アクアが苺プロから子役としてデビューして3年が経過した。
最初は頑張ればヒカル君に会えると思って頑張っていたものの……アクアが演じて来たのはほとんどがエキストラで、時たま端役が来るけれどそれでも台詞なんて無くて、画面の端っこで僅か数秒で消える位だった。
私はその事に黙って耐えていたけれど……もう我慢の限界だった。
「アクアに何時になったらまともな役を与えてくれるの!? もう3年も経つのにずっとエキストラばっかりで偶に来るのは端役ばっかりってどういうこと!?」
佐藤社長に私は詰め寄るけど……
「うちの事務所は大手と違って弱小だし、大きな仕事を取って来る事も出来なくて申し訳ないとは思ってるし、これに関しては俺の努力不足だ。……しかし、それは一旦置いといて……アイから見てアクアの演技はどうだ?」
「家でも常に台本とか読んだり、ドラマを見て研究してるよ」
「つまりは可もなく不可も無くってところか……」
佐藤社長はそう言うと椅子に深く座り込んで大きくため息を吐きだした。
「俺もそこそこ業界は長い方なんだが……子役ってのはアイドル以上に難しいんだ」
「それがアクアの仕事とどんな関係があるの?」
「……ああ、今現状子役と言えば女の子は有馬かなで男の子なら姫川大輝の二人のツートップなんだ。この二人が居る以上はアクアに周って来る仕事は殆どがエキストラで端役ですらまれにしかないのが現状だ」
ヒカル君と良くドラマに出演してる天才子役の有馬かなとヒカル君の子供の姫川大輝……どちらも私はあった事があるし、直接話した事もある。
二人とも才能豊かで大人顔負けの演技力を披露しており今じゃあ天才子役と言えばこの二人を指す言葉だ。
有馬かなは最初に会った時は横柄な態度を取っていて、スタッフからも嫌われていたけど、ヒカル君と出会ってからはその態度が改善されたようで、破竹の勢いで突き進んでいた。
大輝君に関しては実際はヒカル君の子供だけど世間的には弟みたいな感じで見られていることもある為、仕事に困る事も無いし大輝君の母親である姫川愛梨がそもそも稀代の大女優なのだ。
そうなるとアクアには後ろ盾が何もなかった。
私が母親である事を公表出来て居れば……いや、そうなれば絶対に炎上しちゃうし……それこそアクアの努力が水の泡になっちゃう。
親子の関係を世間に晒すことは出来ないけれど……ヒカル君との繋がりを作るのがこんなに大変だって思わなかった。
そこで私は私自身の状況に気が付いた。
ああ、これは今の私の状況にも似ているなって……
私とニノ以外の『B小町』のメンバーもようやく個人の仕事は増えて来てはいるものの、そこまで多い訳では無い。
私はちゃんとやるべき事をやっているから増えて当然って思っていたけど……じゃあアクアはやるべきことをやっていなかったから仕事が回って来なかった事になっちゃうの? あんな小さい子供が努力に努力を重ねているんだから評価をされて当たり前だと思う反面……さっき斎藤社長に言われた言葉に対して私は何て答えたっけ?
『家でも常に台本とか読んだり、ドラマを見て研究してるよ』
ああ、そっか……私自身がアクアの努力を評価してなかったんだ。
何かアドバイスをする訳じゃ無くて、ただ見てるだけしかして無かった。
アクアが悲しんでる時に私は……慰める事で内心喜んでさえ居た。
「……斎藤さんちょっと頭冷やしてくるね」
「……ッ!? わ、わかった。アクアの仕事に関してはいずれデカいのを必ず取って来るからもうしばらくだけ待っててくれ」
私はそれだけ言うと社長室を出て……誰も居ない物置部屋に閉じこもった。
今私に出来る事……それはヒカル君に連絡を取る事だ。
アクアの為にも、私はもっと早くに決断するべきだった。
そんな事を考えつつもスマホを取り出して、ヒカル君に電話をする。
”ぷるるる”と電話の掛かる音が聞こえるとすぐさま通話に切り替わってヒカル君の声が私の鼓膜を刺激する。
『もしもしアイさんどうしましたか?』
私はその声に安心して思わず……
「ヒガルグンアクアが……アクアがぁ……」
『アクアがどうしたんですかアイさん!?』
五分ほど思わず泣いてしまった。
「ひっく……アクアが涙目になって必死に努力してるのに……私は……それを見て可愛いって思いながら見てる事しか出来なかったし……こんな事だから……アクアに……未だにママって……呼ばれないんだよね……」
『そんな事ありませんよ! 親と言う字は木の上に立って見る書きますので、過保護にすれば良いってものじゃありませんし、それに見守る愛と言うものもありますからね』
ああ、ヒカル君の言葉が心地いい……だって私が初めて愛したいと思った人だもん。
女関係にはだらしないようだけど……それでもヒカル君は私にはもったいない位誠実だった。
だから私みたいな嘘吐きがヒカル君と一緒に居る訳には行かなかった。
私がやった事は決して許される事では無く……ヒカル君に対しての明確な裏切りをしたのだから……この事は絶対に言う訳には行かない!
あの日飲んだピルが気持ち悪くて吐いたのは本当だけど……コンドームの中の精子を使って妊娠したことは私の生涯の秘密だ!
「ヒカル君ありがとうね」
ヒカル君を愛したいと思った事に何一つ後悔はしてないけど……
『アイさんさえ良ければアクアを劇団ララライに入れるのはどうですか?』
ヒカル君の提案は本当なら受けるべきだと思うけど……ショタコンの愛梨さんが居るとこに可愛いアクアを入れる気は毛頭ないけど……ヒカル君は愛梨さんのことが大好き過ぎるからどストレートに言える訳がないので……
「……それ以外の案でお願い」
『それ以外ですと……うーん、本当なら演出家に見て貰うのが手っ取り早くレベルアップしますが……映画の監督から直接指導を受けるとかどうでしょうか?』
「あっ! それなら以前知り合った監督が居るから私当たってみる!」
『そうですか……また何かありました連絡くださいね』
「うん! ヒカル君ありがとうね」
迷いに迷ってアクアに悲しい思いをさせたけど……これからはアクアの為にも私は頑張るんだ。