カミキヒカルアナザールート   作:だめねこ

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第39話

「これは……悪くは無いが無理だな」

「あぅぅ」

 

 佐藤社長の言葉にアクアは顔を伏せてしまい、今にも泣きだしそうにしていた。

正直アクアが行った演技は母親である私目線では、きゃわわ♡って感じで今すぐ抱きしめて褒めてあげたいぐらいだけど……子役のレベルかって言われるとそう言う訳では無いので、あの重曹ちゃんには敵わないだろう。

 

「まぁ……今の時代は子役って言えば有馬かなの一強だからアクアが悪い訳じゃ無いけど、どうしたって比べられるのがオチだ」

「じゃあさ……子役の劇団に入れるってのはどうかな?」

「それこそ、普通の家庭であれば問題無いだろうけど……俺とミヤコの子って事にして通わせてもアクアが口を滑らせるリスクがあるから無理だな」

 

 アクアは物分かりが良いからそんなこと無いもんって言いたいけど、実際にそうなった場合……私は果たしてアクアを……いや、ルビーも含めて我が子を守り切れるだろうか? 

 色々と考えて見ても私自身頭が良い訳では無いから恐らくと言うかほぼ確実に無理だと思う。

 ヒカル君の所属している劇団ララライに入れるってのも考えたけど……そんな事したら今度こそアクアは私から離れて戻って来る事は無いだろうし……

 

「……僕頑張るからお願いします子役にさせてください!」

 

 アクアは涙目で佐藤社長に訴えかけると佐藤社長も困ってしまった。

 

「アクア……言っとくが子役は想像以上に大変だぞ。俺から見てもアクアの演技は悪くは無いっての別段過小も過大もしてるつまりはねぇーし、この先だって続けて行けば上手くはなると思う」

「じゃあ……」

「だがな……それはあくまで俺の基準での話であって、これから先踏み込む世界はそんなに甘くは無いんだ。今みたいにちょっと言われた位でぐずる子は現場ではまず使われないし……甘い対応なんてしてくれないから事と次第によっちゃ怒鳴る事なんて当たり前だし、そう言った場面に今後必ず出くわす事になるから逃げる事は出来ないぞ」

 

 佐藤社長はアクアに優しく語りかける。

 うん……金髪サングラスのチンピラみたいな風貌をしているから誤解されがちだけど基本は優しい人ではある。

 

「……あれ、でも佐藤社長? 劇団ララライのカミキヒカルって知ってる?」

「斎藤だ! まーカミキヒカルって言えば有名だから多少は知ってるけどそれがどうした?」

 

 ……確かヒカル君も子役をやっていたって本人から聞いたし、アクアもヒカル君みたいに頑張れば行けるんじゃないかなー?

 

「いや……私ワークショップでララライに行った時にカミキヒカルと知り合ったんだけどね。アクアもヒカル君みたいにやれば大丈夫なんじゃないかな?」

 

 私がそう言った瞬間だった。

 

「んなわけねぇーだろうが!」

「ひぐぅ」

「え!?」

 

 佐藤社長の怒声が響き渡った。

 次の瞬間ハッと我に返った佐藤社長はすぐさま頭を下げた。

 

「あ……わりぃ……いきなり怒鳴っちまって……だがなカミキヒカルと同じ事をする事は絶対にダメだ! あれはまともな方法じゃないから、アクアが壊れるぞ?」

「……どういうこと?」

 

 私は堅唾を飲み込んで聞いてしまった。

 

「……今でこそコンプラだなんだって声高に言われるようになったが、ひと昔前の芸能界にそんなものは無い……子役ってだけで配慮なんかされる訳が無いし、出来なきゃ当然の様に罵詈雑言を吐かれるなんて日常茶飯事だ。……そんな中で生き残る方法はそんなに多くないが、出来る事を全て熟して来たのがカミキヒカルだ」

「それって一体なんなの?」

「やれる事は全部こなす。確固たるプロ意識だ」

「え!? それって当然じゃないの?」

 

 佐藤社長が思わせぶりに言うから拍子抜けしちゃったけど……それって当然の事だよね。

 

「……言っておくが自分の仕事が終われば終わりってのは普通の事だ。だが、そこに目を付けたのがカミキヒカルで自分以外の誰かの演技もこなすっていう『役者殺し』をするようになった。制作側からすればこれほど使い勝手の良い人材はいないだろうからな。なにせそれだけで撮影は順調に進むんだからな」

 

「『役者殺し』……じゃあアクアもそれが出来るようになれば子役として成功するのかな?」

「……言っておくがこんなの無理だぞ。自身の役を熟すのは当然の事だが……台本全部暗記は最低条件でかつどんな役も演じ分ける事が出来る程の技術も必要だ。それが出来て初めて求められるんだから、膨大な経験値が必要だ」

 

 そこまで言われてようやく私は気が付いた。

 確かヒカル君は主役はあまりやらずに脇役を好んでいたって……そこで下積みをちゃんと熟したからこそ出来るようになったのであれば……ヒカル君の真似なんて誰もが出来るはずが無い

 

「後はどんな役でも真面目にこなして信頼関係も築けて、ようやくカミキのポジションだ。最初からそんな事が出来る奴は居ないし今後も現れる事は無いだろう」

 

 そっかーヒカル君も苦労していたんだね。

 私が初めて会った時は基本的に演技指導は真面目だったけどやたらと女の子に話かけられててナンパされてるイメージしかなかったし……

 

「『役者殺し』……僕もなれるかな?」

 

 アクアはボソッと言っていたけど……聡明なアクアならいけそうな気がするけどな~

 

 

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