撮影現場までまだ距離はあるし、車とは違い多少不便ではあるものの、それでも移動手段であるバイクを手に入れる事が出来たのは大きい。
本当は16歳になったらすぐさま取りに行きたかったが……休みが全く無く、アクアの面倒を見ていた事もあり、そんな余裕は一切なかった。
今はアクアがアイの元に居るし、夏休みの一日を利用して一発試験で取って来た。
バイクにしろ車にしろ……前世で嫌と言う程乗り回したから運転技術や知識なんてものは良く分かるし……経験者ならばこんなのはイージーゲームであった。
そんな訳で今高速道路をヤマハのXMAXで爆走しております。
そしてようやく撮影現場に到着した。
邪魔にならないところにバイクを止めて撮影現場を見渡すも、特にピりついた雰囲気は無く、実にやりやすそうな感じだった。
そして俺を嵌めた元凶その2である五反田監督はスタッフに指示だししているが忙しい訳では無く時間にもまだ余裕がありそうだった。
ま、到着した訳だし五反田監督に挨拶をしようと声を掛けた。
「おはようございます」
「おおっ! 『女たらし』よく来てくれたな」
五反田監督はにこやかにそうやって返したけど……いや、確かに女たらしだし、事実100%だけど、そんな広辞苑で調べたら『女たらし』とは『カミキヒカル』の事である位当然みたいに言う事じゃ無いからな!
「……いえいえ、ところで撮影は何時からスタートですか?」
「ああ……そうだな~まだ準備に時間がかかりそうだから早くて一時間後ってところだな」
「分かりました。それではあちらは休憩所ですかね? そこで待機してます」
「おう、こっちも準備出来たら呼びに行かせる」
とりあえず、バイクの運転で疲れた事もあり……時間までゆっくりしたいものだったが……
俺が休憩室に入ってしばらくするとどたどたと慌ただしい足音が聞こえたと思ったら、バンっと入口を開けて有馬が入って来た。
「か~み~きぃ~久しぶり! 外にあるバイクってカミキのなの!? ねぇねぇ撮影が終わったら後でちょっと乗せてよ! 良いでしょカミキ!」
有馬は目をキラキラさせて俺の肩を掴んで来たけど……
「いえ……ヘルメット一つしかないので、駄目です」
「なんでよ!?」
いや、危ないし……怪我されても責任取れんよ?
俺の思いとは裏腹にその後スタッフが呼びに来るまで永遠と駄々を捏ね続ける国民的な天才子役がそこにあった。
そんな中でこの後の撮影をどうしていくか考えていた。
物語のあらすじとしては自分の容姿にとことん自信が無い主人公ちゃんが何故か山奥にある怪しい病院で整形を受けるって話なんだが……
有馬はその村の入口で出会う気味の悪い子供で……俺はと言えば急遽ねじ込まれた主人公の友達Bであった。
もっと言えば本来の配役では主人公は一人でここに来るはずだったのに、もう1人追加されており、それが主人公の友達Cの存在であったが、その友達Cはニノで俺がねじ込んだんだけど……ニノもそこそこ演技が出来るようになったし、これもいい経験になればと思いバーターを提案したら受け入れて貰えたのだ。
まぁーその分俺のシーンが割りを喰う事になったけど……良しとしよう!
「じゃあ取るぞー」
監督の声と共に撮影がスタートした瞬間空気が変わる。
「ようこそおきゃくさん。かんげいします……どうぞゆっくりしていってください……」
有馬のその不気味な演技は中々のものであり、主人公ちゃんと友達Bは有馬の演技に面食らってしまったようだが……すぐさま気を取り直して笑顔で受け答えをし始める。
「あ……ありがとね。ところでここって宿ってあったりすのかな?」
しかし、このなんとも言えない気味の悪さは表情を隠す事は出来ても声までは取り繕う事は出来ずにいた。
「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策すると良いでしょう」
子供と大人の身長差もあるし、何なら有馬は帽子も被っている事もあるから口元だけが見えるような角度で答える。
「(ひっ!)」
その様子に友達B改めニノは体をびくつかせて俺にしがみつく……かく言う俺も同じタイミングで体をビクっと震わせる。
初回スタートはこんなところで問題無いだろう。
「カットOKだ!」
五反田監督からOKが入り主人公ちゃんもそうだけどニノも安堵の息を吐いた。
「はじめてにしては上出来ですニノ」
「いえいえ、もう緊張しっぱなしですよヒカルさん!」
とは言いつつもちゃんとやる事はこなしていたニノだが……
「ちょっと何時までカミキにくっ付いてる訳!」
何故かご立腹の有馬がおり、ほっぺを膨らませていた。
その後も撮影は順調に進み序盤の山場である村の狂気に当てられたニノに刺されるシーンも無事に撮り終わった。
「良し……今日はこれぐらいにして明日からも頼むな! 有馬・ニノ・カミキ今日は助かったぜ」
「いえいえ、そう言って貰えると助かります。」
「おう、じゃあまた頼むな!」
そう、今日は俺とニノと有馬が居る必要なシーンのみの撮影だったのだ。
他の演者達はまだまだ続行ではあるが俺達の部分はこれで終了だ。
「ねぇねぇカミキ! ご飯でも食べようよ!」
「あっ良いですね! 私も一緒に食べたいです」
有馬とニノはそう言って来たけど……この辺りに飲食店なんてないぞ?
そんな事を考えて居る時だった。
有馬の親と思われる方と苺プロのマネージャーの人が二人の肩を掴み始めた。
「かなちゃん……明日も早いからそんな時間は無いわよ」
「そんなぁ~」
「ごはん位連れて行ってあげたいけど……私この後事務所での作業が残ってるから」
「ミヤコさ~ん」
抵抗しようにも足が無い二人はどうにもならないので、泣く泣く帰る事になってしまった。
まあー俺はバイクがあるから問題無いけど……
出来れば一泊してから帰りたいものだ。
何故なら夜の高速道路はレースみたいなもので正直怖いのだ。