家庭裁判所当日
朝からニノとカナンがハラハラしていたが、そんなに心配することじゃない。
事ここに居たり、例えかなの母親が気まぐれを起こして来たとしても、事実を嘘偽りなく伝えて、その証拠を出すだけで話合いは終了だ。
どう弁明しても証拠が無ければ、それはただの戯言なのだから……
「ねぇカミキ……ママがもし親権を渡さないって言えば裁判はどうなるの?」
かなは不安そうにそう尋ねてきたけれど……親権を論点にしてしまえばこの裁判に置いてかなのママに勝ち目は絶対にない。
「そうですね。その場合は何を持って親権を手放さない理由を説明する必要がありますが、それをちゃんと説明出来たところで、過去の行動は消す事が出来ないので証拠を突きつけて終わりです」
しかし、それとは別にかなを誘拐したと言い出したら少し面倒ではある。
そうなれば俺が主導権を握っている以上かなの母親は言いなりになってしまい警察に相談することも出来ないからだと捉えられるが……ま、その辺りは今回の裁判とは関係無いから問題は無い。
「……そっか」
かなは何処か寂しげな表情をし始めた。
そりゃそうだ。
自分の肉親との繋がりをこれから自分の手で断つ事になる訳だから子供であるかなにとっては精神的に辛い筈だ。
かなの頭を優しく撫でながら俺はかなに伝える。
「大丈夫です。かなには私が付いてますからね」
「……うん、分かった」
さて、かなの為にも親権を奪って未成年後見人制度も利用とやる事はいっぱいあるのだから、時間は有効に使わないとな!
裁判所に着くと弁護士の方も既にロビーにおり、こちらを見るとにこやかにしていた。
「カミキさんかなさん今日はよろしくお願いします」
「……それでは先生よろしくお願いします」
「お願いします」
「それではもう時間みたいなので我々も向かいましょう」
弁護士の方にそう言われ俺とかなは弁護士の後ろを着いて歩き法廷に向かった。
法廷に入ると既にかなの母親がおり、俺の方を見ると嘲笑うような顔をしているけれど……実の所来てくれて助かった。
もし、来なければ再度日を改めてやらないといけないし……何より時間がもったいないから、あの日敢えて来なくても良いですよと伝えたのだ。
俺の思惑通りにちゃんと来てくれて本当に助かるぜ。
しかし、傍聴席には拳一とホストの代表の姿もあることから、かなの母親は事が終わった本当にどうなることやら……
「……判決を言い渡します。有馬さんはかなさんに対しての親権の喪失と今後有馬かなに接近する事を禁じます」
「なっ!……なんでよぉ! だってその男は私の子を誘拐していたのよ! 私は言いなりになるしかないじゃない! こんなのおかしいわ! 再審を要求します!」
案の定俺を誘拐犯にしようとしたけれど無理だって……
「この件に関しては再審は不要です。 先ほどカミキさん側の弁護士より映像の確認をさせて頂きましたし、何よりカミキさんよりも5年近くの間あなたがホストクラブで使った金額の方をカミキさんに払わせていた方が悪質です」
「それだって本当にカミキのお金かどうかわからないじゃない! 銀行口座だってかなの口座から抜いてる可能性だってるし、家計簿だって改ざん出来るじゃない!」
「そもそもかなさんの口座を管理出来るのは親権を所有していた貴方だけですから却下ですし、レシートと家計簿に書かれていた金額は一致しております」
裁判長はそう言い切り再審を却下した。
まーちゃんと映像にレシートに録音もしているので証拠は山の様にあるのだ。
あんたみたいに裏付けが取れて居ない証言を信じる奴なんて……朝風と雷門位だと思うけど…… いや、あの2人は実際どうなんだろう? 信じてるのかな?
判決を言い渡された後もかなの母親は喚いていたが……いや、そこに拳一がいる以上は逃げられないか……だったら、好きなだけ喚けば良いだろう。
そう思いチラッと傍聴席に座ってる拳一を見ると目が合ってしまった。
その目を見た瞬間俺は確信した。
何故なら拳一の目は間違いなく殺す気だった。
これで一つの目途が付いたが……まだ、未成年後見人制度の件が終わって居ない。
「カミキさんそれでは私はここで失礼します」
「いえいえ、何かと相談に乗って頂きありがとうございました」
弁護士の方はそう言うとすぐさま帰って行ってしまったが、あの弁護士も中々忙しいみたいでこの後も離婚裁判が控えているとか……
弁護士も中々大変な仕事だし……他人の不幸で飯を食っている以上メンタルがきつく自殺者も多いようだ。
「ねぇ……カミキこの後どうするの?」
「そうですね。まだ用事はありますけれど……とりあえずお昼にしましょうか? その後にかなの親権を得るために手続きをして今日は終わりですね」
「……うん」
かなにとっては今日ほど辛い出来事はあんまりないだろうけど……
「大丈夫ですよ……かなには私が付いてますからね」
俺がそう言うとかなは俺に抱き着いて声を押し殺しながらも泣き始めた。
……どんな親でも親は親であるのだから、その苦痛は当人しか分からない。
かなが落ち着くまでかなの頭を優しく撫でるだけに留めた。
1か月後
「カミキさん……最近かなちゃん変わりましたよね? 何か……演技の質そのものが変わったと言うか……今までよりも格段にレベルが上がってますよね?」
劇団ララライの稽古場にて黒川はかなの様子を気にかけていた。
黒川は相変わらず人の事を良く見ていると思うが……かなに関して言えば更に踏み込んでるような気がする。
「ま……かなにも色々とありますからね。ところで黒川さんは最近どうなんですか? たしか舞台での仕事が増えて来てますよね?」
「この間の映画が好評でしたから、私も仕事が来るようになりました。……端役ですけどね」
なんか含みがあるけど……端役でも良いじゃん!? そもそも仕事が無かったんだからあるだけマシなんだぞ!
……と言いたいところだけど、幾ら黒川が聡明だとしてもまだ年端もいかない子供にそんな事を言うのはどうかと思い俺は黙っている事にした。
「あの映画で今じゃあ不知火フリルの人気に火が着きましたからね。本来私がやる筈だったのに……」
いや、その……ね。 キャラクターとして不知火姉妹は最良の結果を叩きだした訳だが……リアル姉妹で普段は素っ気無いらしいフリルが映画の中とは言え可愛らしく姉に甘える姿が何よりも刺さったらしく、『不知火姉妹』『てぇてぇ』と検索かけると物凄くヒットしていたのだ。
映画だって別に悪い訳じゃなかったよ? ただ、コレジャナイ感を俺は強く感じたけれど……まぁ……結果が出てしまった以上は文句を言うのはどうかと思う。
「……金髪の女性キョンシーは一体誰なんだって書かれてましたよね?」
「……誰なんでしょうね?」
「明らかにカミキさんの事ですよね!? 金髪のキョンシーがそもそもカミキさんしかいないのに……なんで同じ端役なのにカミキさんが注目されているんですか!?」
黒川にそう問い詰められたものの……俺は何もして無いしピョンピョン飛んでただけだぞ!
「ネットではカミキさんが演じた金髪キョンシーを探す動きが見られてるんですけど……いまだに分からないって……」
そりゃお札で顔が隠れてるからね。
「飛び跳ねた際に見えた口元からするにかなりの美女である事は確定的に明らかって意味不明な日本語で書かれてます」
それブロントさんじゃ……と俺は訝しんだ