いて来たから、自分のスマホを操作してYoutubeに上がっているルビー達の『B小町』の動画を見せて答える。
「以前も言ったと思いますが、私はアイドルに疎いので良さが分かりませんが……長年アイを追っかけていたゴローさんから見てルビーに芽はありますか?」
動画内では楽しそうに歌うルビー達『B小町』の姿が写っている。
メンバー全員が見た感じ楽しそうにしているし、ダンスも纏まっているが歌は……まぁ……若干……ルビーが足を引っ張っているのだ。
同じ事務所である訳だし、『B小町』の曲を歌うのは問題ないと思うけど……言ってしまえば偽物でしかないのだ。
偽物は本物に追いつく事は出来るが、追い抜く事は決して無い。
何故ならそこに独自の解釈が無いからだ。
ならば、ルビー達の『B小町』に価値は無く、どんなに頑張ってもアイ達の『B小町』を超える事は出来ない。
つまり……何が言いたいかと言えば結論はてつをなんだ!
「今はまだ……小さい光だけど、ルビーはいずれアイを超えると思うよ。何故ならアイとヒカル君の子供なんだから、容姿は勿論才能だってある」
ゴローさんは誇らしげに答えてくれたけど……才能ってなんだ?
確かに見た目に関して言えばアクアとルビーは芸能界でもトップクラスだと思うが……しかし、才能云々かんぬんは努力があってこそのものじゃねーかな?
どんなに嘯いても才能だけで勝てる程この世は甘くない。
何故ならトップを走る人間はすべからく努力しているからだ。
別段ルビーが努力していないとは思っていないが……動画を見た限りは足りないと思わざるを得ないので、現状はゴローさんが言うようにアイを超えるアイドルに成れるかと言えば、首を傾げざるを得ない。
……というかアイを超える事は出来たとしてもカナンを超える事は出来ないんじゃないかな?
今じゃあ、マラソン大会でギネス記録叩きだしたし……ドーム公演だったり、国立競技場でのライブも成功させたし、年末年始の無人島ライブはいまや伝説となっている。
やっている事がアイドルじゃなくてロックなのは俺の所為でもあるが……まぁ、カナンは楽しそうだし良しとしよう!
「お待たせしました。チーズケーキとアッサムのセットとホットコーヒーになります」
「はーい」
「いえいえ」
絶妙なタイミングで注文が届いたので一旦食べ始める事にする。
「それにしても……そのチーズケーキのサイズ凄いね」
「ええ、スーパーとかで売られているスフレーチーズケーキよりも大きいですもんね」
こういった喫茶店で出されるケーキ類は大きさにも寄るが大抵6等分だと思うけど……ここ『キャッツアイ』はレベルが違う。
金額は少しばかり高めではあるものの、直径約15㎝ほどで5号ぐらいのサイズなのだ。
甘党で大食いの俺にとっては大変喜ばしいものだが、そういう訳ではないゴローさんは俺のチーズケーキを見ただけでお腹いっぱいになったようだ。
詳しい年齢は分からないけれど、40代で別段甘党って訳でないのならばこの反応は仕方が無いのかもしれないな。
チーズケーキをフォークで切り分けて口に運び、渋めの紅茶であるアッサムを一口飲む。
やはり、ケーキには渋めのアッサムが合うな!
「……ゴローさん的にはルビーはどうすれば売れると思いますか?」
俺がそう聞くとゴローさんは腕を組みつつ、眉間に皺を寄せて考えた。
「それはだなぁ~……とりあえず、小さい箱でも良いから定期的にライブをやるのが重要かな?」
「やっぱりそうなりますよね」
『B小町』の公式チャンネルを見ると登録者数は今現在5000程度……これがただのYoutuberならば凄いと思うけれど……初配信にアイが出た事による影響を考えるならば少ないと思った方が良いかもしれない。
その後の上がっている動画もアイが出演している回は100万位再生されているが、そうで無い時の再生数は1万以下なのだ。
詰まるところアイのおこぼれで再生数を増やしているだけでルビー達の実力が伴っていないのが現状だし、歌っている動画も有るが……先ほど考えた通りそれなら本家の『B小町』で良い訳だし……
はぁ~むずかしいなぁ~
素人の俺とアイドルオタクのゴローさんでは良い案が浮かぶ事訳がなかった。
斎藤社長が今のルビー達をどう考えて居るのか少しばかり話を聞きたいが……俺も立場上聞きづらいし、せめてルビーに優秀なブレインが付いて居れば問題無かったんだけど……ちらっとゴローさんを見るとにやにやしながら俺の事を眺めていた。
「なんだかんだ言いつつ、ヒカル君はちゃんとお父さんなんだね」
「……アクアの父親で有る事は胸を張って宣言出来ますけど……ルビーの父親で有る事は出来れば遠慮したいです」
「根が深いなぁ~」
だってルビーからは敵視されていたんだから仕方ないだろう?
タグにてつをを追加するべきか……?