黒川あかね、みたのりお、とまと・ジャンがララライに入ってから数か月が経過し、季節は早いもので12月に入っていた。
今日も今日とて劇団員は演技の稽古をしているが……黒川はともかく、他の人達は普段何をしているのだろうか?
俺が知らないだけで、役者以外の芸能活動やアルバイトなどをして生計を立てているのだろうか?
「上原パイセンお疲れ様です」
「おっ……カミキ今日は暇なのか?」
「そんな訳無いじゃないですか……こんなんでも俺東大生ですよ? 課題が結構出てるので大変ですよ」
背負ったリュックからレポート用紙を取り出して、早速課題に取り掛かる。
もし俺が一般の人だったら、今頃ナンパして遊んだりしてるのかなぁーっと考えつつも、結局の所俺が俺である以上は無責任な事だけはしないとおもうし……
宿題や課題が第一優先で次は何かしらのバイトでもしてるだろうから、結局は遊んでる余裕など無いだろうな……っとそんな事を考えて居た時だった。
「か……カミキ先輩今よろしいですか?」
振り向くと黒川あかねが台本を大事に抱えて俺の事を上目遣いで見ていた。
「ええ、大丈夫ですけど……どうかしましたか?」
「実は……今演じてる私の役何ですけど、どうにもしっくりこなくて……カミキさんって憑依型の演技をされますから何かアドバイス頂ければと思いまして……お願いします」
憑依型……ね。俺のはそんな大層なもんじゃないけど……ま、可愛い後輩からの頼みだしサクッと解決してあげよう。
「分かりました。ところで黒川さんは何の役の稽古をしてたんですか?」
「カミキさんとかなちゃ……有馬さんが共演していた映画『それがはじまり』の有馬さんの役をやっていたんですけど……」
ああ、あれか……あの薄気味悪い子供の役は確かに並大抵の子じゃ出来ないわな~
ま……結局の所何を持って薄気味悪いと思われるかが大事な部分だ。
原作のゴロー先生Inアクアは演じ無くても薄気味悪かったが、有馬は演技とはいえそういった部分を強調して見事に熟した。
「一体どうすれば有馬さんみたいな演技が出来るようになりますか?」
「模範的な回答をするのであれば、有馬かなの思考を100%に近い精度で理解して演技に落とし込むになっちゃうから、対象の人物の事を徹底的に調べ上げて自身の中に有馬かなっていう別人格を作るってなっちゃうけど……それはちょっと無理かな?」
人の思考を把握するなんて……それこそ相手の頭の中を覗き見る位の事をしないと不可能だし、少なくとも俺には無理だな。
そもそも俺の演技の根本は思い込みによるものだし……”この場面ならこいつは必ずこう動く”を連続して行っているから結構疲れる。
「あ……それならもしかしたら出来るかも!」
「ええ……!」
「私プロファイリングが趣味なんです」
プロファイリングが趣味って……いや、確かに行動は事実ではあるものの決して真実では無いから表面的な部分は分かるかも知れないが……人ってそんなに単純じゃなくてましてや常に合理的な思考が出来る訳じゃ無いし、時には運に身を任せる不条理な事もするなんてザラだよ?
「カミキさんに相談して良かったです。ありがとうございました!」
俺の内心とは裏腹に黒川は納得いったようで笑顔で稽古の続きに戻っていった。
綺麗な言葉で言えばプロファイリングだけど……俺からしてみるとストーカーと何ら変わらない気がするんだけど……
そんな事を考えならも俺は課題を熟して行った。
「……最近の子はプロファイリングも駆使して演技をするのかぁ~」
上原パイセンは感心したように頷いてるけど……いや、多少の差異はありますけど、自分が演じる役を調べるのは普通だけど、実在の人物を本人の知らないところで調べて理解するってのがストーカーの発想みたいで怖いぞ。
そんな事もあり、数日後
その日は夜は休みって事もあり、今我が家には俺と落ち込んでいるカナンが居た。
「アイ達より早くドーム公演をしようと思っていたのにぃ……」
「……ああ、そう言えば今月でしたっけ? 『B小町』のドーム公演」
「そうよ! 私が先にドーム公演をやろうとしたのに……うぅ~悔しいよ~」
カナンはそう言うと本当に悔しそうにしていたけど……いや、そもそもアイドルに復帰して露出も多くなったとはいえ……3年程度でドーム公演しようと思った行動力は凄まじいものがあるし、規格外の才能にアンチすら飲み込んでファンにしたカナンは正直化物過ぎた。
いや、そもそも武道館ライブの時だって散々アンチに叩かれていたけど……
『じゃあアンチの皆さん私が武道館ライブ達成した時は……四の五の言わずにファンになれ!』
……と男前な啖呵を切り見事に達成したのだから、ぐうの音も出ないものだった。
まーカナンが頑張っている以上に麗民さん達も苦労は絶えないけれどな
「……カナンは頑張ってますから大丈夫ですよ」
落ち込んでるカナンに近寄り後ろからそっと抱きしめるとカナンも俺の方に顔を向けて来たので、俺もキスをしようと顔を近づけた時だった。
ピンポーン
何故このタイミングでインターホンが鳴るかなぁ~?
「……ちょっと待っててくださいね」
「う……うん。待ってる」
全く俺のゴールデンタイムの邪魔する奴は何処のどいつだ!
そんな事を考えながら玄関を開けるとそこには……
「あっ今度隣に引っ越して来た……雨宮……ですけど……」
久しぶりに会った雨宮さんは……最後にあった時とあんまり変わっておらず、俺の顔を見て絶句していた。
「どうしたのゴローさん固まって……ってヒカル君何でここに!?」
ひょっこり顔を出したアイも思わずびっくりしたようだけど……アイが俺の名前を呼んだ瞬間下の方で何かが動き腹部に衝撃を受けた。
「ま……パパ? パパァ~」
3年ほどあって居なかったけどアクアは大きくなって居た事もあり……結構痛かった。
……というか未だに俺はママと思われているのだろうか?
隣にいるアイをチラッと見ると……若干ではあるものの落ち込んでいた事から触れるのは危ない話題だと思いそっとしておくことにしよう。
「……お久しぶりですね。皆さんその様子だとお隣に引っ越しされたんですか?」
「あ……ああ、今日引っ越して来たんだ。そうだ良かったらコレ食べてね」
雨宮さんはそう言うと紙袋からクッキーが入ったお菓子を取り出した。
「……わざわざありがとうございます」
俺も貰った手前お礼を返すけど……そう言えばルビーの姿が見えないけど何処に居るんだ?
そう思い口を開きかけた時雨宮さんの背中から顔がにゅっと出て来た。
5歳……いや、今4歳かな? ルビーの中での俺は一体どんな印象なのか表情を見ただけでは判断が着かない。
アイを孕ませたクソ野郎って解釈なのかはたまた自身が生まれる土壌を作ってくれた男なのか……確かめる気は無いけれどお隣さんって事はこれから顔を合わせる機会は増えるし……仲良くは無理かも知れないが、最低でもいがみ合う事さえなければ問題は無いだろう
「じゃあ今日はもう遅いからアクアもヒカル君から離れて部屋に戻ろうね」
アイはそう言ってアクアを抱きかかえようとしたが……
「やだぁ~」
決して大きな声では無かったけれど、アクアは拒絶をしたが……
「もう~そんな事言ったってアクアは抱き締められるとすぐ大人しくなるんだもんね」
子供が大人に腕力でかなうはずもなく、アイの胸元のに抱えられたアクアはすぐさま大人しくなってしまった。
まー男はみんなそんなもんだから、健全ではあるんだけど……やっぱり早すぎる気がするな
そんな事を考えて居た時だった。
「カミキ~」
丁度帰宅してきた有馬が俺を見ると一目散に駆けつけて来たから……俺はしゃがんで有馬を抱きしめ抱えると周りの……雨宮さんは驚いた表情だけどアイ、アクアが物凄い形相でこっちを……もとい有馬を見ていた。
「ヒカル君? その子……どうしたの?」
アイは恐る恐る指を伸ばして訪ねて来た。
アクアも首をコクコクと振って俺の言葉を待っているようだった。
「ええ、実は……今訳あって有馬さんを引き取ったんです」
「「……!!」」
いや、なんかやらかしたか?