世の中とは無常である。
かなの所属している事務所に今後の芸能活動に着いての話合いをすべく、マネージャーと俺とかなの三人で話し合ったが……
『有馬さんの年齢的に子役の限界を迎えてしまいまして、まだ契約中ではありますけれど解除の方向で話を進めさせて頂ければと……』
かなのマネージャーは淡々とそう告げたのだ。
かなとしては自身がこの事務所を離れると為れば引き留めて貰えると思ったのかもしれないが……子役の事務所である以上は限界を迎えた子供よりも、また新しい子供に力を注ぐ方にシフトせざるを得ないのだろう。
人の心が無いのかと言いたくもなるけれど……経営者だからこそ決断をしなければいけない訳だし、こればかりは難しい問題だ。
かなの為に他の従業員並びに子役の子を道連れにする訳には行かないのだから……
子役の事務所からの帰宅中かなは一言もしゃべる事はしなかった。
そして、ようやく自宅に着くと……かなはソファーにちょこんと座り始めてぽつりぽつりとこぼした。
「……私ね自分でも頑張って来たと思うの。最初はママやパパに喜んで貰うために頑張って……頑張って……それで……ママに……ヒック……頭を撫でて……貰って……『すごいわね』って……ヒック……褒められたかったの……でも……私が……頑張れば……頑張るほど……どんどん……ヒック……おかしくなって……パパも……ママも……喧嘩するようになった」
かなの目からは大粒の涙がこぼれてぽたぽたとスカートに落ちて濡れていく。
「カミキ! 私がんばったよね! 偉いよね……だって同年代で私よりも凄い子なんていないもん」
「ええ、かなは頑張りました。……本当によく頑張りました」
かなの頭を撫でて俺はかなの頑張りを労った。
そうだよな……頑張って頑張って頑張った結果が家庭崩壊で、そして子役の仕事も年齢的に無理になって目に見えて減ってくるようになったら……そりゃ堪えるよな。
そんな当たり前の事にも俺は気づけなかった。
なんやかんや言ってもかなはまだ小学生なんだから、本来は親に甘えたいお年頃だ。
かなを膝の上に乗せて再度頭を撫でつつそっと抱きしめる。
「大丈夫です。かなの努力を私は決して否定しませんからね」
「う……うぅ……かみきぃー」
かなは俺の胸元に顔を埋めると大きな声で泣き始めた。
正直かなが涙を流せる環境を作れた事に俺自身ホッとしていた。
それからしばらくするとかなは泣き疲れたのか俺の膝の上で眠ってしまった。
「「ただいま~」」
そうこうしているうちにニノとカナンも帰って来てリビングに来たから俺は口元に一指し指を添えて静かにするようにジェスチャーをする
ニノもカナンも状況を察したのか荷物を自分の部屋に置いて静かに戻って来た。
「ヒカルさん何があったんですか?」
ニノがそう尋ねるとカナンも知りたそうにしていたので、俺も訳を話す事にした。
「実は今日かなの所属してる事務所に行ってきて退職する事になったんですけど……誰からも引き留められる事も無かったのでショックを受けてしまったようです」
「……それは堪えるわね」
「でも……そんなのってあんまりじゃないですか……かなちゃんが可哀そうですよ」
ニノもカナンもヤッタ側の人間なので報いを受けた部分はあるが、かなの場合は我がままではあったものの子役と言う本当に限られた期間を全力で全うした訳である。
しかし、その代償に家族を失い仕事も無くなったと為れば……一体自分は何のためにやって来たのか分からなくなり、とうとう爆発したってところだ。
「……儘ならないものですね」
大切なものは失って始めて気が付くと言うけれど……かなの年齢でこれはあんまりじゃないか?
「……カミキ何とかならないの?」
「子役の事務所である以上かなの年齢になれば誰が相手でも問題無く切られてしまうのでこればかりはどうにも出来ません」
「……温情はあった訳ね」
契約内容は俺も一応見せて貰ったが内容自体は特におかしい部分は無く、年齢でだけで言えばかなは大分考慮されていたのだからこれは文句を言うことは出来ないのだ。
それでも敢えて言うのであれば……この事務所の方針が合わなかった。ただそれだけの事である。
左手で寝ているかなの頭を撫でながらかなのエゴサをしてみると……年齢の事で書かれており、どいつもこいつも子役はオワコンだなんだと書かれて……正直かなりムカつく
とりあえず、かなが起きたら色々と話しあって今後どうするかを決めないとな
かなを起こさないようにそっと離れようとしたが……かなが俺の服を掴んでいた為、離れる事が出来なかった。
「今日は私が作るからヒカルさんはかなちゃんを見てあげて」
ニノはクスリと笑いながらも俺の代わりに家事をやり始めた。
「……お願いします」
「じゃあ私は部屋で休んでるから出来たら教えてね?」
「……カナンは手伝おうか?」
「……私全身筋肉痛なんだけど?」
「じゃあ……カナンは買い物に行って来てね」
「あの? ニノさん?」
「ご飯無しにする?」
「……行って来ます」
この世は与える側の人間が強く、ただただ消費する人間はか弱い
そんな事を考えつつかながソファーから落ちないように配慮した。
そんな経緯があったため、以降かなは俺にべったりするようになった。
仕事に関しては役者一本で行くようで、劇団ララライに入団したは良いけれど……
「カミキ先輩……一体どういうことですか? 話が違うじゃないですか!?」
黒川は主役のテンテンをやると聞いてテンションが上がっていたようだけど、現場に着くなりキョンシーの格好をさせられて、頭にお札も付けてぴょんぴょん飛んで抗議し始めたが……
ララライ加入一発目にかなもこの映画にねじ込んだのだ。
まぁーこれは金田一さんからの要望もあったんだけど……
「そうやって頭にお札を貼ってぴょんぴょん飛び跳ねて頑張りなさいよ」
例え端役であっても仕事は仕事なので、かなは真面目に取り組むか役が役なのでぴょんぴょんしている。
「くぅ~かなちゃんだって私と同じように頭にお札貼ってぴょんぴょん飛び跳ねるんだよ? 今まで天才子役だなんだって言われていたのに悔しくないの!?」
吠える黒川に対してかなはプロとして答えた。
「私はまた1から始める事にしたからどんな役立って完璧以上に熟して見せるわ! 黒川は隅っこの方で一人でぷんぷんしてなさい」
黒川に映画の仕事を回す話をしたが……メインのテンテン役は違う子に取られてしまったのだ。
「仲良くさせて頂いてる監督ではありますが……今回は相手とタイミングが悪かったですね」
俺がそう言うと黒川は物凄く悔しそうにしているけれど……こればかりはどうにもならないのだ。
流石に大手の事務所が出張って来るとは俺も想像していなかったし……俺は詳しく知らないが、その相手はアイドルとして今もっとも有名らしい不知火ころもの妹の不知火フリルって子だ。
不知火ころもは『B小町』みたいにドーム達成した訳では無いけれど……グループとソロでは意味合いが違うのだ。
グループにはグループの良さがある訳だけど、それに対してソロで対抗している以上もしかしたらアイ以上の逸材である可能性もあるし、大手の事務所は俺以上に顔もコネも強いし何より我を通せる資金力もあるのだ。
役者の世界は特に理不尽なのだ。
「カミキちゃーん……今回は力に為れなくてごめんねぇ~」
ドスドスと大きな体を揺らしながら監督がやって来た。
何を食えばこんなに丸々太るのか良く分からないが……この監督には大体いつも無茶ぶりされるのだ。
「……いえいえ、監督には普段融通して貰ってるので、これぐらいどうって事ないですよ」
「そう言って貰えると助かるよカミキちゃん! 今回はこんな役に為っちゃったけど……次回はちゃんとした役を必ず用意するからね」
監督はそれだけ言うと全体の構図を再度確認する為、現場周りを確認し始めた時だった。一人の若いADさんが駆け込み大きな声で……
「不知火さん現場入りました!」
その後すぐに不知火姉妹が到着した。
「あっどうもー不知火ころもですー」
「……妹の不知火フリルです」
姉と妹の外見が全く似て無いけど……本当に姉妹なのだろうか?
そんな事を考えつつもとりあえず、俺も頭にお札貼って頑張ってぴょんぴょんするか……
「ねぇーそこの人~なんであそこにモデルのカミキヒカルが居るんですかぁ?」
「……あ~監督にお願いされたみたいですよ」
「ふーんそうなんだ」
何やら不知火ころもから不穏な空気を感じるけど気のせいかな?