この間のドラマの撮影から何となく嫌な予感めいたモノを感じて居たけれど、まさかこんなことになるなんて……
「わぁーママが出たドラマさいこぉー」
「いやーアイならこれを取っ掛かりしてに役者や映画の仕事も増えるんじゃないのか?」
ルビーとゴローさんはそう言って物凄く喜んでくれた。
かく言う私も……撮影自体はPVみたいな感覚で挑んだ事もあり、全体的にやりやすかったし、こうして出来上がったのを見ると作品の完成度も高く今度は脇役では無く主役でやりたいと思ってしまう程の物だった。
そんな感じで鼻高々だったけど……
「やっぱりパパがママだったんだー!」
アクアの発言に私・ゴローさん・ルビーの三人はぎょっとなり、アクアの事を凝視するも、アクアはヒカル君に目が釘付けになって居た。
ここに来てヒカル君の女装姿が裏目に出てしまった。
いや、確かに知らなければ誰だってヒカル君の事を女性だって思う程の出来の良さなんだけど……ヒカル君はれっきとした男なのだ。
例え身長が低く、華奢な体型であり、髪が長くて、そして女性の様な声を出す事が出来ても……男なのだ。
「あ……アクア? ヒカル君はパパでママは私だよ?」
「違うもん! パパがママだもん! アイはお姉ちゃんだもん!」
口を尖がらせて泣きべそを掻くアクアだけど……果たしてこれは何回目のやり取りだろうか……ヒカル君のモデル雑誌が偶々あったから、アクアに見せたら物凄い喜んでおり、まるで宝物の様に大事に扱っているのだ。……いや、あの猫耳メイドのヒカル君は確かに可愛かったよ? でも……私だってあの恰好すれば絶対に可愛いいに決まってるんだよ!
……だけど、アクアにママと認めて貰う為に猫耳メイドの格好をするのは恥ずかし過ぎるし、そこまでやってもママと認めて貰う事が出来なかったらどうしよう?
結局それ以上アクアに踏み込む事が出来ないまま、月日が経った。
私の仕事もドラマが功を奏したおかげで個人の仕事でラジオや色々な番組にも出るようになった。
ニノは他のメンバーとも楽しそうに過ごしているようで、時たまヒカル君の残り香がする。
かつて私がヒカル君に言った『セックスをすれば愛が分かるかもしれないじゃん!』はニノにとってまさにその言葉通りの意味になったようで、私から見てもニノは以前と違い過ぎており、欲張りで正直でどこまでも可愛らしいアイドルになっていた。
以前のニノなら
そんな事を考えながら事務所に行くと他のメンバーがソファーや椅子に座っており、おしゃべりをしていた。
話題の中心は勿論……
「最近ニノは楽しそうだねぇ~」
「うちらなんかライブ位しか仕事無いけど……ニノは何か仕事増えてるみたいだしね」
「あ~あ、アイドルの中抜きはえぐいから……ほんとやってられないよ。たかみーはどうなの? 個人の仕事この前行ってたよね?」
「……あれは最悪だったわよ。アイと私を勘違いしてて第一声が『アイじゃなくてっおまけを呼んでどうするんだよ!』ってアシの人がものすっごい怒られてて何一つ笑えなかったわよ。……まーギャラは貰ったけどね」
「そんな事だろうと思ったわ……まーおまけのおかげで中抜きされてはいるけれど普通にバイトするよりかは貰ってる訳だし、中卒の私達じゃあ就職も難しいもんね」
「あーあ。アイドルになんかなるんじゃなかったなー」
「……これなら勉強頑張って高校にでも行ってればよかった」
以前だったら私を攻撃して皆一致団結していたけど……それで斎藤社長が物凄く怒ってしまい卒業ライブも何もないまま一人だけ契約を切られてしまった子が居た。
その結果私に対しての攻撃は一切無くなり、みんなから謝罪もされたけど……その結果がコレなのだ。
ライブで見せる仲良しなんてのは外の姿で……本当の所は醜くておぞましいものなのだ。
私自身……今となってはその子の事をどう思っていたか思い出せないけれど……その子だけは私に対して本気で怒ってくれていた気がする。
だけど当時の私は……いや、今も私は相変わらず身勝手で無責任な人間で……既に顔さえも思い出す事は出来ない。
そんな事を考えて居る時だった。
「おはよ~」
眠たげな顔をしながらもニノが入って来た。
私の前をニノが通り過ぎるとニノからはやっぱりヒカル君の残り香がする……。私はヒカル君とやった事があるけど、そこまで夢中になるほどのものじゃなかった。……でも、ヒカル君の話は意外にも有名で当時の私はそう言った話に興味が無かったから知らなかったけど……抱かれた女性は彼と関係を持ち続けたいと思わせる程だったらしいのだ。
私の経験談ではそんな事は決してなかったし、実際の所業務的な感じで抱かれ……あれ? もしかしてヒカル君は乗り気じゃなかったのかな?
だとしても……もう別れちゃったし……アクアの父親ではあるものの……私とヒカル君の関係って一体何なんだろう?
頭の中でそんな事を考えて居るとたかみーがニノに話しかけていた。
「ニノさぁ~最近仕事が増えてるようだけど……何してる訳?」
「もしかしてパパ活とかやってる訳無いわよね?」
たかみーが切り出すと他のメンバーも乗っかってきたようだ。
確かに……私もニノの仕事が増えてる理由は気になるし……子供達の為にもお金は重要だからアイドル以外での稼ぎ方は出来る事なら知りたい
「あー個人で仕事を取って来てるだけだよ? だって待ってても仕事は増えないからね。社長には許可取ってるから問題無いし……みんなも時間有るんだからそういった事に時間を使った方が良いよ? 何もしないと本当にお先真っ暗なんだからさ」
私はちゃんと仕事があるけど……他のメンバーはそうじゃ無かったようで、お先真っ暗って言葉に物凄く反応していた。
「あ”あ”~聞きたくないよ~」
「……そうだよね。大手のアイドルだってグループ解散したら、その後に残れたのは一人位だったし……何かしないといけないわね」
「……ニノが自分で仕事を取って来てるのは分かったけど、具体的には何をしてる訳?」
そう、具体的に何をしているのかが重要!
たかみーナイス!
「具体的っていうと……役者って訳じゃ無いけれど、演技の練習してるよ。その伝手で端役ではあるけど多少は稼げるようになったからね」
役者……演技……まさかヒカル君!? いや、そうとしか考えられない!
ニノはヒカル君と知り合いだからヒカル君から仕事を紹介してもらってる訳なのね。
確かにヒカル君はモデルに役者もこなしているし……お金だって私じゃあ考えられない位持ってるし、今月だって養育費を振り込んでくれたけど私の収入と同じ金額だったから……役者は儲かるのかな~?
そんな事を考えれるほどに今の私は心に余裕があったのだけど……それは私がヒカル君の事を知らないだけで、結局の所私は唯の世間知らずだった事をのちに理解した。