かなちゃんを引き取り、カナンとニノにも話を通してしばらくして、ようやく引っ越しを行うことが出来た。
上原パイセンにも手伝って貰おうと思ったんだが……その日は丁度大輝君の映画撮影の日に被ってしまい頼むのを辞めたのだ。
「カミキさんこの度は私達『ゴリラ運送』をご利用頂きまして誠にありがとうございます! おいお前らもちゃんとお礼を言うように!」
リーダー格の人は髪の毛はバッチリリーゼントで決めており顔は厳つく身長も2m近くあり、ポロシャツ越しでも分かるほどの筋肉……そんな人が部下を怒鳴りつけると、部下たちは一糸乱れず頭を下げて……
「「「「オス、カミキさんありがとうございます」」」」
「ひぃ!」
そんな光景に有馬は驚き小さく悲鳴をあげて俺の足にしがみついてしまった。
まぁー部下の人達も鍛えられてるようで中々良い筋肉をしていらっしゃるし、顔も中々厳ついから仕方ないな
「……いえ、それでは次回もよろしくお願いします。あと、皆さん暑い中本当にありがとうございました。良ければコレ飲んでくださいね」
俺はそう伝えて五本のペットボトルが入ったビニール袋をリーダーに渡した瞬間……リーダーは涙を流し始めた。
「カミキさん……ありがとうございます。こちら私の名刺になりますので今度利用される際はこちらに連絡してください。カミキさんの為なら例え火の中水の中すぐさま駆けつけます! 野郎ども改めてカミキさんに礼!」
「「「「ありがとうございました」」」」
そう言うと彼らはすぐさま撤収して行ったが……
『ゴリラ運送』……料金は他よりも高かったけど、キャッチコピーの通り『早く・丁寧・礼節』をモットーにしているだけあり見た目はアレだけど中々好感が持てる仕事ぶりだった。
「ねぇカミキ何でわざわざ飲み物なんて買ってあげたの? 引っ越し代だって結構な金額だったじゃない?」
有馬は不思議そうな顔をして訪ねてきたが……そんなのは決まっている。
「たしかに料金は他社よりも高かったですが、その分親切で丁寧だったこともありますし、何より……思った以上に早く終わったのもありますからね。 それは確かに高い料金なので、そう言った能力は問われますが……やっぱり人間ですからね。気持ち良く仕事をしてもらうのが一番良いのです」
今の時代はどうだか分からないけど……やっぱり差し入れをされて嬉しくない訳が無いのだから俺個人の考えではやってあげても良いと思っている。
それを古い考えだと思うならそれはそれで構わない!
「ふーん」
有馬はそう言うと部屋に入って行った。
俺も有馬に続いて部屋に入ると既に寛いでるカナンとニノが居た。
「うーん前の部屋も良かったけど……やっぱり自分の部屋があると落ち着くわね!」
「……私はヒカルさんと一緒に暮らせるなら狭くても問題無いです」
まー二人とも納得してるならなんだって良いけど……
「今日は引っ越し祝いも兼ねて出前でも取りませんか?」
「え? 良いの! じゃあ私ピザ食べたい! 今日ぐらいは栄養とかそんなの気にせずにジャンクフード食べたい!」
「私はヒカルさんと一緒ので……」
「じゃあ……カミキ特上寿司食べたい」
上からカナン・ニノ・有馬と好きな物を強請り始めた。
「そう言うと思いまして、チラシを貰って来ました」
実際は『ゴリラ運送』のリーダーに聞いたらすぐさまチラシを持って来てくれた。
何で持っていたのか聞いたところ『引っ越し初日は出前を頼まれる方は多いですから』との事だった。
そんな事もあり……今日から新しいスタートを切る事になった。
学業に仕事に性活に追われる日々を過ごしていたら時が過ぎるのは速く……気が付いたら大学受験が迫っていた。
仕事の合間に参考書は読んでいるものの……果たして俺は大学に合格出来るのだろうか?
世の受験生達は『毎日俺は〇時間勉強してるぜ』とか謎のマウントを取っているようだけど恐らく俺は一日一時間もしてないかもしれないな……
この間の模試もB判定ではあったものの……正直出来はあまり良く無かった気がするから自己採点をした結果、恐らくではあるが辛うじでのB判定だったのは間違いない。
じゃあ……仕事を休業して受験に集中すれば絶対に受かるかと言えばそういう訳でも無いのが難点なのだ。
結局の所俺みたいなボンクラは限られたわずかな時間内で集中力を発揮できるので、逆に時間を与えられると大した事は出来ないのだ。
なので、もしかしたら今みたいに仕事の合間に勉強して、息抜きに性活してるのが逆に俺に合っているのかもしれないな!
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「カミキってやっぱおかしくない?」
「カナン……今更何言ってるの?」
「だって……仕事しながら勉強して、その上で私達と夜も楽しんでる訳じゃない……それなのに東大の模試でB判定って頭おかしいわよ!」
テーブルをバンバン叩いてるカナンだけど……
「……ヒカルさんもたった1年位で武道館ライブをしかもソロで達成したカナンには言われたくないと思うよ」
「……そもそも私はアイに負けてなんかいないんだから、チャンスさえあればのし上がる自信があったわよ! それにキャバ時代に比べればこれぐらいどうって事無いわ」
カナンはそう言うとそっぽ向いてしまったが……私は知ってる。
朝風さんと雷門さんとの動画撮影の内容はかなりきついのだ。
私だってアイドルだからボイトレや走り込みにダンスレッスンは頑張っているけど……カナンの受けてる扱きは限界ギリギリからがスタートでその状態から歌ってみた・踊ってみたを取り始めているのだ。
撮影が始まっている以上アイドルは常に笑顔で無いといけない。
疲れた顔なんてカメラの前じゃ決して出せない。
そんな裏側を知ってるからこそカメラに映るカナンの姿は私にはひと際輝いて見えた。
「……そうだね。カナンだけは違ったもんね。私達はアイが抜擢されるたびに諦めるしかなかったけど、カナンは常にぶつかってたもんね」
「……その所為で周りからは滅茶苦茶嫌われたわよ。後ようやくめぐって来た私のソロパートのチャンスをアイが隣で無邪気に邪魔して来たからぶん殴ったのに……私は一発アウトよ」
「それは……殴ったカナンが悪いよ?」
まぁーカナンがアイをぶん殴ったのを見たメンバーは全員胸がスッとしたけど……その後斎藤社長がキレてカナンは契約解除のクビで卒業ライブも無くなったけどね。
「言っておくけど……私は今でもアイを殴った事を後悔してないわ!」
アイはそもそも忘れてそうな気がするけど……
「でも……最近斎藤社長がカナンの動画を見てるようなの」
「へぇーそれで?」
「斎藤社長がカナンの動画を見た当初は潰しに動くのかなって思ったけど……カナンがここまで才能があったのに気付けなかった事を後悔してるみたい」
「ふん! アイしか見てないからそう言うことになるのよ! アンタたちがまごまごしている間に私はドームでの公演を実現させてやるんだから!」
カナンはそう叫ぶも時刻は23時を回っており……
「あんたたち今何時だと思ってるのよ! 私は明日も朝から仕事なんだから早く寝なさいよね!」
クマのぬいぐるみを抱きかかえたかなちゃんがやって来て怒られてしまった。
「わ……悪かったわよ」
「ごめんねかなちゃん」
「分かれば良いのよ!」
かなちゃんはそう言うとドスドスと歩きながらヒカルさんの部屋に……って何でヒカルさんの部屋に!?
私もカナンも驚きながらヒカルさんの部屋に行くと……そこではヒカルさんのベットで丸まって眠ってしまったかなちゃんが居た。