東京から出発して既に15時間が経過した。
ここまでにサービスエリアやパーキングエリアなどで何度か休憩を挟んでいるのだが……その度に輩が現れる始末
しかし上原パイセンがすぐさま対処してくれるので俺の安全は確保出来ているのだが……
おかしい
こんな輩に絡まれる事なんて普通無いハズだし、一体何が原因なのか……五度目のサービスエリアで俺はようやくその理由を知った。
パイセンと一緒に飯を食べる為にレストランに入った時だった。
「……悪いトイレ行って来るから、俺の分も適当に注文しといてくれ」
「分かりました。ガッツリですかね?」
「おう! 後コーヒーもブラックで頼んでくれ」
「分かりました」
パイセンは鼻歌交じりでトイレに向かって行ったけど……運転・喧嘩・コミュニケーションと体力を消耗している筈なのに異常に元気だった。
鍛えているとは言え常人離れした体力の持主であるは知っていたけど……やっぱり役者をやっている事に疑問を持たずには居られなかった。
とりあえず……メニューとパイセンが調べ上げたメモ帳を吟味しつつ何がおすすめか考えて居た時だった。
「ねぇーそこの可愛い彼女!? 一人でレストラン? 俺達と一緒に仲良く食べようぜ」
底抜けにバカっぽい声を出しながら、今時誰も引っかからないであろうナンパしている奴らが居た。
俺はメニューとメモ帳を見ながら耳だけを傾けていたけど……どうも声が近い気がする。
「おいおい、彼女さーん無視は酷いんじゃなーい? 俺心が傷ついちゃったから慰謝料払ってくれよー」
なおも話かけて来るガッツは認めるけど……何かがおかしい事に気が付いた。
そう言えば……このレストランって入った時そんなに人は多く無かったし……可愛い女の子なんか居ただろうか?
メニュー表から目線を外し、声のした方を見ると……ガッツり俺の事を見ているチンピラが居た。
そうか……
絡まれる原因はまさかの俺だったのか!?
いや、確かに最初のサービスエリアも運転席に座っていた上原パイセンには見向きもせずに助手席側のドアをずっとガチャガチャしていたし……何ならその後のサービスエリアやパーキングエリアでも寝ている時にガチャガチャしていた。
「ようやく顔を上げてくれたな~子猫ちゃん! 俺がここの代金払ってやるから好きな物食って良いぞ」
厳つい顔したチンピラはそう言うと俺の対面の席に座り始めた。
いや、確かに女性役もやるから髪は伸ばしてるけど、別段化粧も何もしてないからそれだけで女性に見える事は無いと思うけど……
それにしても……このあたりの輩やチンピラは危機察知能力がどうにも低すぎる気がする。
今アンタの後ろに暴力の化身である上原パイセンがコツコツと足音を立てて迫ってきている事に気が付いていないのだ。
「俺はこの辺一帯をシメてる者でなぁ~金なら幾らでもあるんだぜ!」
「ほ~面白れぇじゃあねーか! じゃあ遠慮なく食べさせて貰おうじゃねーか!」
上原パイセン……それは両方の意味ですよね?
「誰だてめぇー表出ろ!」
チンピラはナンパの邪魔をされた所為なのか、はたまた俺の前って事でカッコつけたいのか分からないが……上原パイセンの胸倉を掴んでしまった。
やられた上原パイセンはニヤッと笑いながらも相手の首を掴みそのまま片手で持ち上げた。
「は、放せ!!!」
苦しそうに暴れるチンピラだけど上原パイセンはびくともせずにまるで散歩にでも行くかのように気楽に話しかけた。
「カミキ……ちょっとばかし運動してくるから」
「分かりました。じゃあ食べ無いで待ってますね」
「おう……じゃ行くぞ」
チンピラは絞められている状態なので、物凄く危ないけれど……ま、運が悪かったって事だな。
しかし、まさか俺が原因でこんな事になっていたとは夢にも思わなかった……
30分後
「カミキ臨時収入ゲットだぜ!」
物凄く喜んでいる上原パイセンをよそに俺は経緯はどうであれ謝罪をしないといけないだろう
「すみませんパイセン……どうやら俺が原因でナンパされてるようなので、食べ終わったら帽子とサングラス買って来ます」
俺がそう言った瞬間上原パイセンは目に見える位落ち込んでしまったが……
「カミキは何も悪くないんだから気にすること無いぞ! それにカミキが変装というか帽子にサングラスなんて被ったら……被ったら……それはそれで有りだな! 良し買いに行こう!」
何に葛藤していたのか全く分からないが……上原パイセンが元気なら良いとしよう
「いやーここのレストランはウナギが美味いって評判でなぁ~やっぱり男に必要なのは精力だよなカミキ?」
そりゃそんだけ吐き出してれば、特に必要だろうけど……言いたい事は良く分かる!
「……そうですね。精力は重要ですからね」
女性を満足させることが出来ない男に価値は無いと思ってはいるが……ヤバい女に執着されない様にわざと手を抜く事も重要な事である。
確証は全く無いが……アイが俺に執着してない理由はその辺りが原因だと思っている。
アイは『セックスをすれば愛が分かるかもしれないじゃない!』と以前言ったが……分からなかったからこうして別れる事になったのだろう。
「あむ……うん、凄く美味いですねこのウナギ!」
「おう、値段もバカ高いけど……俺の金じゃねーし、遠慮せず食べようぜ!」
男の食事時間なんて10分もあればすぐに終わってしまうもので、お会計を済ませて俺と上原パイセンはレストランを出た。
しかしレジ打ちの女の子が上原パイセンの事をキラキラした目で見てるけど……パイセンがシメたチンピラはそんなにこの界隈では恐れられていたのだろうかと疑問に思ってしまった。
お土産屋に入ると早速帽子があるコーナーに行く
「カミキ……ちょっとこれ被ってくれ」
上原パイセンに渡されたのは何処のでもある黒いニット帽子だった
「分かりました。どうです似合いますか?」
「おお! 流石巷で有名なカリスマモデルだけあってとても似合ってるな! 金髪だから黒が映えるし……たまんねぇーなー」
「パイセン……何度も言いますが、俺の対象は女性だけですからね」
「……残念だ」
いや、そんなに落ち込まれても困るし……
「そ、そうだパイセン今の時期だと若干肌寒いのでジャンパーもお願いします」
それと言うのも今現在白のロングTシャツ一枚なのだ。
東京を出る時は意外と暖かったし、南に下がる訳だからまだイケるだろうとタカを潜っていたが、意外にも寒かった。
車内は運転中暖房が効いてるから問題無いが……寝ている時はバッテリー対策でエンジンを切っているのでやっぱり寒い
「俺はパーカーだから大丈夫だけど……カミキは寒そうだな。おっこれ何てどうだ?」
パイセンはそう言うと黒い革ジャンを持って来た。
「……中学生が革ジャンってどうなんでしょうね?」
一応袖を通して見たものの……背伸び感が半端ない
「……似合ってはいるけれどカミキの身長だとちょっと厳しいな」
俺の身長は恐らくこれ以上伸びる事は無いからな~
その後色々な種類のを試してみた結果
「……その黒いミリタリージャケットが一番良いな!」
まー今着てるのが白のロングTシャツだから無難ではあるものの……着心地が良すぎるから俺はかなり気に入った。
「良し! じゃあ買って来るからちょっと待ってろ」
「お願いします」
まさかこんな出会いがあるとは夢にも思わなかったけど……これだけで来た甲斐があったというものだ!
会計を終えたパイセンから早速ジャケットを受け取り俺は袖を通した。
「良し! じゃあ飯も食ったし、服も買ったし……一旦休憩してから出発だな!」
「うっす!」
早速ジャケットが役に立った瞬間である。
そんなこんなあり、俺と上原パイセンが宮崎の高千穂に着いたのは2日目の午後4時である。
「……なあ、カミキ? すぐに病院に行かなくて良いのか?」
「銭湯でサッパリしてからにしまうしょうか……女性に会う訳なので身綺麗にするのは礼儀ですし」
「まぁー汚いのは論外だしな」
「後、ホテルも取りましょう! 夜はベットで寝たいですし……」
「今の時期なら空きはあるから大丈夫だと思うぞ」
まー焦ってもしょうがないし……仮に雨宮吾郎が死んだとしても、すぐさま遺体を探して、犯人を捕まえれば問題無いだろう
崖から落として遺体を運んだにしても……遺体に着いた指紋をふき取る事はしてないだろう。
それに一線を越えるのは簡単だが、だからと言って精神に問題が出ない訳ではないのだし、リョースケみたいなもやしは必ず痕跡を残すから問題は無いだろう。