ここ数年で困った事が起きた。
「……仕事がない」
かなはそう言うとリビングのソファーに膝を抱えて座り始めてしまった。
テーブルにはコーラが入ったコップとすしのことピザポテトを混ぜた物を用意しており、これがお気に入りの様である。
言ってしまえばやけ食いだが……
悲報有馬かな仕事を干されるって言うと語弊が生じるが、厳密に言えば子役の寿命が来たってだけの話で、役者としての仕事は少なからずあるが、今までと違い振られるのは脇役等が多くなってしまい、時間を持て余す事が増えてしまったのだ。
同じ子役でも大輝君には愛梨パイセンが居るから、役者の仕事に困っては居ないのだが……あっちは稀代の大女優だし、俺が愛梨パイセンにお願いすれば主役級の仕事なんて幾らでも回して貰えるけれど、流石にそれをやると劇団員に仕事が回って来なくなるしそれはそれで問題になりそうだからなぁー
そもそも、かなの事務所は子役の事務所であるので、子役に関してのノウハウはあるのだが……そこから先が続いて居ないのだ。
そりゃ子役の事務所に大人の役者が居るのはちょっと違うから仕方が無いけれど……それにしたって稼げるだけ稼いだら後は知らんっていうのはちょっと問題だ。
「かな……一応子役の仕事自体はありますよね?」
「……脇役でだけど、それだって毎回ある訳じゃ無いし! 前までは毎日予定が埋まっていたのが当たり前だったのに今じゃあ……週に2回しかお仕事が無いんだもん」
俺が言って良い言葉じゃ無いけれど……かなも中々なワーカーホリックだった。
休みの日はしっかり休むのが社会では当たり前ではあるものの、芸能人なんて自営業そのものだし、仕事が無ければその分の収入が減る以上どうしたって働きたいと思ってしまうのだが……
俺がうーんと悩んでいるとかなは閃いたと言わんばかりに目を輝かせた。
「……そう言えばカミキってあの一流しかいない劇団ララライ所属だったわよね? 其処から役者の仕事引っ張って来てよ」
最近はそんな語弊を招く言い方をされるようになった劇団ララライだが……いや、確かに後輩達も演技力が向上しているし、特にみたなんかは常にドラマを2.3本抱えている売れっ子だし……黒川は幼いながらも向上心の塊だし、とまとジャンは場末のスナックのママみたいな安心感があるからって……まともに売れてるのがみたしかいねーじゃねーか!
まぁこればっかりは金田一さんの営業能力と愛梨パイセンの顔の広さで補っているのが現状なので仕方が無いのだが……
顔が広いと言えば上原パイセンもだけど、あの人はジャンルが違う一流というか、不良映画にばかり出るようになってしまい、熱狂的なファン(OUTの住人)が居るおかげで上原パイセンが出るだけで興行収入はかなり高くなるのだ。
「流石に劇団に所属していない人にそんなことしたら、私が顰蹙買っちゃいますよ」
バーターするにしてもその人の実力が無いと紹介して貰った人の顔に泥を塗ってしまう訳なので、仕事を選ばなければいけないのだ。
だから俺がそう言ってやんわり断るもかなはその言葉を待っていたとばかりに答えた。
「それだったら私も劇団ララライに入るわよ! それなら役者の仕事も回してくれるわよね?」
「分かりました。じゃあ……今から劇団ララライに行きますか?」
「行く!」
まー今日は俺も暇だったし……金田一さんに話を通せばかなの劇団入りも問題無いだろう
「こちらのカミキさんに紹介させてもらった有馬かなです。よろしくお願いします」
かながぺこりと頭を下げると金田一さんは俺の方を唖然とした顔で見て呟いた。
「……カミキうちは何時から託児所になったんだ?」
金田一さんから重たいボディーブローが入った。
……というか厳ついおっさんがそんな事を入団希望の人の前で言うのはどうなのだろうか?
心が弱い人なら今の一撃で回れ右して帰ってるからね。
「……金田一さん寧ろ天才子役である有馬かなが劇団ララライに入ると為ればプラスにしかなりませんよ。何せ知名度はある訳だし、愛梨パイセンだってこれでもっと仕事が振れる訳なんですから良い事尽くめですよね?」
「……いや、確かにそれはそうなんだが有馬かなって”十秒で泣ける”だけだろう? 演技力なんてあるのか?」
金田一さんの物言いに少しカチンと来た。
「……泣けるだけで売れるなら苦労はしませんよね?」
「……カミキ今のは俺が悪かった」
俺の事を知ってる金田一さんだから俺の言葉の重みを理解してすぐさま謝ってくれたけど時たま人の心をどこかに忘れて来る部分があるのが玉に瑕なのだ。
「分かった有馬かなの入団を認めるが……カミキお前がしっかり面倒見てやれよ?」
「勿論です。ではかな早速挨拶から行きますよ」
「う……うん」
かなの手を引っ張りまず最初に挨拶するのは……サングラスを掛けて哀愁を漂わせていた愛梨パイセンは無視をして横にいる上原パイセンからにしよう。
「上原パイセンおはようございます。こちら新しく入りました有馬かなです」
「おう! 上原だよろしくなかなちゃん」
パイセンはそう言うとわざわざかなと同じ目線に合わせる為にしゃがんで右手を出した。
「よろしくお願いします。有馬かなです」
かなも空気を読んで右手を出してがっちりと握手をしている。
「ところで上原パイセン? 愛梨パイセンなんかあったんですか?」
愛梨パイセンの方を見ずに上原パイセンに聞くと……
「ああ、今日大輝の学校で授業参観があったんだが……」
それだけで察してしまった。
「……私は何もしてないのに!」
言葉通り愛梨パイセンはマジで何もしていないのだろうが……これは何もしなかったのが原因なんじゃないかな?
稀代の大女優がオーラを隠さず堂々としていれば、授業よりも愛梨パイセンの事が気になって仕方が無いだろうから退場させられたのかも知れんな……
あと普通の子なら母親が目立つのは嫌がりそうではあるけれど、大輝君は芸能一家だからその辺は無頓着だから気にしては居なさそうだけど、母親が退場喰らったのは落ち込んでいそうだから後でフォローもしないとな
「……愛梨パイセン落ち込んでる所申し訳ないですけど、新しく入った新人の有馬かなです」
「あ、有馬かなです。月9の女王の姫川愛梨さんですよね?」
「……今は月9がメインだけどいずれは火サスや土曜ワイドにだって出てやるわ!」
それは一体何役で出るのか気になるけど……『科〇研の女』や『家政〇は見た』とかそう言ったのを狙っているのだろうか?
まー年齢的に言えばバリバリのキャリアウーマンみたいなもんだし、火サスの進出はありかも知れないが……土曜ワイドは後1、20年は難しくないか?
だって……愛梨パイセン年齢と見た目があんまりにもあって無いし、こんな見た目で40手前なんだよな。
「……ところで愛梨さんってお若いですけどおいくつなんですか?」
かなは興味本位で愛梨パイセンに聞いてしまった。
「私? 今年で39よ?」
愛梨パイセンはそう言うとケラケラ笑いながら答えたけど……年齢と見た目が合ってないんだよなぁ~
「物凄く若く見えるけれど……何かしてるんですか?」
「うふふ、かなちゃんありがとうね。特に私自身は何かをしてる訳じゃ無いけれど……強いて言えば好きな事しかしていないから老ける道理が無いわね!」
その理論はおかしいんだよなぁ~