カミキヒカルアナザールート   作:だめねこ

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第56話

 ドーム公演を終えて『B小町』の……いや、アイの人気は凄まじいものとなったいた。

 正月の特番から何から何までどの番組にも『B小町』は出ているがやっぱりアイのシーンが多くなっていた。

 今までだったらその事で愚痴を漏らしていたらしいけどニノ曰く『見た事無い位の給料が振り込まれていたからそんな感情はもうないみたい』らしい……

 まー負の感情だって……あまりにも大きな金額の前には吹っ飛ぶから、これはこれでよかったかもしれないな。

 

 はぁ~っとため息を吐きつつも劇団ララライに何時ものように向かうと……

 黒川が何やら鬼気迫る表情で稽古に没頭していた。

 

「おはようございます」

「おはようカミキ!」

「お兄ちゃんおはよう~」

 

 上原パイセンは返事を返すけど……何やら困った表情をしており、大輝君は小学校の宿題をしていたけれど……ペンが動いてる様子が無かった。

 

「どうかしたんですか?」

「ああ、大輝なんだが漢字の宿題がちょっと苦手みたいでな……」

「……振り仮名さえあれば僕だって読めるもん!」

 

 それは誰だって読めるよ大輝君

 

「まぁーこういうのは触れ合う機会が無いと中々読めませんからね」

「大輝の今までの台本は全部ひらがな表記だったしな……」

「業界の人でも読めない大人は多いですし……何なら振り仮名振って無いだけでキレる役者も居ますからね」

「偶に見た事も無い漢字が飛び出してくるからな……学が云々じゃ無いけど調べる癖を付けないとなぁ~」

 

 上原パイセンの言葉通り一体どのタイミングで使っているのか分からない位難しい漢字はあるし、こればかりは日々勉強するしかないな。

 

「……お兄ちゃんはどうやって漢字を覚えたの?」

 

 大輝君は口を尖らせて聞いて来たけど……今生では特に気にかけていた訳では無いけど、有体に言えば本を読むのが一番の近道ではあるものの、正直興味の無いジャンルを読むの何て苦行以外の何者でもないのだ。

 じゃあ何が良いかと言えば……

 

「まー私は物を買うお金も時間も調べる方法も無かったので、聞いて書いて覚えるしかなかったですね」

「大輝……カミキの頭脳はずば抜けてるから見習わない方が良いぞ」

 

 失敬な! 俺はやる事をちゃんとこなしただけだし!

 

「……そうなの?」

「……ああ、カミキと同じ環境で生活してる奴なんて幾らでも居るだろうけど、それが現役東大生で役者で売れている奴となれば……探さないと見つからないだろうな」

 

 ついでに女たらしとなれば更に確率は低くなるだろうな!

 

「まー私の事は一旦置いといて、漢字を覚えると言うのはそこまで難しい物ではないですよ」 

「どうすれば良いの?」

 

 首をコテンと傾げて大輝君は尋ねるが、要は漢字を読む環境を自身で構築すれば良いのだ。

 

「一番手っ取り早いのは新聞を読む事ですね。小学3年生くらいであれば日常で使う漢字は習っているので大体は読めると思いますし、テレビ欄だけでも勉強になります」

 

 一番の勉強になるのは政治・経済の欄だけど……そこは追々で良いんじゃないかな?

 

「内容に関しても理解出来るようになれば尚いいですけど……今は読む事に集中して、一日一回は必ず目を通す様に習慣づければ一ヶ月もあれば十分ですね」

「あ~悪いカミキうち新聞取って無いんだ」

 

 いや、コンビニで買ってこいよ

 

 そんな事を考えて居る時だった。

 

「カミキ先輩ちょっと良いですか?」

 

 汗をびっしょり掻いてる黒川が話しかけて来た。

 

「どうかしましたか?」

「私の演技見て貰って良いですか?」

 

 何で俺? と思わなくも無いけれど……まぁー特にやる事も無いし

 

「分かりました。じゃあどうぞ!」

 

 俺がそう言うと黒川は……この前のドラマで子役として出ていた有馬の役を演じ始めた。

 しばらくジッと黒川の演技を見続けた結果……

 うん……有馬の事を良く見てるし、有馬が演じてる役を黒川は完璧であったので文句をつけるところは全くなく100点満点中の花丸付けての120点だ。

 

「どうでしたかカミキ先輩?」

「ええ……素晴らしいものです。そこに有馬さん本人が居るのかと思っちゃいました」

「いえいえ、私なんてそんな大した事無いですよ」

 

 俺がそう褒めると黒川は物凄く嬉しそうにしていたけれど……

 

「じゃあ……今度は有馬かなが演じた子役では無く黒川あかねが演じる子役をお願いしますね?」

「……え? だって今……?」

 

 俺が言ってる意味が理解出来ていないようで黒川はさっきと打って変わり物凄く動揺していた。

 

「今のは有馬かなを意識した子役の筈ですよね?」

「そ……そうです。私かなちゃんの事が大好きなのでかなちゃんみたいな演技を勉強しました。そうすれば私もかなちゃんみたいに子役の仕事が周ってくると思って……」

「それは無理です」

「な……何でですか!?」

 

 驚愕しているところ申し訳ないが……それはどう足掻いても無理なんだ。

 

「ものまねとかそう言ったバラエティー番組であるなら黒川さんはとても需要がありますけれど……役者の仕事において本物と偽物が居た場合……実力が同じなら使われるのは本物です。何故か分かりますか?」

「分からないです」

 

 素直でよろしい!

 

「そこに本物が居る以上偽物を呼ぶ必要が無いからですよ」

「じゃ……じゃあカミキ先輩はどうなんですか? 『役者殺し』だって要は偽物じゃないですか!?」

 

 黒川はそう反論をするけど……『役者殺し』ってそんな単純な物じゃ無いぞ。

 

「おっ……黒川良い質問するじゃねーか! カミキ先輩そこんところどうなんだよ?」

 

 上原パイセンはそう言うとニヤニヤし始めるが……実に良いタイミングでパスをくれた。

 

「黒川さん良いですか? 『役者殺し』をしたいならまず自分の役を完璧に熟すのが大前提です。今さっき黒川さんがやったのは他人の役を演じただけで自分の役を演じた訳ではありません」

「……うっ!」

「次に信頼関係が無くてはいけません。誰彼構わずそんな風にしていれば仕事はいずれ無くなってしまいますからね。現場に遅刻はしない! 礼節を忘れない! 良い演技をする! こう言った当たり前を忘れてはいけません。『役者』が『役』を演じるのはやって当然出来て当たり前の事なんですけど……売れ始めれば傲慢になるのが人なんで常に自制しないといけません」

「……う、うん」

「そして一番大切なのは……やったら最後責任を持ってやり遂げないといけません。何せ『役者殺し』ですからね。役を奪われた役者は現場に必要ありませんからその人の分も熟さないといけません。なので中途半端な事をした場合撮影がストップしてしまうしそうなれば違約金を払わないといけませんからね」

「そ……そんなぁ~」

 

 黒川はそう言うと物凄く落ち込んでしまったけど……子供だからって金銭のやり取りがある以上許される訳ではないのだ。

 ならば『プロ』としてちゃんと責任を取らないといけないのだ。

 

「なるほどなぁ~『役者殺し』も中々大変なんだな!」

 

 上原パイセンは感心したように言うけど……『役者殺し』なんてリスクがデカすぎるからやってる俺からしても正直お勧めは出来ないなぁ~

 

 

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