カミキヒカル……『役者殺し』と呼ばれる程の実力を持った奇才の役者
役者であれば知らない人が居ない程有名ではあるものの……その反面知名度は低い。
その理由は驚く程単純だった。
彼は主役嫌いだと思われており、脇役しか演じないからと言うのもあるが……それとは別にあまりに演技力が高すぎてカミキヒカルであると認知されていないからだ。
私も子供の時に映画で共演したときに会ったけれど、当時アイドルをしていた姉よりも可愛いかったので、てっきり女性だと思いガン見したところ……視力どころか聴覚まで発達してしまったぐらいだ。
「紗希ちゃん戻ったぞー」
「ただいま戻りましたが何かありましたか?」
「燃えてる……わ、私のアパートが燃えてる……」
「……ご愁傷様としか言いようがねぇや」
「……私これから何処に住めば良いんだろ? あっ良い事思い付いた!そう言えば神裂さんって良い所に住んでますよね? 私料理得意なんでしばらく住まわせてくださいよぉ~」
「それは構いませんけど……その場合は合意とみなしますよ」
「あんなにキスしといて今更じゃないかな?」
「……それもそうですね。神原さんこの事は内緒でお願いします」
「内緒も何もそんな野暮な事はしないぞ」
「流石神原さん!」
「おだてても何も出ないぞ~」
今は本読みを行っており、それぞれが役のすり合わせている。
元トップアイドルのアイはアイドルとしての経験からか引き込まれる魅力があり、劇団ララライ所属の上原清十郎はまるで本当の刑事のような凄みのある演技力を見せた。
この二人に共通しているのは己の我を活かす演技に長けている事で私にとっては見ていてとても勉強になるのだが……カミキヒカルのそれは違った。
目の前にいる人物はカミキヒカルのハズなのに……私にはフィクションであるはずの神裂光にしか見えなかった。
これが憑依型の演技なの?
私が内心驚いている時だった。
その直後カミキヒカルが『役者殺し』と呼ばれる所以を見た。
『続報です。ただいま出火元の原因が判明いたしました。こちらは煙草のポイ捨てが原因によりそれがアパートに引火した模様』
神裂光からテレビキャスターに移り変わった。
台詞自体は少なく違和感など全くないが……その直後にテレビキャスターから神裂光に戻った。
「……後は神裂さん私に煙草のポイ捨てをした不届き者に射殺許可をください!」
「……気持ちは分かりますがダメです」
「そんなぁ~」
「紗希ちゃん……ホシならすぐさま捕まえてやるし、取り調べの時に立ち会わせてやるからさ……何ならそこでホシとコミュニケーションとってもいいぜ?」
「神原さんが言うとガチじゃないですか!……と言うか部署が違うのにそんな事出来るんですか?」
「……そこは神裂警部補が上手い事やってくれるさ」
「……私に丸投げなんですね」
これが『役者殺し』と呼ばれるカミキヒカルの実力なの?
いつの間にか握り込まれていた私の手は手汗が凄い事になっていた。
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本読みも特に問題無く終わり、本格的な撮影は明日からと言う事もあるので今日は早めの解散になったのだが……
「カミキさん少しだけでも良いので演技のお話を……」
「フリルさん次の撮影が始まりますからダメです!」
「うっ!……わかりました」
フリルは自身のマネージャーさんに連れて行かれてしまった。
売れっ子であるフリルは中々大変なスケジュールで動いているようでかなりの金額を稼いでのは見て取れるが……それとは別に自由な時間はあまりなさそうだった。
それはかつての自分を見ているようで何となく同情してしまう。
唯一の違いは別段売れていた訳では無いけれど……時間が常にカツカツだったのは確かだ。
今度会ったらフリルに対して優しく接してあげようと思いつつ、後ろの2人をどうしたものかと思案する。
「さてここからは公式彼女の私とヒカルさんの熱々デートタイムなのでドラマヒロインのアイさんは帰ってくださいねー」
「いやいや、ゆらちゃん演技ってさぁー普段からの意識が重要なんだよ? つまりドラマが終わるまでヒロインである私はヒカル君と熱々デートしてドラマを盛り上げる必要があると思わない?」
「思わないです!」
「え~」
ゆらにばっさり切られてしまい流石のアイも何も言い返せないようで口を尖らせてしまったようだ。
まーゆらからすれば二人の時間を取れるチャンスなのだから必死になるのは当然なのだ。
かなは兎も角、ニノとカナンは気を遣ってくれるけれどやっぱり家に居る訳だし、家に帰ればアイが隣に住んでいるので理由を付けて突撃してくる訳なのだ。
そうなれば……後は男と女の世界なので夜の運動会が始まるのだ。
ならばアイは夜に来れば良いじゃんと言いたいけれど、それはそれでどうなのかと思うし、違う方向で攻めるか……
「ヒロインどうこうは一旦置いといてアイさんにはルビーが居る訳ですし、あんまり帰りが遅く為れば心配されますよ」
俺がそう言った瞬間だった。
まるで俺がそう言うと想定していたかのようにアイは不敵に笑い答えた。
「大丈夫だよ。元々ドラマ撮影で帰りが遅くなるって話はしていたから今頃ルビーとゴローさんの2人で楽しんでいるからへーきへーき」
果たして一体何が大丈夫なのか……いや、アイはルビーが転生者であることを知らないいし、そもそもルビーがゴローさんを狙っている事にも恐らく気が付いてないだろう。
つまり何が言いたいかと言えば、ルビー目線ではゴローさんとデートしている事になる訳だし、共通の話題(アイ)で何時までも喋れて空腹も満たされれば最後に行くのはホテルになる可能性がある。
最近の若い子は……なんて言いたく無いが、かなやフリルの行動力を考えるとあってもおかしくないだろう。
そして一番の問題はゴローさんが俺と同じく押しに弱い部分もある。
「そんな訳で私の方は問題無し!」
「……うぅぅ……ヒカルさーん」
ゆらは涙目で俺の方を見て来たが……いや、流石に俺の考えをアイに伝える事は出来ないし……伝えたところでアイがショックを受けるだけだし……何故俺がこんな目に?
俺は涙目のゆらの頭を無言で撫でる事しか出来なかった。