「あなたの事は私が絶対に守ります!」
「か……神裂警部♡」
ドラマ撮影のワンシーンとは言え、中学生であるフリルを瓦礫から守る為押し倒すのは果たしてどうなのかと思わずには居られないが……フリルからの希望と言う事もあるし、何よりこういったベタなシーンは王道なのだ。
配役で言えばアイが扮する神条紗希が適役なんだけど……俺としては不本意ではあるが、演出家が土下座して頼んで来たし、小うるさいフリルのマネージャーさんは黙らされてしまった以上……俺の内情はともかく、プロとして仕事をやるべきだろう。
……中学生女子の制服を着こみ、金髪ロングヘアーのウィッグと赤目のカラコンを装着し多少のメイクをしているしている所為か俺の見た目はルビーに瓜二つなのだ。
そんな訳で無表情に近かったフリルは表情を赤らめて俺の事をうっとりとした目で見ていたが……俺の所為で百合の扉を開いたとか無いよな?
まぁ親の俺が言うのもどうかと思うが、内面は兎も角ルビーも見た目だけは美少女なのは間違い無い訳だし、ルビーのファンが増えるのは良い事だろう。
「カァーット! 今回もバッチリだ。」
そこでようやく監督の声が響き、俺も立ち上がろうとするが……何を思ったのかフリルは俺の首に手を回して耳元で囁いて来た。
「カミキさん……腰が抜けて立てないので起こして貰って良いですか?」
「……分かりました」
……とは言え、俺は上原パイセンみたいに鍛えている訳では無いので、腰をやらないよう気を付けつつフリルを抱きかかえて立ち上がる。
とある方向からは物凄い視線の圧を感じるが、中学生の女の子がやる事にそんなに目くじらを立てなくても良いんじゃないかと考えたが……かなの件がある以上、俺の言い分など通る筈もないので……
「ねぇねぇヒカル君なんでフリルちゃんを抱き締めてるのかなー?」
「はい二人とも離れてね~」
目のハイライトが消えたアイとゆらがそう言うので俺はフリルからすぐさま離れる。
「あっ」
名残惜しそうにフリルは離れた俺を見ているが……流石に撮影が終わった後も求められるのは俺も困ってしまう。
それと言うの少し前までは小学生で凹凸の無い身体だったのに今が成長期なのだろうか、抱き締めた感覚からするとかなりスタイルも良くなっているのだ。
そう言えばかなも身長は低いものの、スタイルは良いし最近の子供は発育が良いのだろう……そんな事を考えていた時だった。
「フリルさん大丈夫ですか!?妊娠してませんよね!?」
フリルのマネージャーさんが何時ものように突っ込んで来た。
「……残念、まだ妊娠してない」
「くぅぅ」
残念そうにしているフリルは本気なのか演技なのか表情からは伺えないが、悪女好きな俺からすれば困ったものだ。
「この女ったらし!」
フリルのマネージャーさんはそう言うと俺の事をキッと睨んで来たが……その言葉は事実であるので、否定も肯定も出来ずに俺は愛想笑いを浮かべるだけしか出来なかった。
その後はフリルの襟首を掴んで引きづって行く何時もの光景だった。
「それにしてもヒカル君嫌われてるねぇ~」
「それにしてもなんであんなにヒカルさんの事嫌ってるんだろう?」
「さぁ?」
俺自身彼女に対して嫌われる行為は一切してないと胸を張って言えるが、俺の事なんて調べれば分かるものだし、なんならフリルの事務所は大手であるので不必要に近寄らせないように厳命でもされているのかもしれないな。
まぁ、彼女とは関わる事は余り無いだろうしこういった事も仕事の内と割り切るほか無いだろう。
そんな事を考えている時だった。
「……う~ん見れば見る程、フリルちゃんは若い時の愛梨にそっくりなんだよなぁ~」
振り向くと上原パイセンが両腕を組みしみじみとそう呟いていた。
「ええ~フリルちゃんが若い時の愛梨さんにそっくりなの!?」
「確かに愛梨さんは大女優のオーラがあって近寄り難い部分はあるし、フリルちゃんもミステリアスな部分があるしね」
上原パイセンの言葉にアイは単純に驚いており、ゆらは二人の共通部分を考察していたが……まぁ、気まぐれな部分は確かに似通っていると思わなくは無いなぁ
まぁーそんなことより……
「カミキちゃん達、次の撮影が始まるまで今の内に休憩してくれ!お弁当と飲み物はあそこに用意してあるから好きに食べてて」
監督は大きな声でそういうと映像の確認を行い始めた。
「今日のお弁当はなんだろう?」
アイはワクワクしながらお弁当が置いてあるテーブルに向かい始める。
「ここの撮影現場のお弁当ってかなり豪華で美味しいよね。他所の撮影だと大体幕ノ内弁当だったりするし……ヒカルさんの現場って凄いよね」
そんな可愛らしい事を言ってくれる彼女に俺が弁当の手配をした甲斐があったものだと内心喜んでいた。
何せ良い仕事するには余裕が無いといけない訳だし、こういった撮影現場でのADなんかは本当に多忙を極めるのだ。
そんな中お弁当の手配ぐらいとは言え、その分のほんのわずかな時間を他の事に当てられるのは嬉しい事なのだ。
しかし、予算というものが存在する以上いくら俺がスポンサー受けが良いとは言え、あまり高額の物を発注するのは難しいのだ。
……まぁ、やってやれない事は無いが、今現状俺も暇な訳では無いし……それにアクアとあかねの件がある以上無駄な時間を使う訳には行かないのだ。
……となれば、俺が身銭を切るのが一番手っ取り早い。
勿論、かなりの出費ではあるものの……前回の競馬の儲け分がここに周って来たと考えれば納得いく。
ギャンブルで得た金なんて所詮はあぶく銭なのだから……
「今日のお弁当鰻だよ!」
「……ってこれグルメ番組で紹介されてたすごい有名な所だし!」
「じゃあこれを食べたら午後のシーンも頑張ろうねー」
「そうだね♡」
ルビーになり切った俺がそう言うとアイは本当に幸せそうにお弁当を食べ始めたが……
「いや、アイさん口の周りがタレ塗れになってて汚い!」
「ご……ごめんねぇ~……ところで、上原さんは食べないんですか?」
「ああ、俺はこれからアクションシーンの撮影なんだが、これを見てくれ……これを見てどう思う?」
アイの言葉に楽しそうにしている上原パイセンはとある漫画を差し出して、問題のページを見せた。
その内容だが、ジェットコースターの線路で戦うシーンがあるのだが……
「「すごく……危ないです!」」
アイとゆらは思わずそんな言葉を吐いていたが、当の上原パイセンと言えば……
「そんな事を聞いてるんじゃない!1㎝でも足を置く場所を間違えたら地上まで真っ逆さまな場所でのアクションなんて興奮するだろ!これが許されるのがドラマの醍醐味だよなカミキ!」
そんな醍醐味があって堪るかと言いたい所ではあるが……昔の時代劇なんかはリアルに真剣を使用していた事も有る訳だし、だからこそ殺陣シーンは魅了されるのだ。
「……上原パイセンの言わんとしている事は分かりますけど、コレやる時ってスーツに革靴なんですよね?難易度更に上がってませんか?」
「MA-1でも良いよって監督には言われたが……警察官で着ているのなんて相棒の亀○薫位だろ?俺も知り合いの警察官に聞いたが警部補になるような人たちはそう言うのを着て出勤はしないんだとさ」
オカルトを題材にしているドラマだからこそ、このリアル感が逆に良いのかもしれないな。
「上原さーん準備出来ましたー」
「おー今行くぞー」
ADさんがそう言うと上原パイセンはまるでコンビニにでも行くような軽い足取りで行ってしまった。
「こんなアクションが出来るなら筋肉番付けとかSASUKEとかクリア出来そうだよね?」
「……本人曰く俺みたいな役者が出るのはお角違いだからオファーが来ても断ってるそうですよ」
「上原さんらしいなぁ~」
そんな事を話しつつも俺とアイとゆらの三人はお弁当に舌鼓を打ちつつ、待機しているのであった。
その後編集作業が終わった監督達と再度打ち合わせをし、撮影を再開したが終わったのは深夜だった。
まーこれもオカルトと言えば夜と相場が決まっているし、事件も夜の方が起こりやすいと言う事もあるからだ。
撮影現場では元気いっぱいのアイやゆらも俺の車に乗り込んだ途端に爆睡するのは、それほど今日の撮影が疲れたと言う事もあるのだろう。
俺達世代でも労働環境は良くないのが芸能界だし、売れる為には少なからずこういった事をやっていかないといけないのは理解しているが、それが自分の子供もそうなるとやり切れ無い想いもある。
その辺りアイは一体どう考えているんだろうか?
「むにゃむにゃ……ヒカル君が1人……ヒカル君が2人……ヒカル君が……ヒカル君がぁぁ」
「……ヒカルさんはわたしゃないもん……Zzz」
アイは一体どんな淫夢を見ているのか問いただしたい気分になるし、ゆらはゆらで嫉妬させて申し訳ないと思いつつ、俺は家に向けて車を走らせるのだった。