撮影が始まるまで隅っこの方で待機していると有馬が笑いを堪えながら横にやって来た。
「ぷぷっ! カミキその格好似合ってるわよ~」
有馬のそれは善意からの言葉では勿論無く……今現在の俺の格好を見て笑いを堪えているのだ。
上はブラウスとセーターのみではあるものの、ブルーのチェックスカート履いてる事もあるが、極めつけに長い髪を黒いリボンで結んでいる事もあり、今の俺の姿はまごう事なき女子高生であった。
……いや、女装程度大したこと無いし……最近はモデルの時ぐらいしかやっていないけど、俺の身長が150㎝と小柄で喉仏も出て居ない事もあり、未だにこういった役をこなす事が出来るのであって、自虐する必要は無いと思っている。
「そう? 有馬さんにそう言って貰えると嬉しいわ」
俺のその反応を見て有馬は目をぱちくりしながらこっちを凝視して始めた。
「……確認だけど、カミキって本当に男よね? 実は女性だったりしないわよね? 仕草がまんま女性よ!?」
そりゃ……こう言った役に関しては年季が有る訳だし、伊達に女たらしではないのだからこれぐらいの所作位朝飯前だし!
「ふふ、有馬さんはどっちだと思う?」
しかし、ネタは分かっていても……実物を見て見ない事には判断が付かないのが芸の奥深いところで、面白い部分でもある。
「え? ええ~! でも、カミキって元々中性的な顔立ちだし……もしかしたら本当に女性だったりするのかな? でも、胸は無い訳だし……いや、普段から巻いて潰してるとかありえそうだし……あ~もう分かんないよ~カミキアンタは一体どっちなのよ!」
有馬は俺の性別が気になるようだけど、そろそろ撮影が始まるから答え合わせは後程にしよう
「ふふっじゃあ答えは撮影が終わったら教えてあげるわ♪」
「ちょっと待ちなさいよカミキ! 気になって集中出来るわけないじゃない!」
はっはっは俺の性別なんて今は些細な事だから気にするなよ。
俺はそう思いつつ撮影するまでの間の空いてる教室に入ったが……入った瞬間だ主役の女の子から今回脇役のアイどころかアクアとルビーまでおり、全員が全員俺を凝視し始めた。
「あら? 皆さんどうかされましたか?」
「い、いえ……大丈夫です!」
……とは言いつつも主役の子はあまりにも動揺しているみたいだけど、これ以上びっくりさせる訳にも行かないが、かと言ってそのままにしておくのも、撮影に支障をきたす恐れがあるので、警戒心を解かないといけないな……
「初めましてカミキヒカルです♡ あなたが『可愛すぎる演技派』って言われてる女優さんですよね? テレビで見ていた時から可愛いと思っていましたけど……生で見たら想像の100万倍ぐらい可愛いですぅ~♡ 今日はよろしくお願いしますね♡」
とりあえず……やりすぎってくらいに褒めて徐々に距離を縮めるが……
「いえいえ、カミキさんも十分可愛いですよ」
チャンス! このタイミングで一気に近寄り相手の手を優しく握りしめながら……
「え~推しの子にそんな事言われちゃうと照れちゃうな~あんまり嬉しい事言ってくれちゃうと”口説きますよ”」
最後だけ途中までは女性の声で……最後の部分だけは低めの声で彼女だけに聞こえるように囁く
出来ればもうちょい時間を掛けたい所ではあるが……周りの目が有るので、ここまでにしておこう
とりあえずぽ~っとしてる彼女は一旦そのままにしてまだ時間があるようなので、教室を出たが……
「……ね、ねぇヒカル君で合ってるよね?」
俺の傍にアイが近寄って来て上から下まで見始めたと思えば緊張している所為か自信無さげに声を掛けて来た。
「ええ、合ってますよアイさん」
「まさかここまで変わるなんて……凄いね。うん、本当に……凄いよ!」
アイの語彙力がどこか行ってしまったようだけど……まぁー大絶賛されたようだし良しとしよう。
「アイさんにそう言って貰えるととても嬉しいですけど……ちょっと照れますね」
「あ~もう、その仕草が本当に女の子にしか見えないよ!」
アイはまだ話したいようだけど……
「74カット準備出来ました!」
スタッフの準備も出来たようだし、さて仕事の時間だ!
「カミキお疲れ!」
「有馬さんありがとうね」
「……ってカミキその口調そろそろやめてよ! 私の脳みそがいい加減バグりそうなのよ!」
いや、そんな事言われても役者が役を終えるのは出番が終わった時だけだし……今日の撮影はまだ終わって無いからしばらくはこのままだ。
「あらそれは大変ね? じゃあ私がかなちゃんの頭を撫でてあげようか?」
「ちょっと子供扱いしないでよね!」
有馬はそう言うと不満そうではあるものの、どこか楽し気でもあった。
「……じゃあ私も出番だから行って来るわ! カミキ私の姿ちゃんと見てなさいよ!」
「じゃあちゃんと出来たら……お姉さんが誉めてあげるわ」
「もう! カミキのバカ」
有馬はプリプリ怒ったけど……いざ撮影が始まると、大人顔負けの演技で周囲を圧倒し始めた。
その後も、一応撮影は何とかギリギリで終わったけど……アイが悪い訳じゃ無いが、やはり主役の子よりもアイの方が可愛すぎてしまい、主役の子である『可愛すぎる演技派』の子が喰われかけてしまった。
俺とアイが一緒に映るシーンが無かったのが唯一の救いだと言え……主役の子を挨拶がてらに口説けた事もあり、何とかする事が出来た。
これが何もしていなかった場合……それでもどうにかしないといけないけれど、想像以上に厳しい事になるのは言うまでもない。
挨拶がてらのお話をしたことにより、撮影中にカメラにはバレない様に彼女にだけ送った流し目が成功したのであって、映像では主役の子に艶を出させる事が出来て無事に仕上げる事が出来た。
出番はそんなにどころか、大して無いハズだったけど……中々苦労する現場ではあったが……ま、これで誰もカットされること無くオンエアされるだろう。
周りの人達も有馬位の演技力があれば良いのにと思ってしまうが……人には向き不向きがあるし、そもそも未経験では自分で何とかする事なんて出来るはずがないのだが……主役の子位は多少なりとも練習して欲しいものだ。